この記事でわかること
- 慰謝料減額や拒否できるケースがわかる
- 慰謝料減額や拒否の流れを理解できる
- 慰謝料減額を交渉するときの注意点がわかる
配偶者に離婚を切り出されたときに、離婚原因によっては慰謝料請求されることがあります。
しかし、配偶者に慰謝料を請求されても慰謝料支払いのためのまとまった資金がない場合や、慰謝料を請求される心当たりがない場合はどうしたらよいのでしょう。
配偶者に離婚を切り出されたときに慰謝料請求された場合は、慰謝料減額や支払い拒否はできるのでしょうか。
この記事では、慰謝料請求されたときの減額や支払い拒否は可能なのか解説します。
あわせて、慰謝料減額や拒否の交渉や注意点についても説明します。
慰謝料請求を拒否できる場合
まずは慰謝料の支払いを拒否できるか考えてみましょう。
慰謝料を請求されても中には「請求原因に心当たりがない」「配偶者が誤解して請求しているようだ」というケースもあり得ます。
慰謝料請求の原因に心当たりがないケースや誤解しているケースなどは、そもそも慰謝料の支払い自体を拒否したいと思うはずです。
慰謝料請求には必ず応じなければならないのでしょうか。
結論からいうと、慰謝料請求は拒否できます。
不貞行為などを理由に慰謝料請求されても拒否できるのは次のようなケースです。
慰謝料請求の原因がない
配偶者から不貞行為などを原因に慰謝料請求されたが、そもそもその原因自体が存在しないケースです。
たとえば、仕事の取引で取引相手である異性とホテルで話をしたとします。
ホテルはあくまでシティホテルで、よく待ち合わせや取引などに使われるタイプのラウンジでした。
取引相手とシティホテルに入ったところを配偶者に見られ「浮気だ」と誤解されて慰謝料請求されたなどのケースです。
不貞行為などの慰謝料請求の原因自体が存在しませんので、存在しない原因に基づく慰謝料請求には基本的に応じる必要はありません。
故意や過失がなかった
慰謝料請求に応じなければならないのは、故意過失があったケースです。
故意や過失がない場合は、慰謝料請求を拒否できます。
故意とは「知っていたこと」になります。
たとえば、配偶者がいることを知って不貞行為に走った場合などは故意があるといえるでしょう。
対して「配偶者はいない」とだまされた場合や、配偶者はいないと思っていた場合などは知らなかったわけですから、故意がなかったと解釈できます。
過失とは「注意を怠ったこと」です。
少し注意すれば既婚者であることを気づけた場合などは過失ありだと判定される可能性があります。
故意や過失がなかった場合は慰謝料請求の拒否が可能です。
なお、故意や過失で慰謝料請求を拒否できるのは、基本的に不貞行為の相手になります。
配偶者が不貞行為の相手に慰謝料を請求する場合は故意や過失がないことを理由に慰謝料請求を拒むこともあり得ます。
しかし、不貞行為に走った配偶者の場合は、配偶者からの請求に対して故意や過失を理由に支払い拒否することは、まず考えられません。
肉体関係がなかった
不貞行為の基準は「肉体関係の有無」です。
肉体関係があれば慰謝料請求が認められやすくなり、肉体関係がなければ慰謝料請求が認められる可能性が低くなります。
肉体関係がなくデートやキス程度では慰謝料請求を拒める可能性があるのです。
ただし、肉体関係がなくても例外的に慰謝料請求が認められた判例などもありますので注意してください。
婚姻関係が破綻していた
婚姻関係が不貞行為などの前に破綻していれば、慰謝料請求を拒否できる可能性があります。
なぜなら、婚姻関係が破綻していれば、すでに守られるべき婚姻関係が壊れており、権利侵害にならないと解釈されるからです。
不貞行為などの前に夫婦が長期間別居していたケースなどでは、慰謝料請求を拒める可能性があります。
ただし、不貞行為に走ったときに離婚調停などをしていたケースなどでは、離婚調停をしているという事実をもって即座に婚姻関係が破綻していると認められるわけではないため注意してください。
婚姻関係が破綻していたかどうかは、個別の事情を考慮して判断されます。
慰謝料請求原因の証拠がない
慰謝料を請求した原因(不貞行為など)の証拠がない場合は慰謝料請求を拒否できる可能性があります。
慰謝料請求のためには必ず証拠を準備しなければならないというルールはなく、証拠がなくても慰謝料請求に応じるかは、慰謝料を払う側の自由です。
しかし不貞行為などの証拠なく慰謝料を請求されると、基本的には「証拠はあるのか」という話になるのではないでしょうか。
慰謝料請求を拒否しても、請求する側は証拠がないためにそれ以上追求できないことでしょう。
慰謝料請求の原因の証拠は、裁判などで慰謝料請求するときは特に重要になります。
たとえば妻が夫に不貞行為の慰謝料を裁判で請求したとします。
しかし妻は不貞行為の証拠をほぼ準備できませんでした。
妻は「私は夫の不貞行為を見た」と主張しても、証拠がなければ裁判官は納得しません。
裁判官を納得させることができなければ、判決で慰謝料請求を認めてもらえる可能性は極めて低いと考えられます。
慰謝料請求は証拠がないと拒否できる可能性があり、仮に慰謝料請求で裁判などになっても、支払いが認められる可能性はかなり低いのです。
慰謝料請求の時効が完成していた
不貞行為などの慰謝料請求には時効があります。
配偶者に不貞行為の慰謝料請求をする場合は、「配偶者の不貞行為の事実を知ってから3年」です。
また、「不貞行為から20年」という除斥期間もあります。
不貞行為の慰謝料は時効が完成すると請求できなくなるのです。
反対に考えると、慰謝料請求をされても、その慰謝料請求の時効が経過していれば、支払いを拒否できます。
慰謝料を減額できる条件
慰謝料請求されたときは、請求額をそのまま支払う必要はありません。
請求相手が応じるかどうか次第ですが、慰謝料減額の交渉も可能です 。
慰謝料減額ができる可能性があるのは次のようなケースになります。
請求された慰謝料が相場より高額だった
不貞行為などを理由に請求された慰謝料が相場より高額であれば、慰謝料減額できる可能性があります。
不貞行為の慰謝料の相場は50~300万円だといわれています。
相場50~300万円の慰謝料相場に対して、不貞行為を理由に1,000万円の慰謝料を請求されたらどうでしょう。
慰謝料は個別の事情によって金額が変わりますので、1,000万円の慰謝料があり得ないわけではありません。
慰謝料は当事者の話し合いで額を決めることができますので、当事者が相場より高額の慰謝料の支払いに納得していれば問題ないのです。
しかし、慰謝料はある程度まとまった額が必要ですから、相場より高い慰謝料を請求されたら「慰謝料相場の金額でいいのではないか」と払う側も思うのではないでしょうか。
好んで相場より高い額を支払いたいと思う人は、あまりいないのではないでしょうか。
慰謝料の相場より高額の請求があった場合は、慰謝料減額できることがあります。
どんなケースがあるのか順に紹介していきましょう。
婚姻期間や不貞行為の期間が短い
慰謝料とは心の苦痛に対する賠償金です。
心の苦痛の度合いが深ければ、その分だけ金額が高額になる可能性があります。
婚姻期間が短いと、心に苦痛を覚える期間が短いと判断される可能性があります。
心の苦痛の期間が短ければ、慰謝料を減額できることがあるのです。
婚姻期間の長短のラインは3年で、3年以下の場合は短いと判断される可能性が出てきます。
不貞行為の期間が短い場合も慰謝料減額できる可能性があります。
理屈は婚姻期間が短いケースと同じになります。
不貞行為の期間は3カ月が基準で、3カ月以下の場合は短いと評価される可能性があるのです。
不貞行為の回数が少ない
不貞行為の回数が少ないと、回数が多いケースよりストレスや精神的な苦痛が小さいと判断される可能性があります。
そのため、不貞行為の回数が少ないと慰謝料減額できることがあるのです。
不貞行為の回数は3回が基本的な基準になります。
3回以下だと少ないと判断される可能性があります。
自分だけ慰謝料請求された
不貞行為はひとりでできません。
不貞行為をした人と不貞行為の相手がいるわけです。
不貞行為はふたりでするものだからこそ、責任もふたりで取らなければいけません。
不貞行為の責任は、不貞行為をした人と不貞行為の相手で、原則的に2分の1ずつです。
慰謝料が200万円なら、基本は100万円ずつ責任を負うことになります。
不貞行為の相手と自分で半分ずつ責任を負うものなのに、自分だけに慰謝料請求された場合は、慰謝料減額の交渉が可能です。
仮に慰謝料を満額支払った場合は、不貞行為の相手に「責任を半分取れ」と慰謝料の半分を求償(請求)できます。
また、求償権の放棄などを条件に慰謝料減額の交渉をすることも可能です。
W不倫の慰謝料請求
W不倫とは、既婚者同士の不貞行為をいいます。
A夫婦の夫とB夫婦の妻が不貞行為をした場合などがW不倫の代表例です。
ダブル不倫では、A夫婦の妻が夫とB夫婦の妻に慰謝料請求できます。
B夫婦の夫はA夫婦の夫と自分の妻に慰謝料請求可能です。
それぞれの夫婦が慰謝料請求してしまうと請求関係がややこしくなる他、お互いの夫婦の片方が不貞行為をしているわけですから、相殺に近い結果になることも少なくありません。
W不倫の場合は双方の夫婦が慰謝料を払わない、あるいは慰謝料減額などで対処することがあります。
W不倫は事情が複雑になりがちなので、慰謝料減額については弁護士に確認してもらうことをおすすめします。
慰謝料を支払うだけの資力がない
不貞行為などで慰謝料を請求されても、慰謝料を払うだけの資力がなければ現実的には払えません。
資力がないからといって慰謝料を払わなくてよいわけではありませんが、慰謝料減額の交渉は可能です。
たとえば100万円の慰謝料を請求されたとします。
慰謝料は基本的に一括払いです。
慰謝料の請求に応じるだけの資金はありませんでした。
ですが、85万円まで慰謝料減額してもらえれば、慰謝料の一括払いができそうでした。
このようなケースでは、慰謝料の支払い・一括払いに応じることを条件に、慰謝料減額をお願いする方法があります。
慰謝料請求相手が慰謝料減額に応じれば、慰謝料減額してもらえます。
理由・金額が妥当であれば慰謝料減額は難しい
慰謝料の減額交渉自体はどのようなケースでも可能です。
ですが、慰謝料減額が認められるのはそのケースに該当しなければ難しいのが実情になっています。
慰謝料を減額できる理由がなく、慰謝料の請求額が妥当であれば、減額は難しくなります。
仮に慰謝料減額の交渉をしたとしても、請求側は「理由もなく請求額も妥当なのになぜ慰謝料減額しなければならないのか」と思うことでしょう。
納得してもらうのも難しいはずです。
慰謝料減額のときは請求側に納得して交渉に応じてもらうためにも、慰謝料減額請求の理由は重要になります。
慰謝料額が妥当かどうか確認することも重要です。
弁護士に理由や金額を相談したうえで慰謝料減額交渉を進めることをおすすめします。
慰謝料減額や拒否するときの流れを解説
慰謝料減額の理由があって交渉をおこなうときは、どのような流れで慰謝料減額請求をすればよいのでしょう。
慰謝料減額請求の流れを説明します。
慰謝料減額請求は3つのステップ でおこないます。
慰謝料の請求書を確認する
慰謝料減額または支払い拒否の前段階として、慰謝料額や条件の確認をおこなう必要があります。
たとえばこの段階で、慰謝料の請求には応じるつもりだが請求額が相場より高かった場合などは、慰謝料減額交渉をおこなうことになるのです。
慰謝料の請求額や条件などを見なければ、慰謝料減額の前提になる慰謝料額などがわからない状況になります。
まずは、この段階で慰謝料請求額と請求の条件をしっかり確認しましょう。
慰謝料減額交渉をするためにも、どのくらいの減額を求めるか、どのように慰謝料減額交渉の理由を説明するかも重要です。
この段階で固めておきましょう。
慰謝料減額または支払い拒否の交渉をする
慰謝料については、基本的に当事者の話し合いで決めることが可能です。
慰謝料減額請求や慰謝料の支払い拒否の交渉をする場合も、交渉からスタートになります。
交渉がまとまれば合意書などを取り交わし、慰謝料の支払いをして終了です。
ただし、慰謝料の支払いに対して「不貞行為を二度としない」などの条件をつけられることもあるため、慰謝料額だけでなく、慰謝料支払いに際しての条件などもあらかじめ確認し、必要なら交渉するようにしましょう。
なお、慰謝料の支払い拒否についてですが、慰謝料自体を完全に拒否できないケースでも減額は可能なことがあります。
慰謝料減額や支払い拒否の交渉結果に不満があれば、この段階で慰謝料を必ず払う必要はありません。
弁護士などの相談しながら相手の主張に応じるべきか、それとも次のステップである裁判に駒を進めるべきか、よく考えることが重要です。
慰謝料減額や拒否の交渉がまとまらなければ裁判へ
慰謝料減額や支払い拒否の交渉がまとまらなければ、裁判所に申し立てて裁判で争うことになります。
裁判は、訴状で申し立てをおこない、双方の証拠や主張を出し合って最終的に判決をもらうという流れが基本です。
裁判は月に1回ほど開催され、判決が出るまで1年~1年半ほどが目安になります。
双方の主張などがある程度出そろった段階で和解案などが提示されることもあり、和解に同時すれば判決をもらうことなく和解して終了です。
慰謝料減額や支払い拒否の話が複雑化していたり、裁判所が混雑していたりすると、判決までもっと時間がかかる可能性もあります。
慰謝料減額や支払い拒否を認めてもらうためには裁判官を納得させることが重要です。
どのような証拠を出し、そのように主張するか、慰謝料問題を得意とした弁護士とよく相談することをおすすめします。
慰謝料を減額交渉するときの注意点
慰謝料請求相手に慰謝料減額や慰謝料の支払い拒否の交渉をするときは、注意したいポイントが3つあります。
慰謝料減額や支払い拒否の交渉で感情的にならない
慰謝料減額や慰謝料の支払い原因がないなどの事情で請求側に交渉をおこなうときは、感情的にならないことが重要です。
たとえ慰謝料の支払い原因がなく誤解で請求されたとしても、そこで「誤解だ」と声を荒げてしまえば、トラブルに発展してしまいかねません。
慰謝料減額できる事情があっても、減額してもらって当然ではありません。
あくまで相手が交渉に応じて慰謝料減額するわけですから、強硬な態度であったり、慰謝料減額してもらって当然という態度であったりすると、交渉が途中で決裂してしまうこともあり得ます。
慰謝料減額や支払い拒否の交渉をする場合は、感情的にならないよう注意しましょう。
切り出すタイミングや言葉遣いなどにも注意する必要があります。
資力が理由で慰謝料減額請求するときは分割払いも提案する
資力がないという理由で慰謝料減額請求する場合は、分割払いの交渉をするという方法もあります。
たとえば100万円の慰謝料を請求されたとします。
100万円の慰謝料を一括で払う資力はありませんでしたが、分割払いで毎月5万円ずつなら払えそうでした。
このようなケースでは、請求側に慰謝料の分割払いの交渉をして、分割払いすることがあるのです。
ただし、慰謝料の分割払いは請求側にとってリスクがあります。
慰謝料の支払い途中で逃げられるのではないか、支払いの途中で収入状況が不安定になり分割払いが難しくなるのではないかなど、リスクを考えて応じない可能性もあるため、あくまで請求側が応じるか次第です。
どうしても資力が厳しいなら、理解を求められるよう交渉してみましょう。
慰謝料減額や支払い拒否の交渉は弁護士に依頼する
慰謝料減額請求や支払い拒否の交渉は、タイミングや言葉遣い、理由付けなどが重要になる難しい交渉です。
自分で交渉することももちろん可能ですが、当事者同士だと感情的になるリスクもあります。
慰謝料減額の交渉に慣れている弁護士に交渉を一任してはいかがでしょう。
慰謝料問題を得意としている弁護士は、慰謝料減額の交渉や支払い拒否の理由を相手に説明することに慣れています。
慰謝料減額について、自分で交渉するより弁護士に任せた方が、法律や交渉スキルを駆使して、依頼人に有利なかたちで交渉をまとめてくれます。
慰謝料減額の交渉を申し入れても、相手が交渉自体に応じない可能性もあります。
慰謝料減額の交渉に応じることは義務ではありません。
個人で申し入れても、交渉さえ受けてもらえない可能性があります。
弁護士に慰謝料減額の交渉を任せれば、専門家が出てきたということで、個人で交渉の申し入れをするより、交渉そのものを受けてもらいやすくなるのです。
慰謝料減額などの交渉は弁護士に一任することをおすすめします。
まとめ
慰謝料減額は慰謝料を受け取る側にとってはデメリットになります。
慰謝料を受け取る側にとってデメリットである減額請求を相手にどのように納得してもらうかが問題になります。
交渉には法的な知識と交渉スキルが必要です。
相手にスムーズに減額を納得してもらうためにも弁護士を頼ってはいかがでしょう。
慰謝料問題に強い弁護士に依頼し、慰謝料減額の交渉を有利に運びましょう。