この記事でわかること
- 再婚禁止期間が定められている理由
- 民法改正で再婚禁止期間が6ヶ月から100日に短縮された理由
- 再婚禁止期間を守らなかった場合に起こること
民法による再婚禁止期間とは?
女性は離婚後100日間は再婚することができません。
このことは民法733条1項で定めており、再婚禁止期間中は市町村等の役場に、再婚のための婚姻届を提出しても受理されません。
再婚禁止期間が定められている理由
再婚禁止期間が定められている理由は、再婚後すぐに生まれてくる子供の福祉のためといえます。
女性は、妊娠すれば生物学的にお腹の子供は自分の子供であることが証明できますが、男性の場合は違います。
生まれてきた赤ちゃんのDNA鑑定をしない限り、自分の子供かどうかはわかりません。
再婚後すぐの出産の場合、タイミングとしては、前の夫の子供である可能性もあれば、新しい夫の子供である可能性もあります。
親子関係は、法的に扶養義務や相続権が発生するので、どちらの子供であるかは、子供の未来に大きな影響を与えます。
例えば、前の夫が子供の養育費を支払いたくないがために、自分の子供ではないという主張をしてくる可能性があります。
そういった事態を避け、法律上の父子関係を安定させるために、女性の再婚禁止期間があるのです。
再婚禁止期間があることにより、後述する離婚後に生まれた子の父親の推定規定とあいまって、生まれた子供の父親を推定することができます。
民法改正で再婚禁止期間が6ヶ月から100日に短縮
再婚禁止期間は、実は最高裁の判決により民法が法改正されたことに伴い、6ヶ月から100日間に短縮されました。
新しい規定は平成28年6月1日付で公布され、平成28年6月7日付で発効されています。
短縮された理由は?
日本の司法制度は三審制が担保されていますが、第一審と第二審が具体的な事実関係に基づく個人の権利義務について判断するのに対して、第三審である最高裁は、個別の法律が憲法に違反しているかどうかを審査する法律審です。
女性の再婚禁止期間は、父子関係の安定と、女性の再婚の自由というどちらも大切な権利のバランスをとって定められるべきものです。
そのため、不当に長すぎる期間設定は、必要限度を超えるものであり、女性の再婚の自由を制限するものとして、憲法に定める人権保護に反しているという判断となりました。
100日間の再婚禁止期間でも、十分に父子関係の安定がはかることができると考えられたからです。
民法には、上記の再婚禁止期間の定めとは別に、離婚後300日以内に産まれた子は前の夫の子と推定するという法律があります。
この定めは現在でも有効ですので、離婚後300日以内に生まれた子供は、DNA鑑定をして夫の子供であることを証明しない限り、前の夫の子供として戸籍に登録されます。
再婚禁止期間100日と上記の推定規定により、父子関係が定まらない事態はありません。
つまり、6ヶ月も禁止するべき必要性がないということになります。
再婚禁止期間中でも再婚できる場合
この民法改正により、再婚禁止期間100日間の例外として、民法第733条第2項に該当する旨の証明書を提出すれば、再婚禁止期間中でも再婚できることになりました。
この証明書とは、再婚をしようとしている女性について、(1)離婚後に妊娠している(2)離婚後の一定の時期において妊娠していなかったこと(3)離婚後に出産したことのいずれかを担当医師が証明する書面のことをいいます。
再婚禁止期間が設けられた趣旨は、父親の推定が難しいためです。
その可能性が排除できるのであれば、100日間を待たずして再婚を認める方が適切であるということになります。
それ以外にも再婚禁止期間の例外として再婚できる場合
上記の他にも、再婚禁止期間の例外として再婚できる場合がいくつかあります。
具体的には、以下のようなケースです。
妊娠する可能性がないケース
女性が妊娠する可能性がないと認められるケースでは、父子関係がわからなくなるおそれがないため、再婚禁止期間とは関係なく再婚することができます。
具体的には、高齢女性や子宮を全摘出する手術を受けた女性です。
なお、子宮を全摘出する手術を受けた女性の場合は、医師の証明書によって証明することが必要です。
離婚した元夫と再婚するケース
離婚した元夫と再婚する場合も、父子関係がわからなくなるおそれがないため、再婚禁止期間に関係なく再婚できます。
夫が行方不明になっているケース
夫が長期間、行方不明になっている場合も、父子関係がわからなくなるおそれはありません。
具体的には、夫が失踪宣告を受けた場合、または夫の生死が3年以上不明であることを理由に裁判離婚した場合は、再婚禁止期間と関係なく再婚することができます。
再婚禁止期間に違反した場合に起こること
離婚後100日間の再婚禁止期間中は、役所が再婚のための婚姻届を受理しませんが、万が一、手違いで受理されてしまった場合はどうなるのでしょうか?
再婚禁止期間に違反しても罰則はない
法律に違反して再婚してしまったら、逮捕されたり刑務所に入れられたりするのではないか、高額の罰金を支払わなければならないのではないか、と不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
再婚禁止期間に違反しても、民法に罰則は設けられていません。
誰かに迷惑をかけたわけでもないので、犯罪にもあたりませんし、民事上の損害賠償金を支払わなければならないわけでもありません。
再婚禁止期間に違反すると父親を決める裁判が必要になる
再婚禁止期間に違反してもペナルティはありませんが、再婚後に子供が生まれた場合は困るケースがあります。
先ほどご説明したとおり、民法には離婚後300日以内に産まれた子は前の夫の子と推定するという規定があります。
しかし、その一方で、再婚してから200日以上が経過した後に産まれた子は再婚した夫の子と推定されます。
再婚禁止期間を守っていれば「離婚後300日以内」と「再婚後200日以上経過した後」が重複することはありませんが、違反した場合は重複する期間が発生します。
重複した期間内に産まれた子は、前の夫と再婚後の夫の両方が推定されるため、裁判所がその子の父を定めることになっています。
たとえ当事者の間では父親がはっきりしていても、裁判を起こして父親を決めてもらわなければならないのです。
そうしなければ、戸籍にも「父未定の子」と記載されたままになってしまいます。
まずは調停を申し立てる
父親を決める裁判としては、まずは家庭裁判所に調停を申し立てます。
父子関係を科学的に判断するためにDNA鑑定を行い、その結果に争いがなければ「合意に相当する審判」によって父親が決められます。
DNA鑑定の結果に納得できない場合は、通常の訴訟で争わなければなりません。
再婚禁止期間を守っていれば裁判は必要ないので、必ず守るようにしましょう。
再婚禁止期間の改正は判例が元となっている
再婚禁止期間が6ヶ月から100日に短縮されることになった判例をご紹介します。
再婚禁止期間が憲法違反だという訴え
判例再婚禁止期間が憲法違反だという訴え
平成23年、岡山県に住む女性が「民法の再婚禁止期間があるため、結婚が遅れ精神的苦痛を受けた」として、国に165万円の賠償を求めて民事裁判を起こしました。
この女性は、前夫の家庭内暴力が原因で平成20年に離婚した後、6ヶ月も後夫との再婚を待たざるを得なかったために精神的損害を受けたと主張しました。
平成24年10月、第一審の岡山地方裁判所の判決では、再婚禁止期間の立法趣旨には合理性があるとして原告の女性が敗訴しました。
平成25年4月、第二審の広島高等裁判所岡山支部の判決でも、同様の判断が下されました。
しかし、平成27年12月16日、最高裁判所では再婚禁止期間を定める民法の規定の合理性自体は認めながらも、100日を超える部分は憲法違反であるという判断を示しました。
6ヶ月にもわたる再婚禁止期間の規定は、法の下の平等や両性の平等を定める憲法に違反すると判断したのです。
この判例が民法改正につながった
上記の最高裁判決では、100日を超える再婚禁止期間を憲法違反であると判断しつつも、原告の女性が離婚し、再婚を求めた平成20年の時点でただちに国会が法律を改正しなければならない状態ではなかったとして、女性の賠償請求については棄却しました。
とはいえ、この最高裁判決を受けて、再婚禁止期間を6ヶ月から100日に短縮する改正民法が平成28年6月1日、国会で成立したのですから、大きな意義のある判例です。
過去の判例では憲法違反との判断は下されなかった
上記の判例より過去にも、広島県の女性が再婚禁止期間の規定が憲法に違反するとして訴えて提起した訴訟がありました。
しかし、この訴訟では平成7年12月5日、最高裁判所は、再婚禁止期間の規定が憲法に違反するかどうかの判断を示さないまま、原告敗訴の判決を下しました。
そして、上記の平成27年の最高裁判決でも、この平成7年の最高裁判決以降、再婚禁止期間の規定が憲法に違反するとの判決がなかったことを理由の一つとして、原告の賠償請求を棄却しています。
不合理な法律の規定を改正するためには、判例の積み重ねが必要なこともあるということです。
最後に
いかがでしたでしょうか。
女性のみに再婚禁止期間が定められている理由と、最近の民法改正により再婚禁止期間が短縮された理由などについて、解説してきました。
女性のみ不公平だという思いを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、上述のように生理的な理由に基づくためなのです。
また、少し再婚が不自由な分、女性には、男性にないお腹の中で子どもを産み育てるという大きな喜びがありますね。
法改正により妥当な期間に短縮され、合理的な例外規定も設けられたことから、両性に配慮された環境になったと評価できると思います。
また、離婚準備について詳しく知りたい方は以下に性別ごとの記事がありますので、参照ください。