養育費の取り決めをするとき、いくらぐらいをもらうのが正解なのか、よく分からないものですよね。
もらう方としては多くもらいたいものですが、もらいすぎると相手の生活が成り立たず、実際に支払い続けることが不可能になってしまっても困ります。
では、いくらぐらいが適正なのか、それを簡単に計算する方法はあるのでしょうか。
実は、お互いの年収さえ分かれば、養育費の計算ができる方法があるのです。
その方法を解説します。
養育費の計算方法はどのようにするのか
養育費の計算は、従来、家庭裁判所では4つの方式が採られてきました。
しかし、現在では、算定表を使った方式が多く用いられるようになってきています。
その理由は、この算定表がとても簡単で利用しやすいものだからなのですが、では実際に、この算定表でどのように養育費を計算できるのでしょうか。
養育費とは
夫婦が離婚した場合で、その夫婦に子どもがいた場合、どちらかが子どもを引き取ることになります。
この引き取って子どもを育てる親を監護者といいます。
監護者に対して、監護者でない方が子どもの養育のために負担する金銭を養育費といいます。
養育費は、子どもを親と同等水準の生活をさせるために、親が支払う義務のあるものとなります。
通常は、離婚のときに養育費の金額や支払い方法なども取り決めておくことになります。
しかし、養育費の金額がまとまらない場合や、納得がいかない場合は、家庭裁判所へ養育費の支払いに関する調停の申し立てを行うことになります。
養育費の金額の決め方
では、養育費の金額はどのようにして決めるのでしょうか。
協議離婚する場合は、夫婦間で養育費の金額についても合意しておく必要があるのですが、基本的には、夫婦の話し合いで決めることになります。
個々の家庭には個々の事情がありますから、それで決まるのが一番となります。
また、収入金額というのはある程度予想できるものですし、その収入金額から出せる金額というのもおのずと決まってきます。
そのあたりの事情を知ったお互いが話し合うことでまとまるのが、無理のない金額になります。
養育費の支払いというのは、一時支払って終わりという性質のものではなく、将来にわたってずっと生じる支払いですので、無理をした金額を決めてしまえば、無理が生じて支払いが滞ってしまうということもあり得ます。
ただ、養育費は同時に子どもの養育にかかってくる費用ですので、安すぎると、子ども自身に負担がかかってしまいますし、子どもは親と同等水準の生活をさせなければならないという生活保持義務にも違反します。
養育費は、多すぎてもきつくなりますし、少なすぎても同じようにきつくなります。
ですので、話し合いで決めるといっても何かベースになるようなものが欲しいところです。
養育費4つの算定方式
従来、家庭裁判所で、養育費の計算をする場合、次の4つの算定方式が採られてきました。
- ①実費方式
- ②生活保護方式
- ③労研方式
- ④養育費算定表方式
実費方式は、夫婦の生活や支出について実際にかかっている費用を具体的に出し、そこから必要な養育費を計算するというものになります。
実際にかかっている費用から具体的に計算できるので、お互いに無理のない妥当な金額に落ち着くことがメリットなのですが、何かベースとなる基準があるわけではありませんので、もめることも多く、そこがデメリットとなっています。
生活保護方式とは、厚生労働省が定める生活扶助基準額に基づき、養育費の金額を計算していくというものになります。
こちらは、毎年改訂されるものですし、家族構成が分かれば自動的に計算できますので、簡単で便利なのですが、生活保護を目的として作成されているものになりますので、一般家庭にあてはまるかという疑問がデメリットとなっています。
労研方式とは、(財)労働科学研究所が1952年に行った実態調査に基づいた、消費単位によって計算する方法になっています。
消費単位がわかりやすく計算も単純ですので、すぐに計算できるというメリットがあるのですが、古い時代の消費単位であり、現在の家庭にそのままあてはまるのかの疑問点があるところがデメリットとなっています。
これら3つに対し、養育費算定表方式というのが現在では最も多く用いられる計算方式となっています。
養育費算定表方式とは
養育費算定表方式とは、養育費・婚姻費用算定表という表を用いて、養育費の計算をする方式になります。
養育費・婚姻費用算定表とは、平成15年4月に東京と大阪の現役裁判官を中心メンバーとした「東京・大阪養育費等研究会」が発表した「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」という論文の中にある算定表のことをいいます。
この算定表は非常に便利で、お互いの収入や子どもの人数が分かれば、自動的に養育費の金額が出てくる形になります。
表さえあれば、誰でも簡単に養育費の金額が分かるため、家庭裁判所だけでなく、協議離婚の際の話し合いのベースとしても使用できるものになっています。
表さえ見れば自動的に数字が出てくる便利さがメリットなのですが、もちろんデメリットがないわけではなく、個々の家庭の事情までをも反映しているわけではありません。
養育費を話し合いで決める場合は、この算定表をベースとして個々の事情を鑑みながら決めていくという形になっていきます。
養育費算定表の使い方
さて、では実際にこの算定表をどのようにして使うのかをみていきましょう。
「養育費・婚姻費用算定表」https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf
(裁判所HPより)
算定表は次の順番で確認していきます。
算定表の種類の確認
算定表にはいくつかの種類があり、子どもの人数と年齢に応じて表がいくつかに分かれていますので、どれを使用するか選択します。
夫婦それぞれの年収の確認
この算定表では、養育費を支払う側と支払いを受ける側に分かれています。
養育費を支払う側を義務者、支払いを受ける側を権利者としています。
たとえば、母親が養育看護することになり、父親が養育費を支払うのであれば、父親が義務者、母親が権利者となります。
算定表では、常に縦軸が義務者の年収、横軸が権利者の年収となります。
夫婦それぞれの年収から、縦軸横軸の年収の欄を確認します。
また、児童扶養手当や児童手当は、子どものための社会保障給付費になりますので、権利者の年収に含める必要はありませんので、その点は注意してください。
給与所得者か自営業者かの確認
この算定表では、給与所得者か自営業者かで年収を確認する部分が異なります。
給与所得者の場合の年収は、源泉徴収票の「支払金額」が該当します。
これは、各種控除がされていない金額のことです。
自営業者の場合の年収は、確定申告書の「課税される所得金額」が該当します。
ただし、「課税される所得金額」は、税法上の観点から各種控除がされたものとなりますので、実際の年収とは違ってくることがあります。
その場合は、それらの控除額を加算して計算することになります。
年収が交差する欄の金額の確認
まず、子どもの人数と年齢に応じて使用する表を選択します。
使用する表が決定すれば、その表の権利者と義務者の年収欄を確認します。
収入欄には、給与所得者と自営業者が区別されていますので、その区別に従って収入欄を確認します。
縦軸で義務者の年収額、横軸で権利者の年収額を探します。
どちらもの年収額が分かれば、それぞれの年収額から線を延ばし、その2つの線が交差する欄の金額が、義務者が負担すべき養育費の標準的な月額となります。
以上が、この表の使い方となります。
また、この算定表は、金額に1~2万円の幅があります。
このあたりはそれぞれの家庭の事情に応じて決めていくのがいいでしょう。
養育費算定表を用いた実際の実例
では、実際の実例をいくつかあげて、この養育費算定表を用いた計算方法をみていきましょう。
子ども2人(7歳と10歳)の場合の養育費
夫を義務者、妻を権利者とします。
権利者(妻)は給与取得者、義務者(夫)も給与所得者です。
権利者(妻)の年収が150万円、義務者(夫)の年収を500万円、子どもは2人でそれぞれ7歳と10歳です。
この場合、養育費算定表の中から表3「子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」を選択します。
縦軸が義務者ですので、給与の欄の「500」を確認します。
横軸が権利者ですので、給与の欄の「150」を確認します。
両方の線を延ばすと「6~8万円」の枠内に該当することが分かります。
よって、この場合の義務者が負担する養育費は6~8万円の間が妥当な金額といえるのです。
子ども1人(10歳)の場合の養育費
夫を義務者、妻を権利者とします。
権利者(妻)は自営業者、義務者(夫)も自営業者です。
権利者(妻)の年収が115万円、義務者(夫)の年収を422万円、子どもは1人で10歳です。
この場合、養育費算定表の中から表1「子1人表(0~14歳)」を選択します。
縦軸が義務者ですので、自営の欄の「422」を確認します。
すると「422」はありませんが、それに近い「421」がありますので、「421」を基準とします。
横軸が権利者ですので、自営の欄の「115」を確認します。
すると「115」という数字はなく「112」と「129」という数字がありますので、近いほうの「112」を基準とします。
その基準をもとに、両方の線を延ばすと「4~6万円」の枠内に該当することが分かります。
よって、この場合の義務者が負担する養育費は4~6万円の間が妥当な金額といえるのです。
子どもが複数いる場合、子どもごとに養育費の金額を決められる
このように、算定表は、子どもの年齢と人数、年収、自営か給与かが分かれば、表を見れば、養育費の金額が分かるという大変便利なものになっています。
また、子どもが複数いる場合、子どもごとの養育費の金額も求めることができるようになっているのです。
この子どもごとの養育費を求めるためには、表を見るだけでなく、少し計算がいるのですが、その方法を実例からみてみましょう。
夫を義務者、妻を権利者とします。
権利者(妻)は給与取得者、義務者(夫)も給与所得者です。
権利者(妻)の年収が73万円、義務者(夫)の年収を622万円、子どもは2人でそれぞれ10歳と15歳です。
この場合、養育費算定表の中から表4「子2人表(第1子15~19歳,第2子0~14歳)」を選択します。
縦軸が義務者ですので、給与の欄の「622」を確認します。
「622」はありませんが、それに近い「625」を基準とします。
横軸が権利者ですので、給与の欄の「73」を確認します。
「73」はありませんが、それに近い「75」を基準とします。
両方の線を延ばすと「10~12万円」の枠内に該当することが分かります。
よって、この場合の義務者が負担する養育費は10~12万円の間が妥当な金額といえます。
では、ここから子どもごとの養育費を求めます。
まず、子どもの指数を確認します。
子どもの指数とは、親を100とした場合に子どもにあてられるべき生活費の割合で、統計数値等から標準化したもののことになります。
子どもの指数は、0~14歳の場合は55、15~19歳の場合は90となっています。
この指数をそれぞれの子どもに按分することで計算します。
今回の事例の場合、子どもが2人いて、1人の子が10歳、もう1人の子が15歳です。
養育費の金額が10~12万円となっていますが、仮に10万円と決定したとします。
そうすると、10歳の子については
10万円 ×55÷(55+90)=3.8万円
15歳の子については、
10万円×90÷(55+90)=6.2万円
となります。
養育費10万円のうち、上の子(15歳)が6.2万円、下の子(10歳)が3.8万円となると計算できるのです。
このように、この算定表は、養育費の金額だけでなく、子どもごとの養育費の金額も算出することができるようになっているのです。
まとめ
養育費の支払いは、本来は話し合いで決めるべきものですが、夫婦間での話し合いはなかなかまとまらなくもめることも多くあります。
また、話し合いを行うにしても何かベースとなるものがなければ、なかなかお互いに金額について妥協点が見いだせないものです。
そこで家庭裁判所では、従来養育費を算定する方法として4つの方式(実費方式、生活保護方式、労研方式、養育費算定表方式)が用いられてきました。
それぞれメリットデメリットがあるのですが、現在では養育費算定表方式が簡便で多く用いられています。
養育費算定表は、子どもの人数、年齢、夫婦の年収が分かれば自動的に養育費の数字が出てくる形になっており、非常に便利で、協議離婚の際の話し合いにおいても使用できるものになっています。
ただ、養育費の金額には1~2万円の幅があり、このあたりはそれぞれの家庭の事情に応じて決めていく必要があります。
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