離婚のときに問題なる金銭として「離婚慰謝料」が有名です。
離婚といえば慰謝料がついて回るイメージですが、実は慰謝料は必ず発生するとは限りません。
慰謝料のない離婚もあります。
慰謝料が発生する理由や請求期限など、離婚慰謝料の概要と注意点を詳しくご紹介します。
離婚慰謝料とは
離婚の際の慰謝料とは、離婚または離婚に至った理由によって生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭のことです。
簡単に言うと離婚による精神的な苦痛を慰め謝罪するためのお金であり、民法709条を法的な根拠とする損害賠償のひとつと考えられています。
精神的な苦痛というのは心や精神の問題です。
心が傷ついたとき、慰謝料が必要と考える人もいれば単純に心からの謝罪を求める人もいます。
なかには、同じだけの苦しみを味わわせてやりたいと復讐に燃える人もいます。
本来は金銭では評価も癒しもできないものをお金で解決するということに、違和感や拒否感を覚える人もいるでしょう。
たしかに、お金で心は癒せません。
実際の離婚事案においても、「お金なんていらないから心から謝罪してほしい」「あいつからのお金なんていらない」という人もいます。
気持ちは分かりますが、そのような感情と慰謝料は分けて考えるのが賢明です。
名目はどうあれ、お金は離婚後の生活の基盤になりますし、あって困るものではありません。
経済的なゆとりは精神的な苦痛を軽減する作用もありますし、傷ついた人には慰謝料を受け取る権利と必要性があります。
なにかひどいことをされた末での離婚なのであれば、冷静に慰謝料を求めるべきです。
離婚慰謝料はどうやって決まるの?
慰謝料が必要かどうか、その金額や支払い方は基本的には夫婦の話し合いで決まります。
話し合いで折り合いが付かなかった場合には、家庭裁判所での調停や審判で決定することになります。
慰謝料の支払いは「嫌なことを思い出したくないから」と一括で求める人が多い印象ですが、分割支払いの場合もあります。
支払い方も、金額と合わせて当事者の話し合いで決めるのが基本です。
離婚慰謝料はだれが払うの?
離婚時の慰謝料は、離婚の原因を作った側(有責者)が相手側に支払うべきものです。
たまに、女性であれば離婚時に必ず慰謝料がもらえると思っている人もいますが、そうではありません。
慰謝料は心の傷に対する損害賠償ですから、傷つけた方が傷ついた方に支払わなくてはいけません。
妻の側に非がある場合には、たとえ収入のない専業主婦であったとしても、夫に慰謝料を支払うことになります。
どっちも悪かった場合
夫婦一方だけに責任があるというケースは実は少なく、たいていの場合、夫婦ともに何かしら離婚に対して責任があります。
たとえば、夫は妻の家事が不出来でストレスを抱えていたが、妻は共働きなのに夫が家事をしないことに腹を立てていたケースなどがこれにあたります。
このようなケースでは、多くの場合、どちらにも慰謝料が発生するほどの明確な原因はありません。
そのため、性格の不一致などを理由として離婚し、慰謝料は発生しないことが多いです。
慰謝料が発生した場合でも、双方の支払い義務が相殺となり、結局慰謝料は支払われないことになります。
慰謝料が請求できる場合
離婚時の慰謝料は大きく2つあります。
- ・離婚に至った原因行為によって生じた精神的な苦痛に対するもの
- ・離婚をすること自体によって生じた精神的な苦痛に対するもの
それぞれ別々の慰謝料発生原因ですが、2つ合わせて請求できるケースが多いです。
たとえば不貞行為があった場合などは、離婚の原因行為である不倫で傷つき、さらに離婚自体でも傷つくため、2つの慰謝料を合わせて請求することになります。
原因行為による慰謝料
裁判では、離婚に至った原因行為による慰謝料は次のような場合に認められます。
- ・浮気や不倫などの不貞行為
- ・暴力(DV)や悪意の遺棄(悪意を持って同居・協力・扶養の義務を履行しないこと)
- ・婚姻生活の維持への不協力
- ・セックスレス
- ・モラルハラスメント
- ・避妊に協力しない
- ・義理の家族の不適切な言動
どのような行為が慰謝料の発生原因として認められるかはケースごとに異なります。
たとえば不貞行為があったとしても、以前から婚姻関係が破綻している場合には慰謝料が認められません。
また、慰謝料の原因となる行為は夫婦当人たちに限りません。
嫁姑問題など、義理の家族による干渉もよくある原因のひとつです。
離婚問題は夫婦ごとに事情が大きく異なるため、それぞれのケースに合わせた話し合いや判断が必要です。
離婚自体による慰謝料
離婚自体によって精神的苦痛を被る人もいます。
離れたくないのに離婚を強行されたケースや配偶者という地位を失うことに対して深く傷つくケースなどさまざまですが、離婚によって精神的な苦痛が生じる場合には慰謝料が発生する場合があります。
慰謝料の相場
辛いときになにを求めるのか、慰謝料を請求するかしないか、欲しい慰謝料の金額などは人それぞれです。
そのため離婚慰謝料についてはたくさんの裁判例が積み重ねられてきました。
現在の離婚慰謝料の相場は、家庭裁判所で成立した離婚についてはだいたい200~600万円程度、協議離婚の場合は100~300万円ほどといわれています。
一概にはいえませんが、家庭裁判所までもつれ込むような離婚は原因が重大なことが多いため、協議離婚に比べてやや慰謝料が高額になる傾向になります。
また、地域によっても差異があり、大都市では高く、地方では低くなりがちです。
これは支払う側の経済状況によるもので、どうしても大都市の方が給与が良いため、慰謝料も高額になります。
しかし法律上は慰謝料の金額に上限下限や目安はなく、次のような事情を勘案して決まります。
- ・離婚原因の内容
- ・婚姻期間の長さ
- ・慰謝料を支払う側の経済力
何年も不倫をしていた場合や家庭内暴力が長年続いていた場合など、離婚に至った原因が非道であればあるほど慰謝料は高額になる傾向があります。
また結婚期間が長さと比例して慰謝料も高額になります。
慰謝料は辛い思いに対する賠償金ですから、すべての事情を総合的に考慮して判断することになります。
婚姻期間別の支払額
離婚慰謝料は離婚原因や夫婦の収入などを総合的に判断して決まりますが、婚姻期間の長さと金額が比例しているのは確かな傾向です。
最近増えている婚姻期間15年以上の熟年離婚の場合は、600~700万円程度が平均的な慰謝料額となっています。
実際の慰謝料額はどうやって決める?
離婚慰謝料の金額はさまざまな要素によって決まるため、一概に目安金額をお話することはできません。
夫婦で話し合って決めるのが基本です。
支払い能力や原因の重大さなどを考慮して、100~300万円に落ち着くケースが多い印象です。
これに加えて財産分与が行われるため、だいたいの場合、慰謝料を受け取る側は総額400~500万円程度を離婚時に受け取ることになります。
ただし、この数字はあくまでも参考です。
適切な慰謝料は夫婦の事情によって異なるため、夫婦やそれぞれの家族とよく話し合い、必要に応じて弁護士などの専門家の意見を仰ぐのがおすすめです。
離婚後の慰謝料の請求について
離婚の慰謝料は、離婚の成立から3年間行うことができます。
離婚時に慰謝料はいらないと思ったけれどやっぱり請求しようと思った場合や、離婚後に原因行為に気付いた場合などには、離婚後3年間であれば慰謝料を請求することが可能です。
この3年のいう期間はとても大切です。
というもの、離婚時には「なにはともあれ離婚したい!」「こんなやつからのお金などいらない!」と感情的になってしまい、せっかくの慰謝料請求権を行使しないまま離婚してしまう人が多いのです。
また、愛人の存在を隠して性格の不一致による離婚を申し出るなど、慰謝料の原因となる行為を相手に知らせない人もいます。
3年あれば感情も落ち着いて冷静に対処できますし、隠された離婚原因に気付く機会もあるかもしれません。
ただし、3年を過ぎると時効が成立して請求ができなくなりますので、注意が必要です。
離婚後の慰謝料請求ができないこともある
3年以内であっても、離婚後の慰謝料請求ができない場合もあります。
離婚協議書や念書などで「金銭の請求は一切しない」「債権債務はないことを確認する」といった合意をしていた場合、詐欺や脅迫などによって慰謝料請求権を不当に放棄させられたなどの事情がない限り慰謝料請求はできません。
離婚協議書や念書に判を押すときには、すべての項目に目を通すことが大切です。
離婚後の慰謝料請求の方法
離婚後に慰謝料を請求する場合でも、まずは当事者間での話し合いが基本です。
話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停でも合意に至らなかった場合には審判が行われ、裁判所が慰謝料請求の可否や金額をきめることになります。
また、離婚の慰謝料は地方裁判所に訴えることも可能です。
離婚後に請求した慰謝料の相場
慰謝料を離婚後に請求した場合、離婚時での請求と比べて、金額は少し低めになる傾向があります。
顕著な差はありませんが、やはり離婚時にがんばって慰謝料請求を済ませておく方がお得ですし、手間もかかりません。
不貞の相手に対する慰謝料請求
離婚時に慰謝料を支払う原因行為としては、やはり浮気や不倫が代表的です。
その場合、必ず浮気相手つまり愛人が存在します。
民法上は、この愛人にも慰謝料を請求することが可能です。
夫婦は互いに貞操を守る義務を負っています。
たとえば夫が会社の後輩女性と浮気したケースでは、もっとも悪いのは貞操義務を破った夫です。
後輩女性がどれほどアプローチしたのだとしても、夫が断りさえすれば不倫には至りません。
しかし、夫に比べれば程度は低いものの、後輩女性にも貞操義務を破った責任があります。
そのため、妻は後輩女性にも浮気による離婚の慰謝料を請求することができるのです。
ただし、後輩女性は必ず慰謝料を支払わなくてはいけないというわけではありません。
もともと夫婦関係が破綻していた場合や既婚者だと知らなかった場合には、慰謝料を支払う義務は発生しません。
不貞の相手に対する慰謝料の判例
不貞の相手に慰謝料請求を求める裁判は数多く行われています。
いくつか裁判例をみておきましょう。
不貞の相手に慰謝料の支払いを命じた裁判例
女性は男性が既婚者であると知りながら同棲を続け、結果として夫婦を離婚させる原因となってしまいました。
東京高裁はこの女性に対し、妻に200万円を慰謝料として支払うよう命じました。
もし離婚に至らなかった場合や離婚原因が女性以外にもある場合には、慰謝料は減額されたと考えられます。
不貞の相手の責任を否定した裁判例
同じ不倫であっても、慰謝料の支払い義務を否定した判決もあります。
結婚20年目の熟年夫婦は、もともと性格や金銭感覚の不一致から仲が悪くなっており、とうとう夫が家を出る形で別居に至りました。
別居後、女性は夫が妻と離婚することになっていると聞いて交際し同棲、やがて子どもも生まれました。
一審、二審ともに女性と夫が関係を持った当時すでに夫婦関係は破綻していたとして、女性の妻に対する慰謝料支払いの責任を否定しました。
最高裁までもつれこみましたが、最高裁もこの判決を支持し、確定しました。
このように、不貞の相手の責任は不貞の開始時期が重要な争点になります。
夫婦関係が破綻した後に始まった不倫であれば慰謝料の責任はありませんが、破綻前に不倫が始まった場合は離婚の原因とみなされ、慰謝料を支払う責任が生じます。
まとめ
離婚時の慰謝料とは、離婚または離婚に至った理由によって生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭のことです。
離婚するすべての人に必ず発生するわけではありません。
慰謝料の原因となる行為があった場合に、傷つけた方は傷ついた方に慰謝料を支払う責任が生じます。
慰謝料の金額はケースごとに異なるため、すべての事情を総合的に判断して決める必要があります。
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