離婚を考え始めている方は、協議離婚という言葉を耳にされたこともあると思います。協議離婚とは、文字通り夫婦が話し合いにより離婚条件を決めて離婚をするというものです。
協議離婚は、いわば夫婦の最後の共同作業であるともいえます。円満かつスムーズに、またご自身の希望の条件を上手にとおしつつ協議をまとめるためには、どのようなことに注意したらよいのでしょうか。この記事では、協議離婚についての注意点やポイント、公開しないために確認しておきたい事項などを解説します。
協議離婚とは?
夫婦が離婚するためには、基本的にはお互いの合意が必要になります。協議離婚は、夫婦が話し合いによって離婚することを決める合意をいいます。
また、離婚には婚姻関係という法律上の関係を変化させるほか、実体生活上も、戸籍や財産などの大きな変動を伴うものです。これらについて、どのような条件にするかを、当事者である夫婦が取り決め契約するという手続きでもあります。
一種の契約ですので、公序良俗に反するような場合や、片方が脅迫されたり騙されたりした結果の取り決めでなければ、協議離婚で定められる条件は、基本的に当事者である当事者の自由な意思に委ねられます。
協議離婚と裁判離婚との違いは?
離婚のもう一つの方法として、裁判離婚があります。裁判離婚は、夫婦関係調整の調停を申立て不成立であった場合に、初めて申し立てることができます。
上述のように、離婚は両方の当事者の合意がなければ基本的には成立しません。しかし、これには5つの例外があります。法定離婚原因といい、不貞、悪意の遺棄、一定期間の生死不明、回復の見込みがない重度の精神病、その他婚姻を継続しがたい重大な理由となります。
片方の当事者のみが愛情が冷めた、価値観が違うという理由で一方的に離婚できてしまうことを避けつつ、無理に結婚を継続させるのが酷な場合は、法律が介入して強制的に離婚できるという制度なのです。
裁判離婚では、離婚をすることの決定とともに、財産分与、子供がいる場合の親権の帰属、養育費の取り決め、離婚慰謝料なども裁判官により決定されます。
どのくらいの夫婦が協議離婚をえらぶの?
日本では、現状離婚をする夫婦の約9割が協議離婚を選んでいるそうです。
なぜ、協議離婚を選ぶ夫婦のほうが多いのでしょうか?
一つには、費用や時間の観点から、協議離婚のほうが裁判離婚よりもコストがかからないからです。裁判離婚となると、多くのカップルがお互いに弁護士をたてますので、弁護士費用が発生します。また、裁判所にも一定の手数料をおさめなければなりません。
また、離婚裁判には、通常1年程度の期間を要するといわれています。さらに、調停前置主義といって、訴え提起前に家庭裁判所に対して、夫婦関係調整調停を申し立てて不成立となるまで協議をする必要もあるため、調停期間もプラスされます。
一方、協議離婚の場合は、夫婦双方とも離婚したいという意思をもっており、条件でももめない場合は、極端な話1日で離婚を成立させることもできます。
二つ目には、日本人のメンタリティとして、訴訟を好まないということもあるかもしれません。訴訟手続きともなれば、夫婦間のデリケートな問題を第三者に開示しなければなりません。夫婦間のみの話し合いで穏便に解決したいと望む人が多いようです。
協議離婚の進め方
協議離婚のプロセスはどのように進むのでしょうか。具体的には、以下のようなステップにブレークダウンすることが出来ます。
離婚を切り出す
当然ですが、まずころあいを見計らって配偶者に離婚をしたい旨を切り出します。配偶者にとっては、寝耳に水ということもあるでしょうし、どちらからともなくということもあるでしょう。
話し合いをする
夫婦間で、離婚をするべきかどうか、離婚の条件はどうするかの話し合いをします。感情的にならず、冷静に話し合うようにしましょう。
離婚協議書を作成する
夫婦間の協議で離婚をすることと具体的な離婚条件が決まった場合は、その内容を離婚協議書として作成しておくことが一般的です。日本の法律上、契約は口頭でも成立しますが、例えば養育費の支払のように長期にわたるコミットメントについては書面にしておいたほうが安心だからです。
離婚届を出す
いよいよ市町村や区などに離婚届を出します。当事者が署名捺印して提出すれば、はれて離婚は完了です。離婚届が受理されたあと、行政のほうで戸籍の変更などが行われます。子供がいる場合は、離婚届で、父母のどちらが親権をもつかを指定する必要があるので、このときまでに親権の帰属を決めておく必要があります。
協議離婚の注意点
協議離婚は、時間的・費用的に簡便な一方、通常法律のプロフェッショナルではない夫婦当事者の話し合いのみで、重要な条件を決めていくため、トラブルを避けるために慎重に進めていく必要があります。また、結婚と違って離婚の話し合いには、マイナスの感情のぶつけあいは少なからずつきものです。感情的になって話がこじれてしまうリスク、争いを子供が聞いて傷つくリスク、暴力やモラルハラスメントを受けるリスクについては、気をつけてすすめましょう。
離婚協議書は公正証書にしておこう
離婚協議書は、可能な限り公正証書にしておきましょう。円満離婚だしそこまでおおげさにしなくても、と考えられる夫婦もいらっしゃるかもしれませんが、悲しいかな人の気持ちは時間の経過とともに変わりうるものです。たとえば、いまは養育費の十分な支払をすると約束していても、再婚して再婚相手との間に子供が生まれたら、資力の関係から支払が滞る可能性もあります。
また、子供が思春期となって、離れて暮らす親になつかなくなったという理由で、養育費の滞りがある場合もあるようです。
公正証書にするメリットとしては、万一、相手方が離婚協議書の条件を遵守しないときに、相手の財産に強制執行をかける効力があるということです。たとえば、相手の給与債権の1/2や銀行預金口座の差し押さえなどが可能となるため、違約されるリスクを下げることが出来ます。
公正証書を作成する方法は、全国各地にある公証役場に出向き、公証人の面前で契約書を作成してもらいます。費用も数万円以下ですので、ぜひ検討してみてください。
参照:公正証書離婚って何?弁護士が教えるメリット・デメリットとは
暴力やモラハラの危険性があるときは注意
暴力やモラルハラスメントは離婚を考える大きな原因になりますね。暴力やモラルハラスメントが原因で協議離婚をする場合はもちろん、違う理由だったとしても離婚を切り出したとたんに逆上する可能性がある場合などは注意しましょう。
対策としては、危険性がある場合はファミレスなど人目があるところで話をしたり、信頼がおける中立的な知人に立ち会ってもらったりしたうえで話し合いをしましょう。
なお、万一、暴力やモラルハラスメントなどで脅迫された状態で不利な離婚条件を、ご自身の意思に反して承諾してしまった場合は、無効とできる可能性もありますので、弁護士に相談してみましょう。
子供の気持ちに配慮しよう
未成年の子供がいる場合は、離婚協議はなるべく子供の面前でしないようにしましょう。夫婦は他人ですが、子供にとっては、どちらも血がつながっている父と母です。父と母が激しく言い争うところをみると、自分の半身が否定されたような気持ちになり、トラウマが残ってしまう可能性も心配です。
離婚協議をするときは、子供が学校にいっている間などの適切なタイミングをみはからうか、事前に預けるなどして、子供の気持ちを傷つけないように配慮しましょう。
協議の前に自分の考えを整理し、まとめておこう
離婚協議で決めなければならない事項はたくさんあります。話し合いをしている間に、感情などもまじって、実現したいことがわからなくなったりしてしまうこともあります。離婚協議を始める前に、ざっくりでもよいので、自分の希望する離婚条件を書き出しまとめておきましょう。すべてを自分の希望通りとおすことはなかなか難しいものはありますので、譲れない条件と譲れる条件に仕分けをしておくこともよいでしょう。
相手に勝手に離婚届を出されないようにしておこう
稀に、相手の同意がないことを隠して、勝手に離婚届を提出してしまう人がいます。あってはならないことなのですが、協議離婚がなかなかまとまらないことに業をにやして、強硬手段をとってしまうというわけです。
協議離婚は両方の当事者の合意が必要ですので、このような離婚届はもちろん取り消すことができます。しかし、訴訟など手続きが面倒ですので、このような心配があるときは、管轄の市長村などの役所に対して、離婚届不受理申請を出しておきましょう。窓口にいき、簡単な書面に記入するだけで申請することができます。離婚届不受理申請が提出されている場合は、本人がもう一度役所におもむき、不受理申請を取り下げるか離婚届を提出するまでは、相手方が単独で離婚届を提出したとしても受理されません。
協議離婚の条件のポイント
協議離婚で定める事項も、当事者の合意に委ねられます。夫婦によっては細かく取り決める場合もありますし、最低限ざっくりということもあるでしょう。
どちらかに落ち度があって離婚する場合の離婚慰謝料、子供がいる場合の親権・面会交流権、養育費の取り決め、財産分与は離婚条件の中でも特に重要な項目です。最低限これらについては、あとから揉め事がない程度にクリアに定めておきたいところです。
慰謝料
慰謝料は、どちらかの落ち度があって離婚する場合に、離婚によって被害者側の配偶者が受ける精神的損害を填補するために支払われるものです。また、望まない離婚によって、配偶者という身分を失うことへの金銭的填補の意味合いもあるといわれています。
慰謝料は、すべての離婚について授受が発生するわけではありません。裁判離婚と違い協議離婚では、なんとなく、お互い性格が合わなくなったというような曖昧な理由での離婚も自由ですので、特に発生しないこともあるでしょう。
慰謝料が発生する場合は、不倫、DV・モラハラ、悪意の遺棄、セックスレスの場合などです。離婚慰謝料の相場は、裁判離婚の場合は50万円~300万円程度となり、協議離婚の場合もこれに準じて話し合いが行われることが多いようです。しかし相互が合意した金額であれば、これより高くても低くても問題ありません。
<参考記事> どのくらいもらえるの?浮気・不倫の離婚慰謝料相場
親権・面会交流権
離婚する夫婦に未成年の子供がいる場合は、父母どちらが親権をもつか定める必要があります。結婚している期間中は、共同親権といって父母が協力して子育てをしますが、離婚すると、そうもいきません。そのため、離婚届の際にどちらが親権をもって今後子育てをしているかを指定することになります。
親権には、監護権といって子供と一緒に暮らして身の回りの世話をする権利と、財産を管理する権利の2種類があります。両方を1人の親権者がもつこともできますし、ばらばらにもつこともできます。
子供とはなれて住む親について、面会交流をどのようにするか定める必要があります。離婚しても子供にとっては、父母であることは変わらないため、子供の福祉を最優先して決める必要があります。
面会交流条件として、頻度、場所、日時、送迎条件、宿泊やプレゼントの有無、時間などを決める必要があります。統計によると、月に1回2時間程度とする親子が最も多いようですが、最適な条件はその家族によって違います。子供がある程度大きくなっていたら、子供の意見も聞いてよく話し合って決めましょう。
養育費
親は、民法上子供に対して扶養義務を負います。具体的には、子供が社会的に自立するまでの期間(通常は20歳までとされますが、家庭によって大学卒業までとする場合や高校卒業までとする場合もあります)、親自身と同じ生活レベルで生活させる義務があるということです。
親と同じレベルということですので、養育費の適切な金額は、家庭によって大きく違います。重要なことは、子供が離婚によって不利益を蒙らないようにするということです。
養育費には、衣食住のほか、教育費も含まれますが、教育費は習い事の有無、公立私立にするかなどで、大きく違います。
親として子供にどういう教育をほどこしたいかなどを踏まえて、夫婦で協力的に話し合うようにしましょう。
養育費が合意に至らない場合は、家庭裁判所が定めた養育費算定表を基準とすることが一般的です。養育算定表は、養育費を支払う義務者と、養育費を受取る権利者の前年度の年収をベースに、子供の人数に応じて支払われるべき養育費のレンジを示した表です。
近年、算定表の額では少なすぎるのではないかという世論があり、改訂も検討されているようですが、東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の裁判官が相談の上定めた金額ですので、合意できない場合はメルクマールとなります。
離婚後の養育費について詳しく知りたい方は、「離婚後の養育費 相場から期間まで徹底解剖」を参照してください。
財産分与
婚姻期間中に築いた財産は、夫婦の共有財産とみなされます。離婚に伴い、共有財産は原則として公平に1/2ずつ分配されます。もちろん、財産分与の有無や割合も夫婦の合意に委ねられますので、協議の結果、別の結論となった場合はそれにしたがいます。
共有財産としてカウントされる財産は幅広く、預貯金のほか、保険、有価証券、家具などのモノ、不動産、年金などがあります。夫婦のどちらの給与や収入だったかは関係ありません。たとえば、会社員の夫と専業主婦の妻の組み合わせで、収入は夫の給与のみだったとしても、夫が就労できたのは、妻が家庭で家事・育児などの労働を分担していたためと考えられるからです。
また、夫婦のどちらの給与や稼ぎからの収入なのかは関係なく、共有財産とされます。一方、相続や嫁入り道具など、結婚前から有している財産等は、共有財産ではなく、個人の特有財産となりますので、分与の対象とはなりません。
後悔しないために確認したいこと
離婚は人生の一大事であるとともに、男女関係という理屈のみでは割り切れないものですので、どうしても冷静な判断をしづらいものでもあります。離婚を決断するにいたっては、後悔しないためにも、以下のことを良く考えて見ましょう。
本当に離婚を選ぶべきか冷静に考えてみよう
離婚の決断が一時の怒りや悲しみなどではなく、本当に自分の今後の人生にプラスになるのかを冷静に考えてみましょう。場合によっては、離婚ではなく別居など冷却期間をおくことでうまくいくこともあるかもしれません。また、離婚後に、自分の生計や暮らしがきちんとたちゆくかも検証しておきましょう。
慰謝料などの離婚条件は妥当か
協議離婚は当事者の自由に委ねられているので、基本的にどのような条件でも自由です。しかし、一度合意してしまうと、よほどの事情がないと合意を撤回できないものでもあります。離婚協議書にサインする前に、本当に妥当かつ納得が行く条件なのか確認してみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。協議離婚をすすめるうえでの注意点やポイントについてご参考になれば幸いです。協議離婚を進めるにあたって迷いや疑問が生じた場合は、一度離婚分野に詳しい弁護士に相談してみることも一案です。離婚分野に詳しい弁護士からは、様々な事例から、参考になるアドバイスや助言をもらえるはずです。