財産分与や養育費について話し合いをしようとしても、相手が応じてくれない場合もあります。
また、きちんと話し合って取り決めたにもかかわらず、それを相手が守ってくれない場合もあります。
このような場合に、どのように対応すればよいのでしょうか。
話し合いがうまくいかないときは
財産分与や養育費についての話し合いがスムーズにいかないことはよくあります。
請求する側と支払う側とでは、お互いの利害が対立するため、金額や条件の折り合いがつかなかったり、相手が財産を明らかにしなかったり、話し合いそのものを拒否したり、取り決めた約束を相手が守らなかったり、様々な問題が起こることがあります。
このような場合でも、泣き寝入りせずに、きちんと対抗手段を取りましょう。
離婚の際に解決すべき金銭の給付
まず、離婚の際に問題となる金銭の給付(離婚給付)には、どのようなものがあるでしょうか。
以下の表のとおり、4種類の金銭給付が発生する可能性があります。
婚姻費用 | 民法760条 | ・夫婦には、相互に扶助義務があり、それぞれの収入等に応じて、結婚生活にかかる費用を分担する義務を負う。別居中であっても、離婚が成立するまでの間は婚姻費用の分担義務があるため、収入の低い側から収入の高い側に婚姻費用を請求することができる。 ・以前は過去の婚姻費用の未払い分を請求することは認められなかったが、近年は過去の未払い分の請求も認められているので、離婚時に未払い分についても支払いを請求できる。 |
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財産分与 | 民法768条 | ・夫婦が結婚期間中に協力して築いた財産(共有財産)を、それぞれの財産に分けて清算する制度。専業主婦(主夫)であっても、家事等による貢献が認められ、原則的に2分の1ずつの割合で財産を分けることとなる。 ただし、片方の特殊な技能等で財産を築いたと認められる場合、2分の1ずつの割合にならないこともある。 ・有責配偶者であっても、財産分与を請求することができる。 |
慰謝料 | 民法709条、710条 | ・DVや不貞行為といった離婚の原因を作った配偶者に対し、精神的苦痛に対する損害賠償を請求することができる。不貞行為の場合には、不貞相手に対しても慰謝料を請求できる。 ・慰謝料を独立して請求することもできるが、慰謝料込みの財産分与を請求して、財産分与と一括して処理する場合もある。 |
弁護士への相談
相手が話し合いに応じない場合、すぐに家庭裁判所に調停を申し立てる方法もありますが、その前に弁護士に相談し、弁護士に代理人となってもらって話し合いをする方法もあります。
弁護士に相談することで、それぞれの金銭給付の相場等もわかるため、現実的な落としどころを考えてスムーズに話し合いが進む可能性があります。
なお、養育費と婚姻費用については、家庭裁判所が採用している算定表がありますので、参照して妥当な金額がどれくらいか検討しましょう。
配偶者からの話し合いの申し出は無視できても、弁護士から接触があると、それを無視する配偶者はあまりいないでしょう。
自力で調停の申し立て等をすることに抵抗がある場合などは、まずは弁護士への相談を検討してみましょう。
調停の申し立て
相手が金銭給付の話し合いに応じなかったり、条件の折り合いがつかなかったりする場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。
調停は家庭裁判所で行われますが、基本的には当事者同士の話し合いの場です。
裁判官や調停委員が結論を出すわけではなく、あくまで当事者間の合意によって調停が成立します。
調停は、申立人と相手が交互に調停室に入室して事情や主張を説明して、それを調停委員が相手に伝える方法により進行します。
当事者双方を同席させる場合もありますが、同席を拒否することもできます。
調停の場でも話し合いがうまくいかなかった場合、審判に移行して裁判所に金額や支払方法を決めてもらうこともできます。
財産分与や養育費の調停は、自動的に審判に移行するため、調停が不成立になった場合でも結論を出すことができます。
履行勧告、履行命令
家庭裁判所の調停や審判で決定した金銭給付を、相手が約束どおりに支払わない場合があります。
このような場合、強制執行の申し立てをする前に、家庭裁判所の履行勧告、履行命令の申し立てをすることができます。
履行勧告は、約束を履行しない義務者に対し、義務を果たすようにと家庭裁判所に勧告してもらう制度です。
申立てには費用や手間はかかりませんが、法的な強制力はないため、支払いを強制することはできません。
裁判所からの勧告という点で、相手にプレッシャーを与えることはできるという程度のものです。
履行命令は、裁判所が義務を果たすように義務者に命令を下すものです。
履行命令に従わないときは過料の支払いが命じられることになっていますが、実際に過料が科されることは少ないようです。
強制執行
相手が履行勧告や履行命令に従わない場合には、強制執行をするしかありません。
強制執行は、相手の財産を差し押さえて、強制的に支払いを実行させる制度です。
強制執行をするためには、「債務名義」が必要です。
債務名義というのは、和解調書、公正証書、確定判決といった金銭の支払い義務の根拠が記載されている書面のことです。
当事者間で作成した合意書などでは債務名義になりません。
このような場合に備えて、協議によって離婚給付を取り決めた場合には、公正証書で合意文書を作成しておくことが大切です。
公正証書に「強制執行認諾文言」を付けておけば、公正証書が債務名義になるからです。
強制執行の対象となる財産には、給料、不動産、預貯金、自動車などがあります。
給与の差押え
給料は相手の生活にもかかわるため、全額を差押えできるわけではありません。
養育費の回収のために差押えができるのは、給与額の2分の1までです。
ただし、2分の1の金額が33万円を超える場合には、33万円だけ残して後の全額を差し押さえることができます。
つまり、給与額が66万円を超える相手の場合には、33万円を超える分は全て差押え可能ということです。
預金の差押え
預金の差押えは、差押えの時点で存在する預金の全額を差し押さえることが認められています。
差押えの後で口座に入金があった場合には、追加の入金分については再度の差押えが必要になります。
相手の預金口座がどこの銀行のどこの支店にあるか、できる限り把握しておきましょう。
どこに口座があるか分からない場合でも、弁護士照会制度により、弁護士は預金口座の有無を調査することができます。
いずれにせよ、強制執行の手続きは高度な法律知識が必要となり、自力での対応は困難なため、弁護士に相談するのが最善です。
まとめ
離婚の際、お金のことで揉めてしまうことは多く、せっかく取り決めた場合でも、相手がそれを守ってくれるとは限りません。
そのような場合でも、対処方法はありますので諦める必要はありません。
相手の対応次第では、強制執行まで行き着くこともありますが、まずは穏便な方法からスタートして順を追って手続きを進めていきましょう。
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