監修弁護士:小林 和久 先生(清流のまち法律事務所)
■所属弁護士会:岐阜県弁護士会
離婚のトラブルは、なかなか人に相談することができず、ひとりで悩んでしまう方は少なくありません。
当職は、大きな悩みを抱えている皆様の話をじっくり聞く弁護士でありたいと思い、日々尽力しています。
悩みを抱えたまま日常生活を送るのは心に大きな負担となります。
皆様の負担を少しでも軽くできるよう、「相談して良かった」と思えるようなサポートに努めますので、離婚にお悩みの方は迷わずご相談ください。
配偶者からのDV(ドメスティックバイオレンス)はれっきとした犯罪です。
家庭内で発生する暴力行為は暴行罪や傷害罪等に該当する可能性がある犯罪行為です。
しかし、夫婦間のDV行為は、家庭という狭い世界で行われているので、周囲にわかりにくいというのが現状です。
また配偶者からの暴力や暴言によって、ある種マインドコントロールにかかった状態になり、「自分が悪いんだ」と感じ我慢した結果、身体や心に大きな傷を残すケースもあります。
この記事では、DVとは具体的にどのような行為を指すのか、またDV防止法について詳しく解説していきたいと思います。
DV防止法で定められている「DV」の定義
DVと聞いて、どのようなイメージをお持ちですか。
なんとなく、「殴る」「蹴る」等の暴力行為を想像する方も少なくないのではないでしょうか。
DV防止法で定められているDVの定義を解説する前に、そもそもDV防止法とは何のためにある法律なのかを解説したいと思います。
DV防止法とは?
DV防止法とは2001年に制定された法律で、正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」といいます。
DVは犯罪になり得る行為であり、またDV被害者の人権を侵害するようなものであるにも関わらず、被害者の方の救済措置等が十分に取れていなかったことが背景にDV防止法が制定されました。
DV防止法は、配偶者等からの暴力を防止と被害者の方の保護のために、DVに係る通報や相談、DVを受けた場合の保護、被害を受けた方の自立支援等の体制といった内容が定められています。
DV防止法の「配偶者」の範囲とは?
配偶者とは通常、婚姻届を提出した夫婦に対し使われる言葉です。
しかし、DV防止法で定められている、配偶者の範囲は法律上で定められている夫婦に限りません。
法律上の夫婦関係である方の他にも、事実婚のパートナーや、同棲している恋人についても対象となります。
なお、同居を解消してから元パートナーや恋人からDVを受けた場合にも、DV防止法の対象となる場合もあります。
なお恋人関係であっても、同居したことのない恋人からの暴力はDV防止法の保護対象とならず、ストーカー規制法での対応を検討することになります。
DV防止法における「暴力」の範囲とは
ひとくちにDVといっても、直接的に身体を殴ったり、蹴ったりして危害を加えるものとは限りません。
暴言によって精神的苦痛を受けた場合には精神的DV、性行為を強要されたり、中絶を強いたりするような性的DVも考えられます。
DV防止法の対象となる「暴力」とは具体的にどのような行為なのでしょうか。
DV防止法では、対象となる暴力について次のように定めています。
配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動
※DV防止法の1条1項より抜粋
上記を確認すると、直接的な身体へのDVで、被害者の方の生命や身体に危害があるものが挙げられます。
また、生命や身体に危害を及ぼすおそれのある、精神的DVや性的DVに対しても対象となります。
ただし、身体的DVに比べ、精神的DV や性的DVは傷がわかりにくいので、DVシェルター等の施設には入りにくい傾向にあります。
性別・婚姻状態は関係なくDVを主張できる
DVと聞いた場合、「結婚相手である旦那から妻に暴力をふるうケース」がイメージされるかもしれません。
しかし、前述したとおりDV防止法の配偶者の範囲は、法律上の夫婦に関わらず、事実婚のパートナーや同棲している恋人も含まれます。
またDVというと女性が被害者であると想像しがちですが、実際には男性が被害者であるケースもあります。
DV被害を受けた場合には、男女関係なく保護命令等の措置をとることが可能です。
ご自身が同棲している恋人や配偶者から暴力を受けている場合、DV防止法が適用され、さまざまな措置を講じることができる可能性があります。
警察や国や地方自治体のDV相談窓口、DVによって離婚を考えているような場合等には弁護士に相談することも検討してください。
DV防止法で禁止できる行為
DV防止法ではDVの被害者の方が、加害者である配偶者と会わないように裁判所に対して「保護命令」を申し立てることができます。
被害者の方からの申し立てを受け、裁判官は配偶者からの暴力等によって生命や身体に重大な危害が加わる恐れがあると判断したときには、次の内容の「保護命令」をすることができます。
被害者への接近禁止
保護命令で加害者の行動を制限できることとして、「被害者への接近禁止」です。
裁判官は、加害者に対し保護命令が発令された日から6か月間、被害者の方の住居や身辺への付きまとい、勤務先や通勤路における徘徊を禁止することができます。
加害者が、保護命令を破って被害者の方へ接近した場合、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
退去命令
裁判官は、加害者に対して被害者が居住している住居から退去命令を下すことがあります。
発令された日から2カ月間、被害者の方と同居している家から退去させ、家の周囲の徘徊も禁止することができます。
被害者の子どもまたは親族等への接近を禁止する
DV加害者が危害を加えようとする対象は、被害者の方自身に限りません。
被害者の方のお子さんやご両親等の親族にも危害が及ぶ可能性があります。
このような場合、裁判官は被害者の方の子どもや親族等に対する接見禁止令を発令することができます。
命令の有効期間は、発令から6カ月です。
なおこの保護命令については、お子さんが15歳以上の場合、その子の同意が必要です。
また親族等につきましても、対象者、または対象者の親権者の同意が必要となります。
電話等禁止命令
被害者の方に対する接見禁止命令では、加害者からの電話やメール等の連絡を禁じることはできません。
無言電話や過剰な電話やメールを制限したいときには、裁判官に電話等禁止命令を発令してもらう必要があります。
電話等禁止命令は、発令から6か月間のあいだ、無言電話や緊急の用がないのに何度も電話やメールをする行為、緊急時以外での夜間の電話かける行為を禁止します。
この命令で禁止できる行為は電話以外にもたくさんあり、被害者の方へ面会を要求したり、名誉を侵害する行為、汚物や動物の死体など不快や嫌悪を感じるようなものの送付といった行為も禁止できます。
なお電話等禁止命令は、接近禁止命令と同時、またはその後に発令されます。
DVを受けた場合に相談できる機関や一時保護施設
DV防止法にもとづいて、DV被害者の方が相談することのできる機関や一時保護が受けられる施設を紹介したいと思います。
配偶者暴力相談支援センター
配偶者暴力支援センターとは、各都道府県に設置されているDV相談窓口のことです。
配偶者暴力支援センターは、相談者に対し次のような対応を行ってくれます。
- ・専門機関の紹介
- ・カウンセリング
- ・安全のために一時保護
- ・今後の生活の援助
配偶者支援センターがどこに設置されているかは、各自治体によって異なるため、事前にホームページ等で確認して利用すると良いでしょう。
婦人保護施設
婦人保護施設とは、都道府県が中心に運営している公的施設です。
夫人保護施設はもともと、売春禁止法によって女性を保護する目的で設置された施設です。
現在は生活に困っている女性やDV被害者の女性もこの施設の利用ができるようになりました。
DVによる一時保護も受け付けているので、入所を希望される場合には、お住いの地域の自治体に設置してある婦人相談所に問い合わせを行うと良いでしょう。
母子生活支援施設
母子生活支援施設とは、独身女性とその子どもを保護し、自立を支援する目的で、全国の市町村に設置されている施設です。
もともと入所の対象は、シングルマザーとその子どものみでしたが、DV防止法成立以降は、DV被害女性も対象になりました。
民間の施設
DV被害者の支援機関は、公的機関だけでなく、民間のNPO法人が運営しているものもあります。
民間シェルターは令和2年の時点で全国に124施設 あるといわれており、所在地はDV被害者の保護の観点から公表されていません。
ご自身の住んでいる地域にそういった施設があるかどうかは、市区町村にある福祉事務所か、配偶者暴力相談支援センター、または市役所の福祉課等に相談し、入所できるか確認してみましょう。
DVされている人が取るべき行動とは?
現在、配偶者からDVを受けている場合、具体的にどのような行動をすればよいのでしょうか。
①身の安全の確保を第一優先にする
配偶者からDVを受けていた場合、「〇〇しなければ良いひとだから」や「両親が別々に暮らしていたら子どもがかわいそう」、「証拠を取ってから行動したい」等で、中々別居に踏み切れない方もいるかもしれません。
どんな理由であれ、DVを行うひとは良いひとではありません。
子どもに関しても、親が別々に暮らしているよりも、日常的に暴力行為を見なければいけない方が、かえってストレスになる可能性が高いです。
また、有利に離婚を進めたいからといって証拠を集めたり、離婚の準備を進めたりすることを優先したとしても、ご自身や子どもの生命、身体に何かあってからでは取り返しがつきません。
生きていること、身体に危険が及ばない行動をとることこそが、最も重要なのです。
離婚にしても、証拠にしてもまずは身の安全を確保してから考えましょう。
②DV被害者の支援機関や専門家に相談する
日本には、DV被害者の方の公的な支援機関があります。
また、「DV相談+」といって、24時間電話がつながる相談窓口があります。
DV相談+は、電話相談の他、メールやチャットで相談できるので、加害者に隠れて電話するのが難しい場合には、他の方法で相談することを検討してみてください。
またこの他にも、法テラスでは、DV等被害者法律相談援助制度を設けていますので、こちらもご検討ください。
DVを受けた場合、ご自身が具体的にどのような行動とればいいのかは、中々判断がつかないと思います。
また、DVを日常的に受けていると、正常な判断を下せないこともあります。
こういう場合には、公的機関や専門家に頼り、判断を仰いだ方が良いでしょう。
③余裕があればDVの証拠を持ち出しておく
DV行為は、法律で定められている夫婦関係を破綻させるような行為です。
また、同時に暴力等によって身体を傷つけられたり精神的な苦痛を受けたりした場合には、損害賠償を請求できる行為でもあります。
DV行為によって離婚や慰謝料等を相手に請求したい場合には、DVを受けた証拠が重要となります。
証拠として有効になりえるものとしては、次のようなものが考えられます。
- ・DVを受けているときの動画や音声データ
- ・DVの詳細をこまかに書いた日記
- ・DV行為を想起させるようなSNSやメールでのやり取り
- ・DV行為によって受けた傷や精神疾患等の診断書
- ・病院に通院記録
有力な証拠としては、動画や音声データが考えられますが、身の危険を冒してまで証拠を得ようとはしないでください。
あくまでご自身の身の安全を第一優先に考えてください。
なお、別居等を行う際には、上記の書類等を忘れずに持っておくと良いでしょう。
まとめ
今回はDV防止法をもとに、DV行為の意味や、法的に加害者の行動を制限できるかどうか、DVの被害にあった場合の対処法等について解説していきました。
DV防止法では、生命や身体に重大な危害が加わるおそれのある暴力が規制の対象となります。
現在配偶者の暴力に悩んでいる方は、警察や公的機関を頼ることも大切です。
また、DV加害者に対して、離婚や損害賠償請求を考えている方は、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
弁護士は、依頼者の最大の利益になるよう弁護活動を行ってくれます。
相談や依頼のタイミングが早いほど、弁護士の対応できる幅が広がる可能性が高いですので、「DVを受けているかも」と思ったときにはすぐに相談しましょう。