離婚の手続きVOL25 離婚時における子どもの親権者の決め方と親権の概要 | 離婚弁護士マップ
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離婚の手続きVOL25 離婚時における子どもの親権者の決め方と親権の概要

夫婦に子どもがいる場合、離婚するときにどちらが子どもの親権者となるかという問題で揉めるケースがよくあります。

最近では少子化が進んでいるためか、昔よりも親権が争われるケースが増加しています。

この記事では、離婚時において子どもの親権をどのように決めるのかについて解説し、親権の概要についてもご紹介します。

離婚するときには親権者の指定が絶対に必要

夫婦の間に未成年の子どもがいる場合は、離婚するときには夫または妻のどちらかを子どもの親権者として指定することが絶対に必要です。

離婚届には親権者を指定する欄があります。

ここが空欄のままでは離婚届は受け付けられず、離婚はできないのです。

安易に妥協すると後悔する

離婚協議中に子どもの親権で揉めるケースでは、お互いに絶対に譲りたくないという気持ちが強いものです。

その一方で、婚姻関係が破綻した配偶者とは早く離婚して再スタートを切りたいという気持ちも強くあるでしょう。

そこで、親権の問題については離婚後に改めて話し合うことにして、とりあえずどちらかを子どもの親権者に指定して離婚届を提出しようと考える夫婦がたまにいます。

しかし、この考え方は非常に危険です。

離婚届を提出すれば、そこに記入したとおりに親権者が戸籍に載ってしまいます。

一度戸籍に載った親権者の変更は当事者間の話し合いだけではできません。

必ず家庭裁判所に親権者変更の調停を申立てて許可を得なければならないのです。

相手方(元夫または元妻)が親権者の変更に合意するならいいのですが、反対する場合は簡単には変更できません。

家庭裁判所では、子どもの親権者を決めるときには、それまでの子どもの生育環境をできるだけ変更しないことが望ましいと考えます。

この考え方は「継続性の原則」といって、未成年の子どもが健全に成長するためには生活の場をあちこち移転させることはできる限り避けて、特段の事情がない限り同じ環境で育てる方がいいとする考え方です。

したがって、現在の子どもの生育環境に特段の問題がない限りは、それでも親権者を変更した方が子どもの生育にとって望ましいという、さらなる特段の事情がないと親権者の変更は認められないのです。

離婚届を提出するときに安易に親権を譲ると後悔することになる可能性が高いので、注意が必要です。

妊娠中に離婚した場合は母が親権者となる

妻が妊娠中に夫婦が離婚した場合は、子どもはまだこの世に存在しておらず、戸籍に載っていないので親権者を指定する必要はありませんし、指定することはできません。

離婚後に子どもが生まれると、自動的に母が親権者となります。

ただし、子どもの出生後に父母の協議で父を親権者に指定することもできます。

この場合は親権者の変更ではないので調停を申し立てる必要はなく、話し合いのみで届け出ることができるということです。

話し合いがまとまらないときは裁判になる

離婚するときに夫婦のどちらを親権者に指定するかの話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

このときは離婚調停(正確には「夫婦関係調整調停」)を申し立てれば足ります。

親権者指定調停を個別に申し立てる必要はありません。

離婚調停においても親権者の指定については必ず話し合われるからです。

親権者の指定について合意ができないと離婚調停は成立しません。

調停でも話し合いがまとまらない場合は、審判手続に移行するか、離婚訴訟を起こすことになります。

審判では、調停で明らかになった一切の事情を考慮して審判官(裁判官)が決定をします。

しかし、決定に不服がある側が異議を申し立てると審判は簡単に覆されてしまいます。

そのため、実務上は離婚審判はあまり利用されておらず、離婚訴訟を提起するのが一般的となっています。

離婚審判でも離婚訴訟でも、離婚そのものの判決と一緒に親権者の指定についても家庭裁判所が決定します。

親権者が指定されないまま離婚が成立することは決してありません。

家庭裁判所調査官による調査を活用しよう

調停は、調停委員を交えた話し合いの場です。

ただ話し合うだけなら、夫婦2人での離婚協議の延長に過ぎないとも言えます。

しかし、家庭裁判所での調停においては、「家庭裁判所調査官」の参加を求めることができます。

家庭裁判所調査官は、離婚や相続などの家庭に関する紛争や少年非行など家庭裁判所に持ち込まれる問題を解決するために、紛争の背景にある人間関係や生活環境などを調査します。

親権者の指定や変更の調停でも、家庭裁判所調査官による調査を求めることができます。

この調査が行われることになると、家庭裁判所調査官は父及び母それぞれの家庭を訪問し、事情を聴くなどして生活環境を調査します。

子どもがどのような環境で養育されているかということも現認して調査します。

子どもの養育に祖父や祖母などの近親者が関わっていればその点も調査します。

子どもが通う学校や幼稚園・保育園なども調査します。

子どもの親権者として父と母のどちらが相応しいかという観点からさまざまなことを調査して、その結果を調査報告書にまとめます。

この調査報告書は絶対的な効力を持つものではありませんが、調停委員も裁判官も調査報告書に書かれた調査結果を参考にして以後の話し合いを進めることになります。

審判や訴訟に進んだときにも、この調査報告書は重要な証拠となります。

調査報告書の内容に逆らっても益は少ない

調査報告書の内容は、申請すれば申立人も相手方も見ることができます。

調査報告書には、子どもの親権者として父と母のどちらが相応しいかについて、調査を担当した家庭裁判所調査官の意見も記載されます。

この意見はあくまでも参考意見でしかなく、審判における審判官や訴訟における裁判官は家庭裁判所調査官の意見や調査結果をひとつの参考にして判断します。

しかし、ほとんどの場合で家庭裁判所調査官の意見のとおりの決定や判決が下されることは容易に想像がつくでしょう。

家庭裁判所調査官の意見を覆そうとしてあれこれ画策しても、実際に覆すことは極めて難しいのが現実です。

家庭裁判所調査官の調査報告書は、現状の客観的な分析資料であり、その資料を専門的な見地から考察した意見書でもあります。

この調査報告書の内容に逆らうことはおすすめできません。

それよりは、調査報告書で指摘された自分の問題点をよく把握し、子どもの養育にとって何が望ましいのかを分析して、将来の親権者変更を目標にして生活環境や生活状況を改善していく方が建設的と言えるでしょう。

それまでは面会交流を実施して子どもとの絆を深めながら、普段は子どもを引き取っても十分に養育できる環境を整えていくのです。

そうすることが、父母は離れても共に子どもを育てるという姿でもあります。

訴訟の前に必ず調停が必要

なお、夫婦間の協議がまとまらない問題を調停でもう一度話し合うのは面倒だといって、強制的に決めてもらえる訴訟をいきなり起こしたいと考える人もいますが、これはできません。

離婚については、訴訟を起こす前に必ず調停を申し立てないといけないのです。

このことを調停前置主義といいます。

家庭内の争いは第三者同士の争いよりも深い人間関係の問題が背景にあるので、調停での話し合いから始めることで人間関係の改善を図ることが望ましいと考えられているからです。

親権について正しく理解しよう

「親権」とひと口に言っても、どういう権利なのか正確に理解している人はあまりいないでしょう。

ここでは、親権の概要をご紹介します。

親権には「身上監護権」と「財産管理権」がある

「親権」として法律に定められている権利には「身上監護権」と「財産管理権」があります。

身上監護権

身上監護権とは、平たく言えば子どもの身の回りの世話をしたり、しつけをしたりして子どもを見守りながら育てていく権利のことを言います。

子どもを健全に育てていくために、以下のような権利も認められます。

・居所指定権

子どもの世話をして教育していくために、子どもがどこに住むかを指定することができる権利です。

・職業許可権

子どもが職業に就くことを許可する権利です。

未成年の子ども自身の判断だけに任せておくと成長にとって望ましくない職業を選ぶおそれもあることから認められた権利です。

・身分行為の代理権

婚姻・離婚・養子縁組などの身分行為は未成年の子どもが単独で行うことはできないので、親が同意し、代理人となって手続きを行う権利です。

財産管理権

財産管理権とは、子どもに財産がある場合はその財産を管理し、さらに子どもが契約などの法律行為をする必要があるときに同意する権利のことを言います。

未成年の子どもが財産を適切に管理することは期待できないので、親が代わって管理する必要があります。

また、未成年の子どもは契約などの法律行為を単独で行うことはできません。

子どもがアルバイトなどの労働契約を結ぶときには親権者の同意が必要ですし、子どもが勝手に売買契約をした場合は親権者が取り消すことができます。

親権は「権利」よりも「義務」の側面が強い

親権の法的な内容をみてみると、子どもと一緒に暮らす権利という側面ももちろんありますが、子どもを健全に育てなければならないという義務の側面が強いことがわかります。

自分の気の向くままに行使できる「権利」ではなく、子どもの健全な成長を第一に考えるべき「義務」の側面が強いからこそ、親権者を指定したり変更したりする際には、父と母のどちらがその「義務」を適切に果たしうるかという点が考慮されるのです。

「親権」と「監護権」を分離することもあり得る

法律上は、「親権者」とは別に子どもの身のまわりの世話や養育だけを行う「監護者」を定めることもできるようになっています。

親権には「身上監護権」と「財産管理権」がありますが、そのうちの身上監護権だけを分離するようなイメージです。

離婚の際にどちらが親権者になるかで揉めるケースでは、親権と監護権を分離することも検討してみる価値があります。

乳幼児の保育についてはどうしても父よりも母の方が有利であるのが現実です。

そこで、夫がどうしても親権を譲らない場合、親権者は夫にするけれど、例えば子どもが12歳になるまでは母が監護者となって保育する、という方向で話し合うのです。

いざ子どもが12歳になって、夫が身上監護権も含めた親権者になった後でも、親権者変更調停を申し立てることは可能です。

それまで子どもと一緒に暮らして育ててきた土壌があれば、親権者の変更が認められる可能性もあります。

親権者と監護者を分離することは現状の実務ではほとんど行われていませんが、このような形で活用することは考えられます。

まとめ

離婚をするとしても子どもと別れるのは嫌だと考える人は、当然ながら多いです。

離婚そのものの協議よりも、親権者をどちらにしているかの協議の方が厳しいものになりがちです。

子どもの親権者になりたいのなら、調停や訴訟で戦うテクニックも大事ですが、子どもを養育するに相応しい生活環境を整えることがそれ以上に大切です。

離婚に詳しい弁護士などの専門家に相談してアドバイスを求めるのも良いことです。

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