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離婚とお金VOL37 いきなり裁判はできない!養育費が支払われないときに踏むべき手順について解説

離婚した元夫からの養育費が支払われないとき、どのような手順を踏めばいいのでしょうか。

実は、養育費が支払われないときに取れる手段には、養育費の支払いについてどのような方法で取り決めをしたのかによって、違ってきます。

養育費の支払いについての決め方には、主に協議離婚による離婚協議書、執行受託文言の記載のある公正証書、家庭裁判所での調停や判決による調停調書・判決書、などがあります。

このそれぞれにおいて取れる手段が違い、手順も違ってきます。

本記事では、養育費が支払われないときにどのような手順を踏むか、ケースごとに解説します。

協議離婚による離婚協議書で養育費を取り決めした場合

夫婦の話し合いによって協議離婚し、養育費の支払いについては離婚協議書で決めていた場合において、養育費の支払いが滞った際、養育費の支払いを請求するにはどのような方法があるのでしょうか。

この場合、執行受託文言の記載のある公正証書を作成するか、家庭裁判所へ調停の申し立てをするか、いずれかの方法があります。

執行受託文言の記載のある公正証書の作成

もし、協議離婚で養育費の支払いを決めていたが公正証書を作成していなかった場合、あらためて公正証書を作成するという方法があります。

公正証書とは、公証役場において、公証人が作成する法的文書となります。

養育費の取り決めについても、公正証書で作成することができます。

この養育費の取り決めについて公正証書を作成する際に、債務者が強制執行を受諾した旨を記載することができます。

この強制執行を受託した旨の記載を、執行受託文言といいます。

これは、一定額の金銭の支払いについて、もし支払いが滞った場合は、その債務について強制執行の手続きをすることを受託するというものです。

債務者自身が強制執行されることについてあらかじめ合意しているもので、支払いが滞った場合、裁判手続きを経ることなく強制執行できることから、非常に強力な公正証書となります。

養育費の取り決めについての公正証書でも、この執行受託文言の記載をすることができます。

もし、協議離婚していた場合で養育費の支払いについて支払いが滞った場合、養育費の支払いについて執行受託文言の記載のある公正証書を作成し直す、というのも一つの方法です。

これにより「次回もし支払いが滞った場合に強制執行ができる」という分だけ、相手への抑止力にもなりますし、実際に滞った場合は、強制執行ができるようになります。

ただし、公正証書の作成は、相手との合意が必要ですので、協議離婚の時であれば作成できる可能性は高いですが、すでに支払いが滞っている場合は、合意が得られない可能性も高く、なかなか難しいものがあるかもしれません。

その場合は、次の調停による方法になるでしょう。

家庭裁判所へ調停の申し立てをする

養育費の支払いが滞った場合で、取れる方法には、裁判所などの手続きを交えていくことになるのですが、いきなり裁判ができるわけではありません。

これは、どのような方法で養育費の取り決めを行ったかにもよるのですが、協議離婚で離婚した場合で、お互いの合意のみによって、養育費の支払いを決めた場合は、いきなり裁判をすることができず、まず家庭裁判所に調停の申し立てを行います。

これを調停前置主義といいます。

また、離婚協議書などを作成していた、あるいは離婚時に養育費の取り決めについて合意していた場合でも、養育費の支払いが滞った場合に、いきなり強制執行ができるわけではありません。

いきなり強制執行ができるのは、執行受託文言の記載のある公正証書を作成していた場合、あるいは家庭裁判所の調停や判決を得て、調停証書や判決書がある場合となります。

協議離婚による離婚の場合で、執行受託文言の記載のある公正証書を作成していない場合は、家庭裁判所へ調停の申し立てを行い養育費の支払いを求めていくことになります。

調停はあくまでも話し合いをベースとして両者が合意できる落とし所を探っていく形になります。

ただ、調停が成立しますと、調停調書が作られますので、この調停調書をもって、強制執行が可能となり、財産の差し押さえも可能となるのです。

ですので、協議離婚による離婚で養育費の支払いが滞った場合は、まずは家庭裁判所へ調停の申し立てを行うという手順になります。

執行受託文言の記載のある公正証書で養育費の取り決めをしていた場合

離婚は協議離婚だったとしても、離婚時に公正証書を作成していて、その公正証書には執行受託文言の記載があった場合、裁判手続きを経ることなく強制執行をすることができます。

強制執行とは

離婚時に公正証書を作成しておくことはよくあり、養育費の支払いについての取り決めについては、あらかじめ執行受託文言の記載をしておくこともよくあります。

執行受託文言が記載されていれば、その公正証書でもって、強制執行が可能となります

強制執行とは、裁判所の執行官が債務者の財産を差し押さえ、競売し、競売代金の中から、養育費の支払いをし、あるいは、給与や財産を差し押さえ、その中から養育費の支払いをすることをいいます。

これにより、滞っていた養育費について、直接強制的に支払いをしてもらえるようになります。

ただし、これについては、相手に財産がある場合は可能ですが、相手に財産がない場合は、あまり効果がありません。

ですが、離婚時に公正証書を作成しておくのと、作成していないのとでは、実際の支払いが滞った際に取れる手段が違ってきますので、公正証書で作成しておくことが支払いの滞りの抑止力にもなるのです。

養育費の支払いについて差し押さえできる債権

強制執行で、養育費の支払いについて差し押さえする場合、財産だけでなく給与の一部も差し押さえすることができます

通常、差し押さえは、支払期限が到来しているものだけが対象となります。

たとえば、「毎月3万円の支払い」としていた場合、その支払いが滞り強制執行する場合、すでに滞った金銭が強制執行の対象となり、未だ期限が到来していない部分については、強制執行することができません。

ですので、通常であれば、その強制執行の前までの支払期限が過ぎた3万円×月分が強制執行の対象となります。

ところが、養育費の支払いの場合、いったん不履行があったときは、期限が到来している部分の養育費の支払いだけでなく、将来支払われるべき部分の養育費についても、給料や預金等の債権に対し、強制執行をすることが可能なのです。

毎月3万円としていた場合、強制執行の前までの支払期限が過ぎた分だけでなく、将来支払わなければならない3万円×月分についても差し押さえの対象となってしまうのです。

また、養育費の支払いを確保するために、給料も差し押さえの対象となるのですが、通常、給料の差し押さえは4分の1まで、とされています。

これは債務者にも生活その他必要な資金がありますので、生活に支障をきたすほど差し押さえすることはできないということになっているのです。

ですが、養育費の支払いの場合は、この4分の1が2分の1までできることになっています。

これは、養育の義務は親の義務であり、親と子は同等水準の生活を保障する義務でもあるとされていることからきています。

養育費の支払いに関する強制執行について、執行受託文言の記載のある公正証書を作成しておいた場合、このような方法を取ることができます。

たとえ、協議離婚であっても、公正証書を作成しているか、いないかでは大きく違ってくるのです。

調停調書や判決書で養育費の取り決めをしていた場合

離婚時に協議がまとまらず、調停によって養育費の支払いが成立した場合や、離婚裁判によって養育費の支払いが決定した場合に、養育費の支払いが滞ったとしたら、どのような方法が取れるでしょうか。

強制執行前に履行勧告や履行命令をすることができる

調停が成立した場合の調停調書や、離婚裁判による判決書がある場合ももちろん強制執行をすることができます

しかし、強制執行の手続きは非常に複雑で法律的に高度な作業になりますので、専門家でないものがするのは非常にハードルが高い作業となります。

また、いきなり強制執行などの法的手続きを取るというような荒っぽいやり方をしたくないという場合もあったりします。

そのような場合に取れる方法として履行勧告履行命令という方法があります。

家庭裁判所へ調停や判決で養育費の支払いが取り決められた場合、この支払いを受けるもの(権利者といいます)の申し立てによって、支払いがきちんと履行されているかどうかを調査し、もし履行されていないのであれば、履行するように促すことができます。

これを履行状況の調査と履行勧告といいます。

権利者が申し立てることによって履行状況の調査と履行勧告はできます。

また、権利者申し立てによって、期限を定めて履行するように命令することができる制度もあります。

これを履行命令といいます。

履行命令は、無視すると10万円以下の科料に処せられますので、間接的に養育費の支払いを強制することができます。

この履行勧告や履行命令は手続きが簡単ですので、強制執行前などによく利用される方法となります。

ただし、履行勧告や履行命令は、強制手続きではありませんので、強制的に支払いをさせることができるものではありません。

心理的圧力や、あるいは間接的な形で強制させるものとなります。

ですので、これによっても支払いがない場合は、強制執行手続きに入ることになります。

管轄対応難易度手続き費用
家庭裁判所履行勧告 または 履行命令簡単無料
執行裁判所
地裁・簡裁
財産を差し押さえ、競売後財産分与や養育費等の金額として回収する複雑有料

強制執行は最後の手段

養育費の支払いが滞った場合の最後の手段は、やはり強制執行になります。

相手の財産や給料を差し押さえることで、その後の支払いまで確保しようというものになります。

ただし、この方法は非常に複雑なうえ、専門家に依頼せずに行うというのはなかなか難しいものがあります。

また、専門家に支払う費用もかかってきます。

しかし、どのような方法を取っても養育費の支払いがない場合は、やはり最後は差し押さえという強制的手段にならざるを得ません。

強制執行をする場合は、あらかじめ弁護士などの専門家に相談して行うようにしましょう。

まとめ

養育費の支払いが滞った場合、取れる手段というのは、養育費の支払いをどのようにして決めたのかに依存します。

家庭裁判所へ調停や裁判で養育費の支払いの取り決めをした調停調書や離婚判決がある場合は、履行勧告や履行命令をすることができ、これをしても従わない場合は、強制執行をしていくことになります。

協議離婚の場合は公正証書を作成しているか、いないかで違い、執行受託文言の記載のある公正証書を作成している場合は、その公正証書を債務名義として強制執行をすることができます。

協議離婚で、公正証書を作成していない場合は、相手と合意できる場合は、執行受託文言の記載のある公正証書を作成しますが、合意が難しい場合は、家庭裁判所へ養育費の支払いに関する調停の申し立てを行います。

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