離婚の手続きVOL34 子に悪影響なケースでは面会交流権行使を制限することができる | 離婚弁護士マップ
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離婚の手続きVOL34 子に悪影響なケースでは面会交流権行使を制限することができる

面会交流権行使が認められない場合とは

離婚をする際、夫婦間に未成年の子供がいる場合には、離婚後の子供の親権者(監護親)が父親か母親のどちらになるかを決定しなければなりません。

それでは、親権者にならなかったもう片方の親(非監護親)は、離婚にも定期的に子供に会いたい場合、どうすれば子供と会うことができるのでしょうか。

非監護親と子供が直接会ったり、手紙や写真、プレゼントを送付したりというような、親子の面会交流をする権利を、面会交流権といいます。

この面会交流権は、非監護親だけではなく子供の権利でもあります。

この面会交流権が認められれば、非監護親と子供の面会交流が可能となります。

面会交流権が認められているのは、両親が離婚しても、その間にいる子供は、両親の離婚後も変わらず非監護親と親子関係であるから、お互い親子として面会交流をしたいと思うのは自然であり、子供の福祉を最優先して考えるべきであるという考えからです。

ちなみに、面会交流権は、離婚をしていないけど別居状態であるといった夫婦とその子供の間でも認められる権利です。

一方で、監護親としては、非監護親と子供が面会交流することで、子供にとって悪影響を及ぼす恐れがあったり、監護親や子供自身が非監護親を嫌っていたり等の事情により、面会交流を認めたくない場合があるかもしれません。

しかし、面会交流を制限すべき理由が具体的にない場合には、家庭裁判所は原則的に面会交流を認めます。

原則面会交流を認めるなら、例外的に面会交流を制限すべき理由は、どのような基準で決まるのでしょうか。

面会交流権を制限する基準

「面会交流を認めると子供の福祉に合致しない」と裁判官が判断した場合には、面会交流権の行使が認められません。

面会交流を認めるか否かについて、裁判官の判断基準は以下の点になります。

子供への影響

子供が15歳以上である場合や、15歳未満でも親権者である監護親の意見に流されず、自分の意見をはっきりと表明できるという場合には、裁判官はその子供の意見を重視することが多いです。

このような子供が、非監護親との面会交流について拒絶の意思表示をしていると認められたら、面会交流は制限されることがあります。

また、子供が両親の離婚の影響で家庭内暴力を振るうようになったり、不登校になったりといった問題が発生した場合にも、面会交流が制限される可能性があります。

このような状況で面会交流を認めてしまうと、子供の今後の生活や精神的にも悪影響が懸念されるためです。

監護親の意見や子供との信頼関係

子供が乳幼児というように年齢が極端に低い場合、面会交流は親権者である監護親の協力が必須です。

しかし、夫婦の別居や離婚に至った原因や経緯等により、監護親側が非監護親との面会交流に消極的な場合、面会交流を認めてしまうと子供にとっても精神的に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、非監護親が監護親の教育方針に不満や不平がある場合にも、面会交流を認めてしまうと、非監護親が子供に監護親の不当な非難をしたり、教育方針を干渉したりする可能性があります。

これにより、本来非監護親と関わりがなければ壊れなかったはずの監護親と子供の信頼関係が壊される恐れがあります。

非監護親の問題

非監護親が薬物使用をしていたり、面会交流をした際に子供を連れ去ってしまったりと、非監護親に違法行為や不法行為の可能性がある場合には、子供に対して重大な危険がありますので、面会交流は認められません。

夫婦関係の問題

夫婦が別居や離婚に至った原因が、非監護親による監護親や子供に対して暴力があったからであるという場合、別居や離婚後にも監護親と子供が非監護親に対して強い恐怖心や嫌悪感を持っている恐れがあります。

このような状態で面会交流を認めるのは不適切だと考えられ、面会交流は制限されることがあります。

また、夫婦の別居や離婚の経緯が、別居や離婚後もずっと付きまとっているという場合にも、面会交流で子供が精神的負担を背負い、精神衛生上良くないため、面会交流が制限されます。

面会交流権の行使を制限された実例

実際に、非監護親と子供の面会交流が制限された実例を紹介します。

離婚せず別居状態の夫婦と子供の面会交流の制限

概要

これは、離婚しておらず別居状態の夫婦で、子供の面会交流が制限された事例です。

夫婦関係破綻の原因は主に夫の酒癖の悪さでした。

夫婦には5歳の長男と3歳の長女の2人の子供がいます。

結婚7年目の時に、妻が2人の子供達を連れて妻の実家に引っ越し、夫婦は別居となりました。

その後、妻の方から離婚調停を申立てましたが、夫の方は離婚の意思がないために調停不成立になりました。

そして夫から「別居が解消されるまで夫が子供達を引き取り監護する、それが認められないなら毎週末と休暇中に定期的に子供達との面会交流を請求する」旨申立てられました。

家庭裁判所が夫のこの請求を却下したところ、夫がさらに「裁判離婚に至る帰責事由のない別居状態の夫婦で、別居の原因ともなった自分の飲酒についても現在は控えているのに、家庭裁判所が子供達との面会交流を制限すると判断したことは不当な判断である」と高等裁判所へ抗告しました。

⑵判旨

高等裁判所は、以下の状況があるために、夫と子供達の面会交流を制限することが正当な判断であるとしました。

  • ①子供達は両親の別居により、小学校や幼稚園を転校したが、ようやく新しい環境に慣れきて、精神的に安定して生活していること。
  • ②子供達は両親と同居している時から抱いていた父親の乱暴な言動に対して、別居後も恐怖を抱いており、父親との面会交流を子供達自らが嫌がっていること。
  • ③両親が離婚を巡って鋭く感情的になっており対立した状態であること。

④以上の①~③の状況がある中で、父親と子供達の面会交流を認めた場合、父親にとっては面会交流によって子供達の成長を見ることができる機会であっても、子供達にとっては情緒不安定にさせられる恐れがあり、それが原因で両親が一層対立し、夫婦関係の話がまとまらないこと。

これらの状況から、子供達の福祉を最優先に考えた時、父親と子供達の面会交流を制限するとの判断は正当であるとして、夫の請求は棄却されました(大阪高裁昭和55年9月10日決定、原審和歌山家裁昭和55年6月13日審判)。

⑶小括

子供が両親と同居時から非監護親の言動に畏怖していたり、非監護親を嫌悪している様子があったりといった事情があったら、最初は面会交流が認められていたとしても、面会交流によって子供の生活に一層悪影響が生じる可能性が高いと判断されれば、面会交流権の行使を制限する必要があると考えられます。

面会交流が実施された後に面会交流を制限した事例

⑴概要

調停離婚が成立した夫婦と未成年の子供2人の事例です。

母親が親権者となり、非監護親である父親の子供達との面会交流については、年2回行うことの定めがなされていました。

しかし、実際に面会交流を2回行ってから、父親が子供達に対して情操を損ねる悪い影響を与えていると母親が判断して、それ以降の父親からの子供達との面会交流要求を拒絶しました。

裁判所は、実際に行われた面会交流について、1回目の面会交流では、父親のこれまでの言動から、子供達が父親に対して親近感を抱かず、むしろ面会交流中に子供達がおどおどしており、面会交流自体に嫌悪感を持つに至ったと指摘しました。

2回目の面会交流においても、父親側は穏やかに子供達と接しようとしていても、子供達と意思疎通が上手くいきませんでした。

さらに、2回目の面会交流後に小学生の長女は、1週間ほど情緒不安定になり学習意欲も低下、そして今後の父親との面会交流に対する拒絶反応を示しました。

同じく弟も、面会交流に対して恐怖感や嫌悪感を抱くに至ったと判断されました。

このように子供達が面会交流を強く拒否したため、母親は父親に子供達を会わせないようにしました。

すると、それに対して父親が「調停で面会交流権が認められているのだから、それに基づいて子供達と面会交流できるようにする」旨の請求を申立てました。

⑵判旨

裁判官は、現段階で子供の福祉が損なわれる恐れがある事情が継続しているため、面会交流を認めることは相当ではないと判断しました。

面会交流権とは子供の福祉のために形成されたものであり、面会交流を受ける子供の健全な育成を図り、情操を高めるという目標を果たすために行使されなければなりません。

したがって、このような目標を達成させるために、監護親と非監護親が共に努力する必要があります。

しかし、監護親と非監護親がそのような努力をしても、非監護親と子供の面会交流によって、子供の情操を損ねると認められる事情が発生すれば、監護親はその事情が継続している間はずっと、面会交流を延期または停止することが可能です。

そして、非監護親はこのような事情が継続している間は、監護親に対して面会交流を求めることはできません(浦和家裁昭和56年9月16日審判)。

⑶小括

子供がはっきりと面会交流を拒絶する旨の発言をしなくとも、面会交流の前後や、面会交流中の子供の様子がおかしいことが認められたりすれば、面会交流権の行使は制限される必要があるといえます。

面会交流が行われる際には、その前後の子供の様子に注目すべきです。

3歳の子供との面会交流権の制限

結婚3年で協議離婚をした夫婦の間に3歳の娘がおり、その子供の親権者は母親とされ、父親と子供の面会交流については、1ヵ月に1回の面会交流が約束されていました。

面会交流は2回目まで約束通り行われましたが、3回目からは母親から父親の面会交流を断りました。

理由としては、子供が父親との面会交流から帰ってくると、子供がわがままになったりすぐに泣いたりして、情緒不安定の様子が見られ、父親と一緒にいる時に子供が「早く帰りたい、ママに電話して」等と発言したとのことから、この面会交流が子供に悪影響を及ぼしていると判断したことです。

これに対して、父親は約束に反するとして、面会交流を再開できるように申立てました。

⑵判旨

裁判所は、現段階では父親と子供の面会交流を認めることは子供の福祉に反すると判断しました。

そして面会交流の代わりに、母親が父親へ定期的に子供の写真やビデオを送り、子供の近況を知らせるという形をとることが相当であるとして、父親の申立を却下しました。

裁判所の判断基準としては、子供がまだ3歳と未熟であり、これまで母親と一時も離れずに過ごしてきたということ、現に面会交流を行うことで子供が精神的に不安になっていることから、母親と離れて異なる環境で父親と過ごすことは、子供にとって不安感を与えてしまうことです(岐阜家裁大垣支部平成8年3月18日審判)。

⑶小括

この事例では、母親が面会交流をさせなかった際に、父親が夜中に母子のアパートに出向き、部屋のドアを激しく叩いたり、父親が駐車場で待ち伏せして母親を怒鳴ったりといった事情があったことも裁判所から評価され、面会交流の制限が判断されたと思われます。

子供が小さく、監護親である母親とずっと一緒にいるといった事情があるので、子供の愛情も母親に傾いているのだと考えられます。

父親がいくら子供に会いたいと思っても、母子のアパートに突然来てドアを激しく叩いたり、母親を待ち伏せして怒鳴ったり等という言動をされたら、小さな子供は畏怖するでしょう。

このように、非監護親が子供や、子供の前で監護親に対して畏怖させるような言動を行うことも、面会交流権の行使を制限させるのに相当な事情であると考えられます。

まとめ

離婚するにあたって、未成年の子供がいる場合は子供と非監護親の面会交流を認めることは重要ですが、子供にとって悪影響が及ぼされる可能性がある事情が発生した際や、発生する可能性がある場合には、面会交流権の行使の制限が可能となります。

両親の離婚は少なからず子供にとっても心境の変化があるものです。

夫婦2人だけの問題と考えず、子供の福祉を最優先にして子供が心地よく日常生活を送れるように、親権者である監護親はもちろん、非監護親も子供のために環境を整えることが大切です。

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監修弁護士
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