マスコミでもよくとりあげられる「熟年離婚」。
長年連れ添った夫婦が離婚するとは、いったいどういうことなのでしょうか?
本記事では、熟年離婚の原因や特徴を説明します。
熟年離婚をする前に考えておくべきことや、注意しておいた方がよいことについても書いていますので、参考にしていただければ幸いです。
熟年離婚とは?
熟年離婚は中高年の離婚
近年、「熟年離婚」という言葉をよく耳にします。
熟年離婚とは、中高年になってからの離婚や長年連れ添った夫婦の離婚のことです。
ただし、熟年離婚には明確な定義があるわけではありません。
一般に、「熟年」と呼ばれるのは50歳くらいからです。
けれど、50代以上の離婚でも、結婚してそれほど年数が経っていない場合、熟年離婚とはあまり言いません。
だいだいのイメージになりますが、熟年離婚というと、世代的には50代以降、婚姻期間20~30年以上の離婚と考えるとよいでしょう。
熟年離婚は増加している
熟年離婚という言葉が使われるようになったのは、中高年になってから離婚する夫婦が増えてきたからにほかなりません。
以前は、結婚したら添い遂げるというのが常識でしたが、そうではなくなってきているのです。
厚生労働省が発表している人口動態統計によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は昭和60年時点では2万434件でしたが、平成17年には4万395件と約2倍に増えています。
その後は多少減ったものの、平成29年でも3万8,285件で、昭和60年時点の約1.87倍です。
近年は離婚件数の総数も増加していますが、昭和60年が16万6,640件、平成29年が21万2,262件で1.27倍です。
データを見ても、熟年離婚の増加が顕著なのがわかります。
【参考】厚生労働省|人口動態統計月報年計(概数)の概況(2017年度)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai17/dl/gaikyou29.pdf
熟年離婚が増加している理由
熟年離婚が増加している理由としては、以下のような点が挙げられます。
寿命の長期化
熟年離婚件数が増加した理由としては、熟年夫婦の数自体が増えたことが考えられます。
以前は離婚を考える前にどちらかが亡くなるということも多く、熟年夫婦の数は相対的に少なかったはずです。
寿命が延びたことで、高齢になってからも夫婦健在のケースが増え、結果的に熟年離婚も増えたと思われます。
見方を変えると、人生の残り時間が増え、余生を一人で過ごしたり、別の相手と再婚したりする選択肢ができたとも言えるでしょう。
介護が必要な高齢者の増加
寿命の長期化に関連しますが、高齢になって介護が必要な人が増えたことも、熟年離婚の増加につながったと考えられます。
たとえば、結婚生活で我慢してきた女性にとっては、「夫や夫の親の介護はしたくない」というのが離婚の大きなモチベーションになるはずです。
介護保険制度のおかげで家族だけが介護を行わなくてもよくなり、離婚がしやすくなったというのもあるでしょう。
年金分割制度の創設
平成19年度から始まった年金分割制度も、熟年離婚の増加の一因と考えられます。
以前は、自分で年金保険料を払っていなかった専業主婦は、離婚すれば夫の年金をアテにできませんでした。
年金分割制度ができたので、専業主婦も離婚時に夫の年金の一部を分割してもらえるようになりました。
老後の資金の確保がしやすくなったため、熟年離婚を考える人も増えたのです。
離婚する人の増加
上にも書いたとおり、離婚件数は昭和の時代よりも増えています。
以前は、世間体を気にして離婚を思いとどまる人が多かったですが、現代では離婚は特に珍しいことではありません。
熟年離婚が増えていることも、メディアで盛んに報道されています。
離婚自体のハードルが下がったことも熟年離婚増加の一因でしょう。
「減った?増えた?日本の離婚率と推移に見る離婚原因」こちらの記事も参照ください。
熟年離婚の原因と特徴
実際に熟年離婚している人は、どのような理由で離婚を決意しているのでしょうか?熟年離婚の原因と特徴についてみてみましょう。
性格の不一致で離婚を考える人が多い
熟年離婚の原因について、具体的にわかるデータはありません。
熟年離婚に限ったものではありませんが、離婚の理由については、裁判所が公表している司法統計が参考になります。
平成28年度の司法統計によると、離婚などの婚姻関係事件の「申立ての動機」としては、男女とも「性格が合わない」が最も多くなっています。
その他の動機としては、女性側からは「生活費を渡さない」「精神的に虐待する」「暴力をふるう」、男性側からは「精神的に虐待する」「家族親族と折り合いが悪い」「異性関係」などが上位にあがっています。
熟年離婚の原因は人それぞれ
上記司法統計のデータは、主に、離婚調停を申し立てた人の離婚理由です。
日本では協議離婚が約9割ですが、協議離婚した人の離婚理由についてはわかりません。
特に、長年連れ添った夫婦の場合、離婚する理由を1つに絞るのは簡単ではないでしょう。
夫婦のことは、当事者にしかわからないこともたくさんあります。
敢えて熟年離婚を選ぶ人には、一言では語り尽せない思いがあるはずです。
熟年離婚に至る理由は、人それぞれと言えます。
熟年離婚にはデメリットもある
熟年離婚をすれば、相手と離れて自由になることができます。
しかし、熟年離婚にはデメリットもあることをしっかり認識しておきましょう。
熟年離婚すれば相続権がなくなる
熟年離婚のいちばんのデメリットは、相手が亡くなったときに、相続権がなくなることです。
相続の場面では、配偶者は優遇されています。
しかし、離婚すれば配偶者ではなくなりますから、相続は関係なくなってしまうのです。
配偶者はどんな場合でも相続人になり、相続できる割合も大きくなります。
配偶者であれば、1億6,000万円までの財産を相続しても、相続税もかかりません。
相手が財産を持っている場合には、相手が亡くなるまで添い遂げた方が得になります。
収入や老後資金に不安が生じる
熟年離婚すれば、特に女性の側は、収入面での不安が大きくなることがあります。
まだ働けるうちは働かなければ、生活ができないことが多いでしょう。
それまで主婦だった人は、自立できるかどうかの問題があります。
「離婚の際の財産分与 対象となるものから割合まで」こちらの記事も参照ください。
老後の資金も心配です。
年金分割をしても、老後の生活に十分な年金を確保できるわけではありません。
離婚時にそれなりに蓄えがあっても、半分に分けると少なくなってしまいます。
1つの世帯を2つに分けると、お金の面ではどうしても損なことが多くなるのです。
孤独になってしまう
熟年離婚で不安になってしまうのは、お金の面だけではありません。
夫婦が一緒にいれば、何かあったときに助け合うことができます。
1人になってしまうと、病気になったときにも心細いでしょう。
若いうちの離婚なら、積極的に再婚を考えるかもしれません。
しかし、熟年離婚では再婚も現実的には考えられないことがあります。
身近に助け合える人がいなければ、孤独になってしまうことを覚悟しておいた方がよいでしょう。
熟年離婚をする前に考えるべきこととは?
熟年離婚には上に書いたようなデメリットもあります。
デメリットを少なくするために、熟年離婚は計画的に進める必要があります。
熟年離婚をする前には、次のような点について考えておきましょう。
家の処分や新たな住居の確保
離婚後、夫婦は別居することになります。
そこで考えなければならないのが、住居の確保です。
今ある家を一方が引き継ぐ場合には、他方は家がなくなってしまいます。
子供が既に自立している場合、家を引き継いでも1人で住むには広すぎるかもしれません。
離婚するときに家を売却し、売却代金を2人で分ける方法もあります。
しかし、家がよほど高く売れない限り、それぞれが新たな住居を確保するのは難しい場合が多いでしょう。
高齢になると、民間の賃貸住宅を借りるのは困難です。
老後は、介護施設や老人ホームに入る可能性もあります。
親の家を相続できる可能性も含めて、住居については十分な検討をしておきましょう。
自立できる仕事を探す
50代くらいなら、まだ年金をもらうまでにも年数があります。
離婚時に一生働かずにすむだけの財産をもらえる人など一握りです。
離婚後は、それまで主婦だった人も、働いて収入を確保する必要があります。
50代くらいでは、新たな仕事を見つけるのも簡単ではありません。
これまでのキャリアを振り返り、仕事につながるものがないかを考えましょう。
たとえば、主婦としてのキャリアも、家事代行や介護の仕事に活かせることがあります。
財産分与を請求する
財産分与とは、結婚中に築いた財産を離婚時に分配することです。
相続した財産・結婚前から持っている財産以外は、基本的に半分ずつ分配することが多いです。
熟年離婚では、ある程度資産が形成されているため、財産分与できる財産が大きいことがあります。
財産分与請求ができるのは離婚後2年以内ですから、離婚時に忘れずに請求しておきましょう。
財産分与の対象になるのは、下記のようなものです。
- ・不動産
- ・家具や家電
- ・預貯金
- ・車
- ・有価証券
- ・保険の解約金
- ・退職金
- ・年金 など
たとえば、夫が将来受け取る退職金についても、妻は財産分与を請求できます。
退職金は給料の後払いと考えられているので、婚姻期間に相当する部分の半分は、妻にも権利があるのです。
退職金は金額が大きいですから、老後の資金として確保しておきましょう。
「離婚にともなう財産分与とは?その内容について弁護士が教えます」こちらも記事も参照ください。
年金分割の手続きを忘れずに
年金分割をする場合には、離婚後2年以内に年金事務所に行って手続きする必要があります。
夫婦で年金分割の合意をしても、年金事務所での手続きを忘れていれば、年金分割が受けられません。
くれぐれも注意しておきましょう。
なお、年金分割ができるのは、公的年金のうち、厚生年金のみです。
国民年金は年金分割の対象ではありません。
また、厚生年金基金や確定拠出年金などの企業年金は年金分割の対象にはなりませんが、財産分与として請求できる可能性があります。
熟年離婚の場合、財産がないと思っていても請求できるものがあることがありますから、弁護士に相談してみるのがおすすめです。
慰謝料の請求を検討する
慰謝料とは、精神的な苦痛を与えられた場合に請求できる賠償金になります。
離婚の原因が相手にある場合は、慰謝料請求ができます。
もし相手が長年不倫をしていたり、モラハラを繰り返していたりする場合は、慰謝料請求も考えてください。
例えば不倫が原因での離婚なら、100〜300万円の慰謝料請求ができます。
慰謝料請求するためには、客観的な証拠を準備して、相手に嘘をつかれないようにする必要があります。
「どういった証拠が有効なのか?」は弁護士が詳しいため、一度弁護士に相談してみるのがいいでしょう。
弁護士に相談する
離婚を検討しているなら、弁護士へ相談がおすすめです。
離婚を切り出す前に、弁護士からアドバイスをもらえば、有利な離婚交渉ができます。
むしろ自分たちだけで離婚を成立させてしまうと、不利な条件を受け入れてしまったり、損をしたりするかもしれません。
離婚の案件を普段から扱っている弁護士であれば、自分が不利にならないような交渉をしてくれます。
また慰謝料請求・財産分与などでも、請求金額のアップが見込めます。
弁護士に依頼して、実際に金額がアップした事例はたくさんあります。
まずは初回の無料相談を利用しよう
「弁護士に依頼したいけど、費用が高い・・・」と悩んでいるかもしれません。
「弁護士=依頼費用が高い」というイメージがありますが、多くの事務所では初回の相談を無料で実施しています。
そのため、最初の相談は気軽に利用できます。
弁護士との相性もあるため、実際に相談して「この人に依頼したい」と思えば、その段階で正式に依頼できます。
1回無料相談をしても「この人微妙だな・・・」と思ったら、依頼しなくても問題ありません。
まずは気軽に相談してみるのがおすすめです。
離婚の流れ・手続きについて
離婚の流れは、下記のようになります。
- ・協議離婚(話し合い)
- ・離婚調停(裁判所が介入する話し合い)
- ・離婚裁判(裁判所が判決を下す)
日本の場合、約9割程度が話し合いでの離婚(協議離婚)を選びます。
まずは話し合いでの離婚合意を目指しますが、財産分与・条件交渉などで合意ができない場合は、調停や裁判に移行します。
離婚はお互いに合意をして、離婚届を出せば離婚自体の手続きが完了します。
ただし、慰謝料請求・財産分与などの支払いが残っているケースもあるため、必ず離婚の条件を書面に残しておきましょう。
相手に請求して慰謝料が払われない場合に、書面が法的な拘束力を発揮します。
離婚が成立したら、年金・健康保険などの名義変更・引っ越しもするなら住所変更などの手続きも必要です。
熟年離婚の慰謝料について知っておくべきこと
慰謝料とは精神的な苦痛に対して支払われる賠償金になります。
離婚での慰謝料は「相手が離婚の理由を作って、自分が精神的なダメージを受けた」ことに対しての賠償です。
熟年離婚を考えるときに、気になるのが慰謝料ではないでしょうか。
慰謝料の金額は相手にどれぐらい責任があるかで変わりますが、50~300万円が目安になります。
下記では離婚慰謝料について、知っておくべきことを紹介します。
慰謝料を多くもらうためには証拠が必要
「少しでも多くの慰謝料をもらいたい」と思うなら、相手のが離婚原因を作った証拠を集めておきましょう。
事前に証拠を集めておけば、相手の責任を追求できて、有利な慰謝料交渉ができるからです。
例えば不倫での離婚の場合は、下記のような証拠が有効になります。
証拠 | 内容 |
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写真 | 性行為・ラブホテルに入っている様子など |
音声・映像データ | 不倫相手との電話・旅行に行っている動画など |
クレジットカードの利用明細・レシート | ホテル・旅館などの利用明細 |
Suica・PASMOの利用履歴 | 他の証拠が必要になる |
メール・LINE・手紙 | 肉体関係があったことが分かる内容であること |
SNS・ブログ | 不倫している様子が分かる投稿 |
手帳・日記・メモ | 不倫相手と会う記録 |
GPS | ラブホテル・旅館などに行っている記録 |
住民票の写し | 配偶者が不倫相手と同棲している記録 |
妊娠・堕胎を証明できるもの | 女性の配偶者が不倫している場合の証拠 |
興信所・探偵の調査報告書 | 不倫している様子が分かるもの |
離婚のほとんどが当人同士の話し合いで決まるため、相手が「慰謝料を払うしかない」と思うような準備をしておきましょう。
だたし証拠を集めるために相手のプライバシーを侵害してしまうと、相手から逆に慰謝料請求されるかもしれません。
不安な方は、弁護士に相談してみるのがおすすめです。
慰謝料請求は時効がある
慰謝料請求は「離婚して3年以内」と時効が決まっています。
3年を過ぎれば、請求する権利がなくなります。
離婚後に慰謝料請求もできますが、離婚の交渉時に慰謝料についても話し合っておく方がいいでしょう。
慰謝料請求を検討しているなら、時効がくる前に請求をしましょう。
まとめ
熟年離婚では、不動産の処分や将来の退職金の財産分与、年金分割など、さまざまな取り決めが必要です。
夫婦だけで話し合いを進めれば、本来請求できるものを請求し忘れてしまうこともあります。
協議離婚を考えている場合でも、弁護士に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。