性格の不一致を理由に離婚をする場合、原則として相手から慰謝料を取ることはできません。
また、それまで一緒に生活していたマンションや婚姻生活中に貯めておいた預貯金が、いずれも夫の名義になっている場合には、財産分与の請求もできないように思われますが、このような場合、本当に妻は財産分与を請求することはできないのでしょうか。
専業主婦であっても財産分与を請求できる
夫婦が離婚をする場合、その時点において夫婦としての財産があれば、原則として、妻は夫に対して財産分与を請求することができます。
「財産分与」とは、離婚に伴って、婚姻中に夫婦が一緒に築いた財産を清算するために、一方の請求により財産を分与することをいいます。
もっとも、財産分与の対象となる財産は、「夫婦共有財産(婚姻中に夫婦が一緒に築いた財産)」に限られます。
そのため、結婚前から持っていた財産や結婚をする時に両親などから贈られた財産、結婚後に取得したものの、それが贈与や相続を原因としている財産は、財産分与の対象にならないのが原則です。
妻が専業主婦であるケース
夫婦の形はさまざまですが、妻が専業主婦である場合、夫婦が一緒に築いた財産は、夫の給料によって取得していることがほとんどであるため、預貯金や不動産などの名義が夫となっていることが少なくありません。
この点、「夫婦の一方が婚姻中に自分の名義で得た財産は、その者の個人的な財産(=「特有財産」といいます)とする」と民法に定められていることからも、専業主婦であった妻は、財産分与を請求できないようにも思えます。
しかし、これでは専業主婦として家庭を守ってきた妻にとっては、あまりに酷です。
そこで民法は、妻が専業主婦であった場合、妻が家庭を守ってきたからこそ、夫は仕事で給料を得て、財産を築くことができたのであり、専業主婦である妻にも財産形成に対する貢献度が認められるという考え方に立っています。
以上のような考えから、夫の収入だけで婚姻中に築いた財産であっても、夫婦共有財産であると推定され、夫がその財産が特有財産であることを立証できないかぎり、夫婦共有財産として財産分与の対象になります。
そのため、専業主婦であった妻は夫に対して、財産分与を請求することができます。
請求できる財産分与の割合
離婚に伴う財産分与として、相手に請求できる割合は、相続分のように法律で定められているわけではありません。
この点、実務においては、妻が専業主婦であった場合でも、妻の内助の功による財産形成への貢献度を原則2分の1として、具体的な財産分与額を算出しているようです。
もっとも、夫婦間の話し合いで具体的な割合が決まらないことも多々あります。
そのような場合に、任意で話し合いを続けても、いつまでたっても解決に至らない可能性が高いでしょう。
このような場合には、話し合いによる解決を諦めて、家庭裁判所に財産分与に関する調停や審判を申し立てることを検討することが必要です。
家庭裁判所は、夫婦間に存在する一切の事情を考慮したうえで、夫婦共有財産の価値はいくらなのか、財産分与をすべきかどうか、また、財産分与する場合の具体的な金額や分与の方法を決めてくれます。
財産分与は夫婦共有財産の清算だけを目的としていない
財産分与には、婚姻中に夫婦が一緒に築いた財産を清算するという目的がありますが、これとは別に、離婚を機に経済的に苦しくなる妻(夫)を扶養するという目的も併せもっています。
たとえば、専業主婦であった妻には、当然ながら収入などがありませんので、離婚をしてしまうと、その後の生活に支障を来すことになります。
このように、財産分与には、専業主婦であった妻が離婚後もきちんと生活できるよう救済するという目的もあるのです。
そのため、専業主婦であった妻が夫に対して、財産分与を請求しているにもかかわらず、夫がこれに応じない場合は、妻は財産分与の支払いを取り決めるために、家庭裁判所に対して調停や審判を申し立てることができます。
もっとも、財産分与の請求には「除斥期間」という制度があります。
「除斥期間」とは、一定期間、権利を行使しないことにより、その権利が失われるという制度です。
時効制度にも似た制度ですが、財産分与請求権には、離婚後2年間という除斥期間がありますので、この間に相手に対して財産分与を請求しなければ、財産分与を受ける権利を失い、その後に財産分与を請求することはできなくなります。
夫婦が共働きであった場合の財産分与は?
離婚した夫婦が共働きであった場合、夫婦間における家賃や住宅ローン、生活費などの負担割合はさまざまです。
このように、共働きであった夫婦が財産分与を請求する場合にも、具体的な財産分与額を決めるにあたり、家事労働分は考慮されることになるのでしょうか。
家事労働分はほとんど考慮されない
妻が専業主婦であった場合でも、財産分与の割合は原則2分の1であるということは先に見たとおりですが、この点は夫婦が共働きであった場合も変わりません。
もっとも、妻が専業主婦であった場合は、妻の内助の功としての貢献度を2分の1として具体的な財産分与額が算定されることになりますが、共働きであった場合は、仮に、妻一人が家事をこなし、夫は一切家事をしてこなかったというような場合であっても、妻の家事労働分を財産分与額に反映することは難しいと考えられます。
しかし、たとえば、夫が妻の収入を生活費などに充て、自分の収入は、その大半をギャンブルにつぎこみ、また、家事や育児を妻に任せっぱなしにしていたというような特段の事情があれば、夫が妻に対して2分の1の割合による財産分与を請求したとしても、認められません。
また、夫が特別な資格などに基づいて、高い収入を得ていたことが夫婦の財産形成にも大きく貢献していたと認められるような場合には、夫に分与される財産が原則どおり2分の1ということにはならず、2分の1を上回る割合で財産分与される可能性が高いです。
マンションなどの住宅ローンの扱いは?
婚姻中に自宅マンションを購入したような場合、たとえ、その名義が夫名義であっても、原則として自宅マンションは夫婦共有財産にあたり、財産分与の対象になります。
もっとも、このようなケースでは、購入時の頭金やその後のローンの支払い分などが具体的な分与額に影響することになります。
婚姻中に購入した自宅マンションが夫婦共有財産にあたるのであれば、財産分与の割合は2分の1ずつとなるのが原則ですがすでに支払われた頭金や住宅ローンを自宅マンションの価値に反映する必要があります。
そこで、すでに支払われた頭金や住宅ローンをどのように反映して、最終的な自宅マンションの価値を確定するかということが問題となります。
たとえば、夫が頭金を負担し、妻がその後のローンを離婚するまで支払い続けたとしましょう。
このような場合、夫が負担した頭金が結婚前から貯蓄していたものであれば、この頭金は夫の特有財産となり、財産分与の対象から外れます。
そのため、自宅マンションの価値が下落していれば、その下落した割合に応じて頭金を割引き、割り引いた頭金を自宅マンションの時価から差し引くことによって、最終的な自宅マンションの価値が確定します。
なお、妻が負担した住宅ローンについては、既払分を選り分けて財産分与額が決められるだけであって、この既払分を妻が取り戻すことはできません。
実際に支払われる財産分与の金額は?
離婚に伴う財産分与として請求できる割合は、原則として、夫婦共有財産の2分の1です。
もっとも、実際に財産分与として支払われている金額は、そこまで多くはないという統計が出ています。
平成26年の司法統計年報家事編によれば、離婚調停の成立または審判により、具体的な財産分与額を取り決めたケース(約8,000件)のうち、過半数にあたるケースが400万円以下となっています。
もっとも、このうち、熟年離婚(結婚20年以上)をした夫婦間での財産分与の支払額は、その約6割が400万円以上となっています。
離婚後に家庭裁判所により認容され、または調停が成立したケースについても、これらと同様の結果が出ています。
■ 離婚調停の成立または審判で決まった財産分与額(8317件)
■ 離婚調停の成立または審判で決まった財産分与額 結婚20年以上の夫婦(2631件)
もちろん、夫婦によって抱えている事情もさまざまなので、一概には言えませんが、婚姻期間が長くなればなるほど、夫婦共有財産も数多く形成されていくことになるのが一般的であるため、財産分与額もそれに伴い高くなるということがいえるでしょう。
これから財産分与を請求することを考えている方は、裁判所のホームページで公開されている「司法統計年報家事編」において、婚姻期間ごとに実際に認められた財産分与額が出ていますので、参考にしてみるといいでしょう。
まとめ
離婚に伴う財産分与の割合が、妻が専業主婦であった場合と共働きであった場合とで変わることはありません。
そのため、専業主婦であったかどうかを問わず、妻は2分の1の割合で財産分与を請求することができます。
ただし、専業主婦であった妻は、内助の功による貢献度が認められていますが、共働きであった場合の妻による家事労働分はほとんど考慮されないこととなっています。
また、財産分与請求権には離婚後2年という除斥期間がありますので、その点も念頭に置いておくことが必要です。
▼離婚とお金 シリーズ
- 離婚とお金VOL1_あとで慌てない!離婚の前に必ず決めておくべき3つのこと
- 離婚とお金VOL2_要チェック!離婚したら相手から受け取れる4種類のお金と注意点
- 離婚とお金VOL3_どこまで認められる?離婚前の別居期間中の生活費で請求できる項目とは
- 離婚とお金VOL4_離婚の財産分与と慰謝料の要求は時効に注意!約束を守らせる秘訣とは?
- 離婚とお金VOL5_親権者でなくても離婚後に子どもを引き取れる「監護者」とは?
- 離婚とお金VOL6_「離婚後は子どもを会わせたくない」は認められない?まずは面会のルールを決めよう
- 離婚とお金VOL7_離婚時に決めた財産分与や養育費が支払われない場合にとれる差押えなどの解決方法
- 離婚とお金VOL8_内縁など事実婚状態でも財産分与や慰謝料、養育費の要求は可能?
- 離婚とお金VOL9_家事労働分がカギ!専業主婦と共働き2つのケースでの離婚における財産分与はどう違う?
- 離婚とお金VOL10_離婚を急いで請求権を放棄すると取り返しがつかない!あとから請求する方法はある?
- 離婚とお金VOL11_親の遺産は?離婚時の財産分与でもらえるものと、もらえないもの
- 離婚とお金VOL12_財産分与を現物でもらうのはアリ?離婚で不動産をもらうときの注意点
- 離婚とお金VOL13_財産分与と慰謝料を受け取ると税金がかかる?離婚と税金の関係について解説
- 離婚とお金VOL14_マンション頭金や結婚式費用は離婚時の財産分与でどうなる?
- 離婚とお金VOL15_相手の事業を手伝っていたが離婚した場合の財産分与について
- 離婚とお金VOL16_借金のある事業や夫の浪費癖により喪失した事業資産がある場合、離婚したら財産分与はどうなる?
- 離婚とお金VOL17_浮気した本人は離婚時に財産分与を受け取れる?慰謝料との関係も解説
- 離婚とお金VOL18_夫の借金の保証人になっていた場合、離婚時にやるべきことと財産分与について
- 離婚とお金VOL19_離婚による財産分与を分割でもらう際に必ずやるべきことと、ローンが残っている不動産のもらい方
- 離婚とお金VOL20_姑からのイジメも?離婚で慰謝料を受け取れるケースとその相場について解説
- 離婚とお金VOL21_慰謝料も財産分与も請求できる期限がある!不払いを防ぐ方法とは?
- 離婚とお金VOL22_事実婚で生まれた子は?養育費をもらえるケースとその期間について解説
- 離婚とお金VOL23_諦めたら損!養育費が決まらない場合にとるべき手段
- 離婚とお金VOL24_養育費の相場はいくら?年収で計算する方法を解説!
- 離婚とお金VOL25_養育費で損しないための対策!毎月払いと一括払いの利点欠点と、不払いを防ぐ方法
- 離婚とお金VOL26_養育費はあとから増額や減額ができる?具体的なケースを解説!
- 離婚とお金VOL27_失業や借金で養育費を払えないと言われた場合、今までどおり要求できるケースと諦めたほうがいいケース
- 離婚とお金VOL28_再婚したら養育費はどうなる?養子縁組との関係について解説
- 離婚とお金VOL29_財産分与や養育費の話し合いがうまくいかない場合に、まずやるべきこと
- 離婚とお金VOL30_DVが離婚原因の場合、直接会わずに慰謝料や養育費などの話し合いを進める方法を解説
- 離婚とお金VOL31_養育費の過剰な取り立ては訴えられるかも?やってはいけない催促とは
- 離婚とお金VOL32_養育費が支払われない場合は祖父母に払ってもらえる?法律上の支払義務とは
- 離婚とお金VOL33_養育費の支払いを内容証明で催促する方法を解説!
- 離婚とお金VOL34_養育費など離婚給付の話し合いがまとまらない場合に裁判を考えるタイミング3つ!
- 離婚とお金VOL35_養育費を要求するための少額訴訟のやり方
- 離婚とお金VOL36_財産分与が支払われない!借金取立てにも利用される「支払督促」について知っておこう
- 離婚とお金VOL37_いきなり裁判はできない!養育費が支払われないときに踏むべき手順について解説
- 離婚とお金VOL38_財産分与や養育費の取り決めを無視された場合に財産を差し押さえる手続き方法
- 離婚とお金VOL39_財産分与や養育費が支払われない場合、いくら差押えができる?
- 離婚とお金VOL40_離婚して子どもを夫に会わせたくないときに考えるべきこと
- 離婚とお金VOL41_夫と子どもとの面会は制限していい?祖父母に面会交流権はある?
- 離婚とお金VOL42_親権でもめて子どもを連れ去られたときに返してもらう方法を解説
- 離婚とお金VOL43_離婚後、子どもに会わせてくれなくなった場合に面会を求める方法とは
- 離婚とお金VOL44_離婚後も結婚中の姓を名乗るための手続き
- 離婚とお金VOL45_離婚して旧姓に戻っても子どもは夫の姓のまま?妻の戸籍に入り妻の姓にする方法
- 離婚とお金VOL46_子どもの姓を親権者ではない方の姓に変える手続き
- 離婚とお金VOL47_戸籍からバツイチを消す裏ワザ!注意点も解説
- 離婚とお金VOL48_子どもの親権者が虐待をしていたときに親権を変更する方法