現在、芸能人の不倫に関する報道が途絶えることがありません。
不倫は法律に違反するとか、不倫は違法であるなどの意見がネット上でも見受けられます。
不倫は本当に違法なのでしょうか?
そもそも「違法」って、どういうこと?
「違法」とは、字義通りには「法律に違反する」という単純な意味です。
しかし、我が国には、2500以上の法律があると言われており、不倫をすると違反となる法律もあれば、不倫を問題視しない法律もあります。
不倫が違法かどうかを論ずるためには、どのような法律関係のもとで論じているのかを明確にする必要があります。
「不倫は違法かどうか」という問題を、不倫を許すべきかどうかという意味で語っている向きがありますが、それは道徳論であって法律とは別の問題です。
不倫とは不貞行為のこと
ところで、不倫の問題を考察するに際して、不倫とは何かを定義しておく必要があります。人それぞれが「不倫」を異なる意味で理解していては、法律に違反するかの判断もバラバラとなってしまいます。
ここでは不倫とは、「不貞行為」すなわち配偶者を持つ者による配偶者以外の異性との性交渉を意味するものとします。
したがって、恋人が自分以外の異性と性交渉をしても、それは不倫ではありません。また、性交渉とはSEXのことであり、それに至らない行為、例えば異性とキスしたり、手を繋いでデートすることなど、性的な意味のある行為であっても、ここにいう不倫ではありません。
不倫(不貞行為)は犯罪となるのか?
「違法」という言葉から、犯罪を連想する方は多いと思います。
そこで、まず不倫は犯罪となるのか?という問題を考えましょう。これは、不倫に対する刑罰を定めた法律があるかという問題です。
実は、戦前の日本では、不倫は犯罪であり、「姦通罪」によって処罰されました。
明治40年時点の刑法では、姦通罪は2年以下の懲役刑だったのです。
夫のいる女性が夫以外の男性と性交渉をした場合、その女性と不倫相手の男性の両方が処罰されました。
ところが、その一方で、妻のある男性が妻以外の女性と性交渉を行っても、それは犯罪とはなりませんでした。
しかも、不倫をした女性の夫の告訴がなければ起訴されない親告罪とされていたので、夫に既婚女性との不倫をされた妻は夫を告訴できなかったのです。
つまり、男性は人妻に手を出して、その夫に告訴されない限りは、いくら不倫をしても処罰されないという著しく不平等な法律だったのです。
実際、戦前や高度成長期ころまでの日本では、経済力のある男性が妻以外の女性を愛人、いわゆる「おめかけさん」として生活の面倒を見ながら、性交渉の相手とすることは決して珍しいことではなく、むしろ男の甲斐性であるとまで見られていました(もちろん、当時から、これを批判する声も多数ありましたが)。
しかし、戦後、日本国憲法により男女の平等が定められた結果、姦通罪は廃止となったのです。
このように、現在では不倫は犯罪行為ではなく、刑法の領域では違法ではありません。
お隣の韓国でも姦通罪は2015年に違憲判決が出されて廃止となりました。しかし、世界の中には、イスラム圏のように不倫に対して死刑を含む厳しい処罰で望む国もあります。
不倫(不貞行為)が離婚理由となるのは何故?
不倫が離婚理由となることを知らない方はいないでしょう。
民法は、不貞行為を離婚原因のひとつとして定めています。夫婦は、お互いに相手に対して、他の異性と性交渉をしない義務(貞操義務といいます)を負担しているとみているのです。もともと、結婚は、当事者の契約と考えられており、貞操義務は夫婦間の基本的な義務とされています。
姦通罪の規定があった戦前の日本でも、不貞行為は離婚理由となりましたが、やはり男女は不平等な取り扱いでした。
妻が夫以外の男性と性交渉を行った時には、それが離婚原因となり、夫から離婚を請求されました。
しかし、夫が自分の妻以外の独身女性と性交渉を行なっても、姦通罪には当たらないことはもちろん、離婚原因にもなりませんでした。
さらに、夫が妻以外の既婚女性と性交渉を行っても、相手の夫から告訴され姦通罪として実際に処罰されない限りは離婚理由とはなりませんでした。
同じ不倫であっても、妻側は不倫をしただけで離婚されるのに対し、夫側は不倫をして実際に姦通罪という刑法犯で刑罰を受けない限りは離婚はされなかったわけです。
もちろん、このような不平等な離婚原因の定めも、戦後の日本国憲法の下では否定され、今では、妻も夫も不貞行為を行った場合には、平等に離婚原因となり、相手から離婚を請求されることになります。
同性愛も不貞行為となりえ、また、別個の離婚原因となる
昔から、不貞行為は、異性との性交渉なので、同性愛は不貞行為ではない、とされてきました。
しかし、2021年2月16日、東京地裁において、同性同士の不倫も、民法上の「不貞行為」だとして、配偶者に慰謝料を支払うように命じる判決が出ました。このように、近年では、同性愛であっても、性行為をした場合には不貞行為と認められる可能性があるといえます。
また、夫が同性愛に走り妻を省みなくなったことを、婚姻を継続しがたい重大な事由として、不貞行為とは別の離婚原因と認めた裁判例があります(名古屋地裁昭和47年2月29日判決)。
風俗は不貞行為として離婚原因となる
ソープランドや出張ヘルスなどの風俗店での行為は、不貞行為にならないなどと説明するサイトが散見されます。
しかし、異性との性交渉である限り、風俗店であろうとなかろうと不貞行為であり離婚原因となります。風俗なら離婚されないと誤解されないように。
不倫(不貞行為)は貞操義務に反する行為となり、違法となる
さて、夫婦は互いに配偶者以外の異性と性交渉を行わないという貞操義務を負担していると説明しました。
逆に言うと、夫婦は互いに相手に対して貞操を守るように要求する権利があると言えます。
配偶者の一方が不貞行為を行うことは、もう一方が他方配偶者に貞操を守るように要求する権利を侵害する行為ということになります。
民法は、他人の権利・利益を侵害して損害を発生させた者は、損害賠償義務を負担するとしています。これを不法行為責任といいます。
不貞行為は、不貞行為をしていない配偶者の権利を侵害し、精神的損害を与える行為と評価され、精神的損害の賠償である慰謝料支払義務を発生させます。
この慰謝料支払義務を発生させる権利侵害行為という意味で、不倫(不貞行為)は民法上違法なのです。
浮気をした夫又は妻だけでなく、浮気相手にも慰謝料請求ができる
さて、不倫は、配偶者と浮気相手の2人でするものです。
つまり、不倫の相手も、共同して権利侵害行為を行った者と評価できます。
このため不倫の相手方にも慰謝料を請求することが認められているのです。
子どもから浮気相手に慰謝料請求はできない
ただし、原則として、不倫の相手に対して慰謝料請求できるのは、配偶者だけであり、子どもからは請求できません。
判例(最高裁昭和54年3月30日判決)は、父親が愛人と同棲して家庭を放棄したため、子どもが父の愛人に対して慰謝料を請求した事件について、子どもの訴えを認めませんでした。
父親が子どもに愛情を注ぎ、監護、教育を行うかどうかは、父親の意思の問題であり、不倫相手と同棲するかどうかとは無関係であるというのが理由です。
すでに夫婦関係が破綻していれば慰謝料請求できない
また、不貞行為であっても、すでに夫婦の婚姻関係が破綻している状態であれば、不倫相手への慰謝料請求は認められません。
判例(最高裁平成8年3月26日判決)は、夫婦関係調整調停申立後に別居した夫と同棲して、その子どもを産んだ女性に対する妻からの慰謝料請求を認めませんでした。
婚姻関係が既に破綻していた場合には、保護すべき利益(これを「婚姻共同生活の平和の維持」という権利・利益としています)は失われていることが理由です。
不倫を理由とする慰謝料請求ができる期間は不倫発覚から3年間
不貞行為を理由とする慰謝料請求の消滅時効期間は、不貞行為の事実と加害者(浮気の当事者が誰か)を知ってから3年間です。ただし、発覚後も不貞行為がずっと継続しているときは、理屈の上では、最後の不貞行為のときから時効がスタートします。
恋人の場合は不倫にならない
不倫について注意してほしいのは、恋人関係の場合は不倫にならないことです。
不倫とは婚姻関係のある配偶者が、他の人と性交渉した場合に当てはまる行為です。
もし長年付き合っている恋人が他の人と浮気しても、それは不倫にならず、違法性もありません。
ただし婚姻関係がなくても、事実婚である場合は、慰謝料請求できる可能性もあります。
離婚したことだけを理由とする慰謝料請求はできない
ところで従前、不倫の相手に対する慰謝料請求には2種類あると考えられていました。
一つは不倫によって夫婦の権利が侵害されたということを理由とする慰謝料請求です。
もう一つは、不倫の結果、夫婦が離婚を余儀なくされたことを理由として慰謝料請求をする場合です。
このように慰謝料請求を2種類に分けて考えるのは侵害を理由とする慰謝料請求権が時効で消滅してしまった場合に意味がありました。
先に述べたとおり、不貞慰謝料請求権の時効は不倫が発覚してから3年間で消滅してしまうので、離婚調停などが長引き3年を経過した後に離婚が成立したときは、もはや当時の不貞を理由とする慰謝料請求はすることができません。
そこで離婚を余儀なくされたことを理由として慰謝料請求をしていたのです。
しかし、最近、最高裁判所は、この離婚を理由とした慰謝料請求権を否定する判例を出しました(最高裁平成31年2月19日判決)
その理由は、離婚をするかどうかは、あくまでも夫婦が決めることだからです。
不倫の結果、離婚に至ったとしても、不倫相手が離婚をさせるために、あえて積極的に夫婦関係に干渉したなどの特段の事情がない限りは、離婚をしたことを理由とする慰謝料請求は認められないとしたのです。
違法な不倫を理由とする慰謝料の金額はいくら?
では、違法な不倫を理由として請求できる慰謝料の金額はいくらでしょうか?
まず不倫をした配偶者に対する慰謝料請求の金額ですが、相場としては100万円から500万円の範囲内であり、200万円から300万円といったところが最も多い金額だと思われます。
この金額の多寡は、下記のように決まります。
項目 | 金額(可能性) |
---|---|
婚姻期間 | 長ければ増加する |
子供 | いると増加する |
不倫前の夫婦関係 | 良好だと増加する |
不倫期間の長さ | 長いと増加する |
不倫発覚後の謝罪の有無 | 謝罪があると減額する |
不倫発覚後の離婚・別居について | 離婚・別居すると増額 |
経済状況 | 経済力があると増額 |
また、浮気相手に対する慰謝料請求の相場の金額は、50万円から300万円の範囲であり、相手方の地位・経済力、早期解決を望む姿勢等によって、似たような事案であってもその解決金額は大きく変わります。例えば、浮気相手が経済力の乏しい若い女性である場合、少ない金額で妥協しないといけない場合もあります。
また、配偶者に対する慰謝料は、経済的には財産分与や離婚後の生活費の一部として請求されるケースが多いのに対し、不倫相手に対する慰謝料は、損害の回復というよりも、配偶者の浮気相手に何らかの打撃を与えたい、示しをつけたいという動機で行われ、請求金額にこだわらないような場合もあります。
不倫の慰謝料請求のためには証拠が欲しい
不倫で慰謝料請求する場合は、その証拠があるのが望ましいです。
なぜなら相手に「不貞行為がなかった」と言い張られると、客観的に不倫されていることを証明しなければいけないからです。
相手が不倫していることが分かったとしても、証拠がなければ、相手が嘘をついて責任を逃れるかもしれません。
離婚が裁判まで進んだ場合は、客観的な証拠によって判決を下すため、証拠は欠かせません。
また証拠を集めるなら、離婚・慰謝料請求の話をする前にやっておきましょう。
離婚・慰謝料請求の話を切り出すと、相手も警戒するため、証拠集めが難しくなります。
離婚の証拠になるもの一覧
「離婚の証拠ってなにが必要なの?」と思うかもしれません。
具体的には、下記のようなものが証拠として認められます。
証拠 | 内容 |
---|---|
写真 | 性行為・ラブホテルに入っている様子など |
音声・映像データ | 不倫相手との電話・旅行に行っている動画など |
クレジットカードの利用明細・レシート | ホテル・旅館などの利用明細 |
Suica・PASMOの利用履歴 | 相手方の自宅最寄り駅の乗降の記録など。他の証拠も必要になる |
メール・LINE・手紙 | 肉体関係があったことが分かる内容であること |
SNS・ブログ | 不倫している様子が分かる投稿 |
手帳・日記・メモ | 不倫相手と会う記録 |
GPS | ラブホテル・旅館などに行っている記録 |
住民票の写し | 配偶者が不倫相手と同棲している記録 |
妊娠・堕胎を証明できるもの | 女性の配偶者が不倫している場合の証拠 |
興信所・探偵の調査報告書 | 不倫している様子が分かるもの |
不倫していることがしっかり証明できる内容だと、より効力を発揮します。
LINEやメールの履歴は他の証拠に比べて集めやすいため、自分で証拠集めするならオススメです。
実際にメールの履歴で不倫が立証できたケースもあります。
不倫は解雇理由となるのか?
不倫をしたことを理由として、会社をクビになったり、減給などの懲戒処分を受けることがあるのでしょうか?
多くの企業では、就業規則に「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」や「会社の信用を毀損したとき」に会社が懲戒を行うことができると規定しています。
問題は、私生活上の問題である不倫が、これらの規定に該当するかどうかですが、判例は、私生活上の行為に会社の懲戒権が及ぶのは、それが会社の事業活動に直接に関連性がある場合で、会社の社会的評価の毀損をもたらすものに限定されるとしています(最高裁昭和49年3月15日判決)。
また、その判断のためには、
- (1)私生活上の行為の性質、情状
- (2)事業の種類、態様、規模
- (3)会社が経済界に占める地位
- (4)経営方針
- (5)従業員の職種、地位
など諸般の事情を考慮するべきとしています。
この観点からは、会社の業務と無関係であれば、不倫が発覚しても、それを理由に懲戒することはできません。まして解雇することは解雇権の濫用であり、労働契約法に違反する無効解雇に過ぎません。
他方、例えば、既婚の営業職男性が取引先の女性社員と不倫関係となり、しかも、女性社員は取引先オーナーの娘だったため、不倫が発覚して、取引を停止されたなどというケースでは、直接に会社業務に支障を生じたものとして懲戒対象となる可能性があります(事案によりますが、解雇までは重すぎて法的に認められる可能性は薄いでしょう)。
あるいは、既婚者の高校教師が生徒と不倫に及んだ場合は、生徒や保護者らに動揺を与え、学校の社会的評価を著しく毀損し、将来の生徒募集にも悪影響を与えるものと評価され懲戒対象となるでしょう。懲戒解雇も認められる可能性が高いでしょう。
また、社員同士の不倫で、社屋内で性交渉を行っていたとか、研修合宿中に性交渉を行っていたなどの場合は、それが不倫かどうかにかかわらず、服務規律違反として懲戒対象となる可能性があります。
不倫はアパートを追い出される理由となるのか?
借りているアパートに既婚者を招き入れて不倫を行ったら、アパートの大家さんに知られて、出ていってほしいと言われたときは、出ていかなければならないのでしょうか?
これは不倫が、貸室賃貸借契約の解除理由になるかという問題です。
賃貸借契約は、借主が家賃を払う義務を負う代わりに、貸主がその部屋を使わせる義務を負うという契約関係です。
したがって、借主に契約違反がなければ、契約を解除されることはありません。
ところが、賃貸借契約書の中には、借主以外の者を部屋に立ち入らせたり、宿泊させることを禁止する条項が記載されたものがあります。そこで、アパート内での不倫は、これらの契約条項に違反するのではないか問題です。
賃貸借契約関係は一時的なものではなく、通常は数年間も継続する関係なので、当事者間の信頼関係によって支えされている契約関係と言えます。
そこで、形式的に契約条項に違反していても、当事者間の信頼関係を破壊したと認められない特段の事情がある場合、解除は認められないとされています(最高裁昭和39年7月28日判決など)。
貸主が心情的に不倫は許せないという道徳観を持つ人だったとしても、アパートの部屋で性交渉を行うことは、たとえその相手が既婚者であったとしても、貸主に何らかの損害を与えるものではないことを考えると、それだけでは信頼関係を破壊したとは言えないでしょう。したがって賃貸借契約の解除は認められません。
ただし、既婚者を部屋に招き入れて、例えば、夜中にドンチャン騒ぎをして隣室から頻繁にクレームが出されるなどの具体的に何らかの被害を貸主に及ぼす場合は、信頼関係破壊が認められて契約が解除される可能性もあります。
さらに、そのアパートが、特に借主を女子大学生など若い独身女性に限定することで、親御さんからの信頼を得て営業を続けてきたようなケースでは、建物内での不倫行為の風評が立つことで、退去者が現れたり、今後の集客に支障を生じる場合もあり得ます。
そのような場合は、貸主に具体的な損害を及ぼし信頼関係を破壊するものとして解除原因となる場合もありえます。
まとめ
不倫は離婚原因となり、慰謝料請求の根拠となるという意味で違法ですが、それ以外にも、事案によっては、職場で懲戒されたり、アパートを追い出される原因となり得ます。ゆめゆめ軽くみないことが肝要です。不倫が発覚して、法的な問題が心配なときは、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧め致します。