離婚は夫婦の一方だけの意思では成立しません。
離婚を考えている場合には、まずは夫婦同士で話し合います。
話がまとまらなければ裁判所に申し立てて調停をします。
調停が不調となれば最終的には裁判という方法をとることになります。
このように、協議離婚と異なり裁判所が関わる離婚方法として、離婚調停や裁判離婚が思い浮かぶと思います。
調停離婚や裁判離婚の他に、裁判所が関わる離婚方法には「審判離婚」というものがあります。
しかし、審判離婚と聞いても、あまりピンと来ない人が多いかもしれません。
審判離婚とはどのような離婚方法で、同じく裁判所が関わる離婚方法である調停離婚や裁判離婚とはどのように異なるのでしょうか。
ここでは、審判離婚についてわかりやすく説明いたします。
審判離婚とは
審判離婚とは、家庭裁判所で行われている離婚調停において、当事者間でお互いの話がまとまらない場合に、家庭裁判所が確定判決と同等の効力を用いて離婚の判断を下すことで、離婚が成立する離婚方法のことをいいます。
それでは、審判離婚はどのタイミングで行われるものなのでしょうか。
調停不成立と審判離婚
調停離婚は夫婦が調停において合意することで離婚が成立します。
しかし、すべての離婚調停がストレートに成立するわけではなく、離婚調停が不成立になることもあります。
どんなに夫婦で調停による話し合いを続けたとしても、いつまでも話が平行線で解決する見込みがない場合は、調停不成立として裁判所は事件を終わらせることになります。
調停不成立となり終了した場合には、離婚の最後の手段としての離婚裁判による解決を目指すしかありません。
一方で、審判離婚は離婚調停が不成立になった場合になされる手続きではなく、離婚調停が継続しており、夫婦双方の条件等には差がないのに単に張り合っているだけというような場合になされる手続きです。
離婚調停が不成立の場合の次の離婚方法
離婚調停の場合、夫婦間での話し合いによる解決ができずに離婚の合意が成立せず、調停不成立となったら、当事者やその利害関係人から不服申立てをすることはできないため、最後の手段として離婚裁判をすることになります。
離婚裁判を提起する際、離婚請求の原因を訴状に記載することになります。
民法で認められている離婚請求できる原因として、
- ①配偶者に不貞行為が認められたこと
- ②配偶者に悪意で遺棄されたこと
- ③配偶者の生死が三年以上不明なこと
- ④配偶者が回復見込みのない強度の精神病を患っていること
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があること
といった事項があります。
これらの離婚請求ができる原因があれば、離婚裁判を家庭裁判所へ提起します。
そこで勝訴すれば離婚成立、敗訴すれば離婚を諦めるか控訴することになります。
合意のない離婚調停を成立させるための審判離婚
離婚調停において、夫婦双方が大体の条件等で合意していても、双方のわずかな考えの違いで最終的に離婚の合意ができないという限られた場合には、調停を不成立にさせるのではなく、審判離婚によって離婚を成立させることが可能となります。
審判離婚な可能となる事例
審判離婚が可能となる事例としては、次のようなものがあります。
- ①夫婦間での離婚調停の合意はできていないが、調停を重ねて当事者同士で話し合い、離婚を認めるべきといえる場合
- ②夫婦間で離婚することについての争いはないが、財産分与や親権の選定等のその他の条件で、夫婦間でわずかな差があり、離婚調停が成立しない場合
- ③夫婦どちらかが故意に調停期日に出頭しないことで、離婚調停そのものが成り立たない場合
- ④一方的な意見に固執したり自分勝手な態度を貫いたりすることで、調停離婚の合意ができない場合
これらの状況のように、調停を重ねて、このまま離婚成立することが当事者のためになるはずなのに、合意が成立する見込みがないという場合には、家庭裁判所が相当と認めた場合に審判離婚の手続きをとることができます。
審判離婚の手順
審判離婚は、まず調停委員の意見を聞いてから、夫婦双方に公平な結果となるように、離婚とその他処分を家庭裁判所の職権で行います。
ここで言うその他の処分とは、親権者の指定や財産分与、慰謝料の決定等です。
審判離婚は、夫婦双方の申立ての趣旨に反しない限度で行われ、これによって審判離婚が成立するのです (図1)。
審判離婚にかかる費用
東京家庭裁判所で審判離婚を行う場合には、審判申立書に貼付する収入印紙代として1,200円(乙類、甲類の審判事件は800円)、予納郵券として800円程度が必要となります。
このように、審判の申立ては安価で行うことができます。
審判離婚を弁護士に依頼するメリット
いざ審判離婚をしようと考えた時、弁護士に頼まずに自分一人で対応する場合、その審判内容が自分に有利かどうかはよくわからないということがあるかもしれません。
そんな時にプロである弁護士に依頼すると、審判内容が自分に有利であるかどうかわかり、スムーズに審判離婚を進めることができるでしょう。
なぜ審判離婚の利用率は少ないの?
審判離婚は限定的な場合のみにしか認められない離婚方法ですので、実際に利用されることはそう多くありません。
その理由として考えられるのは、家庭裁判所が審判を下してから2週間以内に、当該審判の当事者である夫婦もしくはその利害関係人から審判に対する異議の申立てが可能であるということです。
異議の申立てがあった場合には、その審判は即座に効力を失ってしまいます。
このように、審判は離婚を成立させるための力が弱く、あまり意味の無いものと考えられるため、実際に審判によって調停離婚を成立させる事例が少ないのでしょう。
審判離婚が成立したら
審判を下してから2週間以内に異議の申立てがない場合には、審判が確定し、晴れて離婚が成立します。
審判離婚が成立した後、10日以内に所轄の市町村役場へ行き、届出をする必要があります。
届出には、離婚届と審判確定証明書、審判書の謄本を提出します。
この際、離婚届には相手方の署名押印や証人の記載は不要です。
また、本籍地以外の市町村役場へ届出する場合は、夫婦関係があることや本籍地の確認等のために、戸籍謄本を提出する必要があります。
まとめ
ここまで審判離婚について見てきましたが、審判離婚は調停離婚や裁判離婚よりも知名度が低く、年に数十回程度と利用率も低い珍しい離婚方法です。
また、審判離婚は家庭裁判所が職権によって強制的に離婚を成立させるものですが、審判が下されて2週間以内の異議申立てによってその効力は失われるので、強力な離婚方法とは言い難いかもしれせん。
しかし、審判離婚とは、家庭裁判所が離婚調停における当事者双方の公平を図って下すので、優れた離婚方法であると考えられます。
離婚調停であと一歩のところで成立しそうなのに、調停不成立にして離婚裁判をするとなると、精神的にも金銭的にも余計に負担がかかります。
そこで、離婚調停が成立しそうな状況で利用できる審判離婚は、リーズナブルに離婚成立できる点についても、大きなメリットではないでしょうか。
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