離婚する際は、必ず親権者を定める必要があります。親権者が決まっていないと離婚できません。
しかし、そもそも「親権がどんな権利か分からない…」「離婚の時、親権ってどうやって決めるの?」「どうしても親権者になりたいんだがどうすればいいのか?」など親権の知識が浅く、困っている方も多くいるでしょう。
この記事では、そんな方のために、親権の内容、離婚時の親権の決め方、親権者になるための基準などをまとめました。ぜひ親権者を決める際の参考にして下さい。
親権とは何か
親権とは、子どもの看護養育をしたり、子どもの財産を管理したり、子どもの代理人として法律行為を行ったりする権利のことです。
親権の内容は、子どもの財産を管理処分する「財産管理権」と、実際に子どもの面倒を見て育てる「身上監護権」の2つに分けられます。一般的には、「親権」という場合、「財産管理権」と「身上監護権」両方を含む意味で使われます。
「財産管理権」では、子どもの財産に対する包括的な管理権があり、子どもが自ら財産を処分しようとした時などは、その行為に対する同意権も含まれます。
「身上監護権」には、子どもが身分法上の行為(結婚など)を行うにあたっての同意・代理権や、居所指定権(親権者が子どもの居所を指定する権利)、懲戒権(親権者が子どもを懲戒・しつけする権利)、職業許可権(子どもが職業を営むに当たって、親権者がその職業を許可する権利)などがあります。
親権は権利と言ってはいますが、同時に、社会的に未熟な存在である子どもの肉体的・精神的な成長を促すという、親の義務という側面もあります。
親権に服する子どもは未成年(20歳以下)の子どもであり、その親権は、婚姻中であれば父母が共同して行使します。
父母のどちらも親権を持っていますので、父母のどちらでも、子どもの財産を処分したり、看護養育することが可能です。
しかし、父母が離婚する場合、共同して親権を行使することが出来なくなるので、父母のどちらかを親権者と定めなければなりません。
(日本の民法では、父母が離婚したら共同して親権を行使することができないとされています)離婚の際の親権者の決め方は、父母の協議によることが原則ですが、協議によって決まらない場合、調停をしたり、裁判で裁判所に決めてもらわなければなりません。
子どもが成年に達してしまうと、親の親権も無くなりますから、離婚の際に親権が争われるのは、子どもが未成年のケースのみです。
男性の離婚準備について詳しく知りたい方は、「男性の離婚準備 親権をとるために」を参照してください。
親権者を決めないと離婚できない
離婚するときは、親権者を決めないと離婚できません。離婚する場合は他にも、慰謝料や財産分与に関することなど、色々なことを決めなくてはなりません。
日本では、他の事柄は決めていなくても離婚できますが、親権者については定めないと離婚できない決まりです。親権者を決めないままの離婚を許すと、残された子どもの生活がないがしろにされる恐れが強いためです。
市役所に提出する離婚届には、親権者を書く欄があり、ここの記載をしないと離婚届けは受理されません。協議が決まっていないのに勝手に自分の名前を書いてしまうなど特別な事情が無い限り、親権者を決めないと離婚できない制度なのです。
つまり、親権者争いが長引くと、それだけ離婚できない期間も長くなってしまいます。自分の子どもが絡む問題ですので、親権者争いは長期化するケースも多く、泥沼の論争に発展する場合もあります。これの折り合いをつけるために、親権を分けることで、スムーズに離婚できることもあります。
先の見出しで述べたように、親権には、「財産管理権」としての親権と、子どもの世話をする「身上監護権」があります。これらの権利を分けて、夫婦それぞれが取得するのです。
例えば、母親が「監護権」、父親が「親権」を取得するという具合です。
これなら、両者に親権の一定の権利を与えることになるので、双方の同意が得られやすくなります。
ただ、この親権と監護権に分ける手法は、後々不都合が生じる可能性が高いです。親権と監護権に分けた場合の「親権」は、ただ財産を管理できる権利です。監護権は取得していないので、子どもと一緒に住むことはできません。
さらに、監護権者に財産管理権が無いと、子どもとの生活で色々と支障が生じるでしょう。
例えば、親ならば、子ども名義で預貯金の開設をするといった場合があるでしょう。
実際に子どもと生活しているのは監護権者ですから、子どもにどういった費用がかかるのか、いくら預貯金が必要かなどは、監護権者が把握できます。
しかし、監護権者では子どもの財産管理が出来ませんので、子ども名義の口座開設も行うことが出来ません。子どもの口座を開設したければ、親権者の署名を貰わなければなりません。
親権者が遠方にいる場合などは、とても面倒になってしまいます。
他にも、財産管理者と監護権者が異なると、生活の上で様々な支障が出てきます。このため、どうしても親権者協議が整わないという特別なケースで無い限り、この方法は選択しないほうが賢明でしょう。
親権者の決め方
協議離婚の場合、夫婦の話し合いにより、夫婦のどちらを親権者とするか決めます。話し合いにより親権者が決まったら、離婚届を役所に提出して手続き完了です。この時、親権者が改められた、新たな戸籍が編製されます。
親権者を決める話し合いでは決着が着かない場合、調停手続きに移行します。俗にいう離婚調停という手続きであり、離婚調停では、親権者をどちらにするかなどの離婚条件だけでなく、そもそも離婚するかどうかの判断も行います。
これは、親権者が決まらないと離婚できないので、離婚の可否が問題になってくるからです。離婚調停では、家庭裁判著の調停委員という人が、夫婦の間に立って、話し合いを仲介してくれます。夫婦同士で対面して話し合いをする必要がなくなるので、感情的にならず冷静に話し合いを進めることが出来ます。
協議離婚について詳しく知りたい方は、「協議離婚って費用がかかる?協議費用の費用は0円?弁護士に依頼した場合の相場を教えます」を参照してください。
それでもなお、親権に争いがある場合には、家庭裁判所の調査官が、子どもの状態や親との関わり方などについて、調査を行います。
これらの結果を踏まえて、夫婦が親権に合意できたら、その内容に従って親権者が決まります。調停長所という書類が作成されて、そこに親権者名が記載されます。
この調停調書を役所に持っていけば、離婚届けの代わりになります。
調停を経たあとでも親権者について争いが消えない場合、最後の手段、離婚訴訟を行います。
離婚訴訟では、離婚することの可否や離婚条件などについて、裁判官に判決で、判断を下してもらいます。
親権者の指定のみが争点となっている場合、親権者指定の審判手続きで、裁判所の判断により、親権者を指定してもらうことも出来ます。
離婚訴訟を起こすと裁判でその離婚事件に関して審理が行われます。お互いの主張内容にもとづき、裁判官が子どもの親権者や離婚の可否を判断します。
離婚訴訟において、子どもの親権が問題になっている場合、家庭裁判所の調査官によって、調査が行われます。
これは、調停の時に行った調査とは別物であり、調停時に調査を行っていたとしても、裁判でも調査が行われます。調査は色々な手法で行われ、双方の親の主張を聞くことはもちろん、子どもの幼稚園の先生・学校の担任などから話を聞くこともあります。
こうして調査が終わったら、調査官は調査報告書を作成します。裁判官は、この調査報告書に基づいて、親権者をどちらにするかの判断を下すので、調査報告書の内容は裁判の行方を占う、とても大切な書類です。裁判官が親権者決定の判決を下したら、判決書と判決の確定証明書という書類を役所に提出します。
ここまで済んだら、晴れて離婚が成立するというわけです。
親権者になるためには
話し合いで決まる場合を除いて、調停や審判、裁判では、結局のところ、裁判所が親権者を決めることとなります。
つまり、親権者になるためには、裁判所に親権者に値する人物だと認めてもらわなければいけないわけです。
では裁判所はどのように親権者を決定しているのかという親権者決定の判断基準ですが、これは子どもの成長のためにはどちらを親にしたほうが望ましいかという、子どもの利益を第一に考えられることとなります。
先に述べました通り、親権には、親の権利である一方、子どもの成長に寄与するという親の義務の側面もあるため、裁判所はこうした基準で判断するのでしょう。具体的には、子どもに対する愛情、子どもを養っていけるだけの経済力、年齢など親の監護能力の有無などの事情を考慮して、総合的に判断されます。個別の事情でみていきましょう。
子どもが幼ければ幼いほど親権者の決定に当たっては、母親が有利だといわれています。幼い子どもの面倒を見るのは母親が向いているためでしょう。
また、15歳以上の子どもの親権を裁判所が決める場合、裁判所は子ども本人の意見を聞く必要があります。ある程度年齢が上がってきた子どもなら判断能力も携えていますので、自分の意思が重要だと言えるためです。
また、不倫などの不貞行為をしていた場合、慰謝料の選定や離婚の可否などの判断に当たっては非常に重要な事象ですが、親権者の決定にあたってはそれほど重要とはされません。不貞行為を行ったこと、そのことをもってして、親権者にはふさわしくないと判断されることは稀です。
もっとも、不貞行為で子どもに悪影響を及ぼしていた場合、判断材料にはなります。
なお、環境の維持が好ましいという観点から、既存の環境状態が重視される傾向は確かにあります。現状、母親の監護の下での生活がうまくいっているなら、親権者はこのまま母親と判断される確率は高いです。
しかし、だからといって、子どもを監護していない親が、子どもを連れ去る行為をすることは、裁判の継続中に行う行為としてはあるまじき行いであり、親権者の適格性を判断するうえで大きくマイナスに働いてしまいます。
以上、色々と書いてきましたが、親権者になりたければ、子どものことを第一に考え、子どもの利益に値する行動を行ってきたかが大きなポイントとなります。