未成年の子どもがいる夫婦が離婚するとき、必ず決めなければいけないのが親権者です。離婚するときに「子どもの親権だけは譲れない」という方は多く、しばしば激しい対立の原因となります。
しかし、そもそも「親権」とは何なのか、どのようにして決められるものなのかを正確に理解していない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「親権」とは何なのか、そして親権者になるためにはどうすればよいのかについて解説いたします。
親権とは
親権の意味
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親権とは、未成年の子どもを監護し、教育し、その財産を管理する権利や義務のことをいいます。親権を行使する者のことを親権者といいます。
未成年の子どもが一人前に育つ前での間、子どもの生活の面倒を見たり、教育を受けさせたり、時にはしつけをしたりする役割を担うのが親権者です。
親権は権利であると同時に、未熟な子どもが精神的にも肉体的にも成長し、社会的に一人前になれるように図っていくという親の義務としての側面も有しています。
共同親権
父母が婚姻している間は、父母が共同して親権者となることが民法で定められています。これを共同親権といいます。
共同親権の例外として、父母の一方が親権を行うことができないときは他の一方が親権を行うとされています。親権を行うことができない場合とは、親権者に成年後見や保佐開始の審判があった場合や、刑務所などに服役している場合、重病を患っている場合などがあります。
また、父母の一方が亡くなった場合や失踪宣告を受けた場合には単独親権となるとされています。
養子縁組をした場合
未成年者が養子縁組をした場合は、親権者は養親になります。養子縁組をした後に養親が亡くなってしまった場合は、前の親が親権者に戻るようなことはなく、親権を行使するものがいないことになり、未成年後見人を選任しなければいけません。
父母が離婚した場合の親権
父母が離婚するときには、それ以上親権を共同して行使することができなくなりますので、父と母のどちらが親権者となるのか決めなければいけません。離婚届には父母のどちらが未成年の子どもの親権者となるのか記入する欄があり、未成年の子どもがいる場合、この欄は必ず記入しなければいけません。
父母のどちらが親権者になるのか、話し合いによって決めることができない場合には、当事者が家庭裁判所に調停の申し立てを行い、家庭裁判所が親権者を決定することになります。
親権には財産管理権と身上監護権の2種類がある
財産管理権とは
親権には財産管理権と身上監護権の2つがあります。
財産管理権とは、未成年の子どもの財産を管理し、その財産に関する法律行為を子に代わって行う権利をいい、具体的には包括的な財産の管理権と子どもの法律行為に対する同意権を指します。
身上監護権とは
一方の身上監護権とは、未成年の子どもの身体的・精神的な成長を図るために監護や教育を行う権利をいいます。わかりやすく言うと、子どもの近くに暮らし、世話や教育をする権利や義務のことをいいます。具体的には、子どもが住む場所を指定する権利、子どもに対してしつけをする権利、子どもが婚姻などをするにあたって同意や不同意をする権利、子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利などがこれに含まれます。身上監護権のことを単に「監護権」という場合もあります。監護権は親権の一部であり、例外的な場合を除いて親権者はすなわち監護権者であるという関係にあります。
親権とは子どもの財産と成長を見守る権利
つまり、親権は子どもの財産を見守る権利(財産管理権)と成長を見守る権利(身上監護権)で成り立っているといえます。
親権者はどのように決めるか
親権者は必ず決めなければいけない
では、親権者はどのようにして決められるのでしょうか。
夫婦が離婚するときに争いになりやすいポイントとして、親権者のほかに、財産分与、養育費、慰謝料などがあります。このうち親権者以外の事項については離婚を成立させた後に協議して決定しても法律上の問題はありません。しかし、先に述べたとおり、どちらが未成年の子の親権者となるかは離婚時に必ず決めなければいけません。
話し合いで決める
親権者の決め方の一つ目に、夫婦の話し合いで決定する方法があります。当事者同士が自ら話し合っても構いませんし、弁護士を代理人として立てて話し合いをしても構いません。
裁判手続で決める
夫婦間の協議によって親権者を決めることができなかった場合には、家庭裁判所に対して離婚調停あるいは親権者の指定を求める調停を申し立て、裁判官に親権者を決めてもらうことになります。
調停とは、夫婦に1人ずつ調停委員が指定され、調停委員のもとで話し合いをする裁判手続です。調停委員は弁護士などから指定されます。当事者同士の話し合いがうまくいかなかった場合でも、第三者である調停委員が間に入り、裁判所で協議をすることにより両者が納得できるような結論を導こうとするのが調停手続です。
調停手続が不調に終わった場合には、審判や裁判に移行し、裁判所が判決によって親権者を決定することになります。
このように、裁判所に持ち込まれた場合であっても、まずは双方の当事者の話し合いによってどちらが親権者となるべきか決定しようとするのが日本の手続の特徴です。
<参考記事> 親権者について確認しよう
親権者の変更はできる?
裁判手続によってのみ認められる
一度協議や裁判手続によって決定された親権者を変更することはできるのでしょうか。
まず、話し合いによって一度決定された親権者を変更することは原則としてできません。一度は調停によって妻が親権者となったが、気が変わって元夫と話し合いをした末に合意に至り、元夫が代わりに親権者になる、といったことは認められていません。また、離婚するときに離婚後5年間は夫が、そのあとの5年間は妻が親権者になるという内容の契約を結ぶこともできません。
親権者を変更するには、必ず家庭裁判所に対して申立てを行わなければいけません。これは、子どもの成長に大きく影響する親権者を親の都合で頻繁に変えるべきではないという価値観に基づく制度です。
親権者の変更が認められる場合
では、どのような場合に親権者の変更が認められるのでしょうか。
裁判所のホームページには、親権者の変更について次のように記載されています。
引用元:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_21/index.html
「親権者の変更は、子どもの健全な成長を助けるようなものである必要があるので,調停手続では、申立人が自分への親権者の変更を希望する事情や現在の親権者の意向、今までの養育状況、双方の経済力や家庭環境等の他、子の福祉の観点から、子どもの年齢、性別、性格、就学の有無、生活環境等に関して事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握し、子どもの意向をも尊重した取決めができるように、話合いが進められます。」
つまり、親権者の変更は子どもの養育環境、子どもに対する親の愛情、親の経済状態や健康状態、子どもの年齢、子どもの意向などが考慮されることになります。
親権者を頻繁に変更することが望ましくないと考えられていることはすでに述べたとおりですし、一度決めた親権者を変更することは特段の事情がないと難しいということは頭に入れておくべきでしょう。
したがって、離婚をする時点で、自分が親権者になりたいのか、あるいは子どものためには自分が親権者となるべきなのかを慎重に検討するべきです。そして、どうしても親権が欲しいと思ったときには調停委員や裁判官に対して自分が親権者になるべき理由を説得的に伝える必要があります。
親権者になるには
判断基準はさまざま
では、裁判所に親権者として認めてもらうにはどうすればよいのでしょうか。
法律には親権者を決めるときの考慮要素について明確な規定はありません。実際には民法学者の学説や過去の裁判例によって形成された基準に基づいて判断されていますが、その基準も時代が移り変わり、価値観が変化するにつれて変わることがあります。
ここでは、代表的な考え方について解説します。
継続性の原則
継続性の原則とは、未成年の子が一方の親の元である程度の期間にわたって安定した生活を送っている場合には、その親を優先的に親権者にすべきであるという考え方です。これは、安定した状態を継続させた方が子どもの利益になる可能性が高いという考え方に基づいています。
ただし、子どもを無理やり連れ去って自分の元で生活させたような場合には、裁判所も不利な事情として考慮する可能性がありますので注意が必要です。
兄弟姉妹不分離の原則
子どもが2人以上いる場合には、兄弟姉妹を分離するのは望ましくないという考え方があります。この原則に基づくと、子どもが2人いる場合、兄の親権者は父親、弟の親権者は母親というように分けられる可能性は低いということになります。
ただし、これはあくまで原則に過ぎず、必ずしも当てはまるわけではありません。たとえば、兄弟がどちらもある程度の年齢に達しており、兄は母親と、弟は父親と暮らしたいという明確な意思を示しているような場合には、この原則の例外となりえます。
母親優先の原則
一般的に、父親よりも母親の方が親権者として認められやすいと言われています。事実、平成27年度の司法統計によると、離婚調停・審判で離婚に至った夫婦の中で父親が親権者となったものは1947件、母親が親権者になったものは18,416件で、圧倒的に母親が親権者となった件数の方が多くなっています。
これは、特に子どもが乳幼児である場合には母親の方が親権者に適しているという考え方に基づいています。これを母親優先の原則といいます。
ただし、母親であれば必ず親権者として認められるわけではなく、母親が不貞行為を繰り返しており、それが原因で離婚に至った場合や、母親が子どもに対して虐待を行っている場合などには、父親が親権者とされる可能性も高いでしょう。
父親の親権について詳しく知りたい方は、「獲得するのは難しい?父親の親権」を参照してください。
子の意思
家事事件手続法には、子どもの監護者を決めるにあたって未成年の子が15歳以上であるときは、子どもの陳述を聞かなければいけないとされています。子どもの年齢が高ければ高いほど、子どもがどちらの親と一緒に暮らしたいと考えているかは大きな要素として考慮されます。
15歳未満の子の場合、陳述を聞くことは手続上義務付けられていませんが、子どもが意思を示した場合にはこれが考慮されることに変わりはありません。
監護に向けた状況
実際に子どもを引き取って育てていくことになったとき、どのような状況になるのかが考慮されます。たとえば、子どもと一緒に暮らす場所はあるのか、育てていくためのお金があるのか、両親など子育てを支援してくれる人は周りにいるのかといった、といったポイントです。
子に対する愛情と監護の意思
当然のことですが、親権が欲しいと主張している親が子どもに対して愛情を持っており、子どもを健全に育てていこうという意思を持っているかが考慮されます。口では愛情を持っていると言っていても、実際には子どもに暴力を働いているような場合には不利益に扱われることは言うまでもありません。
単に「離婚相手に親権を取られたくない」というだけではなく、積極的な意思を持っているかが重要な要素となります。
親の心身の健全性
子どもを育てていくということになれば、肉体的にも身体的にも負担がかかります。心や体の不調により仕事ができなくなれば、子どもを育てていくための経済状況にも影響することになります。
そこで、親権者になろうとしている親に持病などがある場合には治療の状況が考慮される場合があります。
親権を得るためには弁護士に依頼した方が有利
以上のように、親権者は協議や裁判手続によって決定され、裁判所は様々な要素を総合的に考慮した上で親権者を決定します。「こうすれば必ず親権を取れる」というようなテクニックはないといっていいでしょう。
そこで、親権を取るためには専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。
調停では、調停委員や裁判官に対して自分の意見をいかに説得的に伝えられるかがポイントになります。調停委員や裁判官は当事者の感情に流されることなく、法的な知識と長年の経験に基づいてどちらを親権者とするのが子どもの利益につながるか判断します。感情的になって自分の主張を一方的に展開しても有利にはならないばかりか、かえって悪い印象を与えかねません。そこで、法律や過去の裁判例に精通した弁護士に依頼し、論理的に主張を組み立ててもらうべきです。
協議段階でも本人同士で話し合いをするよりも弁護士を通した方がスムーズに進むケースが多いといえます。夫婦が離婚をするときには親権以外にも財産分与、養育費、慰謝料などが問題となります。したがって、もし「親権だけはどうしても譲れない」という意向であれば、他の争点はある程度妥協してでも親権を最優先にするという選択肢が考えられます。弁護士は交渉事の専門家ですので、協議段階でも弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
最後に
先に説明したとおり、親権は親の権利であると同時に義務でもあります。裁判所が親権者を決めるにあたって様々な要素を考慮しますが、最終的に重視されるのは子どもにとってどちらを親権者として指定するのがよいのか、すなわち子どもの利益です。したがって、「子どもの親権を取るためには何をすればよいか」という発想ではなく、子どもの利益を第一に考え、常に子どものために行動することが、結果的には親権を得ることにも繋がるといえるでしょう。