離婚の手続きVOL8 調停離婚における調停委員会では何が行われるのか? | 離婚弁護士マップ
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離婚の手続きVOL8 調停離婚における調停委員会では何が行われるのか?


夫婦の間で離婚について任意の協議が整わなかった場合(協議離婚の不成立)、離婚を話し合うステップは裁判所での手続にステップアップします。

一般的にイメージされるのは、裁判所の法廷で当事者が争う離婚裁判ですが、日本の法律では離婚裁判の前に、離婚調停手続きを挟まなければならないとされています。

これを調停前置主義といいます。

離婚調停は、裁判のように当事者が原告・被告に分かれてお互いの主張をぶつけ合うのではなく、あくまでも当事者の「協議」を主たる目的として、当事者のほかに専門的知見をもつ専門家たちを交え、離婚について客観的な意見を取り入れつつ、妥協点を探していく、といった手続です。

離婚調停に参加する専門家は、調停官と専門員です。

調停官とは、離婚調停を主導する議長のような存在です。

調停委員とは、調停手続きにおよそ一般人の感覚を取り入れることを目的として、地域の中で豊富な経験や知見を持つ人の中から選ばれます。

具体的には、弁護士や司法書士などの「士業」に携わる法律家や医師や社会福祉士、一般NPO法人の代表など、福祉関係に長年携わってきた人のほか、地域社会に密着してきた地元の名士など、各分野から選ばれています。

離婚調停では、この調停官と調停委員で調停委員会が組織され、当事者間の協議をサポートするといった具合になっています。

調停委員や調停委員会についてよく理解し、離婚調停をする際にスムーズに進められるようにしましょう。

調停委員とは?どんなことをしてくれるの?

離婚調停における調停委員は、調停に一般良識を反映させるために、その地域で長年貢献してきた弁護士など、豊富な経験や専門的知識を有する専門家が担います。

裁判所に勤務する裁判官も当然、法律知識については申し分ないほどの知識を持っています。

しかし、男女の離婚に関しては、法律面からだけではなく生身の人間としての感情面も絡んできます。

このような、法律のみを考慮した画一的な判断が適当とはいえない事件には、一般感覚を持ちながら専門的知識も豊富に併せもつ一般市民を参加させることが必要となります。

調停委員の存在は、より良い離婚の解決方法を見つけるためのシステムといえるでしょう。

離婚調停では、基本的に、男性の調停委員と女性の調停委員の2名が選任され、参加します。

人間、感情的に同性同士のなれ合いというのはどうしても生じてしまう可能性があるので、男女ペアの調停委員を選任し、不平等な調停がされないように考慮されています。

調停員は法廷における裁判官ではないので、当事者の主張がぶつかり合い、妥協に至らない場合でも、独立して終局的な判断を下せる訳ではありません。

あくまでも、助言やサポートをする役割に徹しています。

基本的に離婚調停では、当事者が相手と直接対面して離婚に関して協議するのではなく、調停委員と面談し、自分の主張、離婚に関する思い、相手への希望を調停委員に説明し、調停委員を介して相手に伝えます。

そして、相手も調停委員から話を聞き、自分の言いたいことなどを調停委員に伝え、調停委員から相手の主張を聞くといった、伝聞の方法で調停手続きが進行します。

離婚を考える際に、当事者の頭の中では、どうしても、今までの夫婦生活のありとあらゆることを思い出し、「あの時の言動に腹が立った」、「こういうところが嫌だった」と主観的な気持ちばかりが先行し、相手への主張が整理できないことがしばしばあります。

調停委員は混乱している当事者から話をきき、冷静に整理・分析して、「つまり、あなたが相手に伝えたいことはこのようなことですか?」と主張を整理し、提示してくれます。

この主張の整理は、後に離婚裁判になったとしても、法廷で主張する際に有力な材料になりえます。

また、調停委員は弁護士などの専門家が参加することが多いので、自分たちの離婚以外のさまざまな夫婦の離婚をたくさん見てきています。

そういった専門家と話をすることで、離婚についての世間一般的な「感覚」を知ることができます。

たとえば、調停内で離婚をするかしないかのほかに、財産分与や子どもの養育費、慰謝料の請求なども併せて話し合われているケースで、自分の金銭的請求が世間の一般的な感覚と照らし合わせて、妥当な程度なのか、それともかけ離れているのかといった具合を知ることができます。

また、他の夫婦が最終的にどんな形で終結したのかを知ることで、自分の考えを変えるきっかけになったり、他の方法・選択肢がみつかったりするきっかけにもなる、良い機会でもあります。

ただ、調停委員も人間なので、自分と相性が合わないということも、もちろんあり得ることです。

自分の意見を理解しようとしてくれない、一方的に意見を押し付けてくる、急に説教をされたなどの事例も実際にあります。

しかし、現行の制度では調停委員とどんなに相性が合わないからといって、調停委員の変更は認められていません。

つまり、アタリとハズレがあります。

相性が合わないからといって感情的になり、調停委員に文句を言っても、調停委員は変わることなく、さらに調停委員からの印象が悪くなるだけで、なんのメリットもありません。

離婚調停を有利に進めていきたいのであれば、離婚調停委員を味方につけることは大きなポイントなので、調停を何度か重ねる中で、離婚調停員の普段の職業や年齢、性格といった部分をよく観察し、嫌われてしまうなんてことがないように離婚調停を進めていくようにしましょう。

調停委員会とは?どんな役割があって、どんなことをしてくれるの?

調停委員会とは、離婚調停を含む家事調停の進行のために原則として裁判官1人と調停委員2人で構成される組織です。

離婚調停委員会では、紛争解決のために調停委員会の仲介の下、当事者の一方を勝たせるのではなく、当事者とともに個別事案の解決策を探るために、当事者の主張・気持ち・感情などを聞き取って、進行していかなければなりません。

調停委員会の役割① 司法的役割

離婚調停は家庭裁判所内での手続で、調停委員会は離婚調停をするために組織される裁判所内の組織になります。

したがって、裁判所内の組織であるということから、法的判断を下すことが求められます。

しかし、ここでいう法的判断とは、決して通常の裁判のように「判決」を下すという意味ではなく、離婚調停の中で当事者に法的な助言や教示をするという意味になります。

当事者は、調停委員を通じて、離婚調停・離婚裁判に関しての法的知識を得ることが可能になります。

また、離婚調停の当事者は法律的知識に明るくない一般市民であることが通常であるため、その当事者の主張が法律に照らして不相当に過大であるということは良くあるケースです。

法律に詳しくない当事者が違法な内容で合意をしようとしている場合には、調停委員会が法律の範囲内で取り決められるよう(違法な内容にならないように)軌道修正をしてくれることになっており、これも司法的役割の一つです。

極端な例では、離婚を条件に財産分与として1、000万円支払うように相手から打診があった際に、法律的知識が乏しい当事者は、財産分与に1、000万円というのが社会一般的に高いのか低いのか判断に困ります。

そこで、調停委員は個別事案に沿って、1、000万円が社会的に法律的に妥当な金額かどうかを教えてくれます。

調停委員会の役割② 後見的役割

離婚調停の当事者は、争いの背景に今までの夫婦生活をかえりみて、こみ上げてきた気持ちやさまざまな感情のもつれを抱えています。

そのため、離婚をするかしないかという表面的な問題を解決しただけでは、お互いにわだかまりが残り、調停が無事に終わった後でも当事者間に争いが残ったり、調停前よりも関係が悪化する可能性もあります。

離婚調停委員会では、当事者の気持ちや感情を引き出し、それを十分に踏まえた上で当事者にとって最適な合意ができるように導き、当事者が後腐れない程度に納得できる合意を作ることに努める必要があるので、当事者同士が対立・敵対し、単に主張をぶつけ合うのを静観するのではなく、当事者の権利・義務、子どもの福祉を最大限考慮して調停委員会としての意見や調停案を提示することが求められています。

もちろん、調停委員会も万能な組織ではなく、また、調停委員会も感情や各別の価値観をもった人間であるため、調停委員会で意見が紛糾してしまったり、調停委員個人の意見と調停委員会としての意見が混在し、当事者が混乱してしまうことも可能性としてはゼロではありません。

このような場合には、当事者として調停委員個人の意見と、調停委員会という組織の意見を比較、検討して、自分にとって有意義な意見を取り入れるよう、情報の取捨選択が必要になります。

離婚調停で調停委員と話す際に気を付けること

話す目的を意識する

離婚調停の調停委員に、聞いてもらいたいことを次々に話すようなことはしないようにしましょう。

今までの夫婦生活の愚痴は言い尽くされないくらいあるのは理解できますが、それをいまさら調停委員に言っても仕方がありません。

調停委員に話をすることには、離婚したい理由を理解してもらうため、自分が親権者になるべき理由を理解してもらうためなどの一定の目的があります。

有意義な議論のために、そういった目的を意識して話すことが大切です。

自分の意見の正当性を伝え、終始誠実を心掛ける

当事者双方が希望する合意内容に隔たりがあれば、調停委員が当事者に譲歩を求め、調整をすることになります。

調停委員が正当な解決案だと認識すれば、相手にその正当性を示して説得してくれるかもしれません。

ここでいう正当性とは、法律的な正当性ではなく、調停委員が共感してくれそうな正当性を心掛けることが大切です。

また、調停委員も人間なので、不誠実な人に対して印象が悪くなるのは当然です。

無礼な人に協力したくないのは、当たり前なことです。

調停委員に嫌われないように、裁判所内では終始、誠実さを心掛けるのが良いでしょう

また、簡単に譲歩するような印象を与えないことも重要です。

当事者が希望する合意内容に隔たりがあれば、調停委員は当事者双方に「譲歩することはできないか?」と打診することがよくあります。

最初から譲歩の姿勢を見せてしまうと、調停委員から「こっちのほうが譲歩してくれそうだな」と打診を迫られてしまう可能性もあります。

以上のことから、調停委員会では、話す目的を端的に考え、誠実に毅然と自分の意見を調停委員に話すことが重要であり、事前に調停委員に対して自分の譲歩ラインを伝えておくようなことはせず、譲歩する段階で自分にとって有利なポイントで相手を譲歩させることが大切です。

まとめ

離婚調停に臨む人にとっては、調停委員といった無関係の人が参加することに抵抗を感じる人も少なくなく、また、調停委員も弁護士や地元の名士などの有力者が多く、その威圧的な態度に不快感をもつこともよくあります。

しかし、現行の制度では担当の調停委員を変更することはできず、調停委員に感情的になっても、印象が悪くなるだけでまったく意味がありません。

「いい年をした大人」として冷静さに努め、調停を有利に進めていくことを心がけましょう。

調停委員会は、紛争のある当事者間に司法的役割として法律的な判断を示し、後見的立場から調停終了後にわだかまりが残らないように、当事者双方が納得する調停案を一緒に考えてくれる存在です。

今後の自分の人生のために、有意義な調停となるようにしましょう。

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