この記事でわかること
- 離婚の解決金とは?
- 解決金と慰謝料の違いがわかる
- 離婚時に受け取った解決金に税金がかかるかがわかる
- 解決金に税金がかかってしまうケースを理解できる
- 解決金の節税方法がわかる
離婚時の解決金とは?慰謝料とは違う?
配偶者の浮気などで離婚する場合、基本的に慰謝料が発生します。
慰謝料とは「心の痛みへの補償」のことで、精神的苦痛に対する賠償金という位置づけになります。
浮気をされた配偶者に、浮気による精神的な苦痛を慰謝料によって賠償することになります。
ただし、離婚時の慰謝料は必ずしも慰謝料という名目ではなく、解決金として支払われることもあります。
まずは、「解決金とは何か」「慰謝料と解決金は何が違うのか」について確認しておきましょう。
離婚時の解決金とは
解決金とは問題の「解決」のために支払われるお金です。
たとえば、夫婦間でトラブルがあって離婚するとします。
夫婦の片方は離婚したいと主張し、もう片方は離婚に反対していたような場合に、よく登場するのが解決金です。
離婚を渋っている配偶者に解決金を支払うことにより、離婚後の生活不安などが解消されて離婚に応じる可能性があります。
このように、問題を解決するために自主的に支払うのが解決金です。
解決金の他に「謝罪金」や「示談金」など、解決したい問題に合わせた名称が使われることもあります。
解決金と慰謝料の違い
解決金は、慰謝料的な性質で支払われることもありますが、慰謝料と解決金は同じものではありません。
すでにお話ししたように、慰謝料は心の苦痛に対して支払われる心への賠償金になります。
浮気や暴力などの不法行為があれば、法的に慰謝料の請求が可能で、裁判所で慰謝料請求を求めることもできます。
一方、解決金は、心の賠償金ではなく、法的な根拠もありません。
離婚に際して解決金が支払われなくても、法的には問題ありませんので、基本的に裁判所で支払いを求めることもできません。
解決金は、あくまで問題解決のために自主的に支払われるお金で、慰謝料代わりに問題解決のために解決金の名目で支払うこともあれば、慰謝料と財産分与を含めて解決金の名目で支払われることもあります。
「慰謝料は法的な根拠があり、精神的な苦痛への賠償金」「解決金は法的根拠のない問題解決のために支払うお金」であり、解決金は慰謝料だと外聞が悪いときなどに支払いの名目として使われることがあります。
解決金は基本的に税金がかからない
解決金には、基本的に税金はかかりません。
たとえば、解決金が慰謝料の名目として使われた場合、その解決金は精神的な損害に対する賠償金です。
この場合の賠償金は「失ったものの補償」「傷ついたものの穴埋め」のようなものになりますので、受け取ったからといって利益を得るわけでなく、失ったものが元に戻るだけなので、慰謝料に税金はかかりません。
所得税法9条1項17号にも、税金がかからない旨が明記されています。
慰謝料を示談金や謝罪金の名目で支払った場合も、同様に慰謝料の性質を帯びた金銭ですから、税金はかかりません。
また、解決金が離婚の財産分与の名目として使われた場合も税金はかからないのです。
財産分与をしたからといって夫婦が新しく利益を受けるわけではなく、もともと夫婦が所有していた財産を離婚に際して分割しただけです。
財産分与に対して課税をしてしまうと、離婚後の生活が不安定になる恐れもあります。
このように、解決金が財産分与の意図で支払われた場合や財産分与には税金がかかりません。
ただし、慰謝料や財産分与の名目に解決金を使ったからといって、すべてのケースにおいて税金がかからないわけではなく、解決金に税金がかかるケースもあるため、注意が必要です。
解決金や慰謝料に税金がかかってしまうケース
解決金や慰謝料、あるいは解決金の名目で渡した慰謝料などは原則的に非課税ですが、以下の4つのケースに該当すると課税のリスクがあります。
解決金や慰謝料に税金がかかる可能性のあるケースを順番に見ていきましょう。
事例(1)離婚の解決金や慰謝料が高額なケース
離婚の際に受け取る解決金や慰謝料が高額だと税金がかかる可能性があります。
あまりに高額な解決金や慰謝料は「慰謝料に見せかけた贈与ではないか」「一般的な慰謝料や解決金の額から考えると、あまりに高額ではないか」「税金逃れではないか」など、税務署に疑われる可能性があります。
税務署が贈与だと判断すれば、離婚の解決金や慰謝料を名目として支払った金銭に対しても税金がかかります。
問題になるのは、どの程度の慰謝料や解決金の額だと課税リスクがあるのかという点です。
実は、明確な金額の基準はなく、あくまで税務署の判断次第になります。
「一般的な基準(社会通念)に照らし合わせてあまりにも高額な慰謝料や解決金 」には税金がかかるのですが、この社会通念に照らし合わせてあまりにも高額な慰謝料や解決金が具体的にいくらを指すのか、税務署は発表していません。
相場から離れて高額になるほど慰謝料や解決金の課税リスクは高くなります。
例として、1,000万円の慰謝料または解決金が贈与と見なされて課税されたケースを考えてみましょう。
贈与には110万円の基礎控除があります。
1,000万円から基礎控除を引いて890万円。890万円の適用税率は40%なので、40%をかけると356万円です。
356万円から控除125万円を差し引くと、231万円になります。
1,000万円の慰謝料または解決金に税金がかかると、約230万円は税金として持って行かれるということです。
税務署に贈与だと見なされると、慰謝料や解決金の額が大幅に減ってしまいます。
課税ラインになる具体的な金額が定められていないため、税金リスクへの対処は難しいところがあります。
高額な慰謝料や解決金を受け取る場合は、税理士などに相談して税金リスクへの対策をしっかりおこなうことが重要です。
事例(2)離婚の解決金や慰謝料の代わりに物をもらったケース
離婚の解決金や慰謝料は、必ず現金でなければいけないというルールはありません。
慰謝料や解決金を支払う側と受け取る側が納得すれば、有価証券や車、不動産など、現金以外の物を渡すことも可能です。
ただし、解決金や慰謝料を不動産などの物で受け取った場合「財産を時価で譲ったと見なす」というルールがあるため、不動産などの物で受け取ると、税金がかかるリスクがあります。
このルールは、所得税法33条1項に定められています。
財産を取得したときと譲渡したときを比較して、譲渡したときの方がより金額が上回っている、つまり利益が出ていると、物を渡した側に譲渡所得税という税金がかかります。
解決金や慰謝料を受け取る側からすれば「物を渡す側にかかる税金なので問題ない」と思うかもしれません。
しかし、受け取る側にも不動産取得税や登録免許税などの税金がかかるリスクがあります。
不動産取得税とは、不動産を新たに取得したときや、増改築のときに課税される税金になります。
登録免許税とは、不動産の名義を移す登記手続きの際に必要になる税金です。
離婚の解決金や慰謝料を物で受け取ることには、物の時価や種類に応じて上記のような税金がかかるリスクがあるので、注意しておきましょう。
事例(3)偽装離婚で解決金や慰謝料をもらったケース
偽装離婚の具体例としては、債務から逃れるために夫が妻と離婚し、妻に慰謝料や解決金などの名目で財産を渡すなどのケースがあります。
偽装離婚で慰謝料や解決金を受け取ることは、心の痛みへの賠償金ではなく、偽装による贈与です。
慰謝料を解決金という名目で渡しても、慰謝料を慰謝料という名前で渡したとしても、離婚や慰謝料、解決金自体が偽装ですから贈与として税金がかかります。
偽装離婚は、ケースによっては公正証書原本不実記載罪などに該当し、罪に問われる可能性もあるため注意してください。
事例(4)第三者に離婚慰謝料や解決金を立て替えてもらったケース
離婚の慰謝料や解決金を支払う人にお金がなく、親や親族、友人などに離婚の慰謝料や解決金を立て替えてもらうことがあります。
第三者が離婚の慰謝料や解決金を立て替え払いしても、法的には特に問題ありません。
しかし、第三者に立て替え払いしてもらった場合、贈与だと見なされて贈与税がかかる可能性があります。
第三者に立て替え払いしてもらう場合は、贈与だと疑われないためにも、立て替え払いしてもらった旨を書面などにまとめておきましょう。
税金が不安な場合は、事前に税理士などに確認をとっておくと安心です。
離婚時の解決金で税金がかからないように節税する方法
離婚時の慰謝料や解決金で税金がかからないようにするためには、以下の5つのポイントで節税対策をしておきましょう。
離婚時の解決金や慰謝料は現金で受け取る
離婚時の解決金や慰謝料を不動産などで提示された場合は、現金で支払ってもらうようにお願いすることで節税になります。
すでにお話ししたように、不動産などの物で受け取ると、時価評価によっては税金がかかってしまいます。
また、不動産の名義変更手続きの際に登録免許税がかかるなど、受け取った物によって手続き費用や税金がかかる可能性があります。
現金で受け取れば、譲渡所得税や不動産取得税、登録免許税などの税金はかからないため節税になります。
相手が物での支払いを申し出たら、よほど思い入れのある物や欲しい物を提示されない限りは、現金払いをお願いするのが無難です。
慰謝料や解決金代わりに高額の物を受け取る場合は離婚後に
慰謝料や解決金の代わりに高額な財産(物)を受け取る場合は、離婚前ではなく離婚後に受け取るようにしましょう。
夫婦間でも財物を受け取ると贈与になるため、離婚前に高額の財物をやり取りすると、夫婦間の贈与ではないかと疑われる可能性があります。
贈与だと判断されれば、贈与税の対象になります。
夫婦間の金銭や財物の受け渡しでは、控除の対象になるケースもありますので、控除の条件や税金がかかる場合はどれくらいかかるかについて、事前にチェックしておきましょう。
高額な財物を解決金や慰謝料として受け取る場合は、先に弁護士や税理士に相談しておくのがおすすめですです。
受け渡しをするタイミングや使える控除・満たすべき条件などについて、専門家にアドバイスしてもらいましょう。
離婚時の慰謝料や解決金の支払いは書面にしておく
離婚時の慰謝料や解決金の支払については、書面にして証拠として残しておきましょう。
書面にしておくと支払いが慰謝料や解決金であると明確にわかるため、税務署に贈与を疑われたときに「このお金は慰謝料として受け取りました」と証明できます。
書面を作成するときは、公正証書での作成をおすすめします。
公正証書は公証役場で作成する公文書で、作成には法律の専門家である公証人が介在します。
自分たちで作成した文書の場合は、税務署から「贈与を隠すために書面を作成したのではないか」と疑われるリスクもありますが、公正証書の場合は、脱税や贈与ではないことを証明する強力な証拠になります。
裁判所の調停を利用して解決金や慰謝料の証拠を残す
裁判所の調停を利用すると、調停調書が作成されます。
離婚のときに調停を利用して離婚すれば、調停調書に離婚や慰謝料、解決金などの事項が証拠として残ります。
公正証書は揉めていると配偶者の片方の協力を得られない可能性がありますが、調停の場合は、双方の意見を調整した上で離婚できますから、夫婦間で慰謝料や解決金が決まらないケースや離婚条件が定まらないケースなどでも使える手続きです。
調停で裁判所発行の調停調書を受け取れば、贈与や脱税を疑われたときに強力な証拠として提出することができます。
弁護士などの専門家に解決金や慰謝料について相談する
離婚時に解決金や慰謝料を受け取るときは、あらかじめ弁護士や税理士に相談しておくことをおすすめします。
解決金や慰謝料は基本的に税金がかかりませんが、金額や財物によっては税金がかかる可能性があります。
また、解決金や慰謝料を受け取るタイミングによっては、贈与を疑われる可能性もあります。
税務署に脱税や贈与を疑われたときに、どのように慰謝料や解決金であることを証明するかも重要です。
すでに解決金や慰謝料を受け取って税金リスクが発生してから相談するより、あらかじめ相談しておいた方がケースに合わせた節税対策が可能です。
公正証書作成など、証拠となる文書の作成についても弁護士や税理士がサポートしてくれますので、ぜひ一度相談してみてください。
まとめ
離婚時に受け取った解決金は、慰謝料や財産分与の意味合いで支払われる場合は、基本的に税金がかかりません。
しかし、すべてのケースで税金がかからないわけではなく、解決金を物で受け取った場合などは税金がかかるリスクがあります。
解決金を受け取る前に、あらかじめ弁護士や税理士に相談し、解決金の額や内容、支払いのタイミングに合った節税方法を検討しましょう。
また、贈与や脱税だと疑われないように、公正証書などでしっかりと証拠も作っておきましょう。