この記事の執筆者
佐藤 元
元国税局職員。仙台国税局で採用後、東北地方の税務署にて税務相談や確定申告対応、税務調査、申告指導などの業務に従事。現在は相続税など税務関係などの専門ジャンルでライティングを中心に活動している。
「相続税の税務調査ってどんなことされるんだろう?」
「税務調査に備えておく必要ってあるの?私にも関係ある話なの?」
相続税の申告やその後の税務調査について、こういった不安や疑問をお持ちではないでしょうか。
このページでは、
- 相続税の税務調査とはどんなものか?
- 相続税の税務調査が来る時期や頻度
- 相続税の税務調査で見られやすい点や調査の範囲
- 相続税の税務調査を回避するコツ
などを中心に相続税の税務調査について、元国税局職員が詳しく解説します。
さらに「税務調査に入られやすいケース」や「税務調査で受けるかもしれないペナルティ」「税務調査についての様々なQ&A」についても解説します。
1.相続税の税務調査とはどんなもの?
この章では相続税の税務調査がどんなものなのかについて簡単に説明します。
具体的には、次の5つについて説明します。
- 相続税は他税目より10倍も税務調査が来やすい!
- 税務調査に入られると追加で税金を払うケースが87.6%!
- 税務調査では申告に関わる全てが調査対象になる!
- 税務調査は不正を把握し適正な申告納税にただすために行われる!
- 相続税の税務調査は相続人(全員)が対象になる!
①相続税は他税目より10倍も税務調査が来やすい!
相続税は法人税や所得税といった他の税目に比べて税務調査が来やすい税目だと言われています。
事実、税務調査に入られる割合は、所得税だと0.47%、法人税だと1.3%ですが、相続税の場合はその約4~10倍の4.7%が税務調査に入られています。
【所得税・法人税・相続税の比較】
- 所得税:3.1万(年間調査件数)÷657万(年間申告件数)=0.47%
- 法人税:4.1万÷306万=1.3%
- 相続税:6,317÷134,275=4.7%
相続税が税務調査に入られやすい理由としては、
- 申告件数が所得税や法人税に比べて申告件数が少ない
- 他税目よりも税額が高額になりやすい(被相続人1人あたりの平均税額は約1,819万円)
上記のようなデータや事情から、相続税は「税務調査が来やすい税目」だと言えます。
②税務調査に入られると追加で税金を払うケースが87.6%!
相続税の税務調査に入られた場合、追加で税金を払う場合が80%以上(※追加で払うケース数÷実地調査件数:4,475÷5,106=87.6%)です。
参考資料(国税庁):https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2022/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
税務調査に入られると80%以上が追加で税金を払うことになる理由としては「相続財産の計算が複雑多岐に渡る上に、滅多に行わない申告であるため、間違いが生じやすいからです。
税務署に目を付けられやすいケースについては「4.相続税の税務調査には「いくら以上」などの基準があるのか?調査に入られやすい13のケースを紹介」で詳しく解説しています。
③税務調査では申告に関わる全てが調査対象になる!
相続税に限りませんが、税務調査は「申告内容が正しいかどうか」をチェックするために行います。
そのため、申告書や添付書類などだけではなく、不動産や現金・預金、株式や債券等の有価証券など相続財産、さらに被相続人の家族などの相続人の資産状況なども含めた申告の基になったものを全て調査します。
ただ、一般的な税務調査である任意調査と、特殊なケースである強制調査とでは調査内容が違ってきますので、それぞれについて以下で説明します。
⑴一般的な税務調査(任意調査)
相続税の税務調査は大半の場合、任意調査で行われます。
調査前に電話などで「調査予告」という連絡が相続人や関与している税理士にあり、調査の実施日時や場所などを決めた上で行われます。
土地の権利証や通帳など調査に必要なものを事前に準備しておけばスムーズに調査が進みやすくなり、むやみに様々な部屋などを見られずに済みます。
ただし、任意調査ではあるものの、無予告で実施される税務調査もあるので注意しましょう。「任意調査」とは言うものの、正当な理由なく断ることはできません。「税務調査に対する受忍義務」というものが法律で決まっているからです。
■受任義務とは?
たとえ任意の税務調査だとしても正当な理由なく調査を拒むことはできないことを「税務調査に対する受忍義務」と言われています。
国税通則法128条では「(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者」は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定められており、これが受忍義務のこと指しているとされます。
⑵特殊なケース(強制調査)
強制調査として実施される税務調査もあります。いわゆる「マルサ」と呼ばれる国税局査察部による査察調査がそれに該当します。
査察調査は悪質性の高い、大口の脱税の摘発を目的に実施されるものであるため、調査の相手方の同意なしに大人数の職員により実施されます。
強制調査なので調査対象者の全ての資産や所有物が調査されます。
適正な申告をしていて任意調査にも応じていれば、基本的に対象となることはないでしょう。
④税務調査は不正を把握し適正な申告納税にただすために行われる!
相続税の税務調査は「申告内容が正しく適切なものか」をチェックするために行われます。
相続税以外の他の税目でも基本的には同じ目的で行われます。納税者の自己申告が正しい内容であれば問題ありませんが、間違いがあったり、中には税金を低く抑えるために不正行為を行っている人もいます。
そのような間違いや不正を把握し、適切な申告と納税にただすために税務調査は行われます。
⑤相続税の税務調査は相続人(全員)が対象になる!
相続税の税務調査では、相続人(相続人全員)が対象者になります。
関与している税理士がいれば一緒に立ち会ってくれますが、対象者はあくまで相続人です。
そのため、税務調査の際は原則、相続人全員が立ち会う必要がありますが、全員揃うことは稀で、相続人の代表者が調査に立ち会う形になることが多いです。
ちなみに、他の税目の税務調査の対象者は申告者本人(法人の場合は代表者)になります。
2.相続税の税務調査が来る確率や来やすい時期
ここでは相続税の税務調査が来る確率(頻度)や税務調査が来やすい時期について解説します。
①税務調査が来る確率4.7%って本当に低い?
相続税の税務調査が来る確率(頻度)は4.7%になります(※令和3事務年度調査事績より)。
相続税 | 所得税 | 法人税 | |
年間申告件数(a)※1 | 12万人 | 657万人 | 306万件 |
年間調査件数(b) | 5,106件 | 31,407件 | 41,000件 |
税務調査が来る確率(b/a) | 4.7% | 0.47% | 1.3% |
非違件数(c) | 4,475件 | 26,770件 | 31,000件 |
非違割合(c/b) | 87.6% | 85.2% | 75.6% |
申告漏れ課税価格(課税所得) | 1,785億円 | 4,198億円 | 6,028億円 |
1人あたり申告漏れ課税価格※2 | 3,496万円 | 1,337万円 | 1,478万円 |
追徴税額 | 482億円 | 804億円 | 2,307億円 |
1人あたり追徴税額※2 | 943万円 | 256万円 | 570万円 |
※1:相続税では「年間申告件数」ではなく「年間の相続税の申告書の提出に係る被相続人数」を、所得税では「申告納税額がある人数」をそれぞれ表記
※2:法人税では「調査1件あたり」
※3:表の数値は令和3事務年度のもの
これは申告所得税や法人税などに比べて約4倍以上の数字であり、それだけ税務調査が来やすい税目だといえます。
ただ、高額な財産を相続した人ほど調査対象に選ばれやすいと言われていますので、そういった人達だけに絞ると税務調査が来る確率はもっと高くなる可能性もあります。
また、相続税の税務調査が来た際に追加で税金を払うケースになる割合(非違割合)は87.6%となっています。
相続は生涯であまり経験することのないイベントであり、不適切な申告も発生しやすいからだと言えます。
参考資料(国税庁):https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2022/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
②相続税の税務調査が来やすい時期は「翌年または2年後の8〜11月」
相続税の税務調査は申告した年の翌年か2年後の8~11月に来ることが多いです。
これは国税組織の人事異動時期が7月ということも関係しており、人事異動の引継ぎなどが落ち着いて来る8月頃から本格的に着手し始めるからです。
また、申告したその年ではなく翌年か2年後に調査が入るのは、相続人の多さや複雑さ、土地評価の難しさなどが相続税の調査、1件の調査に長い時間がかかるためです。
3.相続税について税務署はなぜわかる?
税務署が相続税について分かるのは相続人が申告しているからですが、仮に申告義務があるのに無申告だったとしても把握することができます。
被相続人の生前の所得や資産状況を所得税などの申告で把握しており、相続財産の額を推計で算出しているからです。
また、それ以外にも資産状況を把握するための様々な情報収集を行っており、そういった情報源から被相続人の真の資産状況を把握していることもあります。
ただ、仮に税務調査に入られても、適正な申告をしていれば過剰に恐れる必要はありません。
4.相続税の税務調査に入られやすい13のケースを紹介!
ここでは相続税の税務調査に入られやすい13のケースを紹介します。
①不備のある相続税の申告をしてしまっている
不備のある申告とは申告書の記載ミスや添付書類不足などが発生している申告のことを指します。
こういった不備があると、税務署に税務調査などの接触の機会を与えてしまうことになりかねません。
税務署は被相続人の現預金や不動産など資産の状況を調査していますので、ちょっとでも不備があると「何か隠しているのでは?」と疑われやすくなってしまうからです。
②税理士が関与せず自分で申告している
申告書の作成などを自分で行っている場合も税務署にマークされやすいと言えます。
相続税の申告は添付書類が多く、さらに相続財産の計算も複雑になりやすいため、自分で申告しようとするとミスが発生しやすいです。
また、不動産評価額の算定など財産の評価は専門家でも得意不得意が分かれるところと言われています。相続税の申告件数が多く書面添付に対応しているような相続税に強い税理士事務所に依頼することをおすすめします。
⇒相続税申告を安心して任せられる税理士については「相続税に強い税理士を選ぶ4つのポイント!」をお読みください
③生前の現預金の出入りが頻繁な相続財産
被相続人の現預金の入出金が頻繁だと税務署から狙われやすくなります。
相続の近い時期に頻繁に繰り返される入出金があると「相続税逃れのための財産の移転ではないか?」と疑われやすいからです。
また、土地や有価証券など現預金以外の資産だと、価値の評価の仕方を巡って議論になることが多いですが、現預金の価値については議論の余地がないため、申告漏れなどがあった場合がほぼ確実にペナルティの対象になるという点からも狙われやすいと言えます。
④借入金に比べて相続財産が少ない
被相続人に多額の借入金があるのにそれに見合う財産がない場合、税務署からマークされることがあります。
多額の借入金がある場合、事業資金などの用途で使われることが多いからです。
被相続人が借入金を元手にして不動産や事業設備といった資産を入手していた場合、それらも申告すべき相続財産に含まれます。
これらは申告漏れしやすいので、税務調査に入られやすくなると言われています。
⑤生前贈与(暦年贈与)がある
年110万円までの生前贈与であれば非課税とされており、この非課税枠を利用した相続税対策がとられることがあります。
しかし相続が発生した場合、相続が発生した年からさかのぼって3年間(2024年からは7年間)は贈与された財産が相続財産に持ち戻されて計算されることになっています。
そのため、暦年贈与された財産が相続の近年にある場合は申告漏れがないかと疑われる可能性があります。
なお、暦年贈与とは暦年課税とも呼ばれており、暦上の1年間(暦年)で考える贈与のあり方を指します。
⑥名義預金がある
名義預金とは「被相続人が配偶者や子、孫などの名義で開設した口座」のことです。
なぜ名義預金がマークされるかと言えば、通帳や印鑑などを被相続人が管理しているなどで名義人が自分で自由に出し入れできない状態であるものは実質的に被相続人の財産とみなされ、相続税の計算に含めなければならないからです。
■どんなものが名義預金とみなされるのか?
上記以外にも名義預金とみなされてしまう場合もあります。
例えば「預貯金の原資が被相続人の収入から来たもの」である場合は名義預金とみなされる可能性があります。
具体的には被相続人が子や孫のために預貯金を積み立てていたり、専業主婦である被相続人の妻が密かに貯めていた預貯金(へそくり)などのケースが考えられます。
預貯金の原資が被相続人の収入に由来していると考えられるからです。
⑦相続人名義の証券口座に多くの金額が残っている
配偶者や子、孫など相続人名義の証券口座も税務調査に狙われやすくなります。
名義人が自由に取引できなかったり、入出金できなかったりすると、実質的に被相続人の証券口座だとみなされる可能性があるからです。
特に配当金を被相続人が受け取っていたりした場合は要注意です。
⑧海外資産が多いと怪しまれる
相続財産の中に海外資産が多いと税務署にマークされやすくなります。
現代では資産運用がグローバル化しており、海外株式や債券、投資信託などで資産を運用しているケースも増えています。そのため、税務署など国税当局は海外資産の把握に努めています。
特に金額の大きな海外との取引(約100万円超)については金融機関から税務署に情報提供する義務があるため、そういった取引が多い場合は目をつけられやすくなり、税務調査の対象となる確率が高まるといえます。
⑨生前に不動産や株式などの資産を持っていたのに申告額が少ない
被相続人が生前に不動産や株式などの資産を多く持っていたのに相続税の申告額が少ない場合も要注意です。
保有していた不動産や株式の多さの割に、現金などの資産が少なすぎると思われるからです。
税務署は過去の年の所得や資産の状況を申告などで把握しているため、申告額が過少だと思われると税務調査に入ってくる可能性が高いです。
⑩家族の資産が多い
家族の資産が不自然に多いという点から税務署にマークされることもあります。
家族自身の収入に比べて預貯金の残高が不自然に多かったり、その収入には見合わないほどの巨額の資産を保有していたりした場合は「相続対策として計画的に生前贈与されたのでは?」と疑われやすいからです。
こういった場合、家族自身が贈与税の申告を適切に行っていたかという点も見られます。
⑪被相続人が高収入の職業だった(上場企業役員、医師など)
被相続人が生前、上場企業の役員や医師など高収入と言われる職業に就いていた場合も税務調査に入られやすいと言えます。
高収入だったため、相続財産も高額になっていることが多いので、財産の申告漏れも発生しやすいからです。
⑫納税義務があるのに無申告
相続税は基礎控除や特例による控除などを超える相続財産にかかって来るものなので、計算した結果超えていなければ申告義務は生じません。
しかし、申告義務が生じない場合でも無申告で良いかといえば、そうではありません。
相続財産の見落としをしていたり、本当は適用できない特例を使っていたりなどをしている可能性があるため、「実は申告義務があった」ということも考えられます。この場合、無申告加算税というペナルティを課されてしまうこともあります。
こういったケースも考えられるため、一見、申告義務がなくても税務調査の対象にされてしまうこともあるのです。
⑬相続税の税務調査は富裕層ほど狙われやすい!「いくら以上」という基準はあるのか?
相続税の税務調査には「いくら以上の財産や税額なら対象とする」といった基準がある訳ではありません。
しかし相続財産の額が大きく相続税額も大きい、いわゆる富裕層ほど税務調査に入られやすいといわれています。
(一説には、相続財産が2億円以上は税務署にマークされやすいともいわれています)
相続財産が大きいと相続税の申告も複雑になりがちになり、不動産や有価証券などの評価価額の計算ミスや相続財産の見落としなどが発生しやすくなるからです。
また、大きい相続財産になるほど意図的に隠す余地も生じやすくなるため、そういった悪質なケースも摘発する目的でも税務署から狙われやすいといえるでしょう。
5.相続税の税務調査を回避するコツ!
ここでは相続税の税務調査を回避するための方法・コツとして、次の5つをご紹介します。
- 正しい申告を行う
- 被相続人の財産をキチンと把握する
- 生前贈与したときは証拠を残す
- 相続に関するやりとりは遺言などで残す
- 相続税に強い税理士に申告を相談する
相続税の税務調査を完全に回避できる訳ではありませんが、調査に来る可能性を下げることが期待できます。
①正しい申告を行う
基本中の基本ですが、申告を正しく行うということが大切です。もちろん、正しい申告をしていたとしても税務調査が来るときは来ます。
しかし、相続財産を正しく計算して算出された適正な相続税額であれば、仮に税務調査が来たとしても、追徴課税が課されるといったペナルティを受ける可能性は極めて低くできます。
ただ、相続税の申告は複雑で煩雑な手続きになることが多いため、自分で申告することが難しくなりがちです。
正しい相続税申告を行うためにも⑤で紹介する「相続税に強い税理士」に相談しましょう。
②被相続人の財産をキチンと把握する
被相続人(亡くなられた方)が保有していた財産をキチンと把握しておくということも大事です。
被相続人が配偶者や家族にも知らせていない財産を保有しているのに、税務署の方は実は把握しているという状況になると、申告漏れのリスクが非常に高まり、税務署にマークされてしまうでしょう。
こういった事態を防ぐためにも、家族など相続人は被相続人がどんな種類の財産をどのくらい保有しているのかを生前から把握しておくことが大切です。
③生前贈与したときは証拠を必ず残す
生前贈与を行った時は必ず証拠を残しておくということも税務調査を回避する可能性を高める上では重要です。
相続の日からさかのぼって3年前※の日までの間に贈与された財産については金額に関わらず相続財産に加算されるのですが、それには該当しない贈与でも証拠は残しておいた方が良いでしょう。
証拠がない場合「本当に適切な贈与なのか?」と税務署から不審に思われてしまう可能性があるため、税務調査に入られやすくなってしまうからです。
※2024年からは「相続の日からさかのぼって7年前の日」までに延長されます。
④相続に関するやりとりは遺言などで残す
相続に関するやりとりは必ず書面など形で残すようにしましょう。
生前贈与に関するやりとりだけでなく、遺産分割の決め方やどの財産を誰が持つかなどについても記録を残しておきましょう。
こういった記録が詳細に残っていれば、相続財産を正確に把握し、適切に相続税の申告も行っていた証拠になりますので、税務調査先として選ばれにくくなる可能性を高められます。
⑤相続税に強い税理士に申告を相談する
相続税に強い税理士に相談することで、税務調査に来る可能性を下げて、さらに適切な節税策のアドバイスも期待できます。
相続税に強い税理士かどうかを判断する次の4つのポイントを紹介します。
- 年25件以上の申告実績があるか
- 明朗会計か
- 一つの窓口で相続税申告が完結できるか(司法書士と提携しているか)
- 書面添付の対応
⑴年25件以上の申告実績があるか
相続税は申告件数が他の税目に比べて少なく、相続税の申告の経験自体が少ないという税理士も少なくありません。
最低でも年間25件以上(月に2件以上)の申告を経験している税理士でなければ、「相続税に強い」とはいえないでしょう。
ただし、地域によっては人口分布など事情も変わってきますので、人口が少ない地域では「年間15件以上の相続税申告に関与しているか」といった観点で実績を評価する必要もあるでしょう。
⑵明朗会計か
報酬の料金表を明示しているなど明朗会計かどうかも相続税に強い税理士かどうかを見極める上では重要な指標になります。
報酬の料金表を明示することで、税理士はどんな顧客にも同じ料金体系を適用しなければならなくなるため、他の税理士と料金面で比べられやすくなります。
しかし、比べられてもそれでも選ばれるだけの自信があるからこその明朗会計とも言えますので、明朗会計である税理士は相続税に強い税理士である可能性が高いと言えます。
⑶1つの窓口で相続税申告が完結できるか(司法書士と提携しているか)
相続に関する窓口が1つになっているかという点も重要です。
相続は税の申告だけでなく土地など不動産の登記変更も伴いますので、「税金の方はできるけど、登記関係は自分で司法書士を探して」では負担が大きくなります。
仮にすぐに司法書士が見つかったとしても「相続について再度1から説明しなければならない」という手間もかかってしまいます。
司法書士と連携して、相続に関する登記から税金関係までワンストップで対応可能という税理士事務所であれば、負担も減って手続きもスムースに進めることができます。
⑷書面添付の対応
書面添付の対応を行っているかという点も「相続税に強い税理士かどうか」を見極める上では大切です。
書面添付とは税理士法33条の2に規定される書面を添付していることを言い、この書面を添付することで「税務調査に入られにくくなる」「重加算税が課される可能性をかなり低くできる」「税務調査前に税理士の意見聴取が必要になる」といったメリットが受けられます。
この書面添付は納税者に大きなメリットがある反面、記載内容に誤りがあった場合、税理士は業務停止処分を受けるリスクもあるので、本当に自信がある税理士でないと活用できない制度だといえます。
6.相続税の税務調査に対する事前準備
ここでは相続税の税務調査が来てしまった時の対策や事前準備について説明します。
①事前準備しておくべきこと
相続税の税務調査はある日突然やって来るということはあまりありません。
多くの場合、事前に税務署から予告され、その予告があった日時に実施される形になります。
税務調査が実施される日までに次の3点は特に重点的に準備しておきましょう。
⑴相続税申告書の再確認
まず、既に提出している相続税申告書の内容を再確認することが大事です。申告内容に記入漏れや計算間違いなどがないか、できるかぎり細かく確認しておきましょう。
申告書作成を税理士に頼んでいた場合は、税理士にも確認しながら申告内容のチェックを行いましょう。
⑵相続財産の洗い出し
被相続人の財産について洗い出し、見落としていた財産が無いかチェックしておきましょう。
特に見落とされがちな財産の例としては下記のようなものがあります。
- 生命保険金
- 宝石や美術品、骨董品など
- 名義預金
- タンス預金
- 未返済の貸付金や売掛金などの債権
- 所有していた土地や山林のうち未把握のもの
- 亡くなる前3年以内※に贈与された財産
※2024年からは「相続の日からさかのぼって7年前の日」までに延長されます。
これらには特に気をつけておきましょう。
⑶申告が真実だと裏付ける証拠を集める
申告した内容が真実であると裏付けられる証拠書類などもできる限り集めておきましょう。そういった証拠になりうるものとしては下記のようなものがあります。
- 被相続人の預貯金通帳やデータ
- 相続人の預貯金通帳やデータ
- 相続人の印鑑
- 相続人が所有している土地の権利証や不動産購入時の契約書など
- 相続税申告の際に使用したその他資料(できるだけ原本)
税務調査の当日までにはできる限り揃えておきましょう。
②調査される場所やモノなど
相続税の税務調査では申告内容に関係する場所が調査場所になります。そのため、被相続人の生前の自宅などが調査場所になることが多いです。
もし被相続人の自宅が既に存在しないなどの事情の場合は、相続人の自宅などで実施されることになります。
また、調査されるモノとしては主に以下のようなものがあります。
- 金庫やタンス、倉庫(貴重品を保管していた場所)
- 預貯金通帳や不動産の契約書などの書類を保管している場所
事前にこれらを用意しておくことで税務調査はスムースに進みやすくなり、保管場所などをくまなく調べられるといった事態も回避しやすくなります。
なお、これらを確認する調査の他に、相続人に対する質問調査も実施されます。
7.相続税の税務調査の流れと注意点
ここでは相続税の税務調査の流れや調査される際の注意点などについて紹介します。
①税務調査前(実地調査の前)
実地の税務調査が始まる前から実は調査は始まっています。
ここではまず実地調査前に注意しておくべきことなどを紹介します。
⑴調査予告
調査予告とは税務署から相続人や関与税理士に税務調査を実施する旨の連絡をすることを指します。
正当な理由がない限り、税務調査を拒むことはできません。
しかし「いつ調査を実施するか」については交渉の余地がありますので、現状繁忙期などで税務調査に対応できる時間的な余裕がないという事情であれば、調査の実施時期を後にずらしてもらえることもあります。
また、調査に立ち会うべき相続人は原則全員ですが、無理なら可能な限りの人数を揃えて下さい。
⑵事前準備など
税務調査の予告がされて、実施日時も決まったら、調査当日に向けて事前準備を進めておきましょう。
具体的には申告内容の記載漏れがないか、申告書の計算が間違っていないかなどについてチェックしたり、相続財産の中に把握漏れがないか洗い出したり、申告内容が真実だと裏付ける証拠書類など集めたりなどしておくと良いでしょう。
詳しくは「事前準備しておくべきこと」をお読みください。
⑶調査は何年さかのぼる?
相続税の税務調査は申告後1~2年で来ることが多いですが、5年以内であれば税務調査に入ってくる可能性はあります。
さらに特に悪質性が高いと判断された場合は最大7年前までさかのぼって調査することができるので、その間はいつ税務調査が来ても良いように準備しておくべきでしょう。
②税務調査当日
ここでは税務調査当日の一般的な流れを簡単に紹介します。
税務署からは国税調査官が2名来ることが多いですので、その想定で以下では説明します。
⑴聞き取り調査(質問調査)
当日臨場した国税調査官はまず世間話から始めて、質問形式の調査に入っていくことが多いです。
※詳しくは「8.相続税の税務調査でよく訊かれることとその意図」をお読みください。
質問内容は被相続人の経歴から交友関係、資産状況に至るまで多岐に渡りますが、調査のヒントにする意図で行われます。
税務調査ということで緊張するかも知れませんが、事実を正直に話すだけで大丈夫です。
もし不安なら事前に税理士にも相談して、想定問答など準備しておきましょう。
⑵現物確認調査
被相続人の生前の生活状況を探るため、被相続人の自宅の金庫や倉庫などの現物を確認する調査が行われます。
申告書には記載されていない預金通帳など税務署が把握していない財産が見つかる可能性があるからです。
任意で行われる調査では家のモノなどが強制的に探されることはありませんが、調査官から「見せてほしい」と言われたモノは基本的に応じるようにしましょう。
素直に応じることで調査を早めに終わらせることができるからです。
⑶調査官の昼休み中
調査官も昼食などのために通常1時間ほど昼休みを取ります。調査官にとって相続人や税理士は利害関係者にあたるため、昼食を一緒に食べるということはあまりありません。
この昼休みの時間中は、調査官と相続人双方が午前中の反省と午後の対策などを練ることになります。
⑷税務調査での指摘事項など
税務調査がある程度進んでいくと、調査官はそれまでに把握した問題点や不審点などについて具体的な指摘事項として提示してきます。
これらの指摘事項が後に下される追徴課税などの課税処分の根拠になるので、よくよく確認し、正当な言い分がある場合は税理士と相談して対策を考えましょう。
詳しくは「9.相続税の税務調査では何が指摘される?」をお読みください。
⑸質問応答記録・・・場合によっては作成する
税務調査の終盤では、質問応答記録書と呼ばれる書類を作成することになります。
これは税務調査で把握された指摘事項を基に、追徴課税などの課税処分を行う上で重要な事実関係を記録するための書類です。調査官が質問して、相続人(納税者)がそれに回答するという形式を取ることが一般的です。
記録された内容に問題が無ければ、書類の最後に相続人が「事実と相違ない」旨の署名捺印をします。なお、この署名捺印は任意であるため、内容が明らかに正当性のなく受け入れられないというものであれば、拒否することもできます。
③調査日数・調査範囲と深度
相続税の実地調査は通常1日で終わりますが、2日かかることもあります。ただ、調査官は銀行調査や裏取りのための反面調査なども引き続き行うため、実際の調査日数はもっと多いです。
調査範囲は「相続税の申告に関わる全て」ですが、その中でも「見落とされやすい(隠しやすい)財産」である預金通帳や印鑑、現金、有価証券などを中心に調査されます。
また、基本的に過去3年さかのぼって調査されることが一般的ですが、悪質性が高いと判断された場合、最大過去7年間さかのぼって調査されることもあります。
8.相続税の税務調査でよく訊かれることとその意図
ここでは相続税の税務調査でよく訊かれることや、その意図について解説します。質問に対応する意図をそれぞれ解説します。
①被相続人の経歴
被相続人の生前の学歴や職業、住居の異動歴、最後の職場など経歴について調査官から質問されることが多いです。
質問の意図としては、
- 被相続人が蓄財してきた経緯
- 過去の居住地に未把握の財産がないか
- 退職状況や退職金について
などについて確認するためという場合が多いです。
特に、被相続人の所得状況について税務署はある程度把握していますが、かなり古い分については把握できていないこともあるため、相続人に質問することで補完しておこうとするためです。
②相続人など関係者の情報
相続人や親族など関係者に関する職歴や年収などについて質問されることも多いです。
その意図としては
- 被相続人から実は贈与されていた財産がないか
- 相続人以外の親族の状況
などを確認するためという場合が多いです。
相続人名義の財産でも、相続人の年収に比べて不相応に高額な財産を所有している場合は「実は被相続人から移転された財産では?」と疑われるからです。
③被相続人の死因や晩年の健康状態
「被相続人が亡くなった原因は何ですか?」
「どちらの病院で亡くなりましたか?」
「亡くなる前どのくらいの期間意識はありましたか?」
といった質問を調査官からされることもあります。
こういった質問の意図としては
- 入院後の資金管理は誰が行っていたのか
- 被相続人が認知症ではなかったか(意思能力はいつ頃まであったのか)
などを確認するためという場合が多いです。
もし意思能力を喪失してから贈与されたとする財産があった場合、そういった財産は贈与として成立するものではないので、相続財産に含まれることになります。
そういった不適切な財産の移転などをあぶりだすために訊かれます。
④資産の状況(特に不動産)
「自宅はいつどのように取得したのか?」
「自宅には誰が住んでいたのか?」
「賃貸用不動産の契約書を見せてください」
こういった質問をされることもありますが、こういった質問の意図としては
- 自宅や賃貸用不動産が「小規模宅地の特例」の適用要件を満たしているか
- 自宅の購入原資はどこから出てきたのか
などを確認するためという場合が多いです。
特に「小規模宅地の特例」などは適用の有無で税額が大きく変わってくる話ですので、念入りにチェックされるでしょう。
⑤被相続の人柄など(交友関係・趣味など)
被相続人の交友関係や趣味、生活ぶりなどについての税務調査で訊かれることもあります。
その意図としては
- 交友関係が派手かどうか(散財などしていたかどうか)
- お金のかかる趣味だったかどうか
などを確認するためという場合が多いです。
被相続人が生前から散財する傾向があった場合は相続財産が少なくても違和感があまりないですし、美術品集めが趣味だった場合は相続財産に美術品などが含まれていることが考えられます。
こういった当たりをつけるために調査官は質問しています。
9.相続税の税務調査では何が指摘される?
ここでは相続税の税務調査で指摘されやすいポイントについて紹介します。
ポイント①:名義預金
名義預金とは「相続人名義の預金ではあるものの、実質的には被相続人の預金だと認められる預貯金」のことを指します。
詳しくは「⑥名義預金がある」をお読みください。
このような名義預金に該当すると思われる預貯金が把握された場合、相続財産の申告漏れや意図的に隠していたのではと疑われるため、予め申告書に真実の金額を記載していない限り調査官から指摘をされるでしょう。
ポイント②:定期贈与
定期贈与とは「毎年決まった金額の贈与を行っている場合に税務署から『はじめから決まった金額の財産を渡すための計画的な贈与では?』とみなされてしまう贈与」のことです。
定期贈与だとみなされてしまうと、通常の暦年贈与では使えるはずの基礎控除110万円/年が最初の年の贈与だけにしか認められなくなり、財産を一括して贈与した時と同じ贈与税の計算になってしまいます。
ポイント③:生前贈与の契約書
生前贈与があった場合、それが事実として贈与されたものなのか、あるいは本当は被相続人の死後になされた相続財産の移転なのかという点を疑われることもあります。
そういった場合に備えて、事実を証明するために贈与契約書のような形として残るものを準備しておくと良いでしょう。
ポイント④:書画・骨董品など
書画・骨董品も相続財産に含まれますので、もし調査官が税務調査に来た時に申告書や添付書類に記載されていない書画・骨董品などが見つかった場合、指摘される可能性は高いです。
なお、書画・骨董品の価値は購入時の価格ではなく、売却した場合の現在の市場価格で評価されます。
ポイント⑤:現預金
頻繁に移動している現預金も調査官から指摘されやすいと言えます。
相続税対策として資金移動を行っている可能性が高いと考えられるからです。また、家族など相続人の収入に比べて残高が大きすぎる場合も怪しまれやすいです。
詳しくは「⑩家族の資産が多い」をお読みください
10.相続の税務調査では平均1千万円弱の追徴課税が課されている!
相続税の税務調査では、87.6%のケースで平均1千万円弱の追徴課税(ペナルティとして追加で税金を払うこと)が課されています。
相続税 | 所得税 | 法人税 | |
年間申告件数(a)※1 | 12万人 | 657万人 | 306万件 |
年間調査件数(b) | 5,106件 | 31,407件 | 41,000件 |
税務調査が来る確率(b/a) | 4.7% | 0.47% | 1.3% |
非違件数(c) | 4,475件 | 26,770件 | 31,000件 |
非違割合(c/b) | 87.6% | 85.2% | 75.6% |
申告漏れ課税価格(課税所得) | 1,785億円 | 4,198億円 | 6,028億円 |
1人あたり申告漏れ課税価格※2 | 3,496万円 | 1,337万円 | 1,478万円 |
追徴税額 | 482億円 | 804億円 | 2,307億円 |
1人あたり追徴税額※2 | 943万円 | 256万円 | 570万円 |
※1:相続税では「年間申告件数」ではなく「年間の相続税の申告書の提出に係る被相続人数」を、所得税では「申告納税額がある人数」をそれぞれ表記
※2:法人税では「調査1件あたり」
※3:表の数値は令和3事務年度のもの
ここではどんな種類の追徴課税があって、どういった場合に課されるのかということを解説します。
①延滞税とは?
延滞税とは「納期限が過ぎた税金に課される利息のような性質の税金」のことです。
滞納している税金が納付されない限り、延滞税は加算され続けます。なお、延滞税の税率は以下の通りです。
- 納期限の翌日から2カ月を経過するまで:年2.4%
- 納期限の翌日から2カ月を経過した日以降:年8.7%
※令和5年1月1日~令和5年12月31日に適用される税率(国税庁HPより)
②加算税とは?
加算税とは「申告漏れや無申告などに対するペナルティとしての税金」のことです。
主なものとして無申告加算税・過少申告加算税・重加算税などがあります。以下の③~⑤ではこれらの加算税について解説します。
③無申告加算税とは?
本来は相続税の申告義務があるのに期限内に申告しなかった場合に課されるペナルティ的な追徴課税です。
意図的に申告しなかった訳ではなく、失念や勘違いなどにより申告できなかった場合に課される税金です。加算される税率は本来納付すべきだった税額によって変わります。
本来の税額が50万円までは15%で、50万円を超える部分については20%が加算されます。
④過少申告加算税とは?
本来納めるべき相続税額よりも少なく申告していた場合に課される税金のことです。
意図的に税金を少なく申告した場合ではなく、計算間違いや過失として申告漏れした場合に課される追徴課税のことです。
本来の税額の10%(期限内申告で納税すべきだった税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)に相当する金額が追徴課税されます。
⑤重加算税 とは?
重加算税とは追徴課税の中で最も重いペナルティであり、「隠ぺいまたは仮装」の事実が確認された時に課される課税処分になります。
「隠ぺいまたは仮装」とは「本来相続税の計算に含めるべき財産を故意に隠したり、少ない金額で申告したりすること」です。代表例としては二重帳簿や架空経費などがあります。
無申告の場合の重加算税は40%であり、過少申告の場合の重加算税は35%です。
11.相続税の税務調査で最悪は逮捕もありうる⁉
ここでは「相続税の税務調査の結果、最悪の場合逮捕されることもありうるのか?」などの疑問点について解説します。
①脱税で本当に逮捕されるのか?
相続税の負担から逃れるために故意に財産を隠したり、少なく申告したりした場合で、特に悪質な脱税だと判断されると、逮捕されることもあります。
国税局による査察調査(いわゆるマルサ)が入り、逮捕・起訴される形になります。
なお、相続税法第68条では「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされています。
②追徴課税を受ける可能性は?
相続税の税務調査で追徴課税(追加で税金を払うペナルティ)を課される可能性は例年80%超です(令和4事務年度は87.6%)。
税務署は追徴課税が発生しそうな申告書を中心に税務調査先として選定していますので、税務調査先として選ばれないような適正な申告をすることで、つけ入るスキを与えないようにしましょう。
③無申告だと罰金は高い?
無申告の場合に課されるペナルティとして、無申告加算税や重加算税などがあります。
通常の無申告加算税であれば15~20%で、重加算税であれば40%が本来納めるべきだった税額に加算されます。
④罰金はどのくらいなのか?
ペナルティとして課される税金には、延滞税や無申告加算税、過少申告加算税などがあります。
それぞれ本税(本来納めるべき税金)に対して一定の倍率を加算した税金が課されます。
詳しくは「10.相続の税務調査では平均1千万円の追徴課税が課されている!」をお読みください
⑤申告漏れに利息がつくのか?
決められた納期限までに納付しない場合、利息にあたる延滞税と呼ばれる税金が課されます。
なお、延滞税の税率は以下の通りです。
- 納期限の翌日から2カ月を経過するまで:年2.4%
- 納期限の翌日から2カ月を経過した日以降:年8.7%
※令和5年1月1日~令和5年12月31日に適用される税率(国税庁HPより)
⑥脱税に時効はあるのか?
相続税の納税義務は被相続人が亡くなってから最大7年経過で消滅時効が成立します。
被相続人が亡くなったという事実を知らなかった場合(善意)であれば5年で消滅時効が成立し、亡くなったという事実を知っていた場合(悪意)であれば7年で消滅時効が成立します。
12.相続税の申告で漏れやすい財産とは?
ここでは相続税の「申告漏れ」になりやすい財産をご紹介します。
①現金
現金は相続税の申告漏れしやすい財産の代表例です。現金は典型的な「足跡がつきにくいモノ」であり、タンス預金のような思わぬ形で残っていることもあります。
相続財産を計算する場合は、こういった現金の数え漏れがないように注意する必要があります。
②名義預金
名義預金とは「家族など相続人の名義にはなっているものの、実質的には被相続人が管理している預貯金」のことを指します。
名義が被相続人ではないので、一見すると相続財産に見えませんが、実質的には被相続人の預貯金と変わりませんので、相続財産に含めて計算すべきものになります。
③生前贈与
生前贈与された財産は申告漏れしやすいと言えます。相続発生前の3年間に贈与された財産は相続財産に持ち戻しされます。
特に2024年からは持ち戻される期間が7年間に段階的に延長されるので、生前贈与された財産の申告漏れはさらに起きやすくなるでしょう。
④生命保険権利
被相続人に生命保険金がかけられている場合は要注意です。生命保険金も相続財産として税金が課される場合があるからです。
生命保険金の場合、500万円×法定相続人の数で非課税枠が定められているため、この金額を超える保険金は相続税の計算に含まれる財産になります。
⑤不動産(先代名義や固定資産税が非課税)
先代名義(今回の相続よりもさらに前の相続時の名義)の財産なども相続財産に含まれます。
確かに本来は先代の相続時に計算すべき話ではあるのですが、代襲相続の形で現時点の相続人の分として計算しなければならないです。
⑥上場株式
被相続人が保有していた上場株式も相続財産になりますが、評価の計算を間違えることで結果的に過少申告になってしまうことがあります。
上場株式の評価計算の仕方は以下の通りです。
- 原則:被相続人が死亡した日の時価
※ただし次の3つの価額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額により評価 - ⑴被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の月平均額
- ⑵被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の月平均額
- ⑶被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
⑦ネット口座
ネット銀行・証券の口座も一般的な金融機関や証券の口座と同様に相続財産に含まれます。
しかし通帳などはオンラインのものが多く、現物が残らないことも多いため、その存在に被相続人しか気づいておらず、相続後に税務署から指摘されて初めて分かったということもあります。
生前からネット口座の存在を家族など相続人にも伝えておいたり、遺言書にネット口座の情報を具体的に記しておくなどしておくことで申告漏れを防ぎましょう。
⑧配当期待権・未収配当金
配当期待権とは「今後交付されるはずの配当を受け取る権利」のことであり、未収配当金とは「配当金額や交付は確定しているものの、まだ受け取っていないだけの配当金」のことです。これらは両方とも相続財産に含まれます。
被相続人が株式など配当が期待される金融資産を多く持っている場合は見落とさないように特に注意が必要でしょう。
⑨デジタル資産等
相続税の申告漏れが起こりやすいデジタル資産として「ビットコインなどの暗号資産やNFT」などがあります。
かなり大まかな説明になりますが、暗号資産とは「ブロックチェーンという技術により暗号化された資産」のことです。
NFTとは「Non Fungible tokens(ノン・ファンジブル・トークン)」の略であり、「代替できない、価値の証拠(となるデータ)」を意味します。
これらも近年、財産的価値を認められるようになりましたので、被相続人が保有していたのに相続財産に含まれていなかった場合は申告漏れになってしまいます。
⑩事業用資産
被相続人が事業を行っていた場合、事業用の資産も相続財産に含まれます。
事業用資産はさらに一般動産と棚卸資産に分けられます。
一般動産とは不動産以外のモノのことであり、機械装置や自動車、パソコンなどが該当します。棚卸資産とは、いわゆる在庫のことであり、販売目的で仕入れたもののまだ販売されていない商品等のことです。
これを評価する際は「売買実例価額」や「精通者意見価格」等を用いて計算する必要があります。
13.相続税の税務調査のさまざまなQ&A
ここでは相続税の税務調査についてのさまざまなQ&Aを紹介します。
①税務調査は相続人全員で対応しないといけないの?
相続税の税務調査では、原則相続人全員で立ち会う必要があります。
調査対象者が相続人全員だからです。ただし、どうしても全員での立ち合いが困難であれば相続人の代表者のみが立ち会う場合もあります。
②税務調査の結果に不服申し立てできる?
相続税の税務調査の結果を受け入れることができないという場合は、国税不服審判所に申立することができます。
ただ、必ず納税者側に有利な裁決に覆る訳ではありません。
なお、国税不服審判所の裁決でも納得できないという場合、通常の司法の裁判所に訴えることもできます。
③税理士の役割って何?
税理士は「納税者が正しい申告と納税ができるようにサポートしたり、賢く節税できるようにアドバイスしたりするのが仕事です。
相続税に強い税理士が関与していることで、納める税額を適切に抑えられたり、税務調査率を下げることができます。
④税理士にはどのくらいの報酬を支払うの?
相続財産の0.5~1%程度の報酬になることが一般的ですが、財産の額によって段階的に報酬額も上がっていく方式を取っている税理士もいます。
また、作成する書類が多くなったり、未把握の相続財産の確認などまで依頼すると、報酬はその分加算されていきます。
⑤税理士の書面添付制度って何?
書面添付制度とは、税理士法33条の2により規定される書面を添付して申告書を提出することについての取り決めのことです。
この書面は「税理士が十分に納税者を調査した上で申告書を作成しました」というお墨付きを与える効果があります。
この書面があることで、税務調査が省略されたり、税務調査に入られる可能性を下げることが期待できます。
⑥税務調査で家族同士が揉めることはあるの?
税務調査が原因で揉めることも考えられることではありますが、相続財産の分割の仕方などを巡って争いが起きることは比較的多いです。
令和3年度の家族など相続人同士で揉めた件数(遺産分割等事件数)は約13,500件であり、同年分の相続税申告件数(約134,000件)の約10%にあたります。
発生した相続のうち1/10は「揉めてしまう」という事実を示しています。
相続税の申告でお困りの際は「相続税に強い税理士」に相談することをおすすめします。
⑦タンス預金は見つかりやすい?
いわゆるタンス預金は税務調査ではよく見つかります。
税務署は税務調査を実施する前に被相続人の生前の所得や資産の状況を申告などからある程度推計しており、その額から著しく乖離していると、タンス預金を疑われやすくなります。
実際に過去の税務調査では家具だけでなく、トイレタンクや庭まで調べられて、タンス預金が把握されたこともあったようです。
⑧税務調査が再度実施されることはあるのか?
相続税の税務調査で再調査が実施されることは稀です。
ただし初回の調査後に新たな事実を税務署が把握した場合、再調査が実施される可能性が高まります。
なお、相続税の納税義務は最大7年で消滅時効を迎えます。
⑨コロナ禍でも相続税の税務調査はあったのか?
コロナ禍の最中だった令和2年~3年でも相続税の税務調査は実施されていました。
ただし、コロナ禍前に比べると調査の実施件数や実施率は下がっています。
参考資料(国税庁):令和2事務年度における相続税の調査等の状況|国税庁
⑩少額の財産でも相続税の調査は来るのか?
たとえ少額の相続財産だったとしても税務調査になる可能性はあります。
国税庁は「適正・公平な課税の推進」を掲げている官庁であるため、財産や納税額の多さだけで税務調査先を選ぶわけではないからです。
ただ、相続財産が多い納税者ほど税務調査先に選ばれやすいのも事実です。
⑪税務調査を逃げ切った例はないのか?
税務調査先に選ばれてしまった場合、正当な理由なく拒否することはできません。しかし、税務調査先に選ばれない可能性を極力高くすることはできます。
相続財産を正確に把握し、適切な申告・納税することで「税務署につけ入るスキを与えない」のが最も効果的な調査回避方法です。
また、相続税に強い税理士に関与を依頼することも税務調査を回避する上では効果的だと言えるでしょう。
⑫相続税の税務調査の体験記ブログなどはあるか?
相続税の税務調査の体験を綴ったブログなどは検索すれば多く見つかります。
相続税の税務調査を受けた人の実体験記は、税務調査が実際にどんな流れで進み、どんなことが不安だったのかなどをリアルに知るために役立ちます。
ただ、個人の体験記である分、情報が主観的過ぎだったり、不正確だったりするので、参考程度にするのが良いでしょう。
⑬相続放棄しても税務調査は来るのか?
相続放棄した場合、相続人が受け取る相続財産は基本的に無くなるので、相続税が課されることはありません。
しかし被相続人の生命保険金や死亡退職金など当初の相続財産に含まれていなかったものでも、後から相続財産とみなされるものが発生した場合は、後日相続税の申告・納税漏れとなり、結果として税務調査が来てしまうこともあります。
⑭相続税の税務調査に選ばれやすい家庭とは?一般家庭も対象?
相続税の税務調査に選ばれやすい家庭とは、税務署につけ入るスキがある相続税の申告をしている家庭です。
スキのある申告とは、必要な添付書類が抜けていたり、税金の計算が間違っていたり、税理士を関与させず自力で申告書を作成していたりといった、申告漏れや誤りが発生している可能性の高い申告のことです。
こういった申告を税務署が把握した場合、税務調査先として選ばれる可能性は上がるといえるでしょう。
専門スタッフが
ご相談に乗っています
- 身内が亡くなった、今すぐ相談したい
- 相続税申告について何も分からない
- 相続専門の税理士を紹介して欲しい
相続に関することであれば、どんなご相談でもお受けしています。
相談は無料です。繋がらないときはお時間をおいておかけ直しください。
私たちの想い
相続後に、
遺産をしっかり受け取り、安心して日々を過ごすことができるかどうか。
その鍵は、相続に強い税理士に出会えるかどうかが握っています。
例えば・・
- 申告に漏れがあれば、税務署から調査を受け追徴課税を支払う可能性がある
- 税理士が見つからず申告が間に合わなければ罰金を受けたり税金が高額になる
- 税理士が不親切であれば、よく分からないまま申告を行うことになる
など
実際に、
令和2年には、5,106件の税務調査が行われ、1件あたりなんと943万円の追徴課税が課されています。
相続に強い税理士がついていれば、まず税務調査に発展する可能性も低く、
追徴課税を受けるような抜けや漏れもないため、安心して相続税申告を終えることができます。
相続後の生活は、相続に強い、良い税理士に出会えるかどうかで決まるといっても過言ではないのです。
「亡くなられた方の遺産を、大事な方々にしっかりと残して欲しい」
「相続税のことで悩んだり、支払いに追われる様な方を1人でも多く減らしたい」
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