弁護士 中村 伸子(あおぞら法律事務所)
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中村先生は福岡家庭裁判所で調停官の経験もあり、とても経験豊富な先生です。
弁護士というと難しい法律を扱っている職業ですので固いイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、中村先生は稚拙な質問にも丁寧にお答えくださり、何でも相談したくなるような先生でした。
離婚を考えたとき、切っても切り離せないのが「お金の問題」です。
基本的に夫婦の共有財産を分配する財産分与は取り決める必要があります。
また、状況によっては養育費、慰謝料等についても話し合って決めなければいけません。
特に財産分与は婚姻期間や共有財産が多くあったりするとかなり複雑になってきます。
夫婦がお互いの財産についてすべて把握していればいいですが、相手の自己申告だけですと、実際よりも低い金額を提示されてしまう可能性もあります。
中村先生にお聞きした質問テーマは、
これらになります。早速確認していきましょう。
離婚で発生する可能性のある財産隠しとは?
離婚は、夫婦間でさまざまな取り決めを行います。
夫婦のあいだの話し合いですべての取り決めを問題なく行えればいいですが、なかなかうまくいかないケースも多いのではないかと思います。
その中で、財産隠しが発覚したら相手に不信感を覚えてしまい、余計に話がこじれてしまいそうです。
早速、「財産隠し」について中村先生に聞いてみましょう。
財産隠しになりやすい「共有財産」とは?
離婚で問題となる財産隠しは夫婦の共有財産であるケースが少なくありません。
預貯金だとか、自宅である不動産といったものはなんとなく想像がつきますが他にどのようなものがあるのでしょうか。
共有財産
- 【金銭】現金・預貯金
- 【不動産】家や建物
- 【動産】家具・家電製品・自動車・宝石・貴金属
- 【有価証券】株式・国債等の公債
- 【保険関係】生命保険や学資保険
- 【その他】退職金、年金
※上記以外にも「婚姻期間中」に形成された財産ならば対象となります。
共有財産のなかでいくつかわからない点がありますので教えてください。
生命保険や学資保険等も財産分与の対象となるということですが、あまりイメージがつきません。どのようにして分けるのでしょうか。
具体的な解約返戻金の金額については、加入している保険会社に確認する必要があります。
基準日をもとにした解約返戻金が対象となるのですね。
どうしてもお金に注目しがちですが、基準日というのも大切ですね。
もう1点退職金についても教えてください。
共有財産には退職金も含まれるとのことですが計算方法はどうなるのでしょうか…。
退職金というと定年退職時等にもらえるものというイメージが強いです。
極端ですが、婚姻期間が1年未満で離婚した場合も、将来発生する退職金も財産分与の対象になってしまうのでしょうか。
そうなると、なんとなく金額が婚姻期間に見合わない気がします。
そのため、夫婦の共有財産になりえます。
ただし、どんなときでも退職金が共有財産にカウントされるわけではありません。
退職は離婚時や別居時点での推定される退職金、婚姻期間の長さ、勤続年数で計算することができます。
つまり、会社の規定で退職金を受け取る勤続年数に達していない場合には財産分与の対象にはなりません。
また、婚姻期間が1年や2年といった、比較的短い場合には、退職金が財産分与の対象とならないこともあります。
Point
- 共有財産は夫婦が婚姻期間中に形成した財産が対象
- 財産は「基準日」が重要となる
- 退職金は必ず共有財産にカウントされるわけじゃない
婚姻期間前の財産は対象外?特有財産の対象になるものを知ろう
共有財産は「婚姻期間中に夫婦が協力しあって形成した財産」であるのに対し、結婚前の預貯金は夫婦の協力で形成された財産ではありません。
このように夫婦ではなく、その人自身に属する財産のことを特有財産といいます。
そのため、相手方から返還を迫られても応じる必要はないですし、共有財産ではないのでそのまま所有していても問題ないです。
そのなかで、1点疑問があります。
相続や贈与でお金をもらい、そのお金を生活費用の口座で管理していた場合、共有財産と特有財産がごっちゃになってあいまいになってしまうことがあると思います。
このようなケースでは、共有財産と特有財産をどのように見分けるのでしょうか。
建物や土地のように不動産登記簿で「相続によって取得した」等、明確に所有者がわかれば良いのですが、所有者があいまいな場合は共有財産とみなされます。
遺産を相続したり、個人的にお金等を贈与してもらったりしたときには口座を分ける等で対応したほうがよさそうですね。
とはいえ、相続等で特有財産を取得した当初は、離婚を考えていない可能性もあるので難しいところです…。
Point
- 特有財産とは夫婦ではなく実質的に一方に属する財産のことをいう
- 結婚前の貯金、相続・贈与等で取得した財産は特有財産なので財産分与しなくて良い
- 共有財産なのか特有財産なのかがわからない場合には共有財産としてカウントされる
配偶者が財産を隠した疑いがあるときどうすればいいの?
離婚する場合、共有財産を把握しなければ正確に財産分与をすることができません。
そのため、本来であれば財産分与の前にきちんと共有財産を調べておくべきです。
しかし状況によっては調べる前に話し合いになったり、「早く離婚したい」の一心で共有財産の調査を怠ってしまうことがあります。
そんなとき、配偶者に財産隠しのある場合、どのような行動をとればいいのでしょうか。
中村先生に聞いてみました。
配偶者の財産隠しを疑った場合どうすればいいのか
例えば、預金口座の通帳や、給与明細、配偶者が自営業の場合は確定申告の書類、証券口座の証明書類等があげられます。
とはいえ、最近株式等はインターネットで取引が完結するものもあると思います。
このような場合、なかなか書面を入手するのは難しいような気がします。
配偶者の財産隠しの疑いがあるときには、まずは相手方が利用している証券会社や銀行といった口座等の情報を確保することが大切です。
少し話は変わりますが、離婚する場合共有財産以外にも子どもがいる場合には養育費を請求することができると思います。
財産隠しをした場合、養育費の算定が過少に評価されてしまう等のトラブルが起きてしまうようにも思えるのですが、いかがでしょうか。
例えば預金1億円を持っている年収300万円の配偶者がいたとしましょう。この場合、養育費の算定のもとになるのは、預金1億円ではなく、年収300万円の方です。
そのため財産隠しと養育費については別々に考える必要があります。
年収は会社等に勤めている給与所得者の場合、前年度の源泉徴収票にある、「支払金額」(控除されていない金額)を年収として計算されます。
一方で自営業の場合には確定申告の「課税される所得金額」をもとに養育費が算定されます。
給与所得者の場合、源泉徴収票は勤めている会社等が発行しますので、虚偽の申告をすることは考えにくいです。
また、自営業については年収を過少に申告するケースもあるのかもしれませんが、発覚した場合税務署から追徴課税される等のペナルティが課せられる可能性があり、リスクが高いです。
財産隠しというと、年収や預貯金等の資産、すべて一緒くたに考えがちだったのですが、養育費の算定方法についてとても勉強になりました。
Point
- 財産隠しの疑いがある場合には金融機関の口座情報等を確保すべき
- 養育費の算定と預貯金等の財産隠しは別として考える必要がある
共有財産の財産隠しの疑いがある場合の注意点
離婚を考えるうえで、離婚する前に別居を選択する夫婦は少なくないと思います。
別居する前に「もしかして財産隠しをしているんじゃないか」と思った場合、なにかすべきことはありますか。
別居してしまうと財産隠しの証拠を集めにくくなります。
というのも相手が家を出ていった場合、別居先に相手の了承もなく無断で入ってしまうと警察沙汰になる等のトラブルになりかねないからです。
少しお話が変わりますが、離婚後に財産隠しが発覚したケースについて教えてください。
共有財産を調べるときや離婚協議の段階で財産隠しが発覚すればいいのですが、状況によっては離婚後に発覚することも少なくないと思います。
このような場合、離婚後でも財産隠しを請求することができるのでしょうか。
ただし、財産分与の請求は原則として離婚後2年以内にする必要があります。
離婚後財産隠しが発覚した場合、まずは相手と話し合って財産分与のやり直しを求めることになると思います。
しかし、相手が意図的に財産隠しをしていたのであれば、話し合いに応じる可能性は低いでしょう。
その場合には、家庭裁判所で財産分与請求調停を行うことになります、
財産分与請求調停とは、調停委員を交え、夫婦の共有財産がどれくらいあるのか、共有財産に対する夫婦の貢献度等、財産分与についての事情をすべて話し合うことをいいます。
元配偶者の「財産隠し」を理由に調停を申し立てた場合、証拠書類等を提示せず、単に主張するだけでは認められる可能性は低いです。
そのため、財産隠しが推認できるような証拠等を用いて、主張する必要があります。
しかし、離婚後、元配偶者の財産隠しを立証できるような証拠を得るのは困難です。
離婚協議書や公正証書にした後に、財産隠しが発覚した場合でも財産分与の請求を行えるのでしょうか。
その理由として、清算条項が挙げられます。
離婚協議書は契約書の一種なのでしょうか。
また清算条項とは具体的にどういった意味なのでしょうか。
夫婦ふたりが合意して作成する書面ですので、法律上、契約書の一種として取り扱われています。
清算条項とは、簡単にいうと「双方の合意によって作成された契約書に記載されていること以外、何ら請求権はありませんよ」という意味です。
例えば夫婦で話し合い、財産分与について取り決めた離婚協議書を作成し、離婚したとします。
その後、元夫が自身の勤めている会社の自社株を持っていたことが判明します。
株式も夫婦の共有財産となりますので、「財産分与をやり直したい」と思うところです。
しかし、離婚協議書の最後に清算条項があると離婚が成立した時点で、夫婦のあいだには、離婚協議書に記載されていること以外の債務債権が存在しない状態になります。
財産分与の請求権も債権になりますので、財産分与のやり直しを行うことができなくなります。
離婚協議書の内容に錯誤があったこと等を理由に、財産分与のやり直しを求めることもできますが、主張が認められるには「錯誤である」ことを立証する必要があります。
錯誤を立証するには、相応の証拠書類等の資料が無ければなりませんので、思うような結果が出なかったり、相手方との紛争が長引いてしまったりすることもあります。
また、いったん決めた離婚協議書を無効にするとなると、資料を集めるのも苦労しそうですし、争いが長引きそうです。
争うとなった場合、金銭面だけでなく精神面でも大きな負担がかかる可能性があります。
離婚後も続くご自身の生活のためにも、争わないという選択も考えられます。
それなら、いっそ争いを回避することも方法のひとつだなと感じます。
Point
- 財産隠しの疑いがあるなら口座情報等を別居する前に確保しておくこと
- 財産分与の請求は離婚後2年以内に行わないと時効になってしまう
- 離婚後の財産分与は状況によって請求できない可能性がある
財産隠し等の離婚問題を弁護士に相談したいときどうすればいいの?
今回のテーマである「財産隠し」に関わらず、配偶者との離婚を考えた場合、さまざまな不安や悩みが生じると思います。
ひとりで考えてみてもどうしようもないと感じたとき、弁護士に相談・依頼を検討する方も多くいらっしゃるでしょう。
しかし、相談といっても何から話せばいいのか、相談前に準備しておくべきことがあるのか等、不安を覚える方も少なくないのではないでしょうか。
中村先生に離婚の相談についてお伺いしました。
中村先生が離婚の相談を受ける際、どんなことを意識されていますか。
相談者の方の中には、配偶者の行動によって深く傷ついている方もいらっしゃいます。
そんな方に「安心して相談できる」と思っていただくよう努めています。
そんな状況ですと、しっかり自分の悩みを聞いてもらえると少し心が落ち着くような気がします。
相談を受けるなかで、中村先生から相談者の方に質問することもあると思います。
質問内容は、相談内容によって大きく異なると思いますが、共通した質問事項等があれば教えてください。
いつ結婚して、いつ子どもが生まれたのか、離婚を意識するきっかけはなんだったのか等、結婚生活におけるエピソードを細かく伺います。
相談する場合には事前におおまかな経緯を書いたメモを用意して、相談するのも良いかもしれませんね。
離婚の相談を受ける際、先生が大切にしていることを教えてください。
そのうえで、相談者の方が求めている結果に対し、最善を尽くすことを意識しています。
最善を尽くすには相談者の方の協力が不可欠ですので、お互いが信頼し合える関係性を築けるように努めています。
とことん向き合い、将来を見据えたアドバイスを行い、ご相談者の方がより良い未来を迎えられるよう尽力しています。
確かに弁護する以上、相談者の方にとって言いづらいことでも聞く必要がある場合もあると思います。言いづらいことでも話せるというのは、信頼関係がないと成り立たない気がします。
最後の質問です。離婚を弁護士に相談するタイミングはありますでしょうか。
日々、法律相談を受ける中で、「もう少し早めに相談していただいていたらなあ」と思うことは少なくありません。
そのためトラブルが大きくなる前に、まずは気軽に相談していただければと思います。