離婚が成立した場合は、夫婦関係はなくなり、他人同士になりますが、親子の縁が切れることはありません。
通常、夫婦が離婚をし別々に暮らすようになった場合、その間に生まれた子供はどちらかの元に置かれ、育てられます。
しかし、子供が元・配偶者と一緒に住み育てられることとなっても(つまり親権・監護権が、元・配偶者にある状態)、もう片方の親も、子供とは二度と会えなくなるということはなく、子供に対して連絡を取ったり、会ったりする権利を持ちます。
このことを、面会交流権と言います。
面会交流権は、離婚をし、両親が別々に暮らすこととなっても、子供が健全に成長するには、できるだけ両親からの愛情が必要という考え方の元にあります。
なお、面会交流権は、離婚後初めて認められるという訳ではなく、何らかの理由で別居状態にある場合や、養子縁組である場合も認められますし、親同士が婚姻関係にない認知した子供との間でも認められる権利になります。
面会交流の決め方
面会交流は、こうしなければいけない、という決まりはありませんが、通常は、離婚の際のさまざまな取り決め(例えば、財産分与など)をする際に、一緒に話し合うことが多いです。
後々のトラブルにならないように、できるだけ具体的に面会交流の内容を取り決め、書面化しておくのがよいでしょう。
- ・面会の頻度や時間:月に何回や、1回あたりの時間など
- ・面会の場所や方法、費用負担
- ・運動会や卒業式といった(通常の面会以外の)イベント参加の可否
- ・連絡方法:電話やメールは日常的に行うかなど
- ・付き添いの可否
などをある程度細かく決めておけば、後々に離婚した当人同士が何度も話し合う手間も省けることが多いと思います。
また、子供がある程度自分の意見をはっきりといえる年齢に達しているならば、子供自身の意見も尊重すべきでしょう。
面会交流調停~話し合いが上手くいかない場合
本来ならば、離婚のさまざまな条件の話し合い同様、面会交流権の取り決めも、当人同士で取り決めることとされています。
しかし、日本の場合、離婚後は単独親権という方針が取られているせいか、親権・監護権を持ち、子供を手元に置いて育てている側が、もう片方の親に子供を会わせたがらないケースが少なくなく、面会交流権が成立しない・あるいは一度決めた面会交流権が守られないこともあります。
そのような当人同士での解決が困難な場合は、他の離婚の取り決めと同様、裁判に調停を申し立て、裁判所に解決を図ってもらうことになります。
この調停のことを「面会交流権調停」といいます。
次は、面会交流調停について具体的に見ていきましょう。
家事調査官の役割
面会交流調停においては、裁判官・調停委員の他に家事調査官という立場の人が存在し、家事調査官によって行われた調査や調査官の意見が重要視されます。
家事調査官は、裁判官のような法律の専門家というより、教育学や心理学といった分野の専門家であり、教育学や心理学の観点から、「子供が健全に育っていくため」にどのような条件の面会交流を設定すべきかを調査を行います。
例えば、調査官が両親だけでなく、子供自身に意見を聞く場合もありますし、両親の家に行き、面会交流が適切に実施される環境にあるかということを調査することもあります。
他にも調査官立会の元に、何回か面会交流のテストを行い、そのときの子供の様子を観察するなどして、「どのようにしたら(離婚する両親ではなく)子供自身にとって幸せか」という視点から今度の面会交流の具体的な中身を検討していくこととなります。
裁判官は調査官による調査結果や意見を元に、親権・監護権を持つ側の親の意見や収入などの状況、親権・監護権を持たない、つまり面会交流権を求める側の親の意見や状況、子供自身の意見、離婚に至った経緯などを総合的に考慮したうえで、面会交流の内容を決定します。
必ずしも面会交流が認められる訳ではない
面会交流調停では、必ずしも面会交流が認められるという訳ではありません。
例えば、
- ・子供自身が面会交流を拒否している場合
- ・離婚時等の状況で、面会交流を行うことが子供の生活環境にとって肉体的・あるいは精神的に悪影響を及ぼす可能性がある場合
- ・子供が乳幼児である場合など、面会交流を行うには母親の協力が必要不可欠で、母親が面会交流を求める配偶者と接触を拒否しており、面会交流が適切に行われない場合
- ・面会交流を求める側が無職である場合や、犯罪者であるなど
このような状況で子供の発育に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、面会交流に頻度や時間が少ない、あるいは全く認められないこともあります。
履行勧告の申し出とは
しかし、上記のような状況でなく、調停により面会交流権の具体的な中身が決定していても、なお、面会交流が実施されないこともあります。
その場合には、たとえ、裁判所の決定だからといって、強引に子供と面会することは許されず、再度裁判所に対し、「履行勧告の申し出」を行います。
履行勧告というのは、いわば罰金のようなものであり、面会交流が適切に行われなかった回数に応じて一定の金額を相手方に対して支払わせることにより、間接的に面会交流の適切な実施を求めていくことになります。
まとめ
離婚し、子供と離れ離れになっても、子供と会う権利(面会交流権)は存在します。
そして具体的な面会交流の中身について当事者同士の話し合いで合意できなかった場合には、調停を申し立てて解決を図ることとなります。
さらに、裁判で決めた面会交流が適切に実施されなかった場合には、相手方に対して金銭の支払いを命じ、適切な面会交流を求めていくことになります。
近年、面会交流を求める調停が増加する一方で、一度決めた面会交流が適切に行われない・面会交流中に子供や親が元配偶者に殺害されるというトラブルも増加しています。
面会交流は、あくまで親同士の都合ではなく、子供自身の適切な成長のために行われるべきであり、子供を抱える夫婦が離婚をして面会交流の取り決めを行う、あるいは面会交流を実施する場合には、子供のことを最優先に考えていってほしいものです。
▼離婚とお金 シリーズ
- 離婚とお金VOL1_あとで慌てない!離婚の前に必ず決めておくべき3つのこと
- 離婚とお金VOL2_要チェック!離婚したら相手から受け取れる4種類のお金と注意点
- 離婚とお金VOL3_どこまで認められる?離婚前の別居期間中の生活費で請求できる項目とは
- 離婚とお金VOL4_離婚の財産分与と慰謝料の要求は時効に注意!約束を守らせる秘訣とは?
- 離婚とお金VOL5_親権者でなくても離婚後に子どもを引き取れる「監護者」とは?
- 離婚とお金VOL6_「離婚後は子どもを会わせたくない」は認められない?まずは面会のルールを決めよう
- 離婚とお金VOL7_離婚時に決めた財産分与や養育費が支払われない場合にとれる差押えなどの解決方法
- 離婚とお金VOL8_内縁など事実婚状態でも財産分与や慰謝料、養育費の要求は可能?
- 離婚とお金VOL9_家事労働分がカギ!専業主婦と共働き2つのケースでの離婚における財産分与はどう違う?
- 離婚とお金VOL10_離婚を急いで請求権を放棄すると取り返しがつかない!あとから請求する方法はある?
- 離婚とお金VOL11_親の遺産は?離婚時の財産分与でもらえるものと、もらえないもの
- 離婚とお金VOL12_財産分与を現物でもらうのはアリ?離婚で不動産をもらうときの注意点
- 離婚とお金VOL13_財産分与と慰謝料を受け取ると税金がかかる?離婚と税金の関係について解説
- 離婚とお金VOL14_マンション頭金や結婚式費用は離婚時の財産分与でどうなる?
- 離婚とお金VOL15_相手の事業を手伝っていたが離婚した場合の財産分与について
- 離婚とお金VOL16_借金のある事業や夫の浪費癖により喪失した事業資産がある場合、離婚したら財産分与はどうなる?
- 離婚とお金VOL17_浮気した本人は離婚時に財産分与を受け取れる?慰謝料との関係も解説
- 離婚とお金VOL18_夫の借金の保証人になっていた場合、離婚時にやるべきことと財産分与について
- 離婚とお金VOL19_離婚による財産分与を分割でもらう際に必ずやるべきことと、ローンが残っている不動産のもらい方
- 離婚とお金VOL20_姑からのイジメも?離婚で慰謝料を受け取れるケースとその相場について解説
- 離婚とお金VOL21_慰謝料も財産分与も請求できる期限がある!不払いを防ぐ方法とは?
- 離婚とお金VOL22_事実婚で生まれた子は?養育費をもらえるケースとその期間について解説
- 離婚とお金VOL23_諦めたら損!養育費が決まらない場合にとるべき手段
- 離婚とお金VOL24_養育費の相場はいくら?年収で計算する方法を解説!
- 離婚とお金VOL25_養育費で損しないための対策!毎月払いと一括払いの利点欠点と、不払いを防ぐ方法
- 離婚とお金VOL26_養育費はあとから増額や減額ができる?具体的なケースを解説!
- 離婚とお金VOL27_失業や借金で養育費を払えないと言われた場合、今までどおり要求できるケースと諦めたほうがいいケース
- 離婚とお金VOL28_再婚したら養育費はどうなる?養子縁組との関係について解説
- 離婚とお金VOL29_財産分与や養育費の話し合いがうまくいかない場合に、まずやるべきこと
- 離婚とお金VOL30_DVが離婚原因の場合、直接会わずに慰謝料や養育費などの話し合いを進める方法を解説
- 離婚とお金VOL31_養育費の過剰な取り立ては訴えられるかも?やってはいけない催促とは
- 離婚とお金VOL32_養育費が支払われない場合は祖父母に払ってもらえる?法律上の支払義務とは
- 離婚とお金VOL33_養育費の支払いを内容証明で催促する方法を解説!
- 離婚とお金VOL34_養育費など離婚給付の話し合いがまとまらない場合に裁判を考えるタイミング3つ!
- 離婚とお金VOL35_養育費を要求するための少額訴訟のやり方
- 離婚とお金VOL36_財産分与が支払われない!借金取立てにも利用される「支払督促」について知っておこう
- 離婚とお金VOL37_いきなり裁判はできない!養育費が支払われないときに踏むべき手順について解説
- 離婚とお金VOL38_財産分与や養育費の取り決めを無視された場合に財産を差し押さえる手続き方法
- 離婚とお金VOL39_財産分与や養育費が支払われない場合、いくら差押えができる?
- 離婚とお金VOL40_離婚して子どもを夫に会わせたくないときに考えるべきこと
- 離婚とお金VOL41_夫と子どもとの面会は制限していい?祖父母に面会交流権はある?
- 離婚とお金VOL42_親権でもめて子どもを連れ去られたときに返してもらう方法を解説
- 離婚とお金VOL43_離婚後、子どもに会わせてくれなくなった場合に面会を求める方法とは
- 離婚とお金VOL44_離婚後も結婚中の姓を名乗るための手続き
- 離婚とお金VOL45_離婚して旧姓に戻っても子どもは夫の姓のまま?妻の戸籍に入り妻の姓にする方法
- 離婚とお金VOL46_子どもの姓を親権者ではない方の姓に変える手続き
- 離婚とお金VOL47_戸籍からバツイチを消す裏ワザ!注意点も解説
- 離婚とお金VOL48_子どもの親権者が虐待をしていたときに親権を変更する方法