弁護士 堀 翔志(ホリ ショウジ)
離婚事件を依頼すれば、プライベートな問題も弁護士に話さなければなりません。私たちは依頼者様の話を真剣に聞き、気持ちを理解できるように努めています。離婚事件の場合、依頼する側にとっては、単に多くの金額を獲得できればよいというわけではないこともあります。たとえば、お金よりもまず相手に謝罪してほしいという気持ちが強い場合には、その気持ちを汲んだ交渉をしていきます。
弁護士登録後1年目は、独立して事務所を運営しており、その際は、国選弁護人や私選弁護人としての活動、交通事故等に注力しました。2年目は、独立こそしていたものの芸能事務所の内部に所属していた経験がございます。
今後はベンチャーグループの様々な案件を解決に導けるように注力してまいります。まだまだ若造ではございますが、フットワーク軽く対応させていただけるよう頑張りますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
子供に関する権限について
本日は、お時間をいただきありがとうございます。
今回は、養育費についてご説明いただければと思います。
こちらこそお時間をいただきありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
まずは、離婚する場合、親は子供に関して具体的にどのような権限があるのでしょうか?
まず、離婚する場合、必ず父母のどちらかが親権者となります。
協議離婚の場合は、離婚届に親権者をどちらにするか指定しなければ受理されません。
調停離婚、審判離婚、裁判離婚の場合は、判決等のなかで親権者の指定が記載されます。
親権には2種類の権利があり、財産管理権と身上監護権があります。
親権者が2つ合わせて持つこともできますし、親権者ではないほうの親が財産管理権だけを持つこともできます。
親権のなかに財産管理権と身上監護権が含まれているんですね。
財産管理権とはどのような権限でしょうか?
財産管理権とは、成人のように成熟した判断がまだできない未成年の子供のために、親が子供の財産を管理する権利のことをいいます。
例えば、子供がお年玉をもらって預金口座に貯金する場合に、無駄遣いしすぎないようにその口座を管理したり、子供が不動産など大きな贈与を受けるときに管理したりというパターンが考えられますね。
では、身上監護権はどのような権限でしょうか?
身上監護権は、子供と同居して、衣食住、教育など実際の養育を行う権利です。
離婚の際、財産管理権と身上監護権を分けるケースはあるのでしょうか?
はい、財産管理権と身上監護権を分けるケースもありますね。
例えば、経済感覚に優れた父親が財産管理権をもち、実際に子供と暮らして細やかに生活の面倒をみて育てていく身上管理権を母親が持つというようなケースが考えられると思います。
養育費について
離婚し、子供が一方の親に引き取られると養育費が必要となりますが、養育費にはどういった意味合いがありますか?
養育費は、子供が社会的、経済的に自立する年齢、通常は成人するまでの間の、衣食住、教育、合理的な範囲の娯楽などの生活費を、親権者ではない親が負担するという意味合いを持ちます。
離婚によって夫婦は法的に他人になりますが、親子の関係性は離婚によって断ち切られるものではありません。
法律上の親子である以上、親には子供を、自分と同じ生活レベルで暮らすことができるように経済的に扶養するべきという生活扶養義務を負います。
そのため、別居する親は、養育する親に対して生活扶養義務に基づき養育費を支払わなければなりません。
もし、養育費を支払いたくないと言われた場合はどのように動けばいいのでしょうか?
養育費を任意で支払わない場合、家庭裁判所に対して調停を申し立てることができます。
養育費を払うことは法律上の義務ですので、任意に払わない場合は、最終的には法的手続きで強制的に支払わせることができるのです。
養育費を請求する権利が法で守られているんですね。
それでは、養育費の相場はどのようになっていますか?
夫婦の年収や学歴、生活レベルによって、必要な養育費のレベルは異なります。
例えば、高校を卒業してすぐに働き始めた夫婦と、大学院まで卒業している夫婦の子供は、将来受けるはずの教育レベルは違うと考えたほうが一般的でしょう。
そのため、理想的には夫婦が話し合って自分たちの子供に必要と考える金額を取り決めるということになります。
しかしながら、一般的には、養育費を受け取る側の支払い義務者はなるべくお金を払いたくない、もらう側の権利者はなるべくお金を多くもらいたいと考えるものですので、利害が対立してしまうこともままあります。
そうなってしまい、合意ができないときには、家庭裁判所に対して養育費の支払いを求める調停を起こすことができます。
調停となった際、養育費はどのようにして計算されるのでしょうか?
調停となった場合の養育費は、養育費算定表という表に基づいて計算します。
養育費算定表は、東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の裁判官が話し合って決めた表になります。
支払義務者と受取権利者の年収、子供の人数、自営業か会社員かなどの属性情報で、養育費のレンジが自動的に算定されます。
そのレンジ内で具体的にどの金額の養育費をあてはめるかは、個別具体的な情報をあてはめて判断します。
例えば3人の子について、夫が1人、妻が2人というように親権を分けることになった場合、養育費はどのようになりますか?
親権を分ける場合、養育費算定表が使えなくなるので、個別の計算式をあてはめて算出することになります。
この事例では、妻のほうが養育する子の人数が多いので、夫が自分の養育する子供に必要な養育費を差し引いたあとで妻に養育費を支払うということになります。
子供の親権を持つ方が裕福であった場合も、養育費は請求できますか?
はい、子供の親権を持つ方が裕福であった場合も、養育費は請求できます。
親である以上、養育費を支払うことは法律上の義務です。
ただし、支払いを受ける側のほうが裕福であるケースで、算定表をベースに養育費を決定する場合は、毎月もらえる金額は、支払い義務者のほうが裕福である場合よりも低くなります。
もし、養育費を支払う側の生活が苦しく支払えないとなった場合、請求できないのでしょうか?
いいえ、請求できます。
養育費は子供の生活水準を保つために必ず支払う義務があるからです。
そのため、生活が苦しくてもなんとかお金を工面して支払ってもらう必要があります。
もし任意で養育費が支払われない場合は、支払い義務者の給与債権を1/2まで差し押さえることができます。
なるほど、子供の生活水準を保つために必ず支払う義務があるんですね。
離婚を急いで養育費について取り決めをしていないケースもあるかと思いますが、離婚後に支払請求をすることはできるのでしょうか?
はい、可能です。
相手が任意で支払わない場合は、家庭裁判所に養育費の支払いを求めて調停を起こすことができますので、基本的には相手方は算定表に基づく養育費を払うということになります。
離婚の際に「養育費はいらない」と取り決めをした場合、後から事情が変わり請求しようと思ってもできないのでしょうか?
取り決めがあった場合でも請求ができます。
支払義務者と支払い権利者の申し立て時点の経済状況を含めて、現時点での適切な養育費を算定しなおすように要求することができますし、相手が任意で応じない場合は再び調停を起こすことができます。
支払義務があるにもかかわらず、養育費が支払われないというケースをよく耳にします。
支払われていない世帯はどのくらいの割合でしょうか?
そうですね、養育費が成人に達するまできちんと支払われ続けているという例は、残念ながら全体の2割程度といわれています。
当初は養育費を支払うつもりだったけれど、その後別の人と再婚して子供が生まれて経済的に苦しくなった、別居している子供との関係性が薄くなり支払いを滞らせるようになったということは残念ながらよくあることのようです。
養育費の請求には時効があるのでしょうか?
離婚時に養育費の金額の取り決めがあったかによって異なります。
離婚時に取り決めをしていて金額が確定している場合は、時効期間は基本的に5年となります。
養育費は毎月払いが基本となるので、法的な評価としては定期給付債権となります。
民法169条では、そうした定期給付債権の時効を5年としています。
つまり、養育費は毎月発生し、5年がたつと毎月分が順々に消滅していくということになります。
養育費の取り決めを具体的にしていない場合は、養育費は時効消滅せず、子供が成人するまではずっと相手方に請求することができます。
それでは、取り決めをしたにもかかわらず養育費が支払われなくなった場合、どのような流れになりますか?
履行勧告や履行命令という手続きを利用することができます。
「履行勧告」は、取り決められた養育費が支払われなかった場合、家庭裁判所が義務を履行するよう促す手続きとなります。
そして、支払義務者が履行勧告にも応じなかった場合は、権利者の申立てがあれば履行の強制として「履行命令」を出すことができます。
履行命令に正当な理由なく義務者が従わない場合、過料という罰金が課せられるので間接的に履行を強制することができます。
支払うように督促をしても無視されるなどの場合は、強制執行をして回収することができます。
強制執行をかけるためには、協議離婚の場合、離婚協議書に養育費の支払いを取り決めて公正証書にしておくことが重要です。
公正証書にしている場合は、訴訟を改めて起こさなくても相手の不動産や給与債権などめぼしい財産に強制執行をかけることができます。
もし公正証書にしていない場合は、調停や裁判をおこすことで養育費の支払いを求めることができます。
また、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の場合は、調停調書、審決、判決の中に養育費の取り決めが記載されていますので、この場合も訴訟をおこすことなく強制執行をかけることができます。
最終手段として強制執行があるんですね。
「履行勧告」と「履行命令」の制度は誰でも利用できるのでしょうか?
履行勧告と履行命令は、調停・審判・裁判で定められた内容を遵守しない人に対して、家庭裁判所が命令する手続のことをいいます。
したがって、協議離婚をしている場合は、利用することができません。
養育費を請求できるのは親権を持つ親だけでしょうか?
いいえ、養育費と類似した性質をもつ扶養料というお金は、子供本人から離れて暮らす親に対して請求をすることができます。
扶養料とは、子供の生活費のことをいいます。
子供が未成年の場合は、養育している親が親権者として法定代理人となりますので、養育親が子供の代わりに法的な請求手続きをするということになります。
任意で支払わない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を申し立てることもできます。
養育費の不払いを防止するような方法、例えば、不払いを理由に子供と面会させないというような対策はありますか?
養育費と面会交流とは分けて考えるべきであり、そのような方法をとることは基本的にはできません。
しかし、現状としては間接的にこういった心理的強制をかけるケースもあると思います。
本日は、お忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。
養育費をいくら請求できるかわからず悩んでいる方、養育費の不払いに困っている方、弁護士への相談を検討している方へのメッセージをいただければと思います。
養育費を請求する権利は非常に強い権利です。
悩んでいらっしゃる方は、ぜひ一度、離婚案件の取り扱い実績が豊富な弁護士に相談してみましょう。
インタビューを終えて
養育費が成人に達するまできちんと支払われ続けているという例が2割程度と聞いて驚きました。
離婚する際に養育費は子どもにとっても大切なものです。
大切な権利を守るためにも相談をしてみることは必要だと思いました。
先生、本日はありがとうございました。