財産分与の際、分与する財産が自宅マンション以外にないという場合も多くみられます。
この場合に、どのように財産を分ければよいのでしょうか。
また、マンションが住宅ローン返済中の場合はどうしたらよいでしょうか。
それぞれ説明していきます。
共有財産が自宅マンションしかない場合
財産分与について話し合う際、まずは共有財産としてどんな財産があるかを整理する必要があります。
財産を調べた結果、共有財産は自宅マンション以外にはないケースもありますが、その場合はどのように財産分与をすればよいのでしょうか。
預貯金であれば分けるのは簡単ですが、マンションの場合は分け方が複雑になります。
分与の方法
共有財産がマンションしかない場合の分与の方法は、通常は以下のいずれかになります。
- ①マンションを売却して現金化し、現金を分ける。
- ②マンションをどちらかが取得する。
①場合はシンプルです。
売却して現金にしてしまえば、それを分与割合に応じて分けるだけです。
ただし、この方法を取れるのは、マンションにローンがない場合か、マンションを住宅ローンの残高よりも高い値段で売ることができる場合に限られます。
住宅ローン残高が売却価格よりも高ければ、マンションを売っても赤字になってしまうからです。
また、売却したいと思ってもすぐに希望価格で売れる可能性は低く、速やかに離婚をしたい場合には難しい場合もあります。
そのため、②になるケースの方が実際には多いでしょう。
②の場合、マンションを取得した当事者は、マンションを取得しなかった方に対して、現金を支払うのが通常です。
たとえば、マンションの現在の評価が3,000万円だとすると、マンションを取得しない当事者に対し、分与割合を2分の1ずつとすると1,500万円を支払うということになります。
ただし、これはマンションにローンがない場合です。
もし、住宅ローン返済中の場合は、住宅ローンの残高を評価から控除します。
例えば現在の評価3,000万円のマンションで、住宅ローンの残高が2,000万円の場合には、3,000万円-2,000万円=1,000万円の2分の1で、500万円を支払うということになります。
なお、マンションの頭金が夫婦どちらかの個人財産から出資されている場合には、それも考慮する必要が出てきます。
トラブルを避けるには
マンションを財産分与でどちらかが取得することにして、相手に金銭を支払うと取り決めた場合、その金銭を一括で支払うことができない場合があります。
その場合、分割払いにするという方法があります。
分割払いにする場合には、必ず契約書を作成しましょう。
契約書は、通常「財産分与分割支払契約書」などといったタイトルにします。
この際、契約書を「公正証書」にすることが重要です。
公正証書は、公証役場という公的機関で作成するもので、個人で作成した契約書に比べて証拠能力が高くなります。
また、「強制執行認諾文言」を付けることができ、これを付けると、相手が支払いを怠った場合に裁判所の手続きを経ることなく、財産差し押さえなど強制執行ができるようになります。
公正証書の作成には手数料がかかりますが、後日のトラブルを避けるための必要経費と考えましょう。
契約書を作成するときの注意点
それでは、契約書を作る際にどのようなことに気を付ければよいでしょうか。
以下のようなことに気を付けて作成しましょう。
- ①当事者の氏名について、離婚により旧姓に戻っている場合は旧姓を記載する。
かっこ書きで結婚中の姓も記載するとよい。 - ②産分与の対象となる財産の内容と総額を明記する。
- ③与財産の支払い方法、引き渡し方法を具体的に明記し、分割払いの場合は、支払期日、
金額、回数などを明記する。 - ④支払い義務者が支払いを怠った場合に負うペナルティーの条項を付けるとよい。
具体的には、期限の利益喪失や損害金の支払いがペナルティーとなる。
公正証書にする場合には、強制執行認諾文言を付ける。 - ⑤能であれば、保証人を付けたり、物的担保を付けるとよい。
その場合は、内容を具体的に明記し、たとえば物的担保で相手の不動産を担保にした場合、
担保権の設定登記をしておくとよい(登記の手続きは司法書士や弁護士に相談する) - ⑥契約書の押印は、できるだけ実印にする。公正証書の場合は必ず実印となる
自分たちだけで作成するよりは、弁護士等の専門家に相談する方が安全ですので、素案を作ったら専門家に相談するとよいでしょう。
住宅ローン返済中のマンションを分与してもらう場合
財産分与によって、住宅ローン返済中のマンションをもらう場合、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。
マンションの名義を換えるには
まず、マンションの名義の問題があります。
マンションの名義が現在夫になっており、財産分与によって妻がマンションを取得する場合、マンションの名義を妻に変えることになります。
しかし、住宅ローン返済中の場合、マンションの名義を換えるためには通常金融機関への相談が必要です。
住宅ローンの契約の際、約款の中に名義を変える場合には承諾が必要となる旨の条項が入っていることが多いからです。
通常、金融機関に相談したうえで、夫名義から妻名義へ所有権移転登記をすることとなります。
なお、不動産の名義を妻に換えた場合、翌年からは固定資産税の支払い義務は妻が負うことになりますので、固定資産税がいくらくらいかかるかも確認しておきましょう。
住宅ローンの返済をどうするか
夫が住宅ローンを組んでいるマンションを妻のものにする場合に、残りの住宅ローンの返済は誰がするのでしょうか。
これについては、以下のいずれかになるのが通常です。
- ①住宅ローンの債務者(支払い義務者)を妻に変更し、妻が支払う
- ②引き続き夫を債務者のままにして、夫が支払う
①については、当事者間で決めても、お金を貸している金融機関が承諾しないと変更することはできません。
妻に安定した一定以上の収入がなければ、認められない可能性が高くなります。
②の場合は、妻が住むマンションのローンを離婚後も夫が支払い続けることになります。
どんなリスクがあるのか
妻が住むマンションのローンを夫が支払い続ける場合、たとえマンションの名義を妻に変えてもリスクはあります。
住宅ローン支払い中の場合、マンションには貸主である金融機関の抵当権がついていることが通常です。
この抵当権は、住宅ローンの返済が終わるまで消してもらうことはできません。
夫が住宅ローンの返済を怠った場合、抵当権者である金融機関は、抵当権を実行し、マンションを競売にかけてお金を回収することができます。
そうなると、マンションは競売で落札した人のものとなり、妻のものではなくなってしまいます。
このようなリスクを避ける方法としては、住宅ローンをできるだけ繰り上げ返済してもらい、早くにローンの支払いを終えることしかありません。
夫の収入や経済状況にもよりますが、リスクを完全になくすことは残念ながらできません。
まとめ
財産分与で不動産を分与するのは手続きが複雑になることが多く、また、ローンが残っている場合には当事者間だけでは勝手に手続きできないことが多くなります。
自分たちだけで解決するのが難しいと判断したら、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
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