この記事でわかること
- 慰謝料未払いによる財産の差し押さえ条件がわかる
- 差し押さえできる財産や差し押さえの注意点がわかる
- 慰謝料未払いによる強制執行の流れを理解できる
慰謝料が払えないと言われたときの対処法のひとつが差し押さえ・強制執行です。
差し押さえ・強制執行とは、慰謝料を支払わない相手の財産を強制的に押さえて、押さえた財産から回収するという方法になります。
慰謝料を払ってもらえないときの強力な回収方法が差し押さえ・強制執行なのです。
この記事では、慰謝料を払えないと言われたときの差し押さえ・強制執行について説明します。
慰謝料未払いで財産を差し押さえできる条件
財産を差し押さえて、強制的に慰謝料を回収する方法である差し押さえ・強制執行。
「財産を強制的におさえて慰謝料の回収ができるなら、慰謝料を払わない浮気相手などにはすぐに差し押さえ・強制執行をすればいいのでは」と思うかもしれません。
しかし、差し押さえ・強制執行は強力な慰謝料の回収方法だからこそ、条件を満たしていないと使えないのです。
慰謝料を払えないといわれたときに財産を差し押さえできる条件について解説します。
この場合に財産を差し押さえるための条件は4つです。
条件(1)慰謝料の支払い義務が存在している
慰謝料の支払い義務がないのに、慰謝料を回収するために財産差し押さえや強制執行はできません。
慰謝料を払えないと言われたときに財産を差し押さえるための第一の条件は、慰謝料の支払い義務が存在していることです。
慰謝料の支払い義務のない人は、当然ですが慰謝料を支払う必要はありません。
「慰謝料の支払い義務が存在していること」が慰謝料の差し押さえの大前提になります。
条件(2)慰謝料の支払い義務を証明できる
浮気をしたから慰謝料の支払い義務がある。
浮気をされた配偶者がこのように主張するだけでは、慰謝料の支払い義務を証明することはできません。
慰謝料の支払いについてまとめた私文書があっても、証明には足りません。
私文書はいくらでも偽造や捏造ができるからです。
慰謝料回収のために差し押さえ・強制執行をするためには、慰謝料の支払い義務を公文書で証明できなければいけないのです。
慰謝料の支払い義務を確認できる公文書のことを、債務名義といいます。
差し押さえや強制執行は強力な慰謝料回収方法だからこそ、慰謝料の支払いについて確認できる公文書(債務名義)がなければできないルールです。
以下のような公文書が債務名義になります。
- ・執行文付き公正証書
- ・確定判決
- ・調停調書
- など
条件(3)慰謝料を支払う側の財産を把握している
慰謝料を支払う側のすべての財産状況を把握しておく必要はありませんが、最低限、差し押さえる財産については情報や状況を知っておく必要があります。
なぜなら、財産の在り処を知っておかないと、差し押さえが困難だからです。
たとえば、銀行の預金を差し押さえたいとします。
しかし、慰謝料を支払う側の預金が、どこの銀行のどの口座かわかりません。
その銀行に口座があるかどうかさえ把握していない状況でした。
このような状況で差し押さえなどできません。
仮に差し押さえしようとしても、空振りに終わる可能性があります。
差し押さえられる財産がどこにあるか、情報を集めておく必要があるのです。
また、慰謝料の支払い相手の給与を差し押さえようとしても、勤務先の情報がなければ差し押さえができません。
勤務先の情報を先に把握しておく必要があります。
このように、慰謝料を支払う側の財産状況を把握しておくことが条件なのです。
条件(4)慰謝料を支払う側の住所などを把握している
慰謝料を支払う側の住所などを把握しておくことも、差し押さえの条件になります。
これは、差し押さえを実行するためには、慰謝料を支払う側の住所が手続きに必要だからです。
住民票から転居先を確認したり、本籍地の市役所から戸籍謄本を取り寄せたりするなど、差し押さえのために住所などを確認しておく必要があります。
慰謝料取り決め時に公正証書を作成しておくのも重要
慰謝料の差し押さえを検討する前に、そもそも慰謝料を払わないと言われないように、あらかじめ対策しておくことも重要です。
慰謝料を払えないと言われないための対策としては、慰謝料を取り決める時に公正証書を作成しておく方法がおすすめです。
公正証書とは、公証役場で作成する公文書のことになります。
公正証書の作成には法律と文書作成のプロである公証人が関与します。
個人で作成する私文書よりも、証拠としての力が強いのが公正証書の特徴です。
裁判などでも、私文書より公正証書の方が証拠としての力が強いのです。
加えて公正証書に執行認諾文言を記載しておくと、慰謝料を滞納したり、払わなかったりしたときに、即座に強制執行できるというメリットがあります。
私文書で慰謝料の約束をしても、即座に差し押さえや強制執行できるというメリットはありません。
公正証書だからできることなのです。
公正証書は即座に強制執行や差し押さえができるため、慰謝料の支払い側も、慰謝料の支払いに対して真摯になります。
滞納や未払いが、強制執行や差し押さえにつながると理解しているからです。
慰謝料を払えないと言われないように、慰謝料の取り決め時に公正証書を作成しておくといいでしょう。
そうすることで、まずは慰謝料を払えないと言われない対策になります。
差し押さえできる財産と注意点
慰謝料を回収するために差し押さえする場合、慰謝料を支払う側のすべての財産を自由に差し押さえできるわけではありません。
すべて差し押さえしては、慰謝料を支払う側が生活できなくなってしまいます。
慰謝料のために財産を差し押さえる手続きに入る前に、差し押さえできる財産について確認しておきましょう。
差し押さえできる財産は4種類です。
不動産
差し押さえできる代表的な財産が不動産です。
不動産とは、土地や家などのことです。
慰謝料を払えないと言う人の土地や家などを差し押さえて、競売により換金し、競売の売却金から慰謝料を回収するという流れになります。
動産
動産とは、電化製品や貴金属、絵画などの芸術品、家具などの、いわゆる家財のことです。
家や土地などは不動産と呼ばれるのに対して、家電や貴金属といった財産は動産といいます。
動産も慰謝料回収のために差し押さえ対象になるのです。
債権
債権は差し押さえできる代表的な財産です。
債権という言葉から借金のようなものや、権利関係の証文のようなものを想像するかもしれません。
債権は身近に存在します。
たとえば給与や預金も債権です。
給与や預金も差し押さえが可能です。
特に給与は毎月会社から支払われますので、差し押さえの際に定期的な回収を期待できるのです。
給与はよく差し押さえの対象になっています。
その他の財産
不動産や債権、動産などの他には、例外的に著作権や生命保険の解約払戻金なども慰謝料を回収するための差し押さえの対象にできます。
差し押さえできる財産の注意点
慰謝料を支払う側の財産をすべて差し押さえてしまうと、生活が成り立ちません。
特に給与は生活のベースになるお金ですから、全額差し押さえられると、相手が困窮してしまいます。
差し押さえられる財産にもルールがあるのです。
給与の差し押さえには、以下のような上限があります。
- ・手取り額月額44万円以下は手取りの4分の1
- ・手取り額が月額44万円超は手取り額から33万円を超えた額
給与の差し押さえに上限を設けて、慰謝料の支払いをする側が困窮しないように配慮がなされています。
この他にも、財産ごとに差し押さえの注意点があります。
不動産の場合は、手続きの際に裁判所へと数十万円ほどの予納金を支払わなければいけません。
すでに金融機関などが担保設定しており、思うように慰謝料を回収できないリスクもあります。
動産の差し押さえには、換金しても慰謝料に足りないものが多いという注意点があります。
たとえば家電を差し押さえたとしても、使用済みの家電はそこまで価値がありません。
家具などもそうです。
差し押さえて換金しても、慰謝料にはまったく足りないという結果になる可能性があるのです。
動産の場合は貴金属やバッグ、車や機械など、特定できない物が多いため、思うように慰謝料の回収が進まないリスクもあります。
債権の中でも、預金の差し押さえにはリスクがあります。
たとえば、預金口座を差し押さえても、口座内に預金が何もないという場合もあります。
預金口座の中にお金がなければ、差し押さえが空振りに終わり、慰謝料の回収ができない可能性があるため注意が必要です。
差し押さえできない財産もある
財産の中には、慰謝料の回収のために差し押さえできないものもあります。
慰謝料回収のために差し押さえできない財産は、次のようなものです。
- ・年金の受給権利
- ・生活保護の受給権利
- ・児童手当の受給権利
公正証書未作成の場合に財産を差し押さえる流れ
財産を差し押さえる際は、公正証書などが必要です。
慰謝料の支払いを約束するときに公正証書を作成していないと、差し押さえをしたくても条件を満たしていないことから、差し押さえができないのです。
しかし、諦める必要はありません。
慰謝料を払ってもらう約束をする際に公正証書を作成していなくても、財産を差し押さえることは可能です。
公正証書未作成の場合に財産を差し押さえる流れを説明します。
払えない慰謝料について示談交渉する
公正証書がなく、財産の差し押さえが難しい場合はまず、慰謝料について示談交渉するという方法があります。
慰謝料を払ってくれるように、慰謝料を払わないと言っている人に交渉する方法です。
いきなり法的な手続きや強制執行などを行うのではなく、話し合いをしてみれば解決できる可能性もあります。
なぜ慰謝料の支払い側が慰謝料を払わないと言っているのか、話を聞いてみてはいかがでしょう。
改めて話し合いで合意できれば、その段階で公正証書を作成することもできます。
慰謝料を払えないと言っている人が話し合いに応じなければ、弁護士から連絡してもらったり、内容証明郵便を使ったりする方法もあります。
内容証明は、法的な手続きの前段階としても使われます。
慰謝料を払えないと言っている側が、こちらが法的な手段を検討しているのではないかと警戒し、話し合いに応じる可能性があるのです。
また、弁護士という法律の専門家が出てきたことで、素直に話し合いに応じる可能性もあります。
まずは話し合いで解決できないか、模索してみましょう。
裁判の和解を利用する
裁判所の裁判手続きの中で和解することも可能です。
これを裁判上の和解といいます。
裁判上の和解は、判決と同じ強い力を持つ和解調書が作成されます。
和解調書は強制執行のための債務名義になりますので、裁判で和解すると慰謝料を払わないと言っている人に差し押さえ・強制執行が可能なのです。
裁判で判決を受ける
慰謝料を払わないと言っている人と、裁判をして判決を受けるという方法もあります。
確定判決も、和解調書と同じく債務名義になります。
確定判決を使って差し押さえ・強制執行することが可能なのです。
ただし、裁判は法的な知識が必要な手続きであり、証拠や書面の準備も必要になります。
加えて、主張が必ず通るとは限りません。
弁護士に相談し、入念に準備して進めることをおすすめします。
強制執行の流れ【財産別】
いざ差し押さえ・強制執行をする場合は、どのような流れで進めればいいのでしょうか。
強制執行を始める前段階の手続きと、財産ごとの強制執行の流れについて説明します。
強制執行の手続き準備
強制執行をするためには、確定判決や強制執行認諾文言付き公正証書、和解調書といった債務名義が必要です。
強制執行に使える債務名義がない場合は、公正証書の作成や裁判などを通じて、まずは債務名義を取得しなければいけません。
債務名義があっても、即座に強制執行できるわけではありません。
債務名義に、強制執行のための執行文の付与を受けなければいけないのです。
裁判の確定判決や和解調書を債務名義にする場合は、その判決や和解を得る際に使った裁判所の書記官に執行文付与を申し立てます。
公正証書を債務名義にする場合は、公正証書を作成した公証役場の公証人に申し立てる、という流れです。
債務名義は、慰謝料を支払えないと言った債務者に送達しなければいけません。
送達証明書も合わせてもらっておきましょう。
不動産の強制執行の流れ
不動産の強制執行では、債務名義や送達証明書、強制競売申立書、物件目録などの必要書類を不動産が登記されているところの裁判所に提出します。
受理されると不動産の調査などが行われ、不動産の価格や競売の日時が決定されるという流れです。
不動産を競売で売却し、その売却金から慰謝料を回収します。
動産の強制執行の流れ
動産の強制執行は、債務名義と執行文などを持って執行官に申し立てを行います。
申し立てが受理されると、慰謝料を払えないと言っている人の家財を執行業者が差し押さえます。
現金は直接受け取ることができますが、貴金属や芸術品、家電などの家財は競売により換金し、売却代金から慰謝料を回収するという流れです。
債権の強制執行の流れ
債権の強制執行では、裁判所に差し押さえ債権目録や債務名義、送達証明書などの必要書類をそろえて提出します。
書類を確認後に申し立てが認められると、裁判所から差し押さえ命令書が出され、預金などを差し押さえできるようになるのです。
給与の差し押さえの場合も、申し立ては基本的に同じですが、裁判所から会社(第三債務者)へ差し押さえが通知されるという特徴があります。
財産差し押さえのときには弁護士に相談するのがおすすめ
財産を差し押さえて慰謝料を回収するときは、弁護士に相談することをおすすめします。
慰謝料を払えないと言っている人から差し押さえ・強制執行で慰謝料を回収することを弁護士に相談することには、4つのメリットがあるのです。
差し押さえ・強制執行が可能かチェックしてもらえる
弁護士に財産差し押さえを相談すれば、財産差し押さえの条件がそろっているか確認してもらえるというメリットがあります。
すでにお話しましたが、財産差し押さえ・強制執行のためには、条件を満たさなければいけません。
慰謝料を支払う相手の財産の所在や財産状況、債務名義など、差し押さえや強制執行に必要な情報と材料がそろっているか、確認してもらうといいでしょう。
差し押さえや強制執行の手続きを任せられる
弁護士に差し押さえや強制執行の相談をすれば、差し押さえや強制執行の手続きを弁護士に代行してもらえます。
自分で手続きする必要がない他、書類などの準備も弁護士の方で代行してくれます。
差し押さえや強制執行は法的な知識を要する手続きです。
手続き全般を調べながら自分で行う必要がないため、自分の労力や時間を無駄に浪費する心配もありません。
弁護士に差し押さえや強制執行の手続きを一任してやってもらいながら、不安なことや気になることがあれば、相談することも可能です。
差し押さえや強制執行がスムーズに進む
強制執行や差し押さえは、法律の知識が必要な他、事務に慣れていなければ手続きの際に戸惑ってしまうことも少なくありません。
たとえば、自分で強制執行や差し押さえをしようとしたとします。
きちんと準備したはずでしたが、差し押さえに使う書類が一部欠けていました。
このようなことがあると、差し押さえや強制執行により慰謝料を回収するまで時間がかかってしまいます。
また、何度も裁判所などに足を運ばなければならないため、余計に交通費などもかかってしまうことでしょう。
弁護士は強制執行や差し押さえの手続きに慣れています。
弁護士に相談すれば、手続きを代わりにスムーズに行ってもらえるというメリットがあるのです。
加えて、弁護士はその経験知の豊富さから、慰謝料の債務者がどこに財産を持っているか、経験から見抜きやすいというメリットがあります。
給与や預金など、慰謝料の回収をしやすい財産も把握していますから、強制執行や差し押さえで空振りするリスクもおさえられるのです。
差し押さえや強制執行が相手にバレる可能性が低い
弁護士に強制執行や差し押さえを相談することで、慰謝料を払えないと言っている債務者に差し押さえや強制執行がバレにくくなります。
慰謝料を払わないと言っている債務者に強制執行がバレてしまうと、慰謝料を払わないと言っている債務者が財産隠しなどに走る可能性があるのです。
弁護士に強制執行や差し押さえを依頼することで、債務者にバレにくくなり、スムーズな手続きで逃げを打たれる前に慰謝料の回収を進めることができるというメリットがあります。
まとめ
慰謝料が払えないと言われたら、慰謝料の債務者の財産を差し押さえて強制執行するという方法があります。
差し押さえや強制執行による慰謝料の回収は、強力な方法です。
そのため、行うための条件が定められています。
条件とは、債務名義の取得などです。
慰謝料を払えないと言う債務者には、強制執行や差し押さえで対処してはいかがでしょう。
公正証書などの債務名義がない場合は、どのように債務名義を取得するかなど、弁護士と相談して決めることをおすすめします。
そのうえで、弁護士に強制執行や差し押さえによる慰謝料の回収も相談しましょう。