長年連れ添ったパートナー(配偶者)への我慢が限界に達し、離婚を決断した場合、離婚前に決めなければならないことがあります。
今回は、離婚の流れについて説明した上で、離婚を決断した際にまず決めておくべき要素のうち、特に重要と思われる3要素について取り上げていきたいと思います。
離婚は当事者双方の合意が必要
離婚をする前、つまりお付き合いをしていた恋人状態である場合は、どちらかが別れの意思表示をすれば別れることができます。
しかし、離婚の際は双方が離婚をすることに合意が必要とされ、離婚届を役所に提出するか、どうしても相手が離婚に合意しない場合には、最終的には裁判所に離婚の可否について判断してもらうことになります。
離婚届には、夫婦双方の押印および署名、証人2人の押印および署名が必要ですから、これらの書類が作成できない場合には、裁判手続による離婚を行わなければなりません。
当事者の話し合いでまとまらない場合には調停を申し立てる
当事者の話し合いで結論が出ない場合には、相手方の住所地である家庭裁判所に、離婚調停の申立てを行います。
調停とは、家庭裁判所を交えた話し合いのようなものであり、裁判官や調停委員とよばれる人が、双方の言い分を聞き、話し合いの結論が出るように話し合いを進行します。
調停は月に1度ほどのペースで行われます。
なお、調停委員が示した和解の内容に、当事者が応じなければならないという決まりはありません。
そのような場合には、調停は不成立という形に終わり、この時点での離婚は認められません。
そして、当事者が離婚を求める場合には、離婚の訴えを家庭裁判所に提起することになります。
離婚の訴え―必ずしも離婚が認められる訳ではない
離婚の訴えでは、調停で話し合われた内容や資料、新たに示された資料などを参考に裁判官が離婚の可否について判断を下します。
離婚の訴えは、当事者が離婚に反対していても離婚を認める判決を下すことができ、離婚を認める判決が出た場合、当事者が判決を受け取って2週間以内に控訴をしない限り、離婚を認める判決が確定し、離婚が成立します。
ただし、必ずしも離婚が認められる訳ではなく、下記に掲げる要素がないと離婚が認められる可能性は低いといえます。
- ・ 配偶者が不倫などの不貞行為があったとき
- ・ 配偶者が悪意で遺棄されたとき(生活費を渡さないなど)
- ・ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(行方不明)
- ・ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復に見込みがないとき
- ・ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(浪費、共同生活を送れないほどの性格の不一致、DV、長期間(3年以上)の別居など)
なお、これらの要素に該当するから直ちに離婚が認められる訳ではありません。
例えば、性格の不一致を理由に別居期間が長期間に及んでいた場合でも、それなりの頻度で連絡を取っていたり、頻繁に会っていたりする場合は、離婚が認められないケースもあります。
また、離婚原因を作った側の方からでも、幼い子どもがいるなどの事情がない限り、裁判手続を起こすことは可能です。
まずは調停から
離婚の訴えでは、それなりの要因が認められれば、相手方が離婚に反対しても離婚を認める判決が下されます。
一刻も早く離婚したい場合は、いきなり離婚の訴えを提起したい所ですが、制度上、まずは調停を申し立てなければなりません。
なお、離婚調停あるいは離婚裁判で下された結果に基づいて離婚届を提出する際、裁判所から受領した書類(調停調書、判決)があれば、相手方や証人の署名・押印は不要です。
離婚を決断した際に決めておくべき要素①―苗字の決定
離婚後、3ヵ月以内が原則
夫(佐藤)、妻(旧姓:田中→結婚により佐藤)というケースを例に示します。
この場合、原則、妻は離婚により、苗字が田中に戻ります。
しかし3ヵ月以内に役所に届け出ることにより、離婚後も、夫の同意を得ることなく、佐藤を名乗ることができます。
3ヵ月経過後も方法がない訳ではない
なお、旧姓の田中に戻したが3ヵ月経過後、やはり佐藤にしたい場合、または離婚後、佐藤を名乗ることを選択したが田中に戻したい場合、裁判所に対し「氏(うじ)の変更の申立」という手続きを行い、苗字を変更しなければいけないそれなりの理由(生活に支障が生じているなど)があれば苗字を変更することが可能ですが、必ずしも認められる訳ではありません。
離婚前後は何かと生活の立て直しなどバタバタしており3ヵ月という期間があっという間に過ぎてしまう恐れもあり、また、氏の変更申立ても必ずしも認められる訳ではありませんから、余裕があるときに、苗字の選択については予め決めておくべきでしょう。
離婚を決断した際に決めておくべき要素②―親権者の決定
夫婦の間に、未成年の子どもがいる場合は、どちらかを親権者であるか決め、届け出なければなりません。
外国によっては、離婚後も共同親権を採用している国もあるようですが、現在の日本はどちらかを親権者として決めなければなりません。
当事者同士の話し合いで結論が出ない場合には、離婚と同様、親権者に関する調停・審判の申立てを行い、裁判所に解決を図ってもらうことになります。
調停・審判手続は、父親や母親の収入や生活状況などから、どちらが「子育てに適した環境であるか」や、子どもが15歳以上の場合は、子どもの意思をも尊重しながら(15歳未満でも、子どもが父母どちらになついているかなどの現状も参考にします)、親権者を決定します。
一度決められた親権には簡単には変わらない
父親、母親のどちらかを親権者と定めた場合、子どもの戸籍欄に親権者の名前が記載されます。
そして、一度決めた親権者は、例え(離婚した)双方の親が合意をしたとしても、勝手に変更することは許されず、裁判所の許可が必要です。
親権者が両親の都合で自由に変えられては、子ども自身の発育に悪影響が出るという考え方から、一度決めた親権者は簡単には変えられません。
親権については、親自身の問題だけでなく、子どもの今後に重大な影響が出る事柄でもありますから、十分に考えることが大事です。
お金の計画も大事
離婚協議中、そして離婚後の新たな生活には想像以上の金銭負担が生じます。
弁護士に相談している場合や、離婚協議中に別居している場合、離婚後に引っ越す場合や、小さなお子さんがいらっしゃる場合はなおさらのことです。
別居中でも、相手方に金銭の請求をできる
夫婦は、夫婦である限り、生活に必要な費用を双方の収入や資産から共同して負担しなければなりません(このことを「婚姻費用」といいます)。
婚姻費用は、別居したからといって、直ちになくなる訳ではなく、収入の低い側は、収入の高い側に対し婚姻費用の支払いを請求することができます。
当事者の話し合いで金額や支払い方法について、合意ができなかった場合は、裁判所に「婚姻費用支払い」の申立てという手続きを起こすことになります。
裁判所では実務上、当事者双方の収入や資産をベースに作成された「養育費婚姻費用算定表」という表があり、システマティックに婚姻費用が算出されます。
この表は、インターネットで簡単に見ることが可能ですから、この表を元に離婚・別居を考えた場合、予め「自分がいくら位もらえるのか(払わなくてはいけなのか)」ということを予測しておくとよいでしょう。
離婚後の新たな生活には財産分与、養育費の取り決めも大事
結婚中に築き上げた財産(預貯金や不動産など)は、たとえ配偶者のどちらから専業主婦(夫)であっても、協力して築き上げたものとされます。
したがって、離婚をし、別々になる場合は、その築き上げた財産を切り崩して清算され、当事者双方に分配されます(つまり財産分与)。
また、未成年の子どもがいる場合は、(先程述べたとおり親権者は父親か母親のどちらかになりますが)子どもが独立するまでの生活費や学費などは、引き続き両親が共同して負担していくことになります(つまり養育費)。
これら財産分与・養育費の問題も、婚姻費用と同様、当事者の話し合いで結論が出ない場合は、裁判所による解決を求めていくことになります。
まとめ
離婚を決断した場合、決めておくべき3大要素は
- ・苗字の選択
- ・親権者の決定
- ・婚姻費用、財産分与、養育費の取り決め
になります。
このうち、親権者については離婚時に決めなければなりませんが(後の親権者の変更は認められにくい)、他の2つについては期限付きではあるものの、離婚時に必ずしも決めなければいけないという訳ではありません。
しかし、離婚後に相手方と交渉をすることは、何かとトラブルにもなりかねませんし(連絡が取れない、生活環境が不明など)、できれば離婚時に、これらの問題は全て解決した方が、気持ち的にもスッキリとし、新たな生活をスタートすることができます。
一刻も早く離婚したいからという感情に流されて、これらの問題を後回しにするのではなく、予め冷静であるときに、場合によっては専門家の力も借りながら、これらの問題も踏まえてじっくりと検討し、万全の準備をした上で、離婚手続を開始しましょう。
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