この記事でわかること
- 養育費の金額決定方法がわかる
- 養育費の計算に使うのはいつの年収か理解できる
- 養育費の計算に使う配偶者の年収を調べる方法がわかる
養育費の額は、両親の年収によって変わるという話を耳にしたことはないでしょうか。
養育費の計算には年収が関係するからこそ、いつの時点の年収を計算に使えばいいのか疑問に思うはずです。
養育費の計算をするときに、ベースになる数字である年収についてわからなければ養育費の試算すらできません。
この記事では養育費の計算に使う年収はいつの時点の年収なのかを説明するとともに、養育費の金額決定方法や配偶者の年収を調べる方法などを解説します。
養育費を決めるときの注意点などもあわせて説明します。
養育費の金額決定方法
養育費につかう年収について知る前に、まずは養育費の決め方について説明します。
離婚の際に、子どもの養育費を決めるときの金額決定の流れは以下の通りです。
養育費はまず夫婦の話し合いで決める
養育費を決めるためには、必ず裁判所を利用する必要はありません。
養育費は離婚の際に夫婦の話し合いで決めることが可能です。
離婚自体も夫婦の話し合いでできますので、養育費については裁判所で決めなければならないというルールがあると、結果的に夫婦の話し合いで離婚できないことになります。
養育費も夫婦の離婚同様、話し合いで柔軟に決められるというルールになっているのです。
したがって、養育費を決める際は、まず夫婦で話し合いを行います。
養育費を決めるときは、額や支払い方法などについて決めることになります。
養育費の額を決める際は、裁判所が公開している「養育費算定表」が養育費額の目安になるのです。
養育費算定表では、子どもの人数や年齢、年収、両親の職業(自営業か会社員か)などによって養育費額が変わってきます。
ただし、養育費算定表は家庭事情を一切考慮していません。
子どもが私学に進学する場合や医学部など学費のかかる学部に進学しようとしている場合、子どもが持病を持っているなどのケースにおいては、養育費算定表だけで金額を決めてしまうと、後から費用の分担をめぐってトラブルになる可能性があります。
養育費算定表を目安として活用しつつ、家庭事情も考慮して養育費を決めることが重要です。
養育費が話し合いで決まらないときは調停
離婚する夫婦の話し合いで養育費が決まらないときは、裁判所の調停を利用します。
調停とは、裁判所の手続きの中でも「当事者の話し合い」という性質の強い手続きです。
裁判のように裁判官から判決を受けるのではなく、養育費で揉めている当事者と、話し合いをサポートする調停委員などで問題解決に向けて話し合うのが調停という手続きになります。
調停委員は専門知識を持ち、経験豊かな第三者です。
中立の立場で夫婦の養育費問題が話し合いで解決するよう、サポートしてくれる存在です。
夫婦だけの話し合いでは感情的になり養育費が決まらないケースでも、第三者である調停委員のサポートがあれば解決する可能性があります。
調停の段階で養育費が決まれば解決です。
調停が成立し、調停で決めた内容が調停調書に記録されます。
しかし、調停で養育費の話がまとまらない場合は調停が不成立となり、審判に移行します。
養育費が調停で決まらないときは審判で決める
養育費が調停で決まらないときは最終的に審判になります。
審判は裁判官が判断して結論を下すため、調停などの話し合いで決まらなかった養育費についても、ひとつの結論が出るかたちになるのです。
以上が養育費の金額決定方法の流れになります。
養育費はいつの年収を使って計算するの?
養育費は、年収によって金額が左右されます。
裁判所の養育費算定表で養育費相場を求めようとしても、年収がわからなければ算定できません。
いざ年収が分かって、相場を算出しようと思っても、「いつの年収を使うべきか」で迷うことになります。
一般的に年収が多くなると、その分だけ養育費の額も多くなる傾向にあります。
たとえば妻が専業主婦で、夫が会社員の場合で子どもがひとりいたとします。
この場合、夫の年収が400万円と600万円の場合では養育費の額に差が生まれることになるのです。
たとえば子どもが13歳であると仮定して、養育費の支払い義務者である夫の年収が給与400万円と600万円のケースで養育費額を比較してみます。
年収400万円での養育費の目安は、4~6万円です。
年収600万円の場合は、養育費の目安が6~8万円になっています。
このように、年収によって養育費の計算結果が変わってくるのです。
年収600万円の方が養育費の目安額もアップしていることがわかるはずです。
以上の例から、養育費を多くもらうためには、、年収が多い方がよいことになります。
いつの年収を使ってもいい場合は、養育費の支払い義務者の年収が最も多いときの年収を使いたくなるのではないでしょうか。
養育費に使う年収は原則的に「昨年」の年収を使う
養育費の計算に使う年収は基本的に「昨年の年収」です。
いつの年収を使ってもいいわけではなく、原則的には前年の年収を使って養育費を計算します。
年収は源泉徴収票の「支払総額」を見ればわかります。
ただ、年収状況が年によってかなり違っている場合や、前年の年収状況と今年の年収状況が違っているケースなども考えられるはずです。
昨年の年収状況と現在の収入状況の事情が変わってしまった場合は、事情を考慮して夫婦で養育費を決める必要があります。
自営業の年収はどのように計算するのか
養育費の算定には、両親の職業も関係してきます。
養育費の支払い義務者が会社員の場合と自営業の場合では、同じ年収でも養育費の額が違ってくるのです。
たとえば子どもが13歳で、夫は年収400万円の自営業だったとします。
妻は専業主婦でした。
この場合の養育費の額は6~8万円が相場になります。
年収400万円の会社員の場合は、同条件で4~6万円が養育費の目安になるわけですから、自営業と会社員では養育費相場自体が違っていることになるのです。
自営業と会社員の年収が同じ場合は基本的に自営業の方が、養育費の負担が大きくなります。
自営業の配偶者と離婚する場合も、養育費の算定には年収を使います。
会社員の場合は源泉徴収票で年収を確認できましたが、自営業は会社員ではないため、源泉徴収票で年収を確認できません。
配偶者が自営業の場合は、年収を何で確認すればいいのかが問題です。
自営業の年収は、確定申告書で確認できます。
自営業の確定申告書の「課税される所得金額」に、実際は支出されていない控除分などを加算して、年収を計算する流れです。
自営業の場合は、過大な経費などがないかもチェック項目になります。
自営業の年収計算は複雑になりがちなので、専門家にサポートしてもらうといいでしょう。
協議離婚時に配偶者の年収を調べる方法
養育費計算に使う年収を確認するときは、源泉徴収票を確認するという話をしました。
確かに源泉徴収票も養育費計算に使える年収を確認できる資料なのですが、ケースによっては源泉徴収票では年収確認が不十分になる可能性があります。
なぜなら、源泉徴収票は会社で発行するものだからです。
源泉徴収票は会社で発行するものだからこそ、会社での収入しか記載されていません。
配偶者が副業をしている場合などは、副業収入については源泉徴収票に記載されていないのです。
副業収入を加えた収入こそが年収であり、養育費は年収が多くなればその分だけ高額になる傾向にあるわけですから、副業収入を養育費の計算時に見逃してしまうことは養育費受け取り側の痛手になります。
配偶者が隠れて副業をしているケースなどは、特に養育費の計算で副業収入を見落としがちです。
養育費の計算のために、副業も含めた適切な年収を調べる方法としては「課税証明書」を使う方法があります。
養育費の計算に使う年収を課税証明書で確認する方法
課税証明書とは、配偶者の課税金額が記載された書面です。
源泉徴収票と同じように思えるかもしれませんが、実際は違います。
課税証明書は課税される金額、つまりすべての収入が記載されている書面です。
対して、源泉徴収票は会社の年収しかわかりません。
会社の方でもすべての収入を把握しているわけではありません。
会社と関係ない収入について税金処理をする必要もないのです。
そのため、配偶者が副業をしている場合には、源泉徴収票だけでは副業収入込みの年収はわかりません。
課税証明書の場合は課税対象になるすべての年収が記載されていますから、配偶者が副業をしている場合でも適切な年収を把握できるというわけです。
課税証明書は自治体の窓口で取得できます。
調停・審判時に配偶者の年収を調べる方法
養育費が話し合いで決まらず調停や審判になってしまったときは、配偶者の年収をどのような方法で調べればいいのでしょうか。
調停などの時点で養育費計算に使う年収がわからない場合は、調停委員に「収入証明などを出すように説得してもらう方法」があります。
たとえば夫婦で養育費の話し合いをしているときに、配偶者が年収の資料になるようなものを見せてくれず、養育費が決まりませんでした。
結果、裁判所の調停で養育費について決めることになりました。
しかし、調停の時点でも配偶者の年収がわかりません。
このようなケースでは、調停での話し合いをサポートする調停委員に配偶者を説得してもらう方法が考えらます。
配偶者が説得しても年収に関する資料を提出しない配偶者でも、調停委員が説得すれば応じるかもしれません。
ただ、調停の際に調停委員が説得しても、配偶者が応じない可能性もあります。
調停委員の説得に応じる義務はないからです。
調停などで年収に関する資料を提出してもらえない場合は、どうすればいいのでしょうか。
年収資料がない場合は「推測」で養育費が決まることもある
調停でも年収についての資料を提出してもらえず、審判でも年収資料がない場合は、年収をもとにして養育費を計算することが難しくなります。
このようなケースでは、配偶者の発言などから仮に年収を計算して養育費を算出する方法が取られることがあるのです。
しかし、調停でこの方法で養育費を算出すると、養育費を受ける側が「年収はもっと多いはずだ」「養育費が少ない」と不満を示すこともあります。
調停は話し合いがまとまらないと不成立になるものです。
年収がわからないことによって調停が不成立になると、今度は審判に移行します。
審判でも年収がわからない場合は、やはり配偶者の主張などから年収を推測するしかありません。
離婚裁判の場合は「調査嘱託」などの方法を使って配偶者の年収を調べることも可能です。
調査嘱託を使えば銀行や会社などから収入証明を取得できます。
この他には、弁護士にお願いして「弁護士照会」により収入証明を入手する方法もあります。
ただ、配偶者と別居が長く現在の勤務状態すらわからないなどの場合は、まずは興信所などを使って収入源になっている職場などを調査する必要があるのです。
養育費を決定するときの注意点
養育費は子どもの今後を左右する重要なお金です。
年収に見合った養育費を決定するためにも、どのようなことに注意したらいいのでしょうか。
最後に補足として養育費を決定するときの注意点について解説します。
年収が同じでも会社員と自営業の養育費は異なる
すでにお話しましたが、養育費計算においては自営業と会社員は計算が異なります。
同じ年収でも、自営業の方が養育費の額は大きくなる傾向にあるのです。
自営業の配偶者の養育費を計算するときに誤って養育費算定表の会社員の欄を見てしまうと、養育費の計算結果が少なくなってしまいます。
養育費算定表を使うときは、会社員と自営業の欄を間違えないよう注意してください。
また、会社員と自営業では年収の計算方法や確認方法も異なります。
養育費を計算するときの年収の確認方法や、計算方法の違いについても注意してください。
正当な養育費を受け取るためにも重要なことです。
養育費の話し合いをするときは年収の誤魔化しに注意
養育費の話し合いをするときは、配偶者の年収の誤魔化しに注意が必要になります。
養育費を支払う側である権利者は、正確な年収を教えたがりません。
なぜなら、年収が養育費の計算のベースになり、年収が多いほど養育費も高額になることがわかっているからです。
離婚後も生活は続きます。
養育費の支払い義務者は、生活費などを負担しながら養育費も支払わなければならないため、養育費が少ない方が負担も軽くなり、離婚後の生活も楽になります。
そのため、年収を誤魔化すケースがあるのです。
養育費の計算の基礎になる年収を配偶者から聞いても、その年収が必ずしも正しいとは限りません。
養育費の話し合いをするときに年収を誤魔化している疑いがある場合は、課税証明書などで年収を確認することをおすすめします。
養育費は子どもの生活を保持するためのお金です。
そして、養育費の支払いは親としての義務になります。
「誤魔化されたら仕方ない」ではなく、義務だと考えてしっかり年収を確認するよう注意したいものです。
配偶者が年収を虚偽申告した場合は犯罪になるのか
配偶者が年収を誤魔化したときは、罪に問えるのでしょうか。
誤魔化された方としては、配偶者に対して怒りがあることでしょう。
罪に問えるなら、年収誤魔化しに対する罰を望んでしまうのではないでしょうか。
たとえば課税証明書で年収を確認する場合、課税証明書を偽造すると公文書偽造罪に該当する可能性があります。
課税証明書は自治体が発行する公的な書類だからです。
また、偽造した課税証明書を使った場合は、同行使罪が成立する可能性があります。
源泉徴収票の偽造については、私文書偽造罪が成立するケースがあります。
源泉徴収票は会社が発行するため公文書ではありません。
扱いとしては私文書です。
偽造した源泉徴収票を使った場合は、同行使罪が成立する可能性があります。
調停などの場合は、基本的に提出された資料をそのまま使って手続きを進めることになります。
偽造などが疑われる場合は弁護士に相談してみてください。
適切な対処法が見つかるはずです。
養育費の計算は専門家に依頼することも可能
養育費の計算は、養育費算定表や年収資料を使って自分たちで計算することも可能です。
この他には家庭の事情を話し、そのうえで年収資料を用いて弁護士などの専門家に計算してもらうこともできます。
養育費算定表は、あくまで一般家庭の養育費相場です。
特殊な事情を抱えている家庭のことは考慮していません。
また、子どもの人数によっては、自分たちで年収を用いて養育費の計算をすることが難しいケースがあります。
養育費算定表は子どもが3人までのケースしか想定されていないため、4人以上の場合は養育費算定表が使えないのです。
事情を抱えている場合や子どもの人数が多い場合は、年収資料などから弁護士に養育費を算定してもらってはいかがでしょう。
まとめ
養育費の計算に使う年収は、基本的に前年の年収です。
源泉徴収票などを見れば年収がわかりますが、中には故意に年収資料を隠すケースや、自営業のように年収計算自体が難しいケースなどがあります。
養育費の計算や年収の計算で迷ったら弁護士を頼ることをおすすめします。
弁護士であれば、年収計算に必要な年収の計算にも慣れており、事情を考慮した養育費の算出も可能です。
故意に年収隠しをしているケースなども、実務経験の豊富な弁護士であれば気づけます。
調査もスムーズです。
養育費について困っていることや、計算で迷っている点があれば、まずは実務経験豊富な弁護士に相談してみてください。