
相続税は原則として、納期限までに現金で一括納付する必要があります。
しかし、期限までに相続税を払えない方は、相続税を分割して納める「延納制度」を利用できる場合があります。
本記事では、延納制度の適用条件および具体的な手続きの流れ、利用時の注意点について詳しく解説します。
この記事の監修/取材協力

古尾谷 裕昭 税理士
相続専門の税理士法人の代表税理士。同事務所では、年間2,204件の相続税申告を行っており「99%税務調査が入ってこない」「税金を可能な限り安く」「親身に寄りそった対応」という品質で、元国税調査官を招き入れた体制のもとサービスを提供している。

近藤 洋司 税理士
ベンチャーサポート相続税理士法人横浜オフィスの代表税理士。
税理士になる前は不動産の仕事をしており「誰よりも不動産に詳しい税理士になる」という志のもと税理士になる。不動産の評価にとても強い。
相続税の延納とは?
相続税を含めた国税は、基本的に期限までに金銭納付をしなければなりません。
しかし、相続税については、延納申請をすることで分割払いが可能になります。
延納制度の概要
相続税の延納制度は、納付が困難な金額を限度として、年払いで納めることができる仕組みです。
延納は許可制のため、利用するには税務署への申請が求められます。
税務署は、延納申請期限から3か月以内に許可または却下を判断します。
申請が却下されると延納制度は利用できないため、申請前に要件を十分に確認しておくことが重要です。
延納が認められれば、相続税を分割して納めることができますが、延納期間に応じた利子税が発生する点には注意してください。
また、延納時には金額に応じた担保の提供が求められますので、提供する担保の用意も必要です。
分納とは?
分納は、支払いを複数回に分けて行うことをいいます。
納期限までに全額を納められる場合、相続税を分割して支払っても問題ありません。
一方、納期限を超えての分割納付は原則認められておらず、納期限を過ぎた時点で延滞税が発生します。
相続税の納期限は申告期限と同日であり、期限内に納付しなかった場合は滞納扱いとなります。
納期限までに納付が困難な場合でも、延納制度を申請しなければ滞納となるため注意が必要です。
滞納状態で税務署からの督促に応じない場合、財産の差押えが行われる可能性があります。
延納制度を利用していれば、財産が差し押さえられることはないため、納期限を超えて分納したい場合は、必ず延納申請を行ってください。

延納可能期間
相続税の延納期間には上限が設けられています。
延納期間の最長は20年ですが、不動産等が相続財産に占める割合によって延納可能な期間は異なります。
たとえば、不動産等の割合が75%以上の場合、延納期間は最長20年ですが、50%未満の場合は最長5年です。
また、延納税額が150万円未満(一部は200万円未満)の場合には、不動産等の割合が50%以上であっても、延納期間は「延納税額 ÷ 10万円(1未満は切り上げ)」が限度年数となるため、納税額によって延納期間が変動する点に注意が必要です。
135万円(延納税額)÷10万円=13.5≒14年(延納期間)

延納することができる金額
相続税で延納できる金額は、延長許可限度額までです。
延長許可限度額は、相続税額から延納申請者が保有する預貯金などの財産の金額を差し引いた額をいいます。
延納制度を適用できた場合でも、相続税額をすべて延納できるわけではないので注意してください。
相続税の延納制度の適用要件
相続税の延納制度を適用するには、次の要件をすべて満たしている必要があります。
相続税額が10万円以上あること
延納制度には、10万円の金額基準があります。
10万円以上の相続税額がない場合、延納制度は適用できません。
また、10万円以上の相続税額が算出されるケースでも、他の要件を満たしていなければ、延納制度を利用して納税を先延ばしすることはできないので注意してください。
納期限までに現金での一括納付が難しい
延納制度は、納期限までに全額を現金で一括納付することが困難な場合に限り、適用が認められています。
たとえば、相続財産の大半が預貯金の場合、相続税を納期限までに金銭で支払うことが可能であるため、延納は認められません。
相続財産の大部分が流動性の低い不動産等のときは、延納が認められる可能性がありますが、相続税を全額延納できるとは限りません。
延納できない相続税額がある場合、その部分を納期限までに納めないと延滞税が発生するので注意が必要です。
担保の提供
延納申請をするためには、延納税額および延納期間に応じた利子税の額に相当する担保の提供が必要です。
担保として提供できる財産の種類は、以下のものに限られます。
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保提供は不要です。
- 国債および地方債
- 社債、その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
- 土地
- 建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
- 鉄道財団、工場財団など
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
担保として提供できる財産は、延納申請者が相続または遺贈によって取得した財産に限らず、その他の財産も認められています。
たとえば、相続に関係なく申請者が所有していた財産や共同相続人、第三者が所有する財産であっても担保として提供することが可能です。
なお、税務署長が申請者の提供する担保が適当でないと判断した場合には、担保の変更を求められることがあります。
期日までに必要書類を税務署に提出すること
相続税を延納する場合、納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書と担保提供関係書類を税務署へ提出する必要があります。
納期限後の申請は認められず、書類に不足がある場合も却下されます。
延納が認められない場合、期限が過ぎても未納となっている相続税額に対しては延滞税が発生するため、適用要件に加え、延納税額に応じた担保財産の種類や利子税を事前に確認するなど、計画的に準備してください。

相続税の延納制度を適用するデメリット
延納制度は、納期限までに相続税の一括納付が困難な場合の救済措置として設けられています。
しかし、相続税を延納した際には利子税が発生しますので、延納することが必ずしもプラスになるとは限りません。
利子税がかかる
延納制度を適用した場合、納付が完了するまでの期間に応じて利子税が課されます。
相続税の延納期間は最長20年ですが、延納している日数に応じて利子税が発生しますので、相続税の申告に関連する税負担を抑えたい場合、納期限までに相続税を一括で納めることが最善です。
利子税の額は、納付が完了していない相続税額に一定の割合を乗じて算出することになりますが、適用する税率は毎年変動します。
金利の影響で利子税割合が高くなる可能性はありますし、銀行などで資金調達をして相続税を一括で納めた方が、相続税に関連する支出を抑えられることもあります。
特例基準割合と特例割合の違い
相続税額を延納している期間に適用される利子税の割合は、相続税額の計算基礎となった財産の価額の合計額に占める不動産等の割合に応じて定められています。
各年の延納特例基準割合が7.3%に満たない場合には、次の算式により計算した「特例割合」を利子税の割合として適用します。
延納利子税割合(年割合)×延納特例基準割合÷7.3%=特例割合(※)
※0.1%未満の端数は切り捨て、割合が0.1%未満の割合のときは年0.1%
延納特例基準割合は、各分納期間の開始年の前々年9月から前年8月までの各月における銀行の新規短期貸出約定平均金利の合計を12で割って得た割合を基に、財務大臣が告示する割合に年0.5%を加算したものです。
下記の表に示された特例割合は、令和5年1月1日時点の延納特例基準割合(0.9%)を基に計算しています。
たとえば、不動産等の割合が75%以上(動産等に係る延納相続税額)に該当する場合、特例割合は0.6%となります。

参考:No.4211 相続税の延納(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4211.htm
利子税の計算例
◯前提条件
不動産等の割合:75%以上
延納相続税額の区分:不動産等に係る延納相続税額
延納税額:1,000万円
延納利子税割合:3.6%
特例割合:0.4%
延納期間:20年
◯計算式
1,000万円×0.4%(特例割合)=4万円(1年目の利子税)
相続税の延納制度を利用した場合の利子税の割合は、取得した相続財産の種類や延納期間によって異なります。
上記の前提条件の場合、1年目に納める利子税は4万円となります。
利子税の対象となる相続税額は、納付する都度減少するため、基本的には納める利子税は年を追うごとに少なくなります。
ただし、利子税の割合は毎年変動するため、金利が上昇した場合には前年よりも利子税の納付額が増加する可能性もあります。
そのため、延納による納税計画を立てる際は、利子税の変動リスクも考慮することが重要です。
相続税の延納手続きの流れ
延納制度の申請は申告・納付期限までに行わなければなりませんので、次のステップに沿って手続きすることが求められます。
納付方法の確認
相続が発生し、相続税の申告・納税が必要となる場合には、最初に納付する方法を確認してください。
相続税の納付は金銭による一括納付が原則ですが、相続税額が高額な場合や、不動産等が占める割合が高い場合には、延納制度を活用することも選択肢となります。
延納制度は、要件を満たした場合に限り適用が認められるため、相続税の申告書の作成と並行して延納申請の準備も必要です。
延納申請を行っても税務署の許可が下りないときは、相続税を一括納付することになるため、適用要件を十分に確認した上で申請手続きを行ってください。
なお、延納による金銭納付も困難と認められる場合には、延納制度と併せて物納制度の利用も検討してください。
延納許可限度額の確認
延納制度は、納期限までに金銭で納付することが困難な金額の範囲内で認められる制度です。
延納許可限度額の計算式は下記の通りで、限度額を超えた部分は延納の対象外となります。
相続税額-現金納付額(①-②-③)=延納許可限度額
① 納期限時点で所有する現金・預貯金、その他換価が容易な財産の価額
② 申請者および生計を共にする配偶者、その他親族の3か月分の生活費
③ 申請者の事業継続に当面(1か月分)必要な運転資金(経費等)の額
※ 現金納付額は、納期限に金銭で納付することが可能な金額をいいます。
納税者が多額の現金・預貯金を保有している場合、相続税を金銭で一括納付することが可能であると判断されるため、延納制度を利用することは難しくなります。
一方、納税者が事業を営んでいるときは、運転資金については一定の配慮がされますので、適切に延納許可限度額を算出することが求められます。

延納申請書の用意
相続税を延納する場合には、相続税の申告書だけでなく、延納申請書も提出しなければなりません。
延納申請書は、延納担保にする財産を選定した後、延納申請期限(相続税・贈与税の納期限)までに、申請者ごとに必要書類(担保提供関係書類)を作成する必要があります。

延納申請書では、次の事項を記載することになります。
- 延納申請税額
- 金銭で納付することを困難とする理由
- 不動産等の割合
- 延納申請税額の内訳
- 延納申請年数
- 利子税の割合
- 不動産等の財産の明細
- 担保
- 分納税額、分納期限及び分納税額の計算の明細
- その他参考事項
「金銭で納付することを困難とする理由」、「不動産等の財産の明細」、「担保」については別紙に詳細を記載します。
また、延納制度を利用する際は原則、担保提供が必要となるため、担保関連書類の添付も必要です。
記載内容や添付書類に不備があると、延納申請は認められませんので、 税務署や専門家に相談しながら書類を作成し、申請が却下されないよう注意してください。
税務署に関係書類を提出
相続税の申告書の提出先は、被相続人(亡くなった人)が住んでいた場所を管轄する税務署で、延納申請書の提出先も同様です。
延納申請書に必要事項を記入後、添付書類を揃え、所定の期限までに税務署へ提出してください。
相続税の延納は、期限内に手続きしないと却下されますので、早めの準備と確認が重要です。
提出方法は、税務署の窓口以外に、郵送による提出も認められています。
ただし、郵送する際は税務署に書類が届いたことを確認できるよう、追跡可能な方法を利用することが望ましいです。
相続税の延納制度の必要書類
相続税の延納申請をスムーズに進めるためには、税務署が求める必要書類を正確に準備することが重要です。
延納申請書等
延納申請書は、延納制度を申請する際に必須の書類ですが、延納申請書以外にも提出すべき書類は多数あります。
たとえば、延納申請をする場合、担保提供する財産も目録として提出することになりますが、提供する財産の種類ごとに使用する「延納申請書別紙」は異なります。
延納申請者は、「担保提供関係書類チェックリスト」を使って、延納担保財産の提出書類の作成漏れがないか確認してください。
- 相続税延納申請書
- 金銭納付を困難とする理由書
- 延納申請書別紙
- 不動産等の財産の明細書
- 担保提供関係書類
- 担保提供関係書類チェックリスト
金銭納付を困難とする理由書とは
「金銭納付を困難とする理由書」は、納期限までに一括で相続税を納めることが困難であることを示すための書類です。
納付が困難である具体的な理由だけでなく、延納許可限度額を算出するためにも用いられます。
「納付すべき相続税額」から「納期限までに納付することができる金額」を差し引いた額が延納許可限度額となるため、申請者が保有する預貯金等が一定以上あるときは、延納が認められないこともあります。
また、「金銭納付を困難とする理由書」の裏面には、生活費や配偶者等の収入を記載する必要があります。

各種確約書とは
「各種確約書」は、税務署長が延納申請書に添付して提出することとされている担保提供関係書類の提出を求めた場合、速やかに提出する旨を確約する書類です。
たとえば、土地を担保として提供する場合、次の書類を提出することを各種確約書で約することになります。
- 担保(土地)所有者の抵当権設定登記承諾書
- 担保(土地)所有者の印鑑証明書

延納申請書の別紙とは
延納申請書の別紙は、延納申請書に添付される補足資料です。
担保物件の種類や金額等を記載することになりますが、別紙は提供する担保の種類ごとに用意されているので、使用する様式の誤りに注意してください。
また、提供する担保が不適当と判断された場合には、他の財産を担保として提供するよう要請されることもあります。
相続税の延納制度を適用する際の注意点
相続税の延納制度は、一度に多額の納税資金を確保する必要がある状況を回避する手段として有効ですが、制度を利用する際には次の事項に注意してください。
延納条件が厳しい
延納制度は、一定の要件を満たした納税者のみが適用できる制度です。
相続税を期限内に納めることができる相続財産を有している場合には、納税額が高額になるケースでも原則延納制度は適用できません。
延納を申請する際は、保有資産の内訳などを具体的に説明する必要がありますし、延納税額に応じた担保の提供も必要です。
担保を提供できない場合についても、基本的に延納はできないため、申請手続きを行う際には、担保提供する財産も準備してください。
借金をした方がいい場合がある
銀行や金融機関のローンを低金利で利用できる場合、延納よりも有利な選択となることがあります。
利子税の特例割合は、一般的な金融機関での借入よりも税率が低めに設定されていますが、将来的に税率が上昇する可能性もあります。
金融機関から融資を受けた方が、相続税に関する支払総額を抑えられることもあるため、延納制度を利用した際に生じる利子税の額と民間企業の金利を比較し、より支出が抑えられる方法を選んでください。
延納も難しい場合は物納制度を適用すること
延納による相続税の納付が困難な場合は、物納することも検討してください。
物納は、税金を現金ではなく、不動産や有価証券などの資産で納税する制度です。
物納制度を利用すれば、利子税が発生しないメリットがある一方、物納制度の適用条件は延納制度よりも厳しいです。
また、物納の対象となる資産は換金性の高いものに限られるため、資産価値の低い不動産を物納として希望しても認められない場合があります。
なお、延納の許可を受けた相続税額について、その後に延納条件を履行することが困難となったときは、申告期限から10年以内に限り、分納期限が未到来の税額部分を延納ではなく物納に変更する「特定物納制度」を適用することが可能です。
まとめ
相続税の延納制度は、一括納付が難しい場合に選択肢となる納税手段ですが、適用するには税務署の許可を得る必要があります。
期限内に延納申請を行うだけでなく、必要書類の提出や担保の提供も求められるため、事前に準備を整えておくことが重要です。
相続税の申告内容や相続人の財産状況によっては、金融機関から借入れをした方が有利なケースや、物納を検討すべきケースもあります。
最適な納税方法を選択するためには、専門家からのアドバイスは必須となりますので、相続税を専門とする税理士に相談しながら、計画的に延納申請手続きを進めてください。

相続税に強い
税理士をご紹介します
- 身内が亡くなった、今すぐ相談したい
- 相続税申告について何も分からない
- 相続専門の税理士を紹介して欲しい
相続に関することであれば、どんなご相談でもお受けしています。
相談は無料です。繋がらないときはお時間をおいておかけ直しください。
私たちの想い
相続後に、
遺産をしっかり受け取り、安心して日々を過ごすことができるかどうか。
その鍵は、相続に強い税理士に出会えるかどうかが握っています。
例えば・・
- 申告に漏れがあれば、税務署から調査を受け追徴課税を支払う可能性がある
- 税理士が見つからず申告が間に合わなければ罰金を受けたり税金が高額になる
- 税理士が不親切であれば、よく分からないまま申告を行うことになる
など
実際に、
令和2年には、5,106件の税務調査が行われ、1件あたりなんと943万円の追徴課税が課されています。
相続に強い税理士がついていれば、まず税務調査に発展する可能性も低く、
追徴課税を受けるような抜けや漏れもないため、安心して相続税申告を終えることができます。
相続後の生活は、相続に強い、良い税理士に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないのです。
「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
「相続税のことで悩んだり、支払いに追われる様な方を1人でも多く減らしたい」
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