離婚する夫婦に未成年の子供がいる場合、どちらが親権をもつのか、住居や学校はどうするのか、養育費はどの程度とするのか、決めるべきことはたくさんあります。決めなければならない重要なことの一つに、子供の氏と戸籍はどうするのかという問題があります。
氏名はその子供のアイデンティティを示す重要な情報ですし、戸籍もその子供が結婚するまで付いて回る重要なものです。しかも、どちらの親と暮らすか親権をとるかということとは、子供の氏名や戸籍は必ずしも自動的には連動しないので、改めてよく考えたうえで対応する必要があります。
この記事では、離婚した場合の、子供の姓と戸籍について知っておきたい基礎知識をまとめました。
姓と戸籍とは?
日本では、夫婦は同じ姓を名乗ることになっており、法律上は別の姓を名乗ることは認められていません。
そこで、多くの夫婦は、結婚時に夫の姓を名乗ることになります。もちろん妻の姓を名乗っても良いのですが、現時点では女性の姓を選ぶことはあまり一般的ではありません。しかし、今後は、女性の社会進出の影響で変わっていくかもしれませんね。
戸籍制度とは、日本政府が国民を家族単位で情報を把握し、役所などで管理をして手続き等に役立てるために設けられている制度です。戸籍には筆頭者として1名が指定され、その戸籍にぶらさがる形で、配偶者や子どもが表記されていくことになります。筆頭者の定めは、夫であり父を家長とする昔ながらの日本の風習に由来するものといえるでしょう。
そのため日本人としてうまれると、まずは親などが市役所に出生届が提出することになり、通常は父親の戸籍に入ることになります。
結婚すると、多くの場合女性は親の戸籍を抜けて、夫の戸籍にはいります。男性の場合は、結婚によって親の戸籍から抜けて、自分を筆頭者とする新たな戸籍をつくり、そこに配偶者がはいります。
一方、離婚すると妻は夫の戸籍から抜けて、もとの親の戸籍にもどるか、自らの戸籍を作るかを選択します。つまり、日本人は一生どこかの戸籍に入り続けていることにはなります。このように、戸籍制度とは、日本の家族法の根幹を成すものとなっています。
通常は、姓を変える方である妻が、変えない方の夫を筆頭者とする戸籍にはいります。夫婦の間に子供が生まれると、子供も夫婦と同じ戸籍、つまり夫を筆頭者とする戸籍に入ることになります。
離婚後の戸籍について詳しく知りたい方は、「スッキリ解説!離婚後の戸籍はこうなる」を参照してください。
離婚したら妻の姓はどうなる?
夫の姓のままでも旧姓にもどってもよい
離婚すると、夫の姓に揃えておく必要性がなくなりますので、妻は旧姓にもどることが基本となります。
しかし、結婚生活が長い場合など、夫の姓で社会生活を営み、銀行口座やパスポートなど公的書類、印鑑を作っている場合、旧姓にもどると手間がかかって大変という場合もあります。そのため、妻は離婚時から3ヶ月以内に「婚氏続称」という届出を出すことで、夫の姓を名乗り続けることができます。
離婚の理由が相手にあり、相手の苗字を名乗り続けることに嫌悪感があるので元の苗字にもどりたいという方もいれば、苗字を急に変えて職場で離婚したという噂が広まったり、平日に銀行や役所にいって、氏名変更の手続きにおわれたりするのは嫌だという理由で、夫の姓を名乗り続ける人もいるでしょう。
婚氏続称するための方法
妻は旧姓にもどることが基本なので婚姻続称をしたい場合は、以下の手続きをする必要があります。離婚届には、妻が婚姻続称をするかどうかが選択できるチェックボックスがあるので、希望するほうにチェックしたうえで離婚届を出します。
なお、離婚時には元の姓にもどるつもりだったけれど、事後的にやはり婚姻続称をしたいと考えたときは、離婚後3ヶ月以内に役所にその旨の届出をすれば、婚姻中の姓にもどしてもらうこともできます。
しかし、一度続称の届出を出してしまった後、もう一度気が変わって元の姓に戻したいという場合は、この期限内であったとしても裁判所の許可が必要になり、簡単にはいきませんので、注意しましょう。
離婚したら妻の戸籍はどうなる?
上述のように、婚姻している間は、夫を筆頭者とする戸籍に妻がはいっています。離婚により妻はその戸籍からは抜けますが、どこかの戸籍に編入する必要があります。選択しとしては、親の戸籍に戻る方法と自分を筆頭者とする新しい戸籍をつくる方法があります。
前者は法的には復籍といい、元の苗字にもどる場合はあわせて復籍をすることが基本となります。元の戸籍ですので、自分の父親を筆頭者とした実家の戸籍にもどることになります。
なお、婚姻続称を選ぶ場合は、同じ戸籍内で異なる苗字を使うことが認められていないので、復籍することはできません
2つ目は、元妻を筆頭者とする戸籍を作る方法です。後述しますが、子供の戸籍は手続きしなければ夫の戸籍に残りますので、まずは妻一人だけの戸籍が作成されることになります。
離婚後の苗字について詳しく知りたい方は、「離婚後の苗字戻す?そのまま?」を参照してください。
離婚したら子どもの姓はどうなる?
離婚した場合の子供の苗字はどうなるのでしょうか?日本では、離婚するカップルの9割近くは、母親が親権を取得しています。母性優先の法則といい、特に幼児期の母親のかかわりは人間の成長に必須だといわれていることもありますし、母親のほうが衣食住など細かい世話に目が行き届きやすいという観点もあります。
母親は、離婚によって元の苗字にもどる場合もありますが、その母親が子供を引き取って暮らしているからといって、自動的に子供も母親の苗字になるわけではありません。
復氏するのはあくまで母親本人のみですので、子どもの姓は離婚時に夫の姓であれば、手続きをしなければそのままになります。
しかし、一緒に暮らしている母子の苗字が異なると不便ですし、子供も複雑な思いをする可能性もあります。そういった場合に、子供の苗字を母親とともに母親の旧姓に変えるためには、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可申立」を行います。
家庭裁判所への申立てということで身構えてしまうかもしれませんが、基本的には親権者である母の苗字とそろえる申立ては、社会通念上合理的ですので認めてもらえます。早い場合で書類に不備がなければ、即日審判がおりて変更されることもあります。
3ヶ月を超過して夫の姓を名乗りたい場合や、離婚にかかわらず姓を変えたいという場合の手続きとして大人の氏の変更申し立てという手続きもありますが、この場合は、変更をするためのやむを得ない事情が必要ですのでなかなか認められないことに比べ、こうした場合の子の氏の変更申し立ては原則問題ありません。
申立人は子供ですが、15歳未満の場合には、まだ判断能力が成人と同じではないとみなされるため、親が法定代理人として子供の代わりに申し立てをします。収入印紙800円を貼付して、子供の住民票所在地の家庭裁判所に提出します。
添付書類として子ども本人の戸籍謄本と離婚の事実がわかる父母の戸籍謄本が必要になりますので、あらかじめ取り寄せておきましょう。
家庭裁判所から子の氏の変更を認める審判がおりたら、その審判書が自宅に届きます。異議申し立て期間である2週間が経過すると審判の内容が確定するので、裁判所から確定証明書という書類を取得のうえ、審判書と一緒に子供の住民票所在地の役所に提出し、子供の姓を変更する手続きをしてもらいます。これにより、母親の旧姓に子供の姓をそろえる手続きが無事に完了します。
離婚すると子どもの戸籍はどうなる?
子供の戸籍も苗字と同様、離婚して母親が親権者として子供を引き取るだけでは、自動的には変更になりません。離婚によって婚姻時の夫婦の戸籍から妻は抜けますが、親子関係には影響しないため、子供はそのまま夫の戸籍に残ることになります。
感覚的には奇妙な感じがしますが、妻が婚姻続称をして夫の苗字を名乗っていても、戸籍だけは妻が別ということになります。母親と子どもの苗字は同じになるので、当事者でさえ気が付かない場合もありますので、離婚にあたってはどうするべきかよく考えておきましょう。
子供の戸籍を夫の戸籍のままに残しておくとどういった問題があるでしょうか?親権をとった母親としては愛するわが子を自分の戸籍に入れておきたいという気持ちの問題はありますが、日常生活としては、特段は大きな支障はありません。
戸籍謄本をとるような事態は頻繁には発生しませんし、戸籍が別でも親権者である母親は子供の戸籍を郵送で本籍地から取り寄せることもできます。
現実的なデメリットとしては、離婚にあたり不仲となり、音信を絶ちたいようなときに考えられます。子どもの戸籍が元夫の戸籍にある場合、筆頭者である元夫は、手続きとして戸籍の附票を役所から取り寄せることができます。
離婚後は、元妻は法的には他人になるので、元夫は元妻の戸籍を取り寄せることは出来ないですが、子供を元妻が引き取っている場合で子供が元夫の戸籍に残っていれば、こうした方法で、元妻と子供の居場所を特定できてしまいます。
たとえば、ドメスティックバイオレンスによる離婚など、居場所を知られたくないような場合には、子供の戸籍も離婚時にうつしておきましょう。
この特長を逆に利用する方法として、元夫が養育費を払わなくなり勝手に転居してしまった場合でも、子供が元夫の戸籍にはいったままであれば、子供の戸籍の附票をとれば元夫の所在がわかります。金銭的な支払にあまり誠意がなさそうな相手であれば、あえて戸籍に残しておくというのも一つの方法かもしれません。
子供の戸籍を移す方法
上記のようなメリットデメリットを踏まえても、やはりわが子は自分の戸籍に入れたいと考える方は多いと思います。離婚時に、元妻が子供の戸籍を、元夫の戸籍から自分の元に移すための方法としては、以下のとおりとなります。
まず、母親である元妻は、上述のように自分を筆頭者とした新しい戸籍をつくる必要があります。ちなみに、今の戸籍制度では、直系の親子までしか同じ戸籍とできないので、実家の戸籍にもどって元妻の父親を筆頭者とする戸籍に親子でもどるという方法はとることができません。
次に家庭裁判所に対して、子の氏の変更許可申立をする必要があります。この申立ては、母親が婚姻継氏をして、母親と子供の苗字が同じ場合であっても必要になります。同じ姓でも戸籍が異なるので変更許可申立てが必要だという整理となるためです。
この場合の子の氏の変更許可の申立書には、「申立人の氏であるXを、母の氏であるXに変更することの許可を求める」という記載をすることになり、文面上奇妙な印象を受けますが、手続き上そのようになっているので、安心して提出しましょう。
上述のようにこうした場合の子の氏の変更申立てはほぼ問題なく認められるので、母親を筆頭者として子供がその戸籍に入っている新しい戸籍が完成することになります。
ちなみに、子の氏の変更許可申し立てに法律上定められた期間はありません。しかしながら、あまりに離婚してから長い期間が経過したあとに申請すると、なぜ今頃になって申請するのか、今から変更する必要があるのかという点を詳細に説明しなくてはいけなくなりますので、離婚してからできるだけ速やかに申立てをしましょう。
子供の姓や戸籍の変更にあたっては、子供の気持にも配慮しよう
離婚は新しい人生に踏み出すという点において、必ずしも家族にとってマイナス名者とは限りません。しかし、世の中には、まだ片親家庭ということで心ない目でみるような人もいます。
子供が多感な時期に、苗字を変えることを強いられることで、学校でいじめられたり肩身が狭い思いをすることがないよう、苗字を決定するときには子供の気持にも十分に配慮しましょう。
戸籍や氏変更を含む離婚問題については弁護士に相談を
離婚は結婚の何倍もパワーを使うといわれています。戸籍や氏の変更を含む諸手続きや、元配偶者との示談交渉や、引越や新たな就労などやるべきことはたくさんあります。抱えきれなくなってしまう前に、離婚問題に詳しい弁護士に相談しておくことをおすすめします。
離婚問題を多く取り扱っている弁護士であればやるべきことや、考えることを明確に示してアドバイスをくれることが期待できます。初回無料相談などで受けてくれる事務所もありますし、法テラスのような法律支援機関もありますので、1人で悩まずに積極的に相談してみましょう。
弁護士の選び方からタイミングまで詳しく知りたい方は、「離婚弁護士の選び方から 無料の相談方法やタイミングまで徹底解説」を参照してください。