「今の夫や妻と別れたい」
そう思ったときには、離婚に向けて慎重に準備を進めていく必要があります。
離婚手続においては、金銭や財産、子どもと一緒に暮らす権利などが問題となります。感情に任せて行動をしてしまうと思わぬ不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
この記事では、離婚をしたいと思ったときにするべき離婚の準備について解説いたします。
離婚を切り出す前に準備をすべき理由
離婚は離婚届を出すだけで成立する
日本では、離婚が役所に離婚届を提出すれば成立します。配偶者が離婚することに合意さえしていれば、離婚する理由が問題となることはありません。
未成年の子がいる場合は夫と妻のどちらが親権者となるか離婚届に記入しなければいけませんが、財産分与や慰謝料については合意に至っていなくても離婚を成立させることは可能です。
では、相手に離婚を切り出す前に準備が必要なのはなぜでしょうか。一つは、離婚手続を有利に進めるためです。
離婚で問題になること
離婚には様々な問題が付いてまわります。
そもそも、自分が離婚したいと考えていても配偶者がそれに合意してくれるとは限りません。相手の合意が得られない場合には、法律が定める離婚原因があることを証明しなければいけません。
配偶者による不倫やDVを理由として離婚する場合には慰謝料を請求することができますが、そのためにも証拠が必要です。
離婚が成立した後にどうやって生計を立てるかも考えなければいけません。子どもと一緒に生活していくのであればなおさらです。
これらの問題で悩まないためには、「離婚したい」と思ったときから慎重に準備を進めていく必要があるのです。
離婚する理由について詳しく知りたい方は、「離婚する理由は?離婚が認められる理由」を参照してください。
離婚でもらえるお金を把握しておく
離婚をするなら、離婚後の生活で困らないように、もらえるお金を把握しておきましょう。
離婚の前後でもらえるお金は下記のようなものがあります。
- ・婚姻費用
- ・財産分与
- ・慰謝料
- ・養育費
- ・助成金
それぞれ詳しく紹介します。
婚姻費用
婚姻費用は、別居中に請求できるものです。
夫婦は同等の生活を送る権利があるため、別居していて片方が貧しい生活を送っている場合に、もう片方に生活費として婚姻費用を請求できます。
例えば会社員の夫・専業主婦の嫁が別居した場合に、収入の格差が生まれます。
収入の少ない嫁側は、収入の多い夫に向けて婚姻費用の請求ができます。
婚姻費用の金額は家庭環境・収入金額によって異なります。
もし別居中だったり、別居を検討している場合は、必ず請求しましょう。
財産分与
財産分与とは、結婚中に築いた財産を離婚時に分配することです。
特徴としては、自分が関係してない収入や財産に対しても、財産分与を要求できることです。
例えば配偶者が結婚中に貯めたお金も、離婚時に「半分ください」と請求できます。
財産分与の対象になるものは、下記の通りです。
- ・不動産
- ・家具や家電
- ・預貯金
- ・車
- ・有価証券
- ・保険の解約金
- ・退職金
- ・年金 など
ただし相続した財産・結婚前から持っていた財産については、財産分与の対象外となるので注意してください。
慰謝料
慰謝料は、精神的な苦痛に対して払われる賠償金です。
相手が離婚の原因を作って、自分が精神的なダメージを受けた場合に請求できます。
あくまで相手に責任があるときに請求できるもので、性格の不一致などお互いの責任で離婚する場合は、慰謝料請求が難しくなります。
離婚での慰謝料相場は50~300万で、離婚の原因を作った人がどれだけ悪質だったか?によって金額が変わります。
相手に離婚の原因がある場合は、それを証明できるような証拠を集めておきましょう。
証拠があれば強気に慰謝料交渉でき、相手も受け入れる確率が高くなります。
慰謝料請求は法的な知識も必要になるため、弁護士への相談がおすすめです。
養育費
養育費は子供のいる夫婦が離婚した場合に、子供を引き取った人が請求できるものです。
養育費は家庭環境・子供の年齢によって変動しますが、一般的には4万円前後が相場になります。
支払いの期間は子供が経済的に独立するまでになり、基本的には20歳まで支払います。
ただし養育費は未払いになることも多く、離婚時に書面で養育費支払いの詳細を残しておくことが大切です。
もし養育費が未払いになったとしても、書面が残っていれば、強気に請求できます。
助成金
離婚後の生活を支えるための助成金もあります。
助成金には、無利子でお金を貸してくれるものから、返済の必要がない給付金もあります。
例えば母子家庭・父子家庭で子供がいる場合は、月額42,000円の児童手当がもらえます。
助成金や給付金はたくさん種類があり、家庭の状況によってもらえるため、一度弁護士に相談してみましょう。
譲れないポイントを考える
まず、「これだけは譲れない」というポイントを検討しましょう。
相手と全く揉めることなく離婚が成立するケースは稀で、大抵はお互いの主張が衝突します。何もかも思い通りにいくとは限らず、むしろどこかで妥協しなければいけないケースが多いでしょう。
そこで、「自宅は夫に譲ってもいいが、親権だけは自分のものにしたい」「今後の生活のために、とにかく慰謝料をたくさんもらいたい」といったように譲歩したくない要素を決め、そこに向けて準備を進めていくことをお勧めします。
離婚の時期を決める
離婚を検討している方は、今すぐにでも今の夫や妻と別れたいと思うかもしれません。
しかし、離婚の時期は重要なポイントですので、いつ相手に離婚を切り出すべきなのかよく考えるべきです。
特に子どもを連れて離婚する場合は、離婚して配偶者と別居することにより子どもが転校を余儀なくされることがあります。
慣れ親しんだ学校と友人を離れ、新たな土地で暮らすことは、子どもにとって影響が大きいものです。
子どもがある程度大きくなってから離婚をした方がいい場合もありますので、離婚の時期は慎重に検討することをお勧めいたします。
離婚の流れを知る
離婚の種類
離婚を切り出す前の準備として、離婚を成立するためにはどのような手続があるのか理解しておきましょう。
離婚をするための手続には、大きく分けて協議離婚と裁判離婚があります。どちらの手続をとることになるかは相手の出方によって異なります。
協議離婚
協議離婚とは、夫婦の合意によって成立する離婚をいいます。
民法763条には「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と定められており、夫婦間に争いがない場合には、役所に離婚届を提出するだけで離婚を成立させることができます。
<参考記事>協議離婚って費用がかかる?協議費用の費用は0円?弁護士に依頼した場合の相場を教えます
裁判離婚
裁判離婚とは、離婚をすることや離婚の条件について争いがあるときに、家庭裁判所における調停・審判・裁判などの裁判手続によって離婚を成立させる手続です。
日本では調停前置主義といってまず離婚調停を行い、裁判所で話し合いをしてもまとまらなかったときに初めて離婚訴訟を提起することができます。
調停・審判・判決が成立したときには、申立人が単独で離婚手続を完了させることができます。
離婚原因
相手が離婚に応じてくれないときには法律上の離婚原因がなければ離婚することができません。
相手に離婚原因があれば相手との交渉を有利に進めることができますし、相手が頑なに離婚に応じないときには裁判手続により離婚を成立させることができます。
そこで、離婚を切り出す前の準備として離婚原因の有無を確認しておく必要があります。
法律で離婚原因として定められているのは次の5つです。
- ・不貞行為
- ・悪意の遺棄
- ・3年以上の生死不明
- ・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- ・その他婚姻を継続し難い重大な事由
「不貞行為」とはいわゆる不倫のことです。これは配偶者が自分以外の異性と肉体関係を持つことをいい、手をつないだり、キスをしただけでは不貞行為とはいえません。
夫や妻から耐え難いDVを受けている場合には「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚原因に当たる場合があります。
DV被害について詳しく知りたい方は、「DV被害で離婚 やるべきポイントについて確認しよう」を参照してください。
証拠を集める
相手の不倫やDVなどを理由に離婚しようとする場合は、証拠を集めることが非常に重要です。
「間違いなく不倫をしている」と思っていても、証拠がなく、相手が事実を認めなければ離婚を成立させることができません。
そこで、不貞行為が存在したという決定的な証拠を押させる必要があるのです。不貞行為の決定的な証拠というのは、他の異性とラブホテルに出入りしている動画や、性行為があったことを伺わせるメールのやり取りなどです。
証拠を押さえる前に離婚を切り出してしまうと、相手が警戒したり、証拠を隠滅してしまうおそれがあります。そこで、不倫に気づいていない、あるいは離婚など考えていないというふりをして相手を「泳がせて」おき、その間に証拠を収集するなど準備を進めておく必要があります。
DVを受けたときは、映像や音声、医療機関での診療記録などが証拠となりえます。
証拠収集が重要なもう一つの理由は、相手に慰謝料を請求するためです。
配偶者が不貞行為やDVを働いたときには、それによって被った精神的損害に対する損害賠償を配偶者本人やその不貞相手に対して行うことができます。
当然、慰謝料を請求するためにも不貞行為があったという証拠が必要となります。
怒りに任せて証拠を確保する前に相手に離婚を申し出てしまうと、受け取ることができるはずだったはずの慰謝料を受け取れなくなってしまうかもしれません。冷静に離婚に向けて準備を進めましょう。
お金の準備
弁護士費用
離婚の前後にはお金がかかる可能性があります。そこで、あらかじめまとまったお金を準備しておくことが大切です。
親権、養育費、財産分与などで相手と紛争になった場合、弁護士に交渉や裁判手続を依頼しなければいけない場合があります。
そうなると弁護士に支払う費用や、裁判所に納める印紙代が必要となります。
弁護士に離婚手続を依頼したときにかかる費用は状況によって異なります。
交渉で解決せずに裁判手続に移行すれば多額の費用がかかることもありますし、回収した慰謝料を弁護士費用に充当できる場合もあります。
どのような手続が必要となるかは一概には言えませんので、弁護士費用を支払わなければいけなくなった場合に備えておくべきでしょう。
新たな生活を始めるための費用
離婚が成立したら、配偶者と別れて新たな生活に向けて歩みださなければいけません。
すでに別居している場合でなければ、実家に帰るにしても、新たにマンションやアパートを借りるにしても引っ越し費用や賃貸借契約を結ぶための初期費用がかかります。
離婚後の生活費
そして当然、その後の生活費もかかります。
「養育費をもらえるから子どもが大きくなるまではお金の心配はない」あるいは「慰謝料をもらえるから、当分は大丈夫だろう」と考える方がいらっしゃいます。
しかし、養育費や慰謝料は必ずもらえるとは限りません。
仮に裁判によって養育費や慰謝料について合意に至ったとしても、支払ってもらえるという保証はないのです。特に毎月決まった額を支払う養育費は、支払いが滞ることが非常に多く、トラブルになりがちです。
必ずもらえるとは限らない、払い続けてもらえるとも限らないという前提で、生活していくだけのお金を工面できるように準備をするべきです。
結婚をきっかけに仕事をやめて専業主婦になり、夫に経済的に依存していたような方にとってはこの点は特に重要です。事実、離婚後の生活費を工面できないという理由で離婚を断念する方も少なくありません。
自分名義の預貯金を作る、一人で生活していくために資格を取得したり、安定した就職先を見つけておく、両親など経済的に支援してくれる人に相談するなどの準備が必要です。
離婚手続を誰に相談すべきか
両親や親しい友人など個人的な悩みを聞いてくれる人が身近にいればよいですが、離婚の悩みを相談できる人がいなくて悩んでしまう方は少なくありません。そんなときに相談するべきなのが弁護士です。
弁護士は法律と交渉事の専門家ですので、離婚手続を有利に進めていくためにどのような準備をするべきなのかアドバイスを受けることができます。
相手の不倫などが原因で離婚する場合には、どのような証拠を集めれば離婚手続や慰謝料請求をスムーズに進めることができるかについても助言を受けることができるでしょう。
弁護士に相談したことが妻や夫、友人などに知られるのではないかと不安に感じるかもしれませんが、弁護士には法律上厳格な守秘義務が定められており、弁護士に相談した内容が外部に漏れることはありませんので、心配は不要です。
最後に
離婚は結婚の数倍のエネルギーを消耗すると言われます。一度形成した夫婦関係を解消することは容易なことではありません。
離婚をしたいと思ったときには一人で悩まず、信頼できる専門家のアドバイスを受けながら新たな人生を踏み出すための準備を進めましょう。