さまざまな理由から夫婦仲が不和となり、男性が離婚したいと思うことがあるでしょう。
また、突然妻から離婚したいと告げられることもあるでしょう。
しかし、離婚は男性側にとって不利な点が多いという話を耳にして、不安を感じることがあるのではないでしょうか。
ここでは、男性が協議離婚を考えるとき、男性の立場でできるだけ納得のいく結果をもたらすために注意すべき点を紹介します。
離婚前の婚姻費用について
妻から離婚したいと言われたとき、または自分から妻に離婚したいと告げたとき、すぐに協議離婚が成立することはまれです。
多くの場合、離婚が成立するまでに意見を調整する期間があったり、しばらく距離を置いて考えるための別居期間があったりするものです。
その間、生活費はどのようにすればよいのでしょうか。
男性側の気持ちとしては、離婚予定で気持ちの離れた相手に生活費を渡すことには抵抗があるかもしれません。
しかし、法律上、夫婦にはお互いに生活扶助義務があるため、婚姻費用を分担しなければなりません。
あなたの収入と妻の収入にもよりますが、あなたの収入の方が多い場合、通常は婚姻費用を妻に支払う必要があります。
養育費とは違い、子供がいない場合でも婚姻費用は請求できるものです。
また、別居していて妻が夫の分の家事などをしていない場合でも、基本的に請求されてしまいます。
その金額がどのくらいであるかは、裁判所で用いられている算定表がありますので、そちらを参照してください。
通常、夫婦間の収入差が多いほど、そして未成年の子供の人数が多いほど、婚姻費用の負担額は高くなります。
妻に有責事由がある場合
しかし、妻より夫の収入が高いからといって、あらゆる場合に婚姻費用の分担請求が認められるわけではありません。
例えば、妻が不貞行為をしており、不貞相手と暮らすために一方的に家を出て別居をはじめてしまうようなケースもあります。
この場合、妻には「不貞行為」と一方的な別居による「悪意の遺棄」という、有責事由があり、有責配偶者ということになります。
有責事由というのは、裁判所が認める離婚原因となる事由のことで、有責配偶者とは離婚の原因を作った当事者のことです。
このような場合にも妻からの婚姻費用分担請求が認められてしまうと、社会正義に反します。
判例では、このようなケースでは妻からの婚姻費用の分担請求が認められなかったり、認められる場合でも金額が通常より低くなることがあります。
妻に有責事由がある場合、後の交渉の際にも有利になるように、証拠を残しておくようにしましょう。
長期化を避けるには
婚姻費用は、離婚が成立するまでは払い続けなければいけないものですが、長期化を避けたいと考えるのは自然なことです。
それには、離婚を成立させるしかありません。
離婚に伴う条件面で揉めていて、離婚自体の合意はできている場合、先に離婚だけしてしまうのも選択肢の一つです。
妻が婚姻費用をもらい続ける意図で協議離婚に応じないときは、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることも視野に入れましょう。
住居費について
離婚前に別居となる場合も多いでしょう。
その際、夫が住宅ローン返済中の自宅を出ていき、妻と子が自宅に住み続けるケースも多くみられます。
このような場合、夫は自分が住んでいない家の住宅ローンを支払うことで、実質的に妻と子の住居費を負担していることになります。
この住居費の負担は、通常、婚姻費用を算定する時に婚姻費用の一部と考えて調整することになります。
ただし、住宅ローンの返済額すべてが婚姻費用として認められるわけではありません。
住宅ローンの返済は、資産形成という意味合いもあるため、単に妻や子の生活のためだけに負担しているものではないからです。
別居して夫婦のどちらかが別に賃貸住宅に住む場合、住居費は二重にかかることになり、出費が増えます。
その点をよく踏まえ、別居のメリット・デメリットをきちんと考えたうえで別居するかどうか判断しましょう。
離婚協議をするときの注意点
妻と離婚についての話し合い(離婚協議)をするときには、いくつかのポイントがあります。
冷静に話し合う
離婚の話が出るということは、夫婦間で何らかのトラブルがあるのですから、夫婦ともに感情的になりがちです。
しかし、お互い感情的になってしまっては、話し合いは進まず問題は一向に解決しません。
まず、夫婦間で、本当に離婚をしたいのか、修復の可能性はないのかをできるだけ冷静に話し合いましょう。
一時的な感情で決断してしまうのは危険です。
あなたは離婚を望んでおらず、妻が離婚を望んでいる場合は、妻がなぜ離婚したいのか、じっくり話を聞くことが大切です。
しっかり話を聞かずに問題を先送りしてしまうと、ますます関係は悪化し、修復できるはずの事案でも修復不可能となってしまいます。
また、話し合いをせずに一方的に家を出て別居することは避けましょう。
一方的な別居は、夫婦の同居義務違反となり、あなたは有責配偶者となって慰謝料を請求される可能性もあります。
同様に、妻に対し「家から出ていけ」などと言うことは避けましょう。
この場合も、あなたが有責配偶者となる可能性があります。
離婚条件を調整する
夫婦双方の離婚をする意思が固まったら、次は離婚の条件について取り決める必要があります。
取り決める項目は、以下のものがあります。
財産分与
財産分与とは、結婚している期間に夫婦の協力で築いた財産を、夫婦それぞれの財産に分けることです。
このとき、妻が専業主婦や収入が少なかった場合でも、妻にも財産を分ける必要があります。
専業主婦であっても、家事労働によって財産を築くことに貢献していたと認められるからです。
中には、妻は家事をほとんどしておらず、自分が家事も担ってきたという男性もいるかもしれません。
しかし、それを立証することはなかなか難しいと言わざるを得ません。
妻が家事を放棄していた場合、その状態を写真で残したり、妻とのやり取りの記録を残すなど、証拠を残しておくと交渉の際有利になる可能性があります。
妻が専業主婦の場合でも、財産分与の割合は、2分の1ずつとなることが多いです。
つまり、結婚期間中に築いた財産の半分は妻に分与するということです。
もちろん、夫名義の財産だけが分与の対象になるわけではありません。
妻の名義になっている財産も、結婚期間中に得た財産であれば分与の対象です。
妻の財産もきちんと開示するよう求めましょう。
ただし、妻が親から相続した財産や、結婚前に得た財産は対象外です。
これは男性側でも同様で、あなたが結婚前に貯めた貯金や、結婚している間であっても親から相続した財産などは分与する必要はありません。
離婚の際の財産分与について詳しく知りたい方は、「離婚の際の財産分与について 損をしないために種類から決定方法まで」を参照してください。
自宅
財産分与の対象で、持ち家の場合は自宅があります。
自宅は住宅ローンの返済中の場合も多いでしょう。
住宅ローンの残債がどれくらい残っているか、売却した場合どれくらいで売れるかなど、事前に調べたうえでどうするのがベストか検討しましょう。
慰謝料
離婚の原因によっては、妻又は夫は、精神的苦痛に対する慰謝料を相手に請求できることがあります。
例えば、不貞行為やDVが原因で離婚となる場合です。
慰謝料は妻が夫に請求するイメージがあるかもしれませんが、もちろん逆の場合もあります。
有責事由を作ったのが妻であれば、妻に対し慰謝料を請求できますので、証拠はきちんと残しておきましょう。
あなたに有責事由がある場合は、妻から請求されることになります。
請求されたとき、その金額に納得できない場合には、妥当な金額かどうか判例を参照したり、場合によっては弁護士に相談することも考えましょう。
年金分割
結婚期間中に厚生年金に加入していた場合、年金分割についても話し合う必要があります。
夫側だけが厚生年金に加入していて、妻は扶養に入っていた場合、妻は年金分割を望む場合が多いでしょう。
年金分割には、3号分割と合意分割がありますが、3号分割であれば妻は勝手に年金分割の手続きをすることができます。
後のトラブルがないように、年金分割をどうするかはきちんと話し合っておきましょう。
子供についての話し合い
未成年の子がいる場合、離婚についての話し合いはより複雑になります。
親権
未成年の子がいる夫婦が離婚する場合、父と母のどちらを親権者にするか決める必要があります。
離婚届には、親権者の記入が必須で、記入しないと受理されません。
また、親権者は一度決めると変更するには裁判所の許可を要し、難しいものです。
子供と一緒に暮らせなくなることを理由に、離婚を諦める男性も多いのが実情です。
親権は、いまだに母親が有利であることは紛れもない事実だからです。
子供への愛情を理由に夫婦が再構築できるのであれば、それも一つの選択肢です。
協議離婚はいつでもできるので、子供が成長するまで離婚は一旦保留にしてもよいでしょう。
ですが、夫婦関係が修復不可能な状況だったり、妻がどうしても離婚したいと望む場合もあります。
あなたが子供のことを真剣に考えたうえで、子供にとって妻よりも自分が親権者にふさわしいと思うのであれば、すぐにあきらめる必要はありません。
子供にとって、自分がよりよい親権者と認められるような環境を整えましょう。
具体的には、自分の両親の協力を得て、仕事中も子供を監護できる環境を用意したり、より積極的に育児を行って子供との良好な関係を築きましょう。
また、極力子供と別居することは避けましょう。
協議で親権者が決まられずに裁判所の手続きに入った場合、裁判所は親権者を判断するにあたり、「監護の継続性」を重視します。
監護の継続性とは、それまで父か母の監護の下で安定した生活を送ってきた実績があれば、その状況を維持することを優先するという考え方です。
つまり、あなたが子供と別居し、その間妻が子供と問題なく生活してきた実績があれば、そのままの状態を維持し、妻と暮らす方がよいと判断するということです。
親権について詳しく知りたい方は、「男性の離婚準備 親権をとるために」を参照してください。
養育費
妻が監護を行う親権者となった場合、あなたは養育費を支払う必要があります。
養育費は、金額のみならず、支払い期間や支払い方法についても取り決めておきましょう。
支払い期間は、子供が成人するまでとしたり、大学卒業までとする場合もあります。
養育費をいくらにするか当事者間で決められないときは、裁判所が採用している算定表がありますので、そちらを参照しましょう。
養育費は、妻のためのものではなく子供のためのものですので、妻に対してどのような感情があってもきちんと支払いましょう。
養育費について詳しく知りたい方は、「離婚後の養育費 相場から期間まで徹底解剖」を参照してください。
面会交流
妻が監護を行う親権者となり、あなたは子供と一緒に暮らせなくなった場合、定期的に子供と面会交流をすることができます。
面会交流については、養育費と併せてきちんと取り決めておきましょう。
面会方法や面会場所については、具体的に固定して決めておくのは難しい場合もありますが、最低限回数については「月一回」などと決めておきましょう。
面会交流を円満に続けるためにも、養育費はきちんと支払い続けましょう。
まとめ
男性が離婚協議をする場合の注意点などを説明してきました。
協議離婚を有利に進めるために大切なのは、冷静さを保って話し合うこと、必要な情報を収集すること、自分の落ち度を作らないことです。
なお、妻が弁護士に依頼したときは、自力での対応は難しく、不利になる可能性が高いので、弁護士への依頼を考えましょう。
離婚の手続きについては、「離婚の手続きガイド 離婚前の準備や離婚後の手続きは?」を参照してください。