離婚とお金VOL11 親の遺産は?離婚時の財産分与でもらえるものと、もらえないもの | 離婚弁護士マップ
  • tel-button
  • mail-button
top center bottom

離婚とお金VOL11 親の遺産は?離婚時の財産分与でもらえるものと、もらえないもの

離婚をする際に、離婚に付随して問題となることの1つに「財産分与」があります。

「財産分与」とは、夫婦が離婚をする際、婚姻期間中に一緒に築いた財産を清算することを目的として、一方からの請求により財産を分与することをいいます。

財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻期間中に一緒に築いた財産(夫婦共有財産)に限られています。

どのような財産が夫婦共有財産にあたるかは、民法が細かく規定を置いていますが、夫婦共有財産にあたらない財産は原則として財産分与の対象には含まれません。

夫婦の財産とは?

夫婦財産について、民法は以下のように定めています。

婚姻費用

婚姻費用」とは、別居をしている夫婦が、その間の結婚生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

婚姻費用については、夫婦で分担する必要があり、具体的な分担額はそれぞれの収入や財産を加味して決められます。

日常家事債務

日常家事債務」とは、結婚生活において日常的に負担する債務のことをいいます。

たとえば、日々の食費、住まいの家賃、衣服代などが日常家事債務にあたります。

日常家事債務は、たとえ、妻が夫に承諾を得ることなく負担することになっても、夫にも支払う義務が生じます。

特有財産

特有財産」とは、結婚前から夫婦が持っている財産や結婚後に自分の名義で取得した財産のことをいいます。

たとえば、結婚する際に親から結婚祝いとして譲り受けた財産や結婚後の親の死亡による相続財産は特有財産にあたります。

もっとも、結婚後に、夫が自分の給料で財産を取得した場合、夫の給料は妻の協力があってのことであると考えられているため、夫個人の財産とはならず、夫婦共有財産になります。

どちらの財産かが不明な財産

どちらの財産かが不明な場合は、夫婦共有財産となります。

たとえば、結婚する際に新居用に購入した寝具、食器などは、どちらの財産かがはっきりしないため、夫婦共有財産にあたります。

マイナスの財産の扱い

財産分与は、婚姻期間中に夫婦が一緒に築いた財産(夫婦共有財産)が対象となりますが、夫婦共有財産は、たとえば、不動産や預貯金といったプラスの財産に限られません。

一部の借金は夫婦共有財産にあたる

たとえば、夫婦が住居用の不動産を購入するために住宅ローンを組んでいる場合、この住宅ローンは夫婦共有財産である不動産を購入するために負担した借金です。

そのため、住宅ローンの支払いが残っていれば、その残高は夫婦のマイナスの財産として夫婦共有財産にあたります。

一方で、たとえば、夫が競馬で夫婦共有財産を減らしてしまった場合、この責任を妻に負わせるのは酷であるため、競馬による損失分は夫婦共有財産にはあたりません。

このように、住宅ローンなどの借金のように、マイナスの財産としての夫婦共有財産もあります。

夫婦が一緒に築いた財産であれば、名義を問わず夫婦共有財産にあたる

預貯金の口座などは、夫もしくは妻の単独名義となっていることがほとんどです。

しかし、夫名義の預貯金口座にある預貯金が夫婦の協力により貯められたものであるということがいえれば、それでもなお、名義人である夫の個人財産であるとする理由はありません。

このように、たとえ、預貯金口座が夫の単独名義であったとしても、その預貯金が夫婦の協力により貯められたものである場合は、名義を問わず夫婦共有財産になります。

なお、このような場合に、妻がどの程度の預貯金額を請求することができるかという点について、明確な決まりはありませんが、たとえば、妻が専業主婦である場合は、その割合は一般的に2分の1とされています。

財産分与として請求できる財産

離婚をする夫婦が財産分与を請求できるのは、離婚時点での夫婦共有財産に限られるというのが原則です。

具体的には、婚姻期間中に築いた財産(マンションや自動車など)や、住宅ローンの残高、日常家事債務にあたる債務は、夫婦共有財産にあたり、財産分与の対象に含まれます。

しかし、結婚前から持っている財産や相続などを原因として持つに至った財産、事業による借金などは、有財産にあたるため、財産分与の対象に含まれません。

離婚時点での夫婦の財産財産の所有権財産分与の可否
・夫(妻)が結婚前から所有していた財産
・夫(妻)が贈与や相続などで得た財産
・夫(妻)の事業上で発生した借金
特有財産
夫(妻)の個人財産
×
(例外あり)
・結婚期間中に増えた財産
 マンション、車、預貯金等
【マイナスの資産】
住宅ローン
日常化時債務にかかわる
 ローン、買掛金

(どちらの名義でもOK)
夫婦の共有財産

特殊なケース

このほかにも一定の条件を満たすことにより、夫婦共有財産となりうる場合や、夫婦共有財産は存在しないものの財産分与が認められるケースがあります。

退職金も夫婦共有財産にあたる場合がある

離婚する夫が間もなく定年を迎え、退職金を受け取ることが確実な状態になれば、退職金も夫婦共有財産となり、財産分与の対象となる可能性があります。

実際に、このようなケースで退職金を財産分与の対象として認めた判例も存在します。

この場合には、夫が受け取ることが確実な退職金のうち、婚姻期間にあたる部分が財産分与の対象となります。

離婚後扶養

財産分与には、それまでに夫婦が一緒に築いた夫婦共有財産を清算するという目的とは別に、離婚により生活が苦しくなるおそれのある配偶者の生活を助けるという目的があります。

これを「離婚後扶養」といいます。

たとえば、長年持病に悩まされ働くことができない妻が離婚をするケースにおいて、その夫婦に財産分与の対象となる夫婦共有財産がない場合、妻は財産分与もないままに離婚をすることになり、離婚後の生活ができなくなります。

このような場合、妻に離婚後扶養の必要があるため、夫は財産分与の対象とはならない個人財産から妻に財産分与をしなければなりません。

仮に、夫の個人財産が親の遺産を相続したものであっても、妻はその個人財産を対象として財産分与を申し立てることができます。

夫婦共有財産の算式

夫婦共有財産は、原則として、「離婚をする際の夫婦の財産の総額」から「夫婦の個人財産」を差し引くことによって算出します。

もっとも、住宅ローンなどによる借金があれば、さらにこの借金額を差し引く必要がありますし、反対に、競馬などによる損失があれば、その損失分を加算する必要があります。

夫婦共有財産 = 離婚時点の夫婦の総財産額 - 個人財産
- 住宅ローン等共有の財産形成に必要な借金 
+ 事業失敗、ギャンブル等で減った共有財産 

夫婦共有財産の評価方法と権利移転の手続き

夫婦共有財産には、以下の表にあるように、預貯金や不動産といった典型的なものから、洋服や日用品といったものまで、多くの種類があります。

これらの財産をすべて評価して、夫婦共有財産の総額を算出することは簡単ではありませんし、財産の種類によっては、権利移転の手続きをとらなければならない場合もあります。

そのため、比較的価値の高い不動産や自動車、簡単に評価できる現金や預貯金を財産分与の対象としたうえで、その2分の1に相当する金額を財産分与として請求する方が面倒ではありません。

財産の種類評価方法・評価額権利移転の手続き
現金金額に同じ引き渡し
預貯金預貯金額に同じ解約による払い戻し、名義変更
離婚成立日の終値もしくは直近3ヵ月の平均株価名義変更
不動産時価
(厳密には、不動産鑑定士の鑑定が必要だが、話し合いによる解決が可能であれば、不動産業者による査定を参考にすることも可能。
購入してすぐの場合は、購入価格をそのまま評価額とする方法も可能)

※住宅ローンに残高がある場合は、残高分を時価から差し引く
所有権移転登記
車・バイク中古車価格
※ローンに残高がある場合は、残高分を中古車価格から差し引く
所有権移転登録
※登録の申請先は陸運事務所だが、125cc以下は市区町村が申請先となる
貴金属・宝石
※多数に上る場合に限る
購入した価格引き渡し
骨董品・美術品話し合いで解決が可能であれば、購入した価格でよいが、厳密には専門家による鑑定が必要引き渡し
その他の動産
(洋服や日用品など)
購入した価格(動産を使用する者の個人財産となるのが原則)引き渡し
ゴルフの会員権など時価もしくは購入した価格引き渡し
退職金退職金の受け取りが確実となっていないかぎり、財産分与の対象にはならない。
(定年まであと1年で退職金の受け取ることが確実な場合は、財産分与の対象になる)
年金配偶者が厚生年金に加入している場合は、婚姻期間に相当する報酬比例部分が財産分与の対象となる。
(平成20年4月以降の加入期間は2分の1、平成19年4月からの1年間は合意により最大で2分の1)
国民年金は財産分与の対象にならない
合意が必要となる期間の年金は社会保険事務所に届け出る必要があるが、それ以外の期間について、特に必要となる手続きはない。
(実際に受け取ることができるのは、本人が年金を受け取ることができる年齢に達した時)
負債
(住宅ローンなど)
離婚成立日における残高
(仕事上の負債は保証人として債務を負っている場合のみ)
債権者の承諾を条件として、保証人から外れることができる

まとめ

「財産分与」は離婚をする際に解決しなければならない重要な問題です。

婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産だからこそ、きちんと清算する必要があります。

もっとも、財産分与の対象となる「夫婦共有財産」にあたるかどうかという問題は、複雑な側面もあります。

この点は、「夫婦で協力して築かれた財産であるかどうか」が一つの指標となります。

公平に財産を分与するためにも、夫婦共有財産にあたるかどうかの見極めや評価を適切に行うことが重要です。

▼離婚とお金 シリーズ

  1. 離婚とお金VOL1_あとで慌てない!離婚の前に必ず決めておくべき3つのこと
  2. 離婚とお金VOL2_要チェック!離婚したら相手から受け取れる4種類のお金と注意点
  3. 離婚とお金VOL3_どこまで認められる?離婚前の別居期間中の生活費で請求できる項目とは
  4. 離婚とお金VOL4_離婚の財産分与と慰謝料の要求は時効に注意!約束を守らせる秘訣とは?
  5. 離婚とお金VOL5_親権者でなくても離婚後に子どもを引き取れる「監護者」とは?
  6. 離婚とお金VOL6_「離婚後は子どもを会わせたくない」は認められない?まずは面会のルールを決めよう
  7. 離婚とお金VOL7_離婚時に決めた財産分与や養育費が支払われない場合にとれる差押えなどの解決方法
  8. 離婚とお金VOL8_内縁など事実婚状態でも財産分与や慰謝料、養育費の要求は可能?
  9. 離婚とお金VOL9_家事労働分がカギ!専業主婦と共働き2つのケースでの離婚における財産分与はどう違う?
  10. 離婚とお金VOL10_離婚を急いで請求権を放棄すると取り返しがつかない!あとから請求する方法はある?
  11. 離婚とお金VOL11_親の遺産は?離婚時の財産分与でもらえるものと、もらえないもの
  12. 離婚とお金VOL12_財産分与を現物でもらうのはアリ?離婚で不動産をもらうときの注意点
  13. 離婚とお金VOL13_財産分与と慰謝料を受け取ると税金がかかる?離婚と税金の関係について解説
  14. 離婚とお金VOL14_マンション頭金や結婚式費用は離婚時の財産分与でどうなる?
  15. 離婚とお金VOL15_相手の事業を手伝っていたが離婚した場合の財産分与について
  16. 離婚とお金VOL16_借金のある事業や夫の浪費癖により喪失した事業資産がある場合、離婚したら財産分与はどうなる?
  17. 離婚とお金VOL17_浮気した本人は離婚時に財産分与を受け取れる?慰謝料との関係も解説
  18. 離婚とお金VOL18_夫の借金の保証人になっていた場合、離婚時にやるべきことと財産分与について
  19. 離婚とお金VOL19_離婚による財産分与を分割でもらう際に必ずやるべきことと、ローンが残っている不動産のもらい方
  20. 離婚とお金VOL20_姑からのイジメも?離婚で慰謝料を受け取れるケースとその相場について解説
  21. 離婚とお金VOL21_慰謝料も財産分与も請求できる期限がある!不払いを防ぐ方法とは?
  22. 離婚とお金VOL22_事実婚で生まれた子は?養育費をもらえるケースとその期間について解説
  23. 離婚とお金VOL23_諦めたら損!養育費が決まらない場合にとるべき手段
  24. 離婚とお金VOL24_養育費の相場はいくら?年収で計算する方法を解説!
  25. 離婚とお金VOL25_養育費で損しないための対策!毎月払いと一括払いの利点欠点と、不払いを防ぐ方法
  26. 離婚とお金VOL26_養育費はあとから増額や減額ができる?具体的なケースを解説!
  27. 離婚とお金VOL27_失業や借金で養育費を払えないと言われた場合、今までどおり要求できるケースと諦めたほうがいいケース
  28. 離婚とお金VOL28_再婚したら養育費はどうなる?養子縁組との関係について解説
  29. 離婚とお金VOL29_財産分与や養育費の話し合いがうまくいかない場合に、まずやるべきこと
  30. 離婚とお金VOL30_DVが離婚原因の場合、直接会わずに慰謝料や養育費などの話し合いを進める方法を解説
  31. 離婚とお金VOL31_養育費の過剰な取り立ては訴えられるかも?やってはいけない催促とは
  32. 離婚とお金VOL32_養育費が支払われない場合は祖父母に払ってもらえる?法律上の支払義務とは
  33. 離婚とお金VOL33_養育費の支払いを内容証明で催促する方法を解説!
  34. 離婚とお金VOL34_養育費など離婚給付の話し合いがまとまらない場合に裁判を考えるタイミング3つ!
  35. 離婚とお金VOL35_養育費を要求するための少額訴訟のやり方
  36. 離婚とお金VOL36_財産分与が支払われない!借金取立てにも利用される「支払督促」について知っておこう
  37. 離婚とお金VOL37_いきなり裁判はできない!養育費が支払われないときに踏むべき手順について解説
  38. 離婚とお金VOL38_財産分与や養育費の取り決めを無視された場合に財産を差し押さえる手続き方法
  39. 離婚とお金VOL39_財産分与や養育費が支払われない場合、いくら差押えができる?
  40. 離婚とお金VOL40_離婚して子どもを夫に会わせたくないときに考えるべきこと
  41. 離婚とお金VOL41_夫と子どもとの面会は制限していい?祖父母に面会交流権はある?
  42. 離婚とお金VOL42_親権でもめて子どもを連れ去られたときに返してもらう方法を解説
  43. 離婚とお金VOL43_離婚後、子どもに会わせてくれなくなった場合に面会を求める方法とは
  44. 離婚とお金VOL44_離婚後も結婚中の姓を名乗るための手続き
  45. 離婚とお金VOL45_離婚して旧姓に戻っても子どもは夫の姓のまま?妻の戸籍に入り妻の姓にする方法
  46. 離婚とお金VOL46_子どもの姓を親権者ではない方の姓に変える手続き
  47. 離婚とお金VOL47_戸籍からバツイチを消す裏ワザ!注意点も解説
  48. 離婚とお金VOL48_子どもの親権者が虐待をしていたときに親権を変更する方法
監修弁護士
中野 和馬

東京弁護士会

中野 和馬
石木 貴治

東京弁護士会

石木 貴治
山谷 千洋

東京弁護士会

山谷 千洋
堀 翔志

第二東京弁護士会

堀 翔志
水流 恭平

東京弁護士会

水流 恭平
福西 信文

東京弁護士会

福西 信文
川﨑 公司

東京弁護士会

川﨑 公司
大橋 正崇

弁護士法人AO

大橋 正崇
鵜飼 大

ウカイ&パートナーズ法律事務所

鵜飼 大
監修弁護士一覧
弊社が選ばれる3つの理由
離婚について知る