この記事でわかること
- 自営業者と給与所得者の養育費の違いが理解できる
- 自営業者に払ってもらえる養育費がわかる
- 自営業者の養育費の計算で注意すべきことが理解できる
離婚後に子育てをする人にとって、養育費は大切な子育て資金です。
離婚後にどれだけの額を養育費として払ってもらえるかは、重要な問題ではないでしょうか。
養育費の目安があれば養育費を決めるときや、離婚後の生活を考えるためにも、確認しておきたいと思うことでしょう。
養育費の目安は裁判所の「養育費算定表」で確認することが可能です。
しかし、養育費算定表には給与所得者や自営業者などの欄があるため、目安額の見つけ方がわからず困ってしまうことがあります。
この記事では、自営業者から養育費を払ってもらう場合の算出方法や注意点などを解説します。
自営業者と給与所得者での養育費の計算の違い
自営業者と給与所得者では年収の考え方が違います。
給与所得者の場合は会社から受け取る給与が年収ですが、自営業者は報酬や売り上げなどが年収になるのです。
給与所得者と自営業者では収入の考え方が違うため、養育費の計算も違ってくることになります。
まずは、自営業者と給与所得者の年収や養育費を計算する上での違いについて説明します。
給与所得者の年収と養育費の計算とは
給与所得者は、会社から渡される源泉徴収票の「支払金額」が総収入になります。
給与所得者の場合は給与から年金保険料や税金などが天引きされる仕組みです。
支払金額から年金保険料や税金などの天引き分を引き、さらに住居費や医療費といった特別経費、仕事のために必要な費用などを引き、最終的な「基礎収入」を計算します。
基礎収入とは、支払いや負担が必要な費用を控除し、生活に充てることが可能な収入金額のことです。
給与所得者の基礎収入は、統計によると、給与の34~42%ほどだといわれています。
給与所得者の養育費は給与所得者の基礎収入を参考に計算されるのです。
自営業者の年収と養育費の計算とは
自営業者の収入は確定申告書の「課税される所得金額」で確認することが可能です。
自営業者の場合は課税される所得金額に記載されている金額がすでに必要経費、社会保険料などが引かれたものになっているため、課税される所得金額からさらに社会保険料などの控除は不要になっています。
ただ、課税される所得金額からは住居費や医療費などの特別経費は引かれていないため、特別経費の控除が必要です。
会社員の収入とはこのように控除などの点によって異なっているため、注意が必要になります。
自営業者の基礎収入は、統計によると、47~52%ほどだといわれています。
給与所得者よりも基礎収入が統計上多くなっているのです。
そのため、同じ収入額の給与所得者と自営業者がいた場合、自営業者の方が養育費算定表などの計算で算出される養育費の額が多くなっています。
養育費算定表での養育費算定方法
給与所得者や自営業者の養育費は裁判所の養育費算定表で確認することが可能です。
たとえば離婚する夫が養育費の支払い義務者だったとします。
妻と子供が養育費の受け取り権利者でした。
この場合、夫の職業(給与所得者か、自営業者か)と年収がわかれば裁判所の養育費算定表を使って養育費の額を算定できるようになっています。
裁判所の養育費算定表を使った養育費の算定方法をご紹介します。
養育費算定までの基本的な流れは以下の3つです。
(1)養育費算定表を探す
養育費算定表はさまざまな家庭状況を想定して作られているため、いくつかの種類があります。
養育費算定表の中から「養育費」「子供の数」「子供の年齢」で該当する表を探してください。
たとえば、算定表1は「養育費・子1人表(子0~5歳)」となっています。
子供の人数や年齢を間違えて表を選んでしまうと、養育費の額の計算結果が変わってしまうのです。
表の右上に子供の人数や年齢が明記されていますので、しっかり確認してください。
(2)権利者と義務者の年収を確認する
養育費算定表で養育費の金額を算定するためには、養育費の支払い義務者と受け取る側の権利者、双方の総収入・年収の情報が必要になります。
養育費を支払う側である義務者は収入状況によって支払う養育費の目安額が変わってくるのです。
受け取る側である権利者も、多くの収入があるのであれば、養育費の支払い上考慮される必要があります。
そのため、養育費の計算では権利者と義務者双方の総収入・年収の情報が必要になるのです。
(3)年収が重なるマスの金額を確認する
養育費算定表の中で権利者と義務者の年収がそれぞれ重なるマスを確認します。
重なるマスに記載されている金額が養育費の額です。
養育費算定表では、権利者の年収欄は表の下段です。
義務者の年収は表の左側の縦の欄になります。
たとえば権利者の年収が給与200万円だった場合、200万円の欄を縦に上っていって、義務者の年収の欄と重なるマスの金額を確認するのです。
なお、最新の統計資料にもとづいた養育費の額を確認したい場合、養育費算定表のマスと同じ色の部分を右端までたどり、右端の同色の欄に書かれている金額を確認します。
たとえば子供1人で年齢が0~5歳の場合で権利者と義務者の双方の年収が給与200万円だとすると、年収が重なる欄の養育費の額は2万円です。
同じ色の欄を右端までたどると、1万円という額が記載されています。
この1万円という養育費の額は、最新の統計資料にもとづいた養育費の額です。
自営業者の年収の算定方法
自営業者の夫や妻から養育費を受け取る場合、養育費算定表の額が目安になります。
しかし、養育費算定表から養育費の額を算定するためには、支払い義務者の年収がわからなければ算出できません。
自営業者の養育費の算定に使う年収はどのように算出すればいいのでしょうか。
自営業者の年収の算出は確定申告書を使い、以下の流れで計算することが可能です。
- ・自営業者の確定申告書の「課税される所得金額」を確認する
- ・課税される所得金額に実際に支出していない費用を加える
自営業者の年収を簡単に算出する方法
自営業者の年収は確定申告書の記載欄にある「課税される所得金額」をそのまま用いればいいわけではないため、年収の算出が複雑だと感じるかもしれません。
自営業者の年収には、他に簡単な算出方法があります。
自営業者の確定申告欄の左側に「合計」という欄があります。
合計欄に記載されている金額から社会保険料控除を引き、青色申告決算書や白色申告収支内訳書などの中の実際に支出を伴わない金額を加算する方法の方が、計算が簡単に済む可能性があるのです。
自営業者の基本的な年収計算を複雑に感じたら、こちらの方法も試してみてください。
自営業でも給与所得がある場合の算出方法
自営業の中には会社に勤務しながら自営業としても仕事をしている人がいます。
自営業と会社員を兼務している人は、自営業の収入と給与収入の2つを得ていることになるため、養育費の算定に使う年収算出で考慮する必要があるのです。
自営業の所得と給与所得の2つがある人の場合、算定の方法としては「引き直し」を使う方法があります。
片方の年収をもう片方に引き直して計算するのです。
実例で説明していきましょう。
子供1人で、子供の年齢が3歳だったとします。
養育費算定表の中では算定表1を使うケースです。
養育費の義務者である夫の給与年収が200万円、自営業の年収が200万円だったとします。
給与年収が200万円の欄の横を見ると、自営業の年収153万円という記載があるはずです。
給与200万円を自営業の年収153万円に置き換えて、そこに自営業の年収200万円を加え、自営業年収353万円で計算する方法があります。
自営業者の養育費の計算で注意すべきこと
自営業者の養育費の計算で注意すべきことは以下の2つがあります。
注意点(1)控除の扱いに注意する
養育費の額を養育費算定表などで計算する場合は、実際に支出していない費用以外も加えて計算するのが基本になっています。
課税される所得金額に加算するのは、次のような費用です。
実際に支出していない費用
基礎控除、雑損控除、寡婦(寡夫)控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除 など
実際に支出していない費用以外に加算する費用
医療費控除、地震や生命保険などの保険料控除、寄附金控除、小規模企業共済掛金等控除 など
以上のような金額を考慮して自営業の年収を計算します。
計算が難しく感じられる場合は弁護士などに相談して計算してもらうと、養育費までスムーズに算出することが可能です。
注意点(2)自営業の経費の中身にも注意する
自営業者の養育費を算出する場合、自営業者の経費の部分にも注意したいものです。
仕事のために費用を支出したため経費として計上していても、実際に中身を見てみると不自然な点や過剰な経費が支出されているケースもあるのです。
たとえば、養育費の義務者である自営業者の夫が接待交際費を計上していました。
接待交際費は自営業者として仕事を得るためには必要な支出かもしれません。
しかし、この接待交際費にまったく別の支出が計上されていたらどうでしょう。
自分が仕事と関係なくお酒を飲みに行ったお金や、友人と遊びに行ったお金などが計上されていたら、それは接待交際費に計上してはいけない支出ではないでしょうか。
また、接待交際費が過大だったらどうでしょう。
年間の仕事の売り上げが300万円に対して接待交際費が200万円を超えているというような場合、養育費の権利者としては、接待交際費の中身に疑問を持つのではないでしょうか。
自営業者の場合、経費に誤った仕分けがなされていないか、過大な支出で収支を誤魔化していないかなどもチェックしたいポイントです。
場合によっては経費の内訳なども確認する必要があります。
違和感がある場合は弁護士に相談して義務者の経費について検証してみるとよいでしょう。
まとめ
養育費は自営業者と給与所得者で目安が異なります。
これは、自営業者と給与所得者で収入の考え方が異なるからです。
統計によると自営業者の方が生活に使えるお金が多いため、養育費も自営業者の方が、計算結果が多くなるよう考慮されています。
養育費は裁判所の養育費算定表で確認できますが、前提として年収を知っておく必要があります。
自営業者の年収の算出がわからない場合は弁護士などに相談し、計算してもらうことをおすすめします。