この記事でわかること
- 不貞行為の慰謝料相場がわかる
- 慰謝料に課税があるか理解できる
- 課税される場合の節税方法がわかる
不貞行為の慰謝料請求をするとして、問題になるのは受け取った慰謝料に税金がかかるかどうかです。
慰謝料に課税があれば、税金分だけ慰謝料の手取りが少なくなります。
受け取る側にとって慰謝料への課税の有無は重要な問題ではないでしょうか。
この記事では、不貞行為の慰謝料相場や課税の有無について解説します。
不貞行為の慰謝料に対して税金がかかったときの節税方法なども合わせて取り上げます。
不貞相手への慰謝料の相場は100~300万が相場
不貞行為の慰謝料請求には、本来相場はありません。
なぜなら、不貞行為といってもいろいろなパターンがあるからです。
たとえば、40年連れ添った夫婦がいたとします。
その40年連れ添った夫婦の夫が20年前から妻に内緒で不貞行為をしていました。
不貞行為の年数は20年です。
別の夫婦は結婚3年。
夫が半年前から不貞行為をしていることが判明しました。
ふたつの夫婦の不貞行為を同じように考えることはできるでしょうか。
連れ添った年数も異なりますし、不貞行為をしていた年数も違います。
このように、夫婦や不貞行為ケースごとに年数や夫婦の事情などが違っているわけです。
配偶者の不貞行為に対して商品価格のような相場を設けては、かえって不平等な結果になります。
だからこそ、不貞行為の慰謝料はケースバイケースで決められることが基本です。
ただし、今までの判例などからおおよその相場を読み解くことはできます。
不貞相手への慰謝料相場は100~300万円です。
配偶者と浮気相手どちらにも請求できるのか
慰謝料相場である100~300万円が仮に請求できる場合、浮気をした配偶者と浮気相手のどちらにも慰謝料請求できるかが問題になります。
配偶者と浮気相手にそれぞれ100万円で請求できるとすれば200万円。
片方にしか請求できないとすれば100万円です。
慰謝料を受け取る側にとって、この金額差は大きいのではないでしょうか。
もちろん、浮気相手と配偶者どちらにも請求できた方が、受け取る側にはメリットがあります。
この点についてはどうなのでしょう。
仮に慰謝料額が100万円だった場合、請求や支払いはどうなるのでしょうか。
慰謝料額が100万円だった場合、浮気相手と配偶者の両方に100万円ずつ請求することはできません。
100万円ずつ請求して二重取りはできないということです。
浮気をした配偶者と浮気相手は、共同して「浮気」という不貞行為をしました。
ふたり合わせて不貞行為のカウントが1なのです。
そのため、慰謝料額が100万円の場合は配偶者と浮気相手から100万円ずつ支払ってもらえるのではなく、配偶者と浮気相手の慰謝料額合わせて100万円を支払ってもらえます。
先に配偶者に慰謝料請求をして100万円受け取っていたら、浮気相手に対しては請求できません。
なお、浮気相手に慰謝料請求を行う場合、浮気相手の事情が考慮されます。
結果的に不貞行為になったとしても、浮気した配偶者が浮気相手に対して「未婚だ」などの嘘をついていた場合は浮気相手への慰謝料請求が認められない可能性があります。
仮に認められたとしても、慰謝料額がかなり低くなってしまう可能性もあるのです。
注意が必要になります。
慰謝料請求ができなくなる「時効」の問題
不貞行為による慰謝料請求は好きなタイミングでできるわけではありません。
なぜなら、慰謝料請求には時効があるからです。
時効が過ぎてしまうと、慰謝料請求自体が基本的にできなくなります。
不貞行為の慰謝料請求の時効は「浮気とその加害者(浮気相手)を知ったときから3年」です。
不貞行為により離婚した場合は、配偶者に対して離婚から3年間慰謝料請求が可能になっています。
反対に考えると、3年という時効期間を過ぎてしまうと、相場金額や二重請求の問題など関係なく、そもそも慰謝料請求自体ができなくなってしまうのです。
結果はゼロ円になります。
不貞行為の慰謝料請求をする上で時効は重要です。
注意して慰謝料請求を進めましょう。
配偶者の不貞行為による慰謝料は原則非課税
配偶者の不貞行為の慰謝料を請求し、慰謝料を実際に手にしたとしましょう。
受け取った慰謝料に課税があるかどうかが問題になります。
日本は基本的にプラスや収入があると課税対象になる国です。
給料などに対しては所得税の課税がありますし、相続で遺産を受け取ると相続税が課税されることがあります。
この他に贈与によって財産を受け取ると、贈与税の課税もあるのです。
慰謝料は「お金を受け取ること」ですから、収入のようにも見えます。
所得税や贈与税などの課税はあるのでしょうか。
結論をいってしまうと、不貞行為による慰謝料は原則非課税になります。
不貞行為の慰謝料は、不貞行為による心への損害に対して支払われるのです。
心に損害(マイナス)があり、そのマイナスを補填するための支払いですから、税金はかからないのです。
所得税法施行令第30条にも、不貞行為による慰謝料が原則非課税だと明記されています。
配偶者の不貞行為によって慰謝料を受け取っても、原則的に非課税であるという解釈で問題ありません。
慰謝料を他の名前で受け取ったときも原則非課税
不貞行為の慰謝料という性質でありながら、中には「慰謝料」という名目ではなく、別の名目で支払われる場合もあります。
たとえば「解決金」「謝罪金」「示談金」などがこれに該当します。
別の名前で支払われた場合も、その支払いが不貞行為の慰謝料としての性質を有している場合は、原則的に非課税になるのです。
非課税になる理由は慰謝料と同じになります。
名前が違っていても、心の痛みや損害の穴埋めとして払われる金銭だからです。
慰謝料に贈与税がかかる場合と対策法
原則的に非課税なはずの不貞行為の慰謝料ですが、例外的に贈与税が課税されるケースがあります。
慰謝料が非課税にならず贈与税が課税されるケースと、慰謝料の節税方法について見てみましょう。
まずは慰謝料が例外的に課税される4つのケースについて説明します。
慰謝料が非課税にならず贈与税が課税されるのは、次の4つのケースです。
- ・慰謝料が明らかに高すぎる
- ・現金ではなく物をもらった
- ・離婚や慰謝料の支払いが偽装
- ・慰謝料の立て替え
例外(1)慰謝料が明らかに高すぎる
慰謝料が不当に高額になっている場合は、慰謝料に贈与税の課税が行われる可能性があります。
たとえば、慰謝料相場が100~300万円なのに、いきなり1億円の慰謝料が支払われたらどうでしょう。
税務署側としては「慰謝料の部分は100~300万円で、残りの金額は贈与ではないか」といぶかしんでしまいます。
慰謝料は非課税ですから、慰謝料という名目で贈与が行われるかもしれません。
また、本来の慰謝料に追加するかたちで、税金逃れの贈与が行われてしまうかもしれません。
慰謝料が明らかに高額な場合は、贈与税が課税される可能性があります。
税務署から問い合わせを受ける可能性もあるのです。
なお、贈与については110万円までの非課税枠があります。
贈与の非課税枠から飛び出すような高額が支払われた場合に、慰謝料に対する贈与税の課税が問題になることがあるのです。
慰謝料はケースバイケースなので、個別ケースによってはかなり高額になることがあります。
心配なら、慰謝料や贈与税について税理士に確認しておきましょう。
例外(2)現金ではなく物をもらった
不貞行為の慰謝料は現金で支払われることが多いのですが、中には現金の代わりに不動産や動産、有価証券を渡すケースがあります。
現金ではなく不動産や動産を渡した場合は、それらの動産や不動産が時価により相手に譲られたと解釈します。
財産の取得金額より譲渡金額が上回っていれば、譲渡益について税金が課税される可能性があります。
不動産の名義を移すときに必要な登記には登録免許税が必要なのです。
登録免許税は登記手続きの手数料のようなもので、登記原因により課税額が変わってきます。
物を提示された場合は、物ではなく現金を払って欲しい旨を伝えるという対策法があります。
例外(3)離婚や慰謝料の支払いが偽装である
離婚や慰謝料の支払いが偽装によるものの場合は贈与税の課税対象になる可能性があります。
たとえば、相手に財産を渡したいが、贈与税の課税が嫌でした。
贈与税を課税されないようにするために、偽装離婚して慰謝料として支払いました。
このようなケースは慰謝料や離婚を偽装した贈与です。
贈与税の課税対象になる可能性が高いのです。
贈与の場合は贈与税の申告を行うことが対策法になります。
偽装はしない。
これが一番の対策です。
例外(4)第三者による慰謝料の立て替え
不貞行為の加害者側が慰謝料を支払うときにお金がなく、第三者に立て替えてもらうケースがあります。
第三者に慰謝料を立て替え払いしてもらう場合、表面的には加害者からの慰謝料の支払いではなく、第三者からの贈与に見えます。
税金が課税されることがありますので、注意してください。
第三者による支払いも有効です。
ですが、第三者が支払いに介入することで支払い関係が複雑化してトラブルになるリスクもあります。
慰謝料の支払い関係が複雑化することや、他社の視点では贈与に見えることを説明し、可能な限り本人に払ってもらうようにしましょう。
どうしても支払いに第三者が介入する場合は、後のトラブルを防ぐためにも、弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
離婚慰謝料での節税方法とは?
次に慰謝料の節税方法について見てみましょう。
慰謝料へ課税されないためには、どのようなポイントに気をつければいいのでしょうか。
不貞行為の慰謝料の節税で気をつけるべきポイントは3つあります。
- ・慰謝料は現金払いする
- ・調停などを利用する
- ・公正証書などを利用する
ポイント(1)慰謝料は現金で支払う
慰謝料は現金払いすることがポイントになります。
前述しましたが、不動産や動産、有価証券などで支払ってしまうと、課税のリスクがあるのです。
不貞行為の慰謝料への節税対策のためにも、支払いは現金で行いましょう。
離婚前の財産受け取りは避けることも、慰謝料の節税対策になる可能性があります。
ポイント(2)調停などの裁判所手続きを利用する
不貞行為の慰謝料を受け取るときの節税対策としては、調停や裁判が有用です。
裁判や調停によって慰謝料の受け取りが決まると、判決などの公的な文書として慰謝料の証拠が残るのです。
税務署などから慰謝料について「贈与ではないか」と疑われた場合、裁判の判決などを見せれば解決します。
裁判の判決などは、証拠として強い力を有しています。
このように、有用な証拠を残すように心がけることが、慰謝料の節税方法になるのです。
ポイント(3)公正証書などを利用する
裁判や調停で不貞行為の慰謝料支払いが決まると、判決などのかたちで慰謝料の証拠が残ります。
ただ、証拠を残したいがために裁判や調停をわざわざ利用することはナンセンスです。
話し合いで不貞行為の慰謝料支払いが決まることもあるため、裁判や調停を利用しないというケースもあることでしょう。
裁判や調停などを利用しないケースでは、公正証書の利用をおすすめします。
公正証書は公証役場で作成する公文書のことです。
公証役場の公証人は法律のプロ。
公正証書には強い証拠としての信用力があるのです。
税務署から「贈与ではないか」と疑われたときに、公正証書が強力な証拠になってくれます。
裁判や調停をしなくても公正証書の作成が可能です。
話し合いで不貞行為の慰謝料の支払いが決まったら、話し合いで決めた内容を公正証書としてまとめておきましょう。
税金の不安があるときは事前確認を
不貞行為の慰謝料には贈与税の不安がつきまといます。
たとえば、社会通念上明らかに慰謝料が高額な場合は贈与税の課税が行われる可能性がありますが、その高額とは具体的にどのくらいの金額を指すかが不透明です。
最終的に税務署の判断になるため、慰謝料を受け取る側である個人では不安感がぬぐいきれません。
また、慰謝料を受け取ることにより、税務署から贈与ではないかと疑われ、問い合わせを受けるケースもあるのです。
個人が税金のプロである税務署の問い合わせに応答することは、やはり不安ではないでしょうか。
節税について気をつけても、プロの目から見ると対処を間違えているケースも少なくありません。
また、ケースによっても適切な方法が違ってくる可能性もあります。
不貞行為の慰謝料について不安があれば、弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
不安点はきちんと解消し、不貞行為の慰謝料を受け取りましょう。
慰謝料の支払いが決まった段階で弁護士や税理士にアドバイスを求めておくことも良い方法です。
まとめ
不貞行為の慰謝料は原則的に非課税です。
ただし、例外的に課税が行われるケースがあります。
課税が行われるケースとしては、慰謝料にしては明らかに高額なケースや、慰謝料の名前で贈与が行われたケースなどがあります。
慰謝料の節税方法に気をつけて、勘違いなどで課税されないよう注意しましょう。
不貞行為の慰謝料で困ったことがあれば、早めに弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。