
遺言書は、遺言者が亡くなった際に効力を発揮するため、その内容を確実に実現するには遺言執行者の選任が必要です。
遺言執行者の責任は重大ですので、相続トラブルを回避するためにも、執行者選びは慎重に行わなければなりません。
本記事では、遺言執行者の役割や選任の流れに加え、選任することによるメリット・デメリットについて詳しく解説します。
この記事の監修/取材協力

古尾谷 裕昭 税理士
相続専門の税理士法人の代表税理士。同事務所では、年間2,204件の相続税申告を行っており「99%税務調査が入ってこない」「税金を可能な限り安く」「親身に寄りそった対応」という品質で、元国税調査官を招き入れた体制のもとサービスを提供している。

三ツ本 純 税理士
相続専門の税理士(ベンチャーサポート相続税理士法人)。税理士業界に就職した後、10年以上相続税の専門税理士として活動、これまで600件以上の相続税申告に関わっている。横浜出身。書籍「令和3年度版 プロが教える! 失敗しない相続・贈与のすべて (COSMIC MOOK)」など
遺言執行者とは?
遺言執行者には、被相続人(亡くなった人)が残した遺言内容を滞りなく実現する役割があります。
遺言執行者の概要
遺言執行者は、遺言者に代わって遺言内容を実現するための代理人であり、遺産分割や相続手続きを円滑に進める重要な役割を担います。
遺言者は自らの意思を遺言書に記すことができますが、相続手続きは遺言者の死後に行われるため、その内容を忠実に実現するには遺言執行者の存在が欠かせません。
遺言執行者には法律で権限が与えられており、不動産の名義変更や銀行口座の解約など、財産管理に関わる具体的な行動を取ることが可能です。
一方で、相続手続きを円滑に進めるには、信頼性と誠実さが求められますし、状況によっては法律知識も必要になります。
遺言執行者の必要性
遺言執行者の存在は、遺言内容を実現するだけでなく、相続手続きを円滑に進める上でも大切です。
遺言書は被相続人の意思を家族に伝えるためのものですが、被相続人の配偶者や子は相続人となるため、利害の対立が生じる場合もあります。
相続人が相続手続きを行うこともできますが、他の相続人の同意なく相続財産を勝手に処分した相続人がいた場合、相続トラブルは避けられません。
相続人間の話し合いがまとまらず、裁判に発展すれば、遺産分割が完了するまでに数年を要することも考えられます。
このような相続トラブルを回避するためには、遺言書を作成するだけでなく、遺言書に記載された指示を確実に実行できる遺言執行者の存在が不可欠です。
遺言執行者を選任すれば、相続人の負担を軽減できますし、遺産分割の過程を安心して進めることができます。
ただし、適任者を遺言執行者として選ばないと、新たなトラブルを招く可能性があるため、遺言執行者選びは慎重に行うことが求められます。
遺言執行者になれる人・なれない人
遺言執行者は故人の意思を尊重しつつ、正確かつ公平に相続手続きを全うできる人物を選ぶことが重要です。
遺言執行者になるために特別な資格は必要ないため、遺言者が生前に信頼していた友人や、親族を遺言執行者に選任することも可能です。
ただし、未成年者と破産者については、民法第1009条(遺言執行者の欠格事由)の規定により、遺言執行者にはなれません。
また、遺言執行者として指名された人に法律関係の専門知識が無い場合、相続手続きが円滑に進まないことも考えられます。
そのため、遺言書の内容を滞りなく実現することを望むときは、弁護士や司法書士などを遺言執行者として選任することが望ましいです。
遺言執行者ができること
遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実行するために様々な業務を行います。
- 相続人の確認・調査
- 相続財産の調査
- 財産目録の作成
- 遺言書の内容の実行
- 相続財産の名義変更手続き
- 子供の認知
- 相続人の廃除・取り消し
- 保険金の受取人変更の手続き
- 遺言執行の完了報告
遺言執行者は、相続人に対して遺言の内容を通知しなければならず、相続財産の目録を作成し、相続人に交付することが義務付けられています。
また、遺言書に相続財産である不動産を現金化して、相続人に分配することを求める内容が記載されている場合には、不動産の売却手続きも行うことになります。
遺言執行者には様々な権限が与えられていますが、相続税の申告手続きに関しては、遺言執行者が代理で行うことは原則できません。
相続税の申告書は、被相続人の財産を取得した人(基本的には相続人)が全員で協力して作成し、税務署に提出するものです。
申告書を代理で作成できるのは税理士資格を有している人に限られますので、遺言執行者が税理士資格を有していないときは、別途税理士に相続税の申告手続きを依頼しなければなりません。
なお、遺言執行者が税理士など税理士資格を有している場合には、相続手続きと並行して相続税の申告書を代理で作成することも可能です。
遺言執行者を選任するメリット・デメリット
遺言執行者の選任はメリットが多いですが、注意すべきポイントもあります。
遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者を選任することで享受できる、代表的なメリットを3つご紹介します。
相続手続きの効率化
遺言執行者がいることで、遺言の内容を確実かつ迅速に実行することが可能になり、遺産の分配がスムーズに進みます。
相続財産の調査や目録の作成、負債の処理などには多大な労力を伴いますが、遺言執行者が手続きを担うことで、本来相続人にかかる時間や労力を節約できます。
相続人間のトラブル防止
遺言執行者は、遺言書に基づいて遺産の管理と分配を行う責任を負いますので、相続人同士の争いを未然に防ぐ効果があります。
公平で透明性のある対応をすることで、特定の相続人が相続手続きを行うことで生じるトラブルも回避できます。
財産分配の信頼性向上
適切な遺言執行者を選ぶことで、遺言書の内容が法律に沿った形で正確に実現され、税務処理や法的手続きを円滑に進めることができます。
複雑な財産分配や負債処理が必要な場合、遺言執行者の専門知識や経験が活かされます。 弁護士などの法律に精通している人を遺言執行者に選任すれば、遺産の分配や税務処理に関して、専門的なアドバイスを受けることも可能です。
遺言執行者を選任するデメリット
遺言執行者の選任はメリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在しますので、主な注意点を3つご紹介します。
選任ミスによるトラブル
遺言執行者を選任することは、相続トラブルを回避する目的もありますが、選んだ人が適任者でなかった場合、執行者が原因で別のトラブルが生じる可能性があります。
遺言執行者が公平性の欠けた判断や、誤った財産管理などを行えば、相続人に不信感を与え、執行者と相続人が対立してしまうことも考えられますので注意してください。
費用の発生
遺言執行者を選任した場合、報酬が発生することもありますが、遺産からその報酬を支払うことが可能です。
報酬額は、依頼する相手や財産の規模、手続きの複雑さによっては異なりますが、遺言内容等によっては費用が高額になる可能性があります。
相続人が受け取る相続財産は、遺産から遺言執行者に報酬を支払う場合、その報酬分だけ減少しますので、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者として選任する際は、どの程度の報酬が必要となるのかを事前に把握しておくことも大切です。
手続きの遅延
被相続人が遺言執行者を選任していない場合、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。
しかし、選任されるまでには時間がかかる点には注意が必要です。
また、遺言執行者が多忙であったり、手続きに不慣れであったりする場合、相続手続きが遅延し、相続人が財産を受け取るまでに余計な時間がかかることも考えられます。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者は、被相続人が生前に選んでおく方法と、相続人が選任申立をする方法があります。
遺言書で遺言執行者を選任する場合
被相続人が遺言執行者を選任したい場合、遺言書に「〇〇を遺言執行者として選任する」と明記し、遺言執行者として希望する人物の氏名を正確に記載する必要があります。
遺言書の作成方法には3種類があり、どの方法を用いても遺言執行者を選任することが可能です。
〇自筆証書遺言
- 作成方法:遺言者がすべて自分で手書きする形式
- メリット:手軽に作成できる
- デメリット:家庭裁判所の検認が必要で、記載内容に不備があると無効になるリスクがある
〇公正証書遺言
- 作成方法:公証人が作成する形式
- メリット:公証役場で作成するため、記載不備で無効になるリスクを回避できる
- デメリット:証人2名以上の立ち合いが必要で、費用がかかる
〇秘密証書遺言
- 作成方法:遺言者が内容を秘密にしたまま、公証人と証人の前で遺言書の存在を証明してもらう形式
- メリット:相続が発生するまで内容を秘密にしつつ、遺言書の存在を担保できる
- デメリット:手続きが複雑であり、家庭裁判所の検認が必要となるため、記載内容に不備がある場合には遺言が無効になるリスクがある

自筆証書遺言は、費用を抑えて遺言書を作成したい場合の選択肢となります。
公正証書遺言は、遺言書の検認が不要であり、さらに立会人を遺言執行者に選任しておけば、相続発生時に遺言執行者が速やかに相続人の手続きを進めることが可能です。
なお、自筆証書遺言および秘密証書遺言については、検認を受けなければ遺言書の効力が生じません。
そのため、被相続人が誰にも知られずに遺言書を残したい場合には、記載に不備がないよう十分注意して作成する必要があります。
相続人が遺言執行者を選任する場合
被相続人が遺言執行者を選任していなかった場合でも、相続人等が家庭裁判所に申立てを行えば、遺言執行者を選任することが可能です。
申立人になれるのは、相続の利害関係者である相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者などです。
申立てをする際は、申立書および必要書類を準備し、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に手続きする必要があります。
- 遺言執行者の選任の申立書
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
- 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書写しまたは、遺言書の検認調書謄本の写し
- 利害関係を証する資料
(親族であれば戸籍謄本など) - 費用
(遺言書1通につき収入印紙800円分)
遺言執行者が行うこと・手続きの流れ
遺言執行者として選任された人は、職務を遂行するために次の手続きを行うことになります。
就任通知書の作成・交付
遺言執行者に選任されましたら、就任通知書を作成し、遺言書のコピーを添付して相続人に交付(送付)してください。
正式に遺言執行者の職務を引き受けた際は、相続人などに就任通知書を送って知らせる必要があります。
遺言執行者の就任通知書は、相続人などに対して遺言執行者が誰であるかを把握できるようにするための書類です。
通知書には遺言執行者の氏名、就任日、連絡先情報、そして遺言書の存在や内容に関する基本的な情報を記載します。
相続人の確認
遺言執行者が果たす重要な役割の一つに、相続人の確認があります。
遺言執行者の存在は、法定相続人全員に知らせる必要がありますが、その連絡を行うためにも、相続人全員を確定することが求められます。
法定相続人の確認は、戸籍謄本を調査し、関係性を特定することで行います。
ご家庭によっては、被相続人以外の家族が把握していない相続人が存在するケースもあるので注意してください。
また、遺言書に相続人を認知する旨が記載されている場合には、認知手続きが必要です。
さらに、遺言書に相続人の廃除や廃除の取消しに関する意思表示が行われているときは、家庭裁判所への申立てを行わなければなりません。
相続財産の調査
遺言執行者は相続手続きを進めるにあたり、相続財産の調査を行います。
各種金融機関や公的機関と連絡を取り、必要な情報を収集することで、財産の種類・数量や存在を正確に把握することが求められます。
調査した相続財産は「財産目録」としてまとめますが、この目録に不備があると、相続人間でトラブルが発生する可能性があるだけでなく、遺言執行者との信頼関係にも影響を与えるので注意が必要です。
また、相続人はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も全て引き継ぐ義務があります。相続財産の把握漏れがトラブルの原因とならないよう、被相続人が残した資産や負債を詳細に確認し、財産目録として適切にリストアップすることが重要です。
正の財産 | 不動産、銀行口座、有価証券、貴金属、車両など |
負の財産 | 借入金、未払金、税金や公共料金の滞納など |
財産目録作成・交付
遺言執行者は、調査した相続財産に基づいて財産目録を作成し、相続人等に交付します。
この財産目録は、遺言の内容を円滑に実行するための基本的な資料であり、相続人全員が相続財産の全体像を正確に把握するために非常に重要な役割を果たしますので、正確さだけでなく、透明性も求められます。
遺言内容の実行
遺言執行者は、遺言者が遺言書で指定した指示や希望を具体的に実現するための行動を取る責務があります。
遺言の内容を巡る相続人間の意見の相違やトラブルを未然に防ぐためにも、対応には透明性と公平性が求められます。
たとえば、遺言書に遺産分割や相続人への財産分配、特定の義務の履行、または贈与などの指示が含まれている場合、遺言執行者はそれらを忠実に実行しなければなりません。
また、遺言書に特定の負債の支払いが指示されている場合は、滞りなく支払手続きを進める責任があります。
遺言執行完了を書面で報告
遺言執行者は、職務終了後、遅滞なく相続人および包括受遺者に対して、遺言執行の完了を書面で報告する必要があります。
報告書には、遺言内容の実行状況と、相続財産の分配状況、相続手続きの完了状況などを詳細に記載します。
後々のトラブルを防ぐためにも報告書は重要な記録となりますので、報告漏れがないよう注意してください。
遺言執行者の報酬は?
遺言執行者の報酬は、遺言内容や遺産の種類によって異なります。
相続人や親族を選任した場合
相続人や親族が遺言執行者に選任された場合、報酬が発生しないことが多いです。
報酬が発生しない理由としては、相続人や親族が遺産の分配に直接関与するため、特別な報酬を求めないケースが一般的であることが挙げられます。
ただし、遺産の内容が非常に複雑である場合や、執行に多大な時間や労力を要する場合には、報酬を受け取ることも可能です。
専門家を選任した場合
弁護士などの専門家を遺言執行者として選任した場合、報酬は数十万円から数百万円に及ぶことがあります。
報酬額が遺産総額に対する割合(例:「遺産総額の1%」など)として定められているときは、遺産の規模に応じて報酬額は増減します。
一方、遺言書に報酬額が明記されていないケースでは、遺言執行者と相続人・受遺者の間で協議して報酬額を決定することになります。
あらかじめ遺言執行者を選任していた場合でも、報酬額で合意が得られないと辞退される可能性もあるので、遺言書を作成する際は遺言執行者を指定するだけでなく、報酬額についても明確に記載しておくことが重要です。
遺言執行者の就任をしたくない・辞任したい場合
遺言書で被相続人が遺言執行者を指定していたとしても、その就任するかは指定された本人の選択に委ねられます。
就任を拒否する方法
遺言執行者に選任された場合でも、執行者としての役割を引き受けたくない場合には、就任を拒否することが可能です。
就任を拒否する際には、その意思を明確にするために相続人全員に通知する必要があります。
また、相続人や利害関係者は、遺言執行者に対して一定の期間を設け、その期間内に遺言執行者が就任を承諾するかどうかの判断を求める(催告する)ことができます。
遺言執行者が定められた期間内に相続人に対して確答しない場合、就任を承諾したものとみなされます。
就任した後に辞任をする方法
遺言執行者として就任している場合でも、何らかの理由でその職務を続けることが困難な場合には、辞任することができます。
職務を続けることが困難であると認められる理由としては、長期の不在や病気などがあり、「正当な事由」がないと辞任は認められません。
辞任する際は、裁判所に申立てを行い、辞任の許可を得る必要があります。
また、裁判所に辞任が許可されましたら、相続人等に辞任した旨を通知しなければなりません。
相続人等からの申し出で解任させる方法
遺言執行者が適切に職務を遂行できない場合や、相続人との信頼関係が損なわれた場合には、相続人等からの申し出によって解任させることができます。
ただし、解任させるためには、相続人は裁判所に対して遺言執行者の解任を求める申立てを行わなければいけません。
申立書には、解任を求める具体的な理由や、遺言執行者が任務を怠っている状況などを詳細に記載します。
裁判所は、提出された証拠や相続人の意見を基に審査を行い、解任の判断を下します。
解任が認められた場合、遺言執行者が不在となるため、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立を行い、新たな遺言執行者を選任してください。
まとめ
遺言執行者は、遺言内容を確実に実行し、遺産分配を円滑に進め、相続人間の争いを防ぐ上で重要な役割を果たします。
遺言執行者には、信頼性、公平性、そして法的知識が求められるため、トラブルの未然防止や相続人の負担軽減を目的とする場合、弁護士などの専門家を選任することが望ましいです。
特に、遺産が多岐にわたる場合や複雑な財産分割が必要な場合、執行者の負担が重くなるだけでなく、執行者の存在が新たなトラブルの原因となることもあるので注意が必要です。
遺言書で事前に遺言執行者を指定しておけば、相続発生後の手続きをスムーズに進めることができますし、生前に報酬などに関する事項をまとめておくことで、費用面でのトラブルも未然に防ぐことができます。
不十分な相続対策はかえって逆効果を招く場合もあるため、遺言書を作成する際は、相続手続きが完了するまでの流れをしっかりと想定することが大切です。

相続税に強い
税理士をご紹介します
- 身内が亡くなった、今すぐ相談したい
- 相続税申告について何も分からない
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例えば・・
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など
実際に、
令和2年には、5,106件の税務調査が行われ、1件あたりなんと943万円の追徴課税が課されています。
相続に強い税理士がついていれば、まず税務調査に発展する可能性も低く、
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相続後の生活は、相続に強い、良い税理士に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないのです。
「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
「相続税のことで悩んだり、支払いに追われる様な方を1人でも多く減らしたい」
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