【改正民事執行法】養育費の回収方法も変わります 支払い逃れを防ぐ点にも期待 | 離婚弁護士マップ
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【改正民事執行法】養育費の回収方法も変わります 支払い逃れを防ぐ点にも期待

この記事でわかること

  • 養育費の不払いが多い理由がわかる
  • 改正民事執行法によって養育費の不払いへの対応がどう変わるかがわかる
  • 実際に改正民事執行法を活用して養育費の強制執行を行う流れがわかる

養育費の不払いは、長らく社会問題となっていました。

本来は父と母それぞれが分担して負担するべきであるのに、離婚して別居した親は養育費を支払わなくなることがとても多いのが現状です。

このような事態が起きてしまうのは、制度上の問題があることも専門家からは指摘されていました。

そして、その流れを受け改正民事執行法が2020年4月より施行される予定です。

今回の法改正で、養育費の不払いの問題を解決する一助になることが期待されています。

ここでは、民事執行法の改正で、養育費の問題にどのような変化が期待できるのか、手続きがどのように変わるのかなどについて説明します。

養育費不払いの現状と不払いが起きる原因

養育費は、子供が成熟するまでの間、父と母それぞれが分担して負担するべきものです。

ところが、離婚して子供と別居することになった親は、養育費の支払いをしないケースがとても多く、割合としては、なんと4人に1人しか養育費を受け取ることができていません。

一度も養育費を受け取ったことがない、という人の割合が一番高いのですから大問題です。

なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか。

不払いとなる理由

養育費の不払いが起きる理由については以下が考えられます。

そもそも養育費について取り決めていない

離婚の際、未成年の子がいる場合には、必ず親権者を決めなければ離婚は受理されません。

しかし、養育費について決めることは必須とはなっていないため、養育費について取り決めないまま離婚するケースもあります。

とにかく離婚の成立を急いでいるような場合や、離婚後に相手と関わりたくない場合などは養育費を取り決めていないことも多いでしょう。

また、どうせ払ってもらえるわけがない、と最初からあきらめてしまっていて、養育費の約束をしても無駄だと思っている場合もあります。

養育費を取り決めていない場合、相手が自主的に支払ってくれることは残念ながらほとんどありません。

養育費は離婚後に取り決めることも可能ですが、離婚後の相手との話し合いは難しい場合が多く、離婚成立前に取り決めておく方がベターです。

取り決めをしたが支払わなくなってしまう

離婚の際、養育費について取り決めをしたにもかかわらず、支払われなくなってしまうケースも多くみられます。

その理由は様々です。

①離婚後に再婚して新しい家族との生活を優先し、養育費を支払うことが負担となる

若くして離婚した場合には、再婚する可能性も高く、このパターンも比較的多いようです。

②別居する子供に対する愛情や責任感が薄くなってしまう、あるいは元々薄いため、支払う意思がない

元々愛情や責任感がない場合はむずかしいですが、別居が原因で子供への関心が薄れてしまう場合、きちんと離婚後も「面会交流」させることも有効です。

実際に子供と接する機会があれば、愛情や責任感を取り戻し自発的に養育費を払おうとする場合もあるからです。

「離婚した相手とはもう関わりたくない!」と思う気持ちは理解できますが、養育費の不払いを防ぐという意味でも、子供と交流する機会を持たせ続けることは大切なのです。

③ただ単純にお金が惜しくて払わないで済むなら支払いたくない

残念なことですが、このような人が一番多いかもしれません。

収入が減るなどの事情で支払いが難しくなるケースも中にはありますが、割合としてはそれほど高くないようです。

結局のところ、「払えない」のではなく「払う気がない」という身勝手なケースが多いのが実情です。

不払いが起こるのは制度にも問題がある

養育費には支払い義務があるにもかかわらず、なぜこんな身勝手な理由で簡単に不払いが起きてしまうのでしょうか。

それは、養育費の支払いをしなくても事実上許されてしまう制度上の問題があるからだという指摘があります。

これまでの制度では、養育費が不払いになっても、強制的に支払わせる方法を取ることが難しいのが実情でした。

勤務先や預貯金の預け先がわからず、裁判所の命令も無視するような相手に対しては、養育費を回収する手立てがほとんどなかったのです。

せっかく離婚前に、しっかりと公正証書を作成して養育費を取り決めており、強制執行ができるはずの事案でも、実現するための手続きのハードルはとても高いものでした。

そのため、請求する側が泣き寝入りしてしまうケースが多く、請求される側は「逃げ得」のような状態になってしまっていたのです。

改正民事執行法によって、養育費の回収方法は現状とどう変わる?

養育費不払いが社会問題になっていることもあり、民事執行法が改正されることになりました。

「民事執行法」というのは、裁判などで決まったお金の支払い等の約束を守らない相手に対し、財産を差し押さえて強制的に支払わせる手続きについて定めている法律です。

今回改正されるのは、財産開示についての手続きで、今までよりも養育費の強制執行の実現性が高まるでしょう。

養育費の回収には給料の差し押さえが有効といえる理由

養育費の強制執行の対象となる財産は、「給料」または「銀行預金」とすることが多くなります。

ほかに不動産や生命保険、貴金属等の動産なども対象となります。

養育費の強制執行には、以下の理由から給与の差し押さえをお勧めします。

①将来の分についても差押えが可能

養育費の不払いを原因として給料を差し押さえる場合、将来発生する分まで差し押さえをすることができます。

通常、差し押さえができるのは既に支払い期限になっている分に限られます。

ところが、養育費の場合は一度給与の差し押さえをすればその後は再度差し押さえの申し立てをすることなく、毎月給料から支払いを受けることができます。

債務者が転職して勤務先が変わらない限りは毎月自動的に支払いを受けられるようになり、手間がかかりません。

②手取りの半分まで差し押さえが可能

養育費を原因とする場合、給料の手取り金額の2分の1まで差し押さえることができます。

養育費のひと月あたりの金額が手取り金額の2分の1を超えることは通常ないため、満額を差し押さえることができます。

③勤務先に養育費のことが知られるため、相手にとってプレッシャーを与えられる

給料の差し押さえをする場合、裁判所から差し押さえ命令が届き、勤務先に養育費不払いの事実を知られてしまいます。

これは相手にとっては痛手となるため、自主的に支払おうとする可能性が高くなります。

「滞納分も含めてすぐに支払うから、差し押さえを取り下げてほしい」などと相手から申し入れてくるケースもあります。

④ボーナスを差し押さえることも可能

ボーナスも差し押さえの対象となり、ボーナスも含めた手取りの2分の1を差し押さえ可能となるため、滞納されていた分の養育費についても差し押さえできる可能性が高くなります。

ただし、相手が転職癖のある場合や、すぐに職場を変えてしまう可能性が高い場合などは、給与の差し押さえは向いていません。

養育費の強制執行の条件

養育費を差し押さえることができるための条件は、3つあります。

①養育費の未払いが現実に起きていること

未払いになりそうだから差し押さえたい、ということはできません。

②強制執行ができることを証明する「債務名義」を取得していて、「送達証明書」がある

債務名義というのは、強制執行を実現する見込みのある請求権の内容が記された文書のことです。

養育費の債務名義には、

  • ・裁判で養育費を取り決めた場合の「確定判決」や「和解調書」
  • ・調停で養育費を決めた場合の「調停調書」
  • ・公正証書で養育費を取り決めた場合の「強制執行認諾文言付きの公正証書」

があります。

「送達証明書」というのは、調停調書や公正証書などの謄本が相手に届いたという証明書のことです。

③差し押さえをする財産が判明している

給料の差し押さえであれば給与支払者(勤務先)、預金の差し押さえであれば、金融機関と支店がわかっている必要があります。

養育費の強制執行の流れ

養育費の強制執行として給料を差し押さえる場合の基本的な流れは次のようになります。

①相手の勤務先を調べる

勤務先を調べる手段ですが、これまでは探偵に依頼したり、相手を尾行したりなどの手間やお金がかかる方法を取らざるを得ないケースもありました。

これがハードルとなり、泣き寝入りしてしまうケースも多かったのです。

法改正後は、後述する「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」の利用により、調査の負担が減ることが期待されています。

②裁判所に強制執行を申し立てる

申立てをするのは、原則として相手の住所地の地方裁判所となります。

③裁判所が債権差押命令を発令する

債務者の給与支払者(勤務先)に差押命令を送ります。

④裁判所が債務者宛に差押命令を送る

⑤差し押さえの実行

債務者に差押命令が送達されてから一週間経過したら、差し押さえを実行できるようになります。

相手の勤務先から、毎月給料の一部の支払いを受けられるようになります。

財産開示手続きとは

強制執行をするためには、債務者の財産を特定しなければいけません。

財産開示手続きというのは、裁判などで決められたお金の支払いを債務者(お金の支払い義務がある人)が実行しないときに、強制執行する財産を見つけるため、債務者を裁判所に出頭させ、財産がどこにあるかを質問する制度です。

これまでも財産開示手続き自体はありましたが、あまり有効活用されていませんでした。

財産開示手続きを利用できる対象者が拡大

これまで、財産開示手続きの申し立てをすることができるのは、調停、審判、裁判で養育費が確定している場合に限られていました。

公正証書で養育費を取り決めている場合には、財産開示手続きの申し立てをすることができませんでした。

財産開示手続きができないため、銀行預金を差し押さえるには、心当たりの金融機関にイチかバチか強制執行を申し立ててみて、運よく口座が存在し、かつ残高がある場合に差し押さえが実現する、というような成功率の低い方法を取らざるを得ませんでした。

給料を差し押さえる場合も、心当たりの勤務先に差し押さえをするしかありませんでした。

そのため、すでに口座が解約されていたり、転職して職場が変わっていたりするとどうしようもないケースもあったのです。

今回の改正で、公正証書で養育費の取り決めをした場合でも、財産開示手続きを利用することができるようになります。

これにより、財産開示手続きを利用できる対象者が大きく拡大します。

財産開示の無視、虚偽申告の場合のペナルティを強化

財産開示手続きを申し立てることができたとしても、これまでは債務者が裁判所からの呼び出しを無視したり、虚偽の申告をするケースもありました。

これまでは、そのような場合のペナルティは、30万円以下の「過料」となっていました。

「過料」というのは、行政罰です。

刑法上の犯罪ではありませんので、前科にはなりません。

これが、改正後は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

つまり、刑法上の犯罪となります。

実際にどの程度の刑罰が科されるかは不明ですが、前科者となる可能性があることを考えると、これまでのように安易な気持ちで無視や虚偽申告をする人は少なくなることが予想されます。

法改正により取得できるようになる情報と手続き

改正前の法律でも、養育費について公正証書(強制執行認諾文言付き)で取り決めている場合に養育費が不払いになると債務者の財産を差し押さえることができます。

ただし、財産の差し押さえをするには、相手の差し押さえるべき財産を原則として自分で見つけなければいけませんでした。

第三者からの情報取得手続きの新設

改正後の民事執行法には、第三者からの情報取得手続きが新設されました。

この制度を使うことで、これまでよりも支払い義務者の財産調査がしやすくなります。

給与支払者(勤務先)の情報

強制執行するべき財産がわからない場合には、財産開示手続きの申し立てをします。

この手続きをしても財産の状況が判明しない場合には、裁判所からの照会により自治体(市区町村)や日本年金機構から情報を取得することができます。

自治体は、住民税の徴収をするために住民の給与支払者(勤務先)の情報を持っています。

また、日本年金機構は厚生年金保険料の徴収をするために被保険者の給与支払者(勤務先)の情報を持っています。

このことから、自治体や日本年金機構に照会することで、債務者の勤務先の情報を得ることができるのです。

そして勤務先の情報を得ることで、給料の差し押さえをすることができます。

給料の差し押さえをする場合、勤務先に裁判所から差し押さえ命令が届きます。

これをされると勤務先に養育費の未払いが知られることになるため、相手にとっては大きなプレッシャーとなります。

預金の情報

預金の差し押さえをするためには金融機関名だけでなく、支店まで特定する必要がありますが、「支店まではわからない」というケースも多く、その場合、これまでは自宅や勤務先の周辺の支店に手あたり次第照会してみるしかありませんでした。

それでは当然「空振り」で終わってしまうことも多々あり、財産調査が思うようにいかないケースも多かったのです。

今回の法改正では、金融機関の本店に照会をすれば、その金融機関での預金の有無、どの支店に口座があるか、預金の種類、残高の情報を回答してもらえるようになりました。

支店ごとに照会をかけるのに比べ、はるかに効率的に預金の調査ができるようになりました。

改正民事執行法が与える今後の影響に期待

今回の民事執行法の改正により、今までよりも養育費回収の実現性が高くなることが期待できます。

養育費の強制執行を実現するには、債務者の財産の情報を得ることが不可欠なため、今回の改正で預金口座の情報や勤務先の情報を取得できる手段が増えたことの影響は大きいでしょう。

財産開示に応じない場合の罰則の強化も、相手に心理的プレッシャーを与える効果が期待できます。

養育費を支払わないことは、それだけ悪いことなのだという認識が広まることも期待できるでしょう。

確実に養育費を回収する方法

養育費が継続で支払われるのは全体の25%程度です。

残りの75%の人は養育費を受け取れない状態です。

「養育費を確実に回収したい」という人に向けて、養育費を確実に回収する2つの方法を紹介します。

  • ・離婚時に公正証書を作っておく
  • ・自分で交渉せず弁護士に依頼する

離婚時に公正証書を作っておく

養育費を回収するには、支払いが止まったときに強制執行できるかどうかが重要です。

法の改正により、相手の情報取得手続きがしやすくなって、回収も簡単になるかもしれません。

ただ一番重要なのは、強制執行するための公正証書を持っているかどうかです。

公正証書とは、離婚時の条件を書面にまとめて、公正役場の認定を受けた書類です。

単純に離婚時の条件をまとめるだけでは「協議書」として扱われるため、法的な拘束力が弱いです。

協議書を公正役場に提出して、公正証書にすることで、より強い法的拘束力が発揮されます。

公正証書を作成するには、離婚時に弁護士に依頼して、追加5,000〜2万円程度払えば手続きしてくれます。

詳しくはこちらの記事で紹介しているので、気になる方はぜひご覧ください。

→公正証書の詳細はこちら

自分で交渉せず弁護士に依頼する

養育費を回収しようとして、自力で交渉するのはおすすめできません。

なぜなら自力で交渉すると手間・時間だけかかって、養育費を払ってもらない可能性が高いからです。

「養育費を継続して支払う」という約束を破った相手に対して、自力の交渉で納得してもらい、再度支払いをしてもらうのは難しいでしょう。

そこでおすすめなのが、弁護士に依頼する方法です。

弁護士に依頼して、交渉を任せることで、自力交渉よりもスムーズで確実な支払いを期待できます。

特に養育費の案件を普段から扱っている弁護士事務所であれば、養育費回収に関しての有効な手段を知っています。

「自分がいまどういう状況なのか?」を説明して、最適な回収方法を提案してくれるでしょう。

気になる弁護士費用について

弁護士に依頼するときに気になるのが「依頼費用」だと思います。

「弁護士費用は高い」というイメージがあるかもしれませんが、お金がなくても弁護士に依頼する方法はあります。

例えば多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で受け付けています。

気軽に相談してみて「この弁護士に依頼したい」と思えば、そこで正式に依頼します。

「無料相談を利用したら、必ず弁護士に依頼しなければいけない」というルールはないため、無料相談の利用がおすすめです。

また弁護士費用は後払い・分割払いに対応してくれるかもしれません。

まとまったお金がなかったとしても、分割払いで毎月コツコツ返済していけば、問題なく弁護士に依頼できます。

「お金がないから弁護士依頼できない」と思っている人でも、気軽に無料相談が利用してみるのがおすすめです。

まとめ

養育費は、これまで長らくの間「払う気がなければ、払わないで済んでしまう」ような状況となっていました。

今回の改正で、この問題がすべて一気に解決するというような単純なものではありませんが、良い変化をもたらす見込みは高いでしょう。

「養育費は逃れようのないもの」という情報が普及すれば、自主的に支払おうという人も増えるのではないでしょうか。

なお、法律改正前に養育費の取り決めをした場合でも、改正後の手続きを利用することができます。

これまで泣き寝入りしてしまっていた方も、一度弁護士に相談するなどしてきちんと養育費を受け取る方法がないか検討してみましょう。

監修弁護士
中野 和馬

東京弁護士会

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