離婚する夫婦に未成年の子がいる場合、養育費支払いの取り決めは最重要課題です。
法律上、離婚で親権を失ったとしても親子関係はなくならず、子供の養育義務は父母双方に課せられたままですし、何より親であれば、自分の子供ができる限り不自由なく生活できるように支援したいという思いがあるはずです。
夫婦それぞれの事情や経済状況を擦りあわせ、しっかりと話し合って養育費を決めるべきです。
しかし、離婚後のさまざまな事情や状況の変化により、相手方に約束通りの養育費が支払えなくなると言われることが往々にして起こります。
そんな場合にどうするべきかを考えていきましょう。
なお、日本では、離婚後子の親権を母親が持ち、養育費の支払いは父親というケースが非常に多いので、以下は夫が養育費を支払うことを前提に話を進めていきます。
養育費の決め方
養育費の額や支払い方法については、夫婦の協議で合意すればどのようなものでも構いません。
家庭裁判所が出している養育費の算定資料はあくまでも目安であり、それに縛られる必要は全くありませんが、夫と妻の収入額と収入差を基準に考えていく点において参考になります。
要は、子供の生活が、夫婦が離婚せずに生活を続けていく場合の水準になるべく近づけるよう配慮して決定するということです。
子供が大きくなるにつれ、必要なお金は増えてくるし、夫が会社員であれば収入も増えてきます。
何年か毎に支払額を見直したり増額したりということもあるでしょう。
養育費の減額や増額は認められる?
さて、子供のために話し合い、やっとの思いで納得のいく養育費の約束を取り付けたのに、離婚後しばらくして夫から養育費の額を減らしてくれと言われた場合、認められるのでしょうか。
実は、家庭裁判所(家裁)では養育費の減額や免除を認めてくれるのです。
たとえ妻との協議で絶対に減額を認めないと言われても、夫が家裁に減額の申立てをすると、事情によっては通ってしまうことがあるのです。
家裁としても子供の生活を一方的に犠牲にして良いとは考えないので、なるべく落としどころを考えて調整することになりますが、逆に夫には家裁で解決してもらうことを望むほどの、支払いたくとも支払えない、やむを得ない事情があるともいえます。
妻として、全く聞く耳を持たないというのはあまり得策ではありません。
ちなみに、状況の変化による養育費の増額請求ももちろん認められます。
養育費が今まで通り払えなくなる様々な理由
子供が小さい場合、養育費の支払いは長年、20年間前後に至ることもあります。
その間夫婦の状況や事情が変化するのは当然ですし、あらかじめそれらを見越して支払額を決めている場合もあるでしょう。
しかし、予測の難しい変化もあります。
①夫の失業
最も多い理由ではないでしょうか。
日々移り変わる社会や経済情勢に、離婚時は順風満帆に見えた夫の会社も傾き出し、リストラに遭ったり、会社自体が倒産してしまったりといったケースです。
自営業で、業績悪化により廃業に追い込まれるケースもあります。
②収入の減少
会社をクビとまでならなくとも左遷や出向などを余儀なくされ、大幅に収入が減ってしまうことがあります。
また、リストラ後に再就職できたとしても同様です。
自分の生活がやっとで、養育費にまで回せなくなることもあり得ます。
③支出の増加
思いがけない病気やケガで、医療費関係の支出が大幅に増えるというケースがあります。
また、夫が親の面倒をみていた場合、年月を経て親の介護費用がかなりの負担となってくることなどが考えられます。
④夫の再婚
夫が再婚し、子供が生まれた場合、夫は後に出来た子に対しても当然に扶養義務を負います。
どちらも同じ自分の子なのに、再婚相手との子に経済的な我慢を強いてまでこれまでと同じ額の養育費を支払らなければならないというのは納得できないでしょう。
⑤妻の再婚
このケースは妻の再婚相手に十分な収入があり、これまでより生活に余裕が出てくる場合には、子供にとって、むしろ経済的に望ましい事情の変化かもしれません。
しかし夫としては、何不自由なく生活ができているにもかかわらず、自分は約束とはいえなお養育費を支払い続けなければならないというのは、いくら子供が可愛くても不公平だと感じるかもしれません。
何とかやりくりして月々の支払いを行っているのであればなおさらです。
払わないまでも多少は減額してくれても良いのでは、と思うのももっともです。
減額請求は応じなくてもよいか
夫が上記のような理由を述べて養育費の減額を求めてきた場合、妻としてその請求に応じる義務はありません。
特に妻側に収入が少なく、養育費がなければ親子が暮らしていけない時など、勝手なことを言わないでほしいと怒りが湧くかもしれません。
したがって、どのケースであっても「今まで通りの額を要求する」ことはそのような取り決めである限り問題ありません。
しかし、減額は言い換えると夫にはなお支払う意思があるということです。
夫としては自分も非常に苦しいのに、子供のためを考えてせめて減額で、と思っているのに妻に拒絶し続けられたらどうなるでしょう。
それならもう支払いそのものをやめてしまおう、と思うかもしれません。
減額でもある程度はもらえるのと、全くもらえなくなるのとでは大きな違いです。
まずは話し合うことをお勧めします。
なお、強制執行認諾文言付の公正証書や、調停証書など、支払いが滞った時に強制執行の請求ができる書類で養育費の取り決めをしている場合であっても、たいてい証書内の条項に「事情が変わった場合は増額や減額について話し合うことを約す」という文言が含まれています。
養育費は事情の変化で変わりうるというのが前提なのです。
勢いに任せていきなり強制執行手続きに臨まないようにしましょう。
養育費の減額が認められない場合
これまでと同額の支払いを要求できるというのは、家裁が減額を認めないということです。
例えば以下の場合が考えられます。
①収入が確保できている
夫が失業して給料をもらえなくなったという理由があっても、それ以外に養育費を支払うに足りる収入がある場合です。
不動産収入があるとか、FXの投資などの副業でコンスタントに稼いでいるとかであれば、確かに会社勤めという意味での失業状態であり、その分の収入はゼロになっていても、他からの収入で問題なく夫側の生活水準が維持されるのであれば失業は理由にはなりません。
妻側は夫が養育費支払い可能であることを調停の場で述べます。
資料があるとなお良いでしょう。
②夫が自分の都合で会社を辞めた場合
リストラや会社倒産など、本人の力ではどうにもならないことで職を失い、養育費支払いが難しくなったというのであれば事情として理解できますが、今の会社がどうも気に食わない、会社を辞めて起業したいなどという個人の都合で辞職した場合には、減額が認められにくいでしょう。
離婚して一人になったから何でも好きなことに挑戦できるという訳にはいきません。
家庭を持ったままであれば、たとえ仕事を辞めることになっても子供のことを考え、妻と話し合い、了解を得たうえで行動に起こすでしょう。
父として、自分の勝手を押し通すのであれば子への養育義務を蔑ろにしてはいけないのです。
③親の介護で支出が増えた場合
夫からすれば自分親の介護のための支出なのだからやむを得ない、子供も大切だけど親も大切で順序は決められないのだから理解してほしい、と思うでしょう。
しかし、法律的には順序が決まっており、親の介護費用より子の養育費が優先されるのです。
そのため、妻はこれまでと同額の支払いを求めることができます。
減額を受け入れた方がよい場合
①自分の都合でない無収入・低収入状態
夫の責任でない失業や突然の病気で、夫自身が自分の生活もままならなくなってしまった場合、現実問題として減額を認めざるを得ないでしょう。
人には憲法で「最低限度の生活を営む権利」が保障されていることもあり、会社勤めをしている夫の給料債権を差し押えても、給料のうち税金などを控除した残額の4分の1までしか対象になりません。
その給料がなくなったり、大幅に減ってしまった場合であれば強制執行をかけてもこれまで通りの養育費の確保は難しいのです。
当座は減額を受け入れ、再就職や復職で収入が安定したら増額を協議しましょう。
②互いの再婚
夫側の再婚で、子供がいない場合であれば「自分の都合」で生活を変えたのですから減額を認める必要はありません。
しかし子供ができると、夫には今の妻との子、前の妻との子の双方に扶養義務が生じます。
どちらの子にも同程度の生活水準を保つために必要というのであれば、減額が認められる可能性は高いです。
妻が再婚して子の生活水準が明らかに上がった場合も同様です。
妻側から持ちかける必要はありませんが、夫から減額の申し出があれば話し合いに応じましょう。
公正証書の重要性
いずれの場合も支払いがない場合に強制執行ができるという前提で進めています。
夫から勝手に減額されたり、あるいは支払いを止められたりされてもいざとなれば夫の財産を差押えできるという安心感を得るために、養育費支払に関する契約は離婚前に公正証書で作成しておくべきです。
もちろん事が起こってから調停や審判に持ち込むこともできますが、時間も手間もかかるうえに、審判までいくと証拠集めなどもしなければならず、精神的負担も大きくなります。
人間、長い人生ではいつ何が起こるか分かりません。
何より子供のために、養育費に保険をかける意味でも公正証書は役に立ちます。
おわりに
夫婦のままでいても、突然の失業で家族全員が生活水準を見直さなければならなくなる事態はあり得ます。
元夫が養育費の減額を求めるにはやむにやまれぬ事情があるかもしれません。
まずは感情的にならず、相手の話を聞くところから始めましょう。
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