タワーマンションを活用した『タワマン節税』は、不動産を使った相続税対策の中でも特に節税効果の高い手法です。
しかし、令和6年1月1日以降の相続からはタワマン節税に規制が入り、以前のような節税効果は得られなくなりましたので注意が必要です。
本記事では、タワマン節税が相続税対策として効果的な理由と、改正後のマンションの評価方法について解説します。
この記事の監修/取材協力
古尾谷 裕昭 税理士
相続専門の税理士法人の代表税理士(ベンチャーサポート相続税理士法人)。同事務所では、年間2,204件の相続税申告を行っており「99%税務調査が入ってこない」「税金を可能な限り安く」「親身に寄りそった対応」という品質で、元国税調査官を招き入れた体制のもとサービスを提供している。
近藤 洋司 税理士
相続専門の税理士法人、横浜相続サポートセンターの代表税理士。税理士になる前は不動産の仕事をしており「誰よりも不動産に詳しい税理士になる」という志のもと税理士になる。不動産の評価にとても強い。
タワマン節税(タワーマンション節税)とは
タワマン節税は、タワーマンションの相続税評価額と時価の差額を利用した相続税の節税手段です。
相続税は、被相続人(亡くなった人)が相続開始時点で保有する財産に対して課される税金であり、相続財産を多く保有している人ほど納める相続税額は大きくなります。
相続開始時点の時価を相続財産の価額として計算することになりますが、具体的な評価方法は「財産評価基本通達」に規定されています。
財産評価基本通達は、財産の種類ごとに評価方法を定めており、これに基づいて計算した評価額は相続税の計算上、時価として扱われます。
財産評価基本通達に基づいた評価額が時価を上回ると納税者に不利益となるため、不動産の相続税評価額については、通常、時価より低くなるように設計されています。
相続財産を預貯金ではなく不動産で保有していれば、実際の資産価値よりも相続税評価額が低くなるため、不動産を活用した相続税対策は積極的に行われています。
また、相続税評価額と時価の差額は一戸建てよりもマンションの方が大きく、タワーマンションになると差額が顕著になることから、相続税の節税を目的にタワーマンションを取得するケースが増加したため、国税庁はマンション評価方法の見直しを行いました。
その結果、令和6年1月1日以降の相続については、改正後の評価方法を用いて計算しなければなりませんので、相続が発生した際は評価額の計算誤りに注意してください。
不動産の相続税評価額の計算方法
相続税では、建物と土地を個々に計算します。
建物の評価方法
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。
固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税を課すために算出している評価額で、材質や構造から算出されます。施工会社のブランド、ネームバリューは関係ありません。固定資産税評価額は毎年送られてくる固定資産税の納税通知書や、固定資産税評価証明書で確認することができます。
固定資産税評価額に乗じる数値は1.0倍となっているため、固定資産税評価額と相続税評価額は同じです。
ただし、貸付アパートなど、建物を貸付用として利用している場合には、別途補正計算を要します。
土地の評価方法
土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があり、土地の所在によって用いる評価方法は決められています。
路線価が設定されていない地域は倍率方式で評価します。土地の相続税評価額を計算する際は、国税庁ホームページで路線価図または評価倍率表を確認してください。
貸地や貸家建付地については、算出した自用地評価額に一定の割合を乗じるなどの補正計算を要します。
路線価方式
路線価方式は、路線価が定められている地域の土地を評価する際に用いる計算方法です。
路線価が記載されている「路線価図」は、国税庁ホームページに掲載されており、相続が発生した年分の路線価図を用いて計算します。
路線価は、道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額をいい、路線価図に表示されている路線価は1,000円単位です。
概算の相続税評価額を確認したいときは、路線価に面積を乗じるだけで評価額を算出できます。
一方、具体的な相続税評価額を算出するためには、土地の形状に応じた補正計算をすることになるため、評価する際は公図または測量図を準備してください。
「線路価図」はこちら
倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地を評価する際に用いる計算方法です。
土地の固定資産税評価額に、地域や地目ごとに定められている倍率を乗じて評価額を算出します。
地目ごとに倍率が設定されていますので、相続が発生した年分の倍率を用いて計算を行います。
マンションの評価方法
マンションの相続税評価額は、建物内部の独立した一室である区分所有権と、土地部分に相当する敷地利用権の価額を合計した額です。
区分所有権の価額は、固定資産税評価額に1.0倍を乗じて算出します。
敷地利用権の価額は、路線価地域であれば、路線価にマンションの敷地面積を掛けた額に、区分所有者の所有する敷地権の割合を乗じた額となります。
マンション敷地をマンション住民全体で共有しているので、個々の区分所有者の土地面積が小さくなりどれほど立地がよく、土地の価格が高い地域であっても、さほど評価額に影響しません。
令和6年1月1日以後に相続で取得した居住用の区分所有財産については、地階を除く階数が2以下、二世帯住宅を除くものなど一定のものを除き、評価方法に調整が加えられます。調整が加えられるのはタワーマンションだけではありません。
相続税におけるタワマン節税の仕組みと効果
相続税の節税は、評価額と時価の差の大きなところに着目するとより節税が可能なのですが、タワマン節税はそれに合致したものでした。
購入するだけで相続税評価額を圧縮できる
1億円の土地を購入した場合、相続税評価額は8,000万円程度になりますので、キャッシュで持っているのではなく、土地という形での所有に変えただけで2,000万円も評価額を下げることができます。
建物についても、築年数が浅ければ固定資産税評価額が時価を超えることはないため、不動産を購入するだけで、相続税評価額と時価の差額分だけ相続税を節税できます。
タワーマンションは相続税評価額と時価の乖離が大きく、評価方法が改正される以前は、相続税評価額が時価の3割程度に留まる物件も存在しました。
時価1億円のタワーマンションの相続税評価額が3,000万円になるのであれば、相続財産の現金・預貯金をタワーマンションに変えるだけで、7,000万円も相続税評価額を下げることができ、さらにタワーマンションを借入金で購入すれば債務による財産圧縮効果もあります。
小規模宅地等の特例を適用できる
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住用や貸付事業用として利用していた土地に対して適用できる特例制度です。
要件を満たせば相続税評価額を最大80%減額することができるため、自宅の敷地が1億円の価値があった場合、評価額は2,000万円となり、8,000万円分の相続税評価額を下げることができます。
居住用として利用していれば330㎡まで80%減額、賃貸用であれば200㎡まで50%減額することが可能です。
タワーマンションの評価方法改正の経緯
相続税のタワマン節税に関する取扱いが改正されたのは、国税当局が次の2点を問題視したからです。
相続税評価額と時価の乖離が著しい
相続税評価額は財産評価基本通達に規定された評価方法なので、タワマン節税は合法的に相続税を節税ができる手段です。
相続税評価額と時価の差額を利用した相続税対策は他の不動産でも用いられますが、タワーマンションに関しては、評価額と時価の差額の乖離が著しいことが問題視されました。
建物(区分所有権)の評価額は、材質や構造により計算されますが、実際の市場価格は建物自体の価値だけでは決まりません。
建物の総階数やマンション一室の所在階、施工会社のブランド力も市場価格に影響しますし、立地も価額に大きく反映されるため、それらが考慮されない相続税評価額は市場価格に比べて低くなるケースが多くなります。
土地(敷地利用権)については、マンション敷地の評価額に敷地権割合を乗じて評価しますが、戸数の多い高層マンションの敷地利用権は一般のマンションよりも小さくなり、市場価格に比べると評価額は低くなります。
マンションは一戸建ての住宅に比べて相続税評価額と市場価格の乖離が大きく、マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議では、マンションの価値が相続税評価額に適正に反映されていないことが指摘されました。
参考:マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について(国税庁)
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023006-018.pdf
タワマン節税が相続税対策として過度に活用されていた
タワマン節税は、財産評価基本通達に基づいて計算した相続税評価額と時価との差を利用した手法であり、評価方法自体は適法ですが、タワーマンションを財産評価基本通達に基づいて評価したことを国税当局が否認したため、評価方法を巡っての裁判が行われましたが、国税側が勝訴しています
令和4年4月19日最高裁判決において、最高裁が否認したのは特定の条件下によるものだけであり、財産評価基本通達による評価方法自体が否定されたわけではありません。意図的に租税回避を図る目的でタワーマンションを購入し、財産評価基本通達による評価をするのは富裕層にしかできない節税方法であり、税の公平性を損ねるという理由からでしたが、その後タワーマンションの評価方法が改正されました。
改正後のタワーマンションの評価方法
令和6年1月1日以後の相続から、マンションの評価方法は「居住用の区分所有財産の評価について」の法令解釈通達に従って評価することになりますが、真新しい評価方法ではなく、これまでの評価に調整を加える形になっています
居住用の区分所有財産の評価方法
居住用の区分所有財産(一室の区分所有権等)の評価方法は、次の通りです。
<評価方法>
①+②=マンションの相続税評価額
- 従来の区分所有権の価額×区分所有補正率=区分所有権の価額(①)
- 従来の敷地利用権の価額×区分所有補正率=敷地利用権の価額(②)
「居住用の区分所有財産(一室の区分所有権等)」は、居住用マンションの一室をいい、一室には区分所有権(家屋部分)と敷地利用権(土地部分)が含まれます。
区分所有補正率の計算方法
区分所有補正率は、相続税評価額の計算を見直す要因となった、時価との乖離を是正するために用いる補正率です。
タワーマンションの相続税評価額は、時価の3割程度に留まるケースもあったことから、区分所有補正率を用いることで、評価額を市場価格の6割相当額まで引き上げることを目的とします。この補正率は、タワーマンションのみならず、要件に該当するのであれば、通常のマンションであってもこの補正率を用いて評価します。
区分所有補正率は、1.評価乖離率、2.評価水準、3.区分所有補正率の順番で計算します。
<評価乖離率>
評価乖離率の計算方法は次の通りです。
<<評価乖離率の計算方法>>
A+B+C+D+ 3.220=評価乖離率
※評価乖離率がゼロやマイナスとなる場合、区分所有権および敷地利用権の価額は評価しません。
A | ・一棟の区分所有建物の築年数×△0.033 築年数は建築時から課税時期までの期間をいい、1年未満の端数は1年とする |
B | ・一棟の区分所有建物の総階数指数×0.239(小数点以下第4位切捨て) 総階数指数は総階数(地階は含まず)を33で除した値をいい、小数点以下第4位切捨て、1を超える場合は1とする |
C | ・一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階×0.018 専有部分がその一棟の区分所有建物の複数階にまたがる場合には、階数が低い方の階を所在階とする 専有部分の所在階が地階である場合にはゼロ階とし、Cの値はゼロとする |
D | 敷地利用権の面積 ÷ 専有部分の面積(床面積)=敷地持分狭小度(小数点以下第4位切上げ) 一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度×△1.195(小数点以下第4位切上げ) |
一棟の区分所有建物に係る敷地利用権が敷地権である場合、敷地利用権の面積は「一棟の区分所有建物の敷地の面積 × 敷地権の割合」で計算します。
それ以外のものについては、「一棟の区分所有建物の敷地の面積 × 敷地の共有持分の割合」で敷地利用権の面積を計算し、双方とも小数点以下第3位は切上げます。
<評価水準>
評価水準は次の方法で算定します。
<<評価水準の計算方法>>
1÷ 評価乖離率=評価水準(評価乖離率の逆数)
<区分所有補正率>
区分所有補正率は、評価水準の数値によって次のように区分します。
区 分 | 区分所有補正率 |
評価水準<0.6 | 評価乖離率×0.6 |
0.6≦評価水準≦1 | 補正なし(従来の評価額で評価) |
1<評価水準 | 評価乖離率 |
区分所有者が一棟の区分所有建物に存するすべての専有部分および、一棟の区分所有建物の敷地のいずれも単独で所有しているケースでは、敷地利用権に係る区分所有補正率は1を下限とします。
一方、区分所有権に係る区分所有補正率については、下限はありません。
個別通達の適用がないマンションの種類
マンションであったとしても、構造上、主として居住の用途に供することができるもの以外のものは、「居住用の区分所有財産の評価について」の個別通達の適用はありません。
<個別通達の対象外となるマンション等>
- 区分建物の登記がされていないもの
- 地階を除く総階数が2以下のもの
- 一棟の区分所有建物に存する居住用に供する専有部分一室の数が3以下であり、すべてが区分所有者または親族の居住用に供するもの
- たな卸商品等に該当するもの
- 借地権付分譲マンションの敷地の用に供されている貸宅地(底地)
一棟所有の賃貸マンションなどは、区分建物の登記がないため個別通達の適用はありません。
また、低層のアパートや、本人または親族の居住用として利用している一定のマンション等についても、従来の評価方法で計算することになります。
居住用の区分所有財産の相続税評価額の計算例
改正後のマンションの相続税評価額の計算方法は、次の通りです。
<前提条件>
建物の種類:居宅
築年数:20年
総階数:15階
所在階:10階
専有部分の面積:60㎡
敷地の面積:3,600㎡
1 敷地権の割合:1,200,000分の6,000
敷地利用権の面積:18㎡
従来の区分所有権の価額:10,000,000円
従来の敷地利用権の価額:20,000,000円
<居住用の区分所有財産の評価額の計算>
〇評価乖離率
・Aの計算
20年×△0.033=△0.66(A)
・Bの計算
15階÷33=0.454(総階数指数)
0.454×0.239 =0.108(B)
・Cの計算
10階×0.018=0.18(C)
・Dの計算
18㎡÷60㎡=0.3(敷地持分狭小度)
0.3×△1.195=△0.359(D)
・A~Dの合計
A+B+C+D+3.220=2.489(評価乖離率)
〇評価水準
1÷ 2.489=0.40176777…(評価水準)
〇区分所有補正率
0.40176777…< 0.6
2.489×0.6=1.4934(区分所有補正率)
〇区分所有権の価額
10,000,000円×1.4934=14,934,000円
〇敷地利用権の価額
20,000,000円×1.4934=29,868,000円
〇マンションの評価額
14,934,000円+29,868,000円=44,802,000円
タワマン節税が改正したことによる影響
被相続人がマンションを所有していた場合、これまでの税額シミュレーションと異なる可能性があります。
タワマン節税に従来の節税効果は見込めない
同じタワーマンションでも、令和6年以降の相続では算出される相続税評価額が高くなるケースが多いと思われます。
ただし、不動産の相続税評価額と時価の差額を利用した節税手段は引き続き有効です。乖離が激しいもので、時価の3割の評価だったものが、6割になるため節税効果が薄れたとはいえ、まだ4割の圧縮が可能です。投資や相続税対策としてタワーマンションを購入すること自体が悪手になることはありません。
タワマン節税以外の節税手段を複合的に活用すること
タワマン節税の効果が薄れても、複数の節税手段を組み合わせることで、相続税の支払いを抑えることは可能です。
先に紹介しました小規模宅地等の特例は、土地の評価額を最大80%減額できますし、配偶者の取得した財産が1億6,000万円以内であれば、配偶者に課される相続税を全額非課税にできます。
生前の相続税対策としては、相続財産を贈与することで相続税の課税対象資産を減らすのも有効な手段です。
生前贈与は贈与税の対象となりますが、贈与財産の種類によっては非課税特例を活用できます。
相続税の節税手段はほかにもありますので、費用対効果が高い手段から用いて対策してください。
相続税の節税は必ず専門家に相談すること
相続税に関する法令等の改正は毎年のように行われていますので、現行の特例制度の変更・廃止や、タワマン節税のように効果が高い節税手法に規制が入る可能性も十分考えられます。
相続税は相続開始時点の法律に基づいて税額計算等を行いますので、相続税対策は大規模な改正が実施された都度見直さなければなりません。
タワーマンションを活用しての相続税対策は引き続き有効ですが、相続直前に購入して直後に売却するなど、売却価格と時価の乖離があらわになるようなことは避けた方がよいでしょう。具体的な相続税対策を講じる際は事前に専門家へご相談ください。
専門スタッフが
ご相談に乗っています
- 身内が亡くなった、今すぐ相談したい
- 相続税申告について何も分からない
- 相続専門の税理士を紹介して欲しい
相続に関することであれば、どんなご相談でもお受けしています。
相談は無料です。繋がらないときはお時間をおいておかけ直しください。
私たちの想い
相続後に、
遺産をしっかり受け取り、安心して日々を過ごすことができるかどうか。
その鍵は、相続に強い税理士に出会えるかどうかが握っています。
例えば・・
- 申告に漏れがあれば、税務署から調査を受け追徴課税を支払う可能性がある
- 税理士が見つからず申告が間に合わなければ罰金を受けたり税金が高額になる
- 税理士が不親切であれば、よく分からないまま申告を行うことになる
など
実際に、
令和2年には、5,106件の税務調査が行われ、1件あたりなんと943万円の追徴課税が課されています。
相続に強い税理士がついていれば、まず税務調査に発展する可能性も低く、
追徴課税を受けるような抜けや漏れもないため、安心して相続税申告を終えることができます。
相続後の生活は、相続に強い、良い税理士に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないのです。
「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
「相続税のことで悩んだり、支払いに追われる様な方を1人でも多く減らしたい」
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