離婚を考えるならば、その前に別居しようかどうか悩むケースは多いはずです。
離婚するには別居することが必要なのか?
別居したほうが良いケースとは何か?
別居先の住所を伝える必要があるのか?
別居したら生活費はどうするのか?
別居に踏み切る前に知っておくべき事項について解説致します。
結論からいうと、別居をしなくても話し合いで合意すれば離婚できます。
ただし別居をすると相手に「離婚したい」という意図が伝わり、結果的に離婚が成立することもあります。
別居を理由に離婚するためには、別居の期間が3~5年ほど必要になります。
別居は離婚の条件ではない
同居したまま離婚をすることができるのでしょうか?
もちろん可能です。
確かに離婚前に同居を解消するケースが多いと言えますが、同居したままでは離婚できないという法律はありません。我が国の法律では、同居か別居かは、離婚に直接には関係しないのです。
さらに、たとえば離婚をした後に同居を継続しても何ら問題はありません。戸籍上の他人同士が同居してはいけないとする法律もないからです。
離婚を認められ易くするためには別居がおすすめ?
日本での離婚は、夫婦が合意して離婚届を提出する協議離婚が圧倒的に利用されています。これは合意と書類の提出だけで離婚が成立しますから、別居か同居かは何の関係もありません。
別居か同居かが間接的に影響するのは、どちらかが離婚を拒否している場合に、強制的に裁判所に離婚を認めてもらう裁判離婚の場合です。
裁判離婚が認められるためには、夫婦生活を継続することが困難と言える重大な事情があることが必要です。民法は、その例示として、不貞行為、悪意の遺棄、回復しがたい強度の精神病などを定めていますが、要は、夫婦としての共同生活が客観的にも心情的にも「破綻(はたん)」、すなわち壊れてしまっている場合に離婚を認めます。これを破綻主義といいます(民法770条)。
夫婦は法律上、同居義務があり、一方は他方に同居するよう求める権利があります(民法752条)。その同居義務に違反して家を出てしまい、別居しているということは、夫婦生活が壊れている、破綻していることを示す、ひとつの要素となります。
このため、前述のとおり、民法は「悪意の遺棄」を裁判離婚の原因のひとつしているのです。
ここにいう「遺棄」とは、夫婦間の同居・協力・扶助の義務あるいは婚姻費用分担義務(同760条)に違反する行為のことです(別冊法学セミナー「基本法コンメンタール親族第5版」103頁・日本評論社)。
また「悪意」とは、社会倫理的避難に値する要素を含み、積極的に結婚生活の廃絶を企図、容認する(つまり夫婦生活を破綻させようとしている)意思を言います(同旨の裁判例:新潟地裁昭和36年4月24日判決)
したがって、あえて別居をすることは、多くは離婚原因である悪意の遺棄に該当すると言えるのです。
実際に、離婚を考えている相手と同居を続けることは精神的にも苦痛ですし、別居の事実を作ってしまった方が離婚原因を認定されやすいと言えます。このような理由から、離婚前に別居するケースが多いのです。
離婚に必要な別居期間は何年間か?
離婚するには別居がおすすめだとすると、いったい何年間別居したら離婚できるのでしょうか?
家庭によって異なりますが、2~5年が目安になります。
残念ながら、裁判上の離婚が認められるかどうかは、事案によりケースバイケースであり、何年間の別居が必要という基準を示すことは不可能です。
離婚原因の本質である夫婦生活が破綻しているか否かという観点からは、別居期間の長短だけでなく(それも重要な要素ではありますが)、別居の原因を含めた諸事情が考慮されます。
しかも、離婚事件が裁判離婚の訴訟にゆきつくまでには、原則として離婚調停(正式名称は「夫婦関係調整(離婚)調停」)を経由している必要があるので(これを調停前置主義と言います)、訴訟の時点で1年以上の別居期間があることが通常であるため、あまり短期の別居期間で離婚裁判となるケースは見かけないというのが実際です。
むしろ、裁判離婚が認められるかどうかは、別居原因と別居期間の相関で考えるべきであり、配偶者の不貞行為など、それだけで離婚原因となり得る事実が別居原因の場合は、別居期間の長短は問題となりません。
別居原因が単なる性格の不一致しかないという場合は、相手が婚姻の継続を希望していると、少なくとも2、3年といった期間の別居が要求される可能性があるでしょう。
同居したまま離婚できる方法は?
先にも触れましたが、裁判離婚でない限りは、離婚できるかどうかという点に別居の有無は影響しません。
協議離婚の場合はもちろん、調停離婚の場合でも、両当事者が離婚することに合意をすれば、離婚は有効に成立します。
したがって、協議離婚や調停離婚であれば、同居したまま離婚することは容易です。
裁判離婚においても、他に重大な離婚原因が存在するのであれば、法的には必ずしも別居している必要はなく、同居のまま離婚を認める判決を受けることも不可能ではありません。
ただし、そのような事例は、かなりのレアケースというのが実際です。
離婚する前に別居したほうが良いケース
では、離婚する前に別居をしてしまった方が良いケースとは、どのような場合があるでしょうか?
ドメスティックバイオレンスやモラルハラスメントを受けているケース
あなたが配偶者から物理的な暴力を受けているDV(家庭内暴力)の場合や言葉や態度による精神的暴力であるモラルハラスメントを受けている場合には別居するべきです。
まず物理的な暴力、即ちドメスティックバイオレンスの被害者のケースでは、そもそも離婚を考える以前に、あなたの生命身体を守るため、直ちに同居を解消する必要があります。
加害者である配偶者から物理的に距離を置いて、被害が及ばないよう身の安全を確保し、そのうえで離婚を含めた今後の対応を警察や弁護士に相談しながら慎重に検討をするべきです。
次に、モラルハラスメントを受けているケースでも、やはり、とりあえず別居することがおすすめと言えます。
というのは、そのまま同居を継続し、精神的に抑圧された状態が続くなら、たとえ配偶者との話し合いを開始したとしても、あなたの自由な意志を表明することは著しく困難だからです。
また、あなたの正直な意志表明に対して、相手方からの精神的攻撃がさらに過剰となる危険性も高いからです。
相手が頑なに離婚を拒否しているケース
次に、相手の浮気などを理由に、あなたが離婚を希望し、離婚の意志を表明しているのに対して、相手が頑なに離婚を拒否している場合には、早々に別居に踏み切るべきです。
相手が頑なに離婚を拒否しているときには、いずれ裁判離婚で強制的に離婚を認めてもらうしかないであろうことが予想されます。
その場合、別居により夫婦生活が破綻している既成事実も作り出してしまうことが、離婚を希望する側にとっては有利だからです。
また、別居してしまうことで、あなたの覚悟を相手に示すことができ、離婚を拒否していた相手が諦めて離婚に応ずる可能性もあるからです。
離婚を望むのであれば、まずあなたの行動で示す必要があるということです。
相手が子どもを虐待するケース
次に、あなた自身は、DVやモラハラを受けていないけれども、お子さんが、相手から児童虐待を受けているケースがあります。
このようなケースでは、早々にお子さんを連れて別居をしなければなりません。
お子さんがあなたの連れ子である場合だけでなく、あなたと相手方の実子であっても、親が我が子を虐待するケースが数多く報告されています。
このような場合、何よりも子どもの生命身体の安全を守ることが最優先です。
また、お子さんが被害を受けているにもかかわらず、あなたが漫然と同居を続けるならば、事態が発覚した際に、あなたも児童虐待の共犯者であると判断されてしまう危険すらあります。
離婚という点からみても、児童虐待の事実があり、これを避けるために別居を余儀なくされたという事実は、夫婦生活を継続しがたい重大な事由と認定されて、離婚が認められる公算が高いと言えますから、この点からも早々に別居をするべきでしょう。
子供がいる場合の別居について
子供がいる場合の別居は、注意が必要です。
夫婦のどちらもが親権を望んでいる場合は、勝手に子供を連れていくと「子供の連れ去り」と判断される可能性があります。
自分が子供の親権者になる場合は問題ありませんが、親権争いが起きる場合は、子供を連れていくかどうか注意しましょう。
難しいかもしれませんが、相手としっかり話し合って決めておいた方がいいです。
別居先を相手方に教える必要があるのか?
別居の移転先を教える必要はない
別居した後に、移転先を相手に教える必要があるのでしょうか?
原則として必要ないというのが回答になります。
まず、相手と連絡を取り合うだけであれば、ラインやメールのやり取りができれば十分です。電話番号や住所を教える必要はありません。
別居後、残してきた荷物の運送を希望する場合には、送付先を相手に伝える必要がありますが、相手に新住所を教えたくないのであれば、自分の実家や共通の知人宅を送付先に指定するなどの工夫をすれば済みます。
離婚協議の代理人を弁護士に依頼すれば、弁護士を受取人とし、弁護士の法律事務所を送付先として受け取ってもらうことも可能です。
離婚調停の申立てに、別居の新住所を知る必要は無い
別居して、相手にメールアドレスや電話番号だけを教え、別居先の新住所は教えていない場合、相手方から、離婚調停を申し立てたいから新住所を教えて欲しいと要請される場合があります(あなたが住民票を移動させていないケースを念頭に置いています)。
もちろん、特に問題がなければ新住所を教えても良いのですが、調停は利用したいけれど、新住所は相手に教えたくないというときは必ずしも新住所を教える必要はありません。教えなくても、相手方が離婚調停を申し立てられるケースがあるからです。
もちろん、申立書に調停の相手方としてのあなたの住所を記載しなければいけませんが、それは従前に同居していた住所でかまいません。
ただし、家庭裁判所は離婚調停を受理すると調停の相手方であるあなたに対して、呼出状を郵送しなくてはなりませんから、裁判所はあなたの新住所を知らなければ調停を実施することができません。
そこで、このような場合は、相手から離婚調停のために新住所を知りたいという連絡があった段階で、次のとおり伝えて下さい。
- ・自分は家庭裁判所の調停には応ずるが、新住所はあなたには教えたくない
- ・裁判所に調停の申立てをしてくれるなら、自分が裁判所に新住所を連絡する
- ・申立ての際に、この自分の希望を家庭裁判所に伝えてほしい
- ・申立てをしたら、事件番号(※)を連絡してほしい
※事件番号とは、各裁判所が個別の事件を特定して管理する番号です。裁判所と事件番号さえわかれば、裁判所側は、どの案件かを即座に理解してくれます。
相手がこれに応じれば、事件番号を聞いた後に、できるだけ早くあなたから家庭裁判所に新住所を連絡すれば良いのです。その際に、新住所は家庭裁判所限りとして相手には秘匿してほしいことを伝えて下さい。
調停の申立ての際に、申立てる側が、上記の事情をきちんと家庭裁判所に伝えないと、呼出状が送付できない事案と判断されてしまい、調停を受け付けてもらえませんので、この点は念をいれて注意して下さい。
なお、できれば事件番号がわかった段階で、早めに家庭裁判所に出向いて、免許証などの身分証明書と新住所の確認できる資料(例えば公共料金の請求書など)を持参すると家庭裁判所側も安心して手続きを進めることができます。
暴力を受けているなら新住所を知らせてはいけない
あなたが家庭内暴力の被害者であり、暴力を逃れるために別居したのであれば、相手からどのような連絡があろうとも、別居先の住所を伝えてはいけません。
家庭内暴力を振るいつつ離婚に応じない相手方の多くは、これまでどおりにあなたと同居をしながら、これまでどおりに暴力を振るい続ける生活に執着します。
そして同居を拒むあなたを、さらなる暴力で従わせようとして、どんどん行動がエスカレートし、ほとんどの場合、移転先に押しかけてくることになります。
相手は、あなたの居場所を探しだそう、聞き出そうと、必死にあの手この手を使います。
「居場所を教えてくれれば、二度と暴力を振るわない」とか、「居場所を教えて貰って安心したいだけで、会いに行ったりはしない」などという甘い言葉を使う可能性が高いですが、全部嘘です。決して、そのような口車に乗ってはいけません。
相手に居場所が判明した結果、エスカレートした相手に殺害されてしまう最悪のケースもあるのです。
このような場合は、早急に警察や弁護士に相談をし、相手とのやり取りを任せることが最も賢明です。
別居している間の生活費はもらえるのか?
同居している時に、あなたの配偶者が生活費を負担していた場合、別居した後でも、生活費を受け取ることができるのかという不安が生じます。
別居中でも生活費(婚姻費用)を請求できる
しかし、離婚していない限り、たとえ別居中であっても、同居中と同様に相手方に生活費を請求する権利があります。これを婚姻費用分担請求権といいます(民法760条)。
婚姻費用とは、夫婦と未成年の子どもが生活するための費用です。
夫婦は互いに、相手の生活を扶助する義務があり、また子供を扶養する義務もあります。
ここから、収入のある配偶者は他方に対して、その配偶者と子供の生活費を婚姻費用として分担する義務が認められているのです。
婚姻費用の決め方
この婚姻費用の額は、夫婦の資産、収入、その他一切の事情を考慮して決められます。
当事者の協議によって決めることができますが、当事者の協議で決められない時には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申立て、家庭裁判所の調停委員の仲介による話し合いで決めることができます。
調停でも決まらない場合は、家庭裁判所裁判官の審判により金額が決められます。
婚姻費用の具体的な金額は、裁判所の算定表(※)を参考に決められます。
※参考サイト:裁判所「養育費・婚姻費用算定表」
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf
この算定表では、夫婦の年収と未成年の子どもの人数に応じて金額が決められています。下記にその例を表で示します。
年収 | 夫500万円、妻0円 | 夫500万円、妻120万円 |
---|---|---|
家族構成 | 婚姻費用の夫負担 | 婚姻費用の夫負担 |
夫婦のみ | 8万円程度 | 6万円程度 |
夫婦と14歳未満の子1名 | 10万円程度 | 8万円程度 |
夫婦と14歳未満の子2名 | 11万円~12万円程度 | 9万円~10万円程度 |
婚姻費用の分担はいつ請求するべきか?
ところで婚姻費用の分担は、いつの分から請求することができるのでしょうか?
まず、婚姻費用は今後の将来分しか請求できないというものではありません。過去に発生していた婚姻費用の分担請求も可能であることは最高裁の判例が認めています(最高裁昭和40年6月30日決定)。
もっとも、過去に既に発生していた婚姻費用と言っても、それが具体的に何時から発生したと扱うのかは別問題です。
家庭裁判所では、婚姻費用分担義務が具体的に発生するのは、婚姻費用分担請求権を有している権利者から相手方に対して支払請求がなされた時点であると取り扱っています。
このため家庭裁判所の婚姻費用分担請求調停においては、申立てにより請求がなされて婚姻費用分担義務が発生したと考え、申立て前の婚姻費用の請求は認めない取り扱いとしています。
これは婚姻費用分担義務の発生時期をめぐる争いを避けるという、実務の実際的な要請に基づくもの過ぎません。
したがって、調停を申立てる前でも、内容証明郵便のように明確に証拠となる書面で請求をしておけば、後の調停においても、その段階からの婚姻費用を請求することが問題なく可能です。
そこで、同居中であっても、相手方が生活費を渡さない場合は、その時点で内容証明郵便を利用して生活費を請求するべきです。
また別居を実行したのであれば、直ちに相手方に対して婚姻費用の分担を、やはり内容証明郵便で請求するべきなのです。
ところで、このように婚姻費用分担請求をおすすめするのは、あなたやお子さんの生活維持という目的はもちろんですが、それ以上に、あなたが離婚を望んでいる場合、相手に離婚を決意させる副次的な効果が期待できるからです。
というのは、例えば調停で婚姻費用分担義務が決められた場合、たとえ別居状態であったとしても、離婚しない限りは、支払い義務が続くからです。
相手の立場に立ってみれば、自分は離婚を望まず、同居したいのに、その願いは叶えられないにも関わらず、生活費だけは支払い続けなければならないこととなります。お金だけ払い続けることになるのであれば、いっそ離婚してしまった方が良いと決断を促す材料となるわけです。
別居しても、財産分与は受けられるのか?
財産分与とは、離婚にあたって、夫婦の一方が他方に対してその財産を分けるように請求できるとする制度です(民法769条)。
この財産分与は、結婚中に取得した財産がたとえ片方の名義であっても、その取得には他方も協力・貢献したと評価し、実質的な共有財産とみなして離婚に当たり清算するものです。ですから別居の有無にかかわらず財産分与請求は認められます。
自ら家を出て別居した者であっても、例えば配偶者名義の定期預金が500万円ある場合、その定期預金が婚姻後に形成された財産である限り、原則としてその半額を分与請求することができます。
逆に言えば、相手が勝手に出て行ったからといって財産を分けなくても良いとはならないのです。
別居は財産分与の基準になる
財産分与は「夫婦が協力した築いた資産」が対象になります。
夫婦が一緒に暮らしているときに、築いたものと扱われてます。
別居中は夫婦で協力している状況ではないため、財産分与の対象にはありません。
婚姻開始時から、別居までの期間で築かれた資産が夫婦共有の資産をして扱われます。
別居のメリットとは?
別居にメリットについて説明します。
離婚原因になる
先ほども説明しましたが、「別居している」という事実が離婚理由として成立するケースがあります。
別居が離婚理由として扱われるには、2~5年の期間が必要になります(ただしケースによって異なる)。
別居の事実があれば、夫婦関係が破綻していると認識される可能性があります。
「自分は離婚したいけど、相手も応じなくて、客観的な理由もない」という場合は、別居という手段があります。
相手に離婚の意思が固いことを伝える
別居のメリットは、相手に「自分の離婚意思は固い」と伝わることでしょう。
相手が全然離婚に同意してくれない場合でも、実際に別居してみると、反応が変わるかもしれません。
生活が変わってくると、離婚も急に現実味を帯びてくるものです。
実際に別居から離婚に至るケースもあるため、相手が離婚に応じれてくれない場合も強硬手段として、別居は有効でしょう。
別居のデメリットについて
別居にはデメリットもあります。
勢いで別居をしてしまうと、その後の夫婦関係が悪化したり、離婚時の条件が不利になったりします。
下記では別居のデメリットを説明します。
- ・理由のない別居は同居義務に違反するかも
- ・夫婦関係の修復が難しくなる
- ・相手から離婚を切り出されるかも
- ・証拠集めが難しくなる
「別居を検討している」という人は、デメリットも把握したうえで決断しましょう。
理由のない別居は同居義務に違反するかも
相手方が離婚を望まず、あなたが離婚を望んでいるときには、夫婦生活が破綻している状況を作り出すため、あえて別居を強行することが有利な場合があると説明しました。
ただし、これにはデメリットもあります。
相手に不貞行為などの原因があったから、あなたが別居したなどの別居に正当な理由がある場合であれば問題ありません。
しかし、そのような正当な理由がなく別居を強行したときには、あえて同居義務に違反したこととなります。
これでは最悪の場合、離婚原因である「悪意の遺棄」をした有責配偶者として離婚請求が認められない場合もあり、仮に首尾良く離婚が成立したとしても相手方から慰謝料を請求される危険性があります。
離婚には別居が有利といっても、自分勝手な振る舞いには、必ずしっぺ返しがありますのでご注意下さい。
夫婦関係の修復が難しくなる
一度別居をしてしまうと、夫婦関係の修復が難しくなります。
なぜなら別居をすると、離婚する確率が高くなるからです。
「離婚をしたくても相手が応じてくれない」という場合なら、別居は有効かもしれません。
ただし「やり直す可能性もあるけど、一度距離を置きたい」という程度なら、別居はおすすめしません。
もし別居をして「もう一度やり直したい」と思っても、夫婦関係の修復は難しくなります。
相手から離婚を切り出されるかも
自分が離婚をしたいと思って、別居をしたとしても、相手から離婚を切り出される場合があります。
実際に別居をすると、相手から離婚を切り出されるケースがあります。
相手から離婚を切り出されると精神的にもショックだと思うので、別居のデメリットとして覚えておきましょう。
証拠集めが難しくなる
別居をすると、証拠集めが難しくなります。
例えば相手の不倫で離婚を検討している場合は、別居せずに同居している段階で証拠を集めた方がいいでしょう。
「離婚の責任は相手にある」ことが分かるような証拠が集まれば、離婚交渉が有利に進めることができます。
反対に「相手が不倫をしているからしれない」という疑惑の状態で、別居を成立させてしまうと、証拠が集めきれないかもしれません。
証拠がない状態で離婚を切り出しても、相手に嘘をつかれて不利な離婚交渉になる可能性もあります。
離婚で損をしないためにも、証拠集めをするなら、なるべく同居中にやってしまう方がおすすめです。
浮気相手に走って別居するデメリット
不貞行為をしたあげく、浮気相手と同居を始めてしまい、結果として別居となるというケースは珍しくありません。
このような場合は、多くのケースでは、家に近寄ることもほとんどなくなり、さらに生活費も払わないという態度に出てしまうものです。
こうなってしまうと不貞行為という離婚原因を作っただけでなく、婚姻関係を破綻させることを容認しながら同居義務、扶助義務を放棄したとして、悪意の遺棄にも該当すると評価されてしまいます。
離婚原因を作った有責配偶者として、原則として自ら離婚請求をすることは認められなくなりますし、離婚の有無にかかわらず、配偶者から慰謝料請求をされてしまい、しかも単純な不貞行為よりも増額されてしまう可能性が高くなります。
浮気をした結果、本気で離婚まで視野にいれるのであれば、このような事態を避けるために、配偶者を放置するような真似はせず、誠実に本音で話し合いをするべきでしょう。気が重いことではありますが、問題から逃げる不誠実な態度では、余計に紛争を複雑にしてしまいます。
浮気をした側でも、別居期間が長ければ離婚請求ができるの?
浮気(不貞行為)を行った者は、離婚原因を作った有責配偶者として、自らは相手方に対し離婚を請求することはできないとされています。そのような請求は信義誠実に反するからです。
しかし、これも絶対に請求が認められないのではなく、条件によっては離婚が認められます。
裁判所が有責配偶者からの離婚請求を認めるには3つの条件があります(最高裁昭和62年9月2日判決)。
- (1)夫婦の間に未成年の子供がいないこと
- (2)離婚を請求された側が、離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認めることが社会正義に反する事情がないこと
- (3)夫婦の別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること
そこで、別居との関係では、「相当の長期間に及ぶ別居」とは、一体何年なのかが問題です。
しかし、裁判所も「夫婦の年齢、同居期間との比較で夫婦の別居期間が相当長期に及んでいるかどうか」と述べているように、有責配偶者からの離婚請求を認める長期の別居と言えるかどうかは個別のケースによって判断が異なると言えます。
例えば結婚してから半年しか経っていないカップルの2年間の別居は相当長期と評価できる場合もあるでしょうが、結婚して20年経っているカップルが3年別居したからといって、それが相当長期と言えないことは明らかです。
また、例えば、子どもがおらず、離婚を請求される妻にも相当な収入源があるようなケースでは、6年程度の比較的短い別居期間でも離婚が認められるケースがあります(東京高裁平成14年6月26日判決など)。
結局、別居の期間も考慮にいれたうえで、有責配偶者からの離婚請求を認めることが信義誠実に反するかどうかという総合的な判断となるとしか言いようがないのです。
したがって、10年別居していれば大丈夫とか、15年なら確実などの話は、あくまでも離婚が認められた場合もあるというだけの話にすぎないと理解するべきです。
別居する前にやっておくべき2つのこと
勢いで別居してしまうと、損することもあります。
下記では、別居前にやっておくべき2つのことを説明します。
証拠集めをしておく
別居すると、離婚のための証拠集めがしにくくなります。
なるべく同居している間に、離婚の原因となるような証拠を集めておきましょう。
もし相手が浮気している場合は、スマホ・PCなどのチェックもできます。
浮気・不倫だと、下記のようなものが証拠として扱われます。
証拠 | 内容 |
---|---|
写真 | 性行為・ラブホテルに入っている様子など |
音声・映像データ | 不倫相手との電話・旅行に行っている動画など |
クレジットカードの利用明細・レシート | ホテル・旅館などの利用明細 |
Suica・PASMOの利用履歴 | 他の証拠が必要になる |
メール・LINE・手紙 | 肉体関係があったことが分かる内容であること |
SNS・ブログ | 不倫している様子が分かる投稿 |
手帳・日記・メモ | 不倫相手と会う記録 |
GPS | ラブホテル・旅館などに行っている記録 |
住民票の写し | 配偶者が不倫相手と同棲している記録 |
妊娠・堕胎を証明できるもの | 女性の配偶者が不倫している場合の証拠 |
興信所・探偵の調査報告書 | 不倫している様子が分かるもの |
その他に興信所に依頼して証拠集めする場合も、同居していると動きが掴めるので、調査しやすくなります。
相手の収入・財産を把握しておく
自分よりも相手の収入が高い場合は、別居中に婚姻費用を請求できます。
婚姻費用は夫婦の収入によって決まるため、相手の収入が分かっていれば、スムーズに婚姻費用の請求が可能です。
また別居から離婚に至った場合に、財産分与も発生します。
財産分与とは、婚姻中に夫婦共同で築いた財産を分配する作業です。
財産分与の際に、相手の資産について分かっていれば、作業がスムーズになります。
相手がどこに預金を持っているのか、どんな財産を持っているか、分からない場合もあるため、事前に把握しておくのがおすすめです。
離婚調停・離婚裁判まで進めれば、相手に開示請求もできますが、事前に分かっていた方が楽ですよね。
別居後の生活をイメージしておく
なにも考えずに、突然別居してしまうと、生活に困るかもしれません。
実家に帰るなら費用がそこまでかかりませんが、新しい物件を契約するなら、初期費用がかかります。
今まで夫婦で支払っていた生活費も、すべて自分で払わなければいけません。
別居しても生活に困らないように、家賃・生活費など、かかる費用と収入の計算をしておきましょう。
どうしても生活費が足りない場合は、婚姻費用として相手に請求できます。
さらに子供がいる場合は、養育費・学費も必要になるため、もっと費用がかかります。
細かくお金の計算をしておくことで、別居後の生活で困ることもなくなるでしょう
弁護士に相談する
別居するなら、事前に弁護士へ相談しておきましょう。
弁護士は法律のプロなので、そのあと離婚することになった場合に有利に進められるようなアドバイスをもらえます。
相手との面倒な交渉もすべて任せられます。
さらに「どうすれば有利な交渉ができるか?」といった事前アドバイスをもらえるので、自分だけで離婚交渉を進めるよりも、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士も得意分野が様々で、なるべく離婚に強い弁護士を探しましょう。
多くの弁護士事務所では、初回無料相談も行っているので、気軽に相談できます。
まずは無料の初回相談を行ってみて、そこで「なんか違うな」と思ったら依頼をしなければ大丈夫です。
実際に依頼をするまでは弁護士費用もかからないため、お金を無駄にすることもありません。
弁護士事務所に行かなくても、電話相談を行っている事務所もあるので、気軽に電話から相談してみましょう。
まとめ
離婚をめぐる別居に関する疑問について説明しました。このように別居には、あなたを有利にする点も、不利にする点もあるので、慎重に判断されるべきです。
離婚の決断を前に、別居でお悩みのある方は、是非、弁護士に御相談されることをお勧め致します。