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【裁判例でみる】別居10年で不倫をした妻からの離婚請求が認められた事例を詳しく解説

 

北浜法律事務所・外国法共同事業_川原 大輝 弁護士
監修弁護士:川原 大輝 弁護士(北浜法律事務所・外国法共同事業)

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■所属弁護士会:大阪弁護士会
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この記事でわかること

  • 不倫をした妻(有責配偶者)からの離婚請求が認められた事例を知れる
  • 有責配偶者が離婚請求した場合のデメリットがわかる

肉体関係を含んだ不倫や、DV、虐待など、夫婦関係が破綻してしまうような行為を有責行為といいます。

有責行為をした配偶者のことを有責配偶者といい、原則として有責配偶者からの離婚請求は認められないとされています。

ただし、事情によっては有責配偶者からの離婚請求であっても離婚請求が認められる場合もあります。

今回は有責配偶者から認められた判例の紹介と、離婚訴訟するデメリットについて解説していきたいと思います。

不倫をした妻からの離婚請求が認められた裁判例

有責配偶者からの離婚請求は、基本的に認められないということを聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。

「離婚請求」とは、有責配偶者が家庭裁判所に対して離婚訴訟の請求を指します。

離婚協議や離婚調停の場合、行う目的が「話し合いで円満に離婚を成立させること」ですが、離婚訴訟の場合、話し合いではなく、夫婦双方の主張を裁判官が聞き、証拠と照らし合わせてどちらの主張に説得性があるのかによって判断されます。

つまり、離婚訴訟の場合、有責配偶者であってもその主張に正当性があると裁判官が判断してくれれば、離婚請求が認められるケースもあるのです。

さっそく裁判例を紹介していきたいと思います。

 

【裁判年月日】昭和63年12月8日

【裁判所】最高裁第一小法廷

【事件番号】昭和62(オ)843号

 

この裁判は、不貞行為をした妻から離婚請求し、その請求が認められた裁判例です。

夫は判決の内容を不服と感じ、最高裁まで争いますが、裁判所が出した結論は、不貞行為された夫の主張を認めず、妻側の主張を認める形で最終的な判断が下されました。

一見すると、理不尽に思えるような判決ですが、裁判所が離婚を認めた背景にはきちんとした理由があります。

離婚訴訟で、有責配偶者からの離婚請求が認められる基準として、別居期間が相当の期間に及んでおり、離婚によって相手方が精神的・社会的・経済的に極めて過酷になるなど社会正義に反するような状況に陥らない限り認められるとされています。

前提基準を踏まえて、今回紹介する裁判例ではなぜ、離婚が認められたのか詳しく考えていきましょう。

 

同居期間と別居期間

今回紹介する裁判例では離婚認められた理由のひとつとして、同居期間と別居期間についてあげられています。

夫婦の同居期間は1年10か月でした。

同居期間のうち、夫は外国航路の船で働いていたこともあり、婚姻前の同棲期間を含めて実質的に同居していた期間は8か月、婚姻だと約4か月間の同居期間だったとされています。

一方で、別居期間は妻が離婚を切り出し、実際に家を出て行ったのが1976年11月14、15日あたりで、二審の最終口頭弁論のあった1987年1月28日地点で、実に10年3か月の別居期間に及んでいます。

同居期間と別居期間を比べてみても、相当数、長期間の別居があったことがわかると思います。

 

夫婦には、同居・協力・扶助の義務があります。

簡単に言うと、「夫婦になったら、仕事上の都合など特別な事情がない限りは同居して、協力し合いながら夫婦生活を送りましょう」という義務です。

夫の場合、仕事が外国航路の船の従業員なので、「夫婦の同居の義務」に反しているとはいえません。

しかし、妻の場合は「離婚したい」という自分の意思を伝え、実際に家を出て行ったので、「夫婦の同居の義務」に反しているといえます。

そのため、別居の基準日は妻が出ていき、不貞相手と暮らすようになった日でカウントされるのです。

 

婚姻継続の意思について

有責配偶者が離婚の意思をみせたとして、相手方が婚姻継続の意思を示していれば、通常離婚が認められない可能性が高いです。

婚姻継続の意思は、「有責配偶者との関係修復が実現可能なものだと考え、実際に真摯に向き合って関係修復に努めている」という行動があったかどうかで判断されます。

つまり、相手方が裁判の場で、婚姻継続の意思表示を言葉にしていても、「信ぴょう性がない」とみなされれば、有責配偶者からの離婚請求が通りやすくなる可能性が高いのです。

今回のケースでは、夫は不貞行為をした妻との婚姻の継続の意思を裁判所に主張しましたが、結果としては通りませんでした。

理由として、夫と別居後にアルコール依存症や躁うつ病をわずらった妻に対して、生活費や治療費を送金しなかったこと、お見舞いや手紙などで音信を寄せなかったことがあります。

そのため、裁判所は「不貞行為した妻に離婚といわれる筋合いはない」といったような意地の部分や、憎悪などからくる感情的な理由によって婚姻継続の意思を示しているにすぎないとし、夫の主張に信ぴょう性がないとみなしました。

 

離婚する場合に夫が受ける不利益

有責配偶者からの離婚請求は、相手方が「精神的・社会的・経済的に過酷な状況になる」などの事情があった場合には離婚が成立しないと考えられています。

さまざまな法律の基本的な考え方として、信義則というものがあります。

つまり、自分の主張が社会一般的な常識や見解に反しているようなものに関しては無効だとみなされます。

今回の場合、不貞行為をした妻からの離婚請求が信義則に反しないとみなされたため、離婚が認められました。

信義則に反しないとされた理由としては、夫は年収400万円があり、妻からの扶養が必要ない状態であることや、相続財産に関しても期待できないだろうということなどが挙げられています。

更にこの夫婦のあいだには、子どもがいないことも離婚が成立したひとつの要因とされます。

法律上、経済的に自立していない子どものことを未成熟子といい、夫婦のあいだに未成熟子がいたときには、離婚が認められない傾向にあります。

ただし、あくまで状況によって異なりますので、考慮される事情のひとつとして考えておいた方が良いでしょう。

 

有責配偶者からの離婚請求が離婚訴訟になるデメリット

有責配偶者が離婚請求し、離婚訴訟を行う場合、デメリットが生じる可能性があります。

どういうことなのか、具体的に確認していきましょう。

 

最終的な決着がつくまで長期間に及ぶ可能性がある

有責配偶者が離婚訴訟を起こすデメリットとして、最終的な決着がつくまでに長期間にわたって対応が必要になる可能性がある点です。

本来、夫婦関係を破綻させる理由を作った方からの離婚請求ですので、相手方である夫や妻からしたら、理不尽だと感じることは大いにあり得るでしょう。

1審で家庭裁判所が離婚を認める判決を下したとしても、相手方である夫や妻が、その判決を不服だと思った場合には、控訴審、控訴審でも納得がいかなかった場合には、最終的に最高裁判所で離婚の可否が争われることになります。

裁判にかかる期間は、通常1審で終わる場合には、大体1年ぐらいといわれています。

それを控訴審、上告と続けていった場合、3年以上かかるケースもあるようです。

争いが長期にわたると精神的、身体的にも疲労が重なります。

したがって訴訟で離婚の可否を問うよりも、協議・調停の話し合いの段階で、離婚の成立を目指した方が良いともいえます。

更にいえば、裁判が長期間にわたる場合、金銭面でも負担がかかると予想されます。

裁判は高度な法的知識が必要となるため、弁護士に依頼することが前提です。

制度上、弁護士に依頼することなく自力で行うことも可能ですが、相手方が弁護士を立ててきた場合、金銭面を気にして弁護士を立てないでいると、自身にとって不利な判決になる可能性が高いです。

 

裁判官の考え方によって離婚が認められないケースがある

裁判所に訴訟の申し立てをすれば、過去の判例に沿った判決が当然下ることだと考える方もいらっしゃるかと思います。

とはいえ、裁判で判断する裁判官はそれぞれ独立した人間です。

そのため、夫婦双方の主張を聞いてどのような心証を持つのかどうかは、各裁判官のとらえ方に因るところもあります。

有責配偶者からの離婚請求は、各裁判官の考え方が判決に反映する部分もあります。

例えば、有責配偶者からの離婚請求が認められる基準として、「長期間の別居」があります。

離婚に相当する長期間の別居の基準は、明確に年数で定められていません。

7年半の別居で認められることもあれば、8年間の別居を経ても離婚が認められないこともあるのです。

どれくらいの別居年数で離婚が認められるかどうかは、裁判官が夫と妻双方の主張を聞いてどちらにより説得性があるのかによって大きく左右されます。

そのため、たとえご自身で「〇年別居したんだから、夫婦関係はすでに破綻している」したとしても、別居期間中に相手方から援助を受けていたり、相手方が修復を望み努力をしていたりしたことを立証されると、離婚請求が通らないケースもありますのでご注意ください。

 

まとめ

今回は、不貞行為をした妻からの離婚請求が認められた判例を紹介しました。

離婚のトラブルは夫婦によって事情が異なり、テンプレートがありません。

これは離婚訴訟に発展したときも同様で、離婚が認められる基準こそあるものの、細かな部分についてはその裁判を担当する裁判官の裁量に任される部分もあります。

裁判となった場合、離婚協議や離婚調停といった相手に自分の主張するのではありません。

裁判官に「原告(被告)の主張は説得性がある」と思ってもらう必要があります。

自分の主張を通りやすくするには、豊富な法知識とともに経験も重要です。

したがって自力で戦おうとするのではなく、弁護士に相談した方が良いでしょう。

 

また、離婚訴訟は、離婚の可否を決める最終手段です。

したがって、訴訟で争うのではなく、その前の離婚協議や離婚調停で成立させた方が早期に離婚できるといえます。

早期の離婚成立は、早い段階で弁護士に依頼すれば、その実現性は高まります。

また弁護士としても、「どうしようもなくこじれてしまった状態」で依頼を受けた場合、手段が限られてしまうこともありますが、早めに相談すれば、手段の範囲が広くなります。

そのため、お困りの際には、離婚に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

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