この記事でわかること
- 離婚慰謝料がどのようなものかがわかる
- 慰謝料請求の時効と除斥期間がわかる
- 慰謝料請求の時効を止める方法がわかる
- 慰謝料請求の時期についての注意点がわかる
離婚をするにあたり、相手が一方的に離婚原因を作った場合には離婚慰謝料を請求できる可能性があります。
離婚慰謝料は離婚後でも請求は可能ですが、いつまでも請求できるわけではなく期限があります。
離婚慰謝料の時効や時効を止める方法、注意点などについて説明します。
離婚慰謝料とは
まず、離婚慰謝料とはどのようなものでしょうか。
離婚慰謝料とは、配偶者が離婚原因を作った場合に、離婚することによって受ける精神的苦痛に対する損害賠償金として請求することができるものです。
離婚慰謝料は、配偶者が離婚原因となる不法行為を行った場合に、請求できるものです。
離婚慰謝料が請求できる不法行為とは
離婚慰謝料が請求できる配偶者の不法行為には、どのようなものがあるでしょうか。
まず一つ目に、不貞行為があります。
不貞行為とは、配偶者以外の異性と自由な意思にもとづいて性行為を行うことです。
不貞行為が原因となり離婚する結果となった場合には、離婚慰謝料が請求できます。
また、配偶者が不貞行為を行ったのであれば、離婚をしない場合でも不貞慰謝料の請求は可能です。
次に、DVやモラハラがあります。
配偶者から肉体的、精神的な暴力を受けることにより、肉体的・精神的な苦痛を受けて離婚に至った場合には慰謝料請求ができます。
他に、配偶者に収入があるにもかかわらず生活費を支払わずに浪費し、家族が生活に困窮していたり、正当な理由なく一方的に家を出てしまったりした場合などは、夫婦の相互扶助や同居の義務を怠ったことで「悪意の遺棄」に該当し、慰謝料を請求できる可能性があります。
離婚慰謝料が請求できないケース
離婚慰謝料は、離婚する場合に必ず請求することができるものではありません。
夫婦のどちらか一方に離婚原因の責任があるわけではない場合には、離婚慰謝料を請求することはできません。
どちらか一方の責任ではない離婚として代表的なのは、性格の不一致を原因とした離婚です。
このような場合には、どちらか一方が離婚によって精神的苦痛を受けるわけではないため、離婚慰謝料を請求することはできません。
たとえば、「相手の性格がわがまま」とか、「相手が短気で喧嘩っ早い」などという場合でも、通常は慰謝料を請求できるような不法行為であるとは判断されません。
当事者の話し合いによって、このような理由でも慰謝料について取り決めることは可能ですが、基本的に請求することはできないことは理解しておきましょう。
また、夫婦のそれぞれに離婚原因となる不法行為があり、それが同程度である場合にも基本的に離婚慰謝料請求はできません。
慰謝料請求の時効は3年
離婚慰謝料はいつまで請求することができるのでしょうか。
離婚慰謝料の請求の期限には、時効と除斥期間があります。
それぞれについて説明します。
離婚慰謝料の時効は離婚から3年
離婚慰謝料には、消滅時効があります。
消滅時効とは、一定の期間に権利を行使しない場合に、権利が消滅する制度です。
いつまでも権利関係が不安定になることを防ぐため、時効の制度があると考えられています。
ただし、消滅時効は一定の期間が経過すると自動的に権利が消滅するわけではなく、権利の消滅によって利益を受ける人が時効を「援用」することにより権利が消滅します。
時効を援用するというのは、時効の成立を主張するということです。
離婚慰謝料の消滅時効は、離婚の成立から3年です。
たとえ離婚前に別居をしていて事実上は離婚と同様の状態だった場合でも、別居から3年ではなく離婚成立から3年となります。
離婚慰謝料は離婚の際に請求するイメージがあるかもしれませんが、離婚後であっても3年以内であれば請求が可能です。
離婚時に何らかの事情で諦めてしまった場合でも、請求できる可能性があれば検討してみましょう。
配偶者の不貞相手への不貞慰謝料の場合
配偶者が不貞行為を行っていた場合、不貞相手に対しても不貞慰謝料を請求することができます。
不貞行為は、配偶者と不貞相手との共同不法行為となり、配偶者と不貞相手は慰謝料の支払いについて連帯債務者となります。
連帯債務者である二人に対しては、どちらに対しても慰謝料の全額を支払うことができます。
ただし、二人から二倍の慰謝料が受け取れるわけではなく、決定した慰謝料について、二人にどのような割合で払うように請求してもよいということです。
100万円の不貞慰謝料と決定した場合には、100万円全額を不貞相手に請求しても構いませんし、50万円ずつそれぞれに請求しても構いません。
不貞相手への不貞慰謝料については、離婚慰謝料とは異なり、離婚のときからではなく、不貞行為の事実を知り、相手を特定した時から3年で時効となります。
離婚から3年経っていなくても時効となる可能性がありますので、注意が必要です。
なお、不貞慰謝料は不貞行為そのものに対する損害賠償請求なので、離婚しない場合でも請求することができます。
ただし、不貞相手に請求できるのはあくまで不貞に対する慰謝料であり、離婚慰謝料についてまで請求できるものではありません。
除斥期間は不法行為の時から20年
離婚慰謝料には、時効とは別に、除斥期間というものがあります。
除斥期間とは、一定の期間に権利を行使しない場合に、権利が存続する期間のことです。
除斥期間を経過すると、権利が消滅します。
一定期間経過後に権利が消滅する制度なので時効と似ていますが、時効とは異なる点があります。
除斥期間は、時効とは異なり、意思表示などをする必要はなく、期間が過ぎれば自動的に権利が消滅します。
また、時効の場合には、時効が成立する前に「中断」や「停止」をさせることができますが、除斥期間の場合には中断も停止もさせる方法はありません。
慰謝料の除斥期間は、不法行為の時から20年です。
たとえば不貞行為が離婚原因という場合、不貞行為の時から20年が経過すると慰謝料請求はできません。
不貞行為が継続していた場合には、最後の不貞行為の時から20年ということになります。
そのため、たとえ時効の中断を繰り返した場合であっても、不法行為の時から20年が経過した場合には、もう慰謝料を請求することはできなくなります。
慰謝料請求の時効を止める方法
慰謝料請求については、できるだけ速やかに行うべきものですが、様々な理由によりすぐに請求することができない場合もあるでしょう。
そのような場合に、時効が成立するのを阻止する方法として、「中断」と「停止」があります。
時効の中断とは
時効の中断とは、それまで進行してきた時効の期間を振り出しに戻し、リセットする制度です。
たとえば、3年で時効が成立する場合に、2年経過した時点で時効を中断させた場合、中断した時点からさらに3年が経過しなければ時効は成立しません。
時効を中断させる方法には、裁判上の請求、差し押さえ、債務の承認があります。
裁判上の請求
時効を中断させる方法として、裁判上の請求があります。
裁判上の請求とは、慰謝料の支払いについての裁判を起こす方法、民事調停を申し立てる方法などがあります。
訴訟をしている最中に3年が経過した場合でも、時効は成立しません。
これらの方法により慰謝料の請求を行い、慰謝料の支払いについて確定すると、確定した請求権は10年間消滅しません。
つまり、慰謝料についての権利が確定してから10年間は、時効は成立せず慰謝料の支払いを請求できるということです。
差し押さえ
慰謝料を支払う人の預貯金や給与債権などの財産を差し押さえることにより、時効を中断させることができます。
また、差し押さえの前に財産が処分されることを防ぐために、仮差押えや仮処分を行うことでも、時効を中断させることができます。
差し押さえをするためには、債務名義という、差し押さえが認められる根拠となる文書が必要となります。
たとえば、慰謝料について取り決めた公正証書や調停調書といった書類が債務名義となります。
仮差押えや仮処分の場合には、債務名義がなくても行うことができます。
債務の承認
債務者(慰謝料を支払う人)が債務の存在(慰謝料の支払い義務があること)を認めた場合には、時効は中断します。
債務を承認する方法には特に決まりはなく、口頭であってもよいのですが、後日債務の承認があったことを証明することができるように、文書で債務を承認させておくことが大切です。
また、債務者が慰謝料の一部を支払った場合にも、債務を承認したことになります。
それ以外に、債務者が慰謝料の減額の申し入れをしたり、返済期限の延長を申し入れたりした場合にも債務を承認したことになります。
債務が存在することを前提として、これらの申し入れを行っているということになるからです。
債務者とのやり取りについては、文書で記録が残るようにすることが大切です。
時効の停止とは
時効の停止とは、簡潔に言うと、時効が成立することを一時的に止めることを意味します。
「催告」という手続きを行うことにより、時効が停止され、一定の期間は時効が成立することが猶予されます。
催告とは、慰謝料を支払うことを相手に対して裁判外で請求することです。
催告の方法
催告は、内容証明郵便により慰謝料の支払いを請求する方法で行うのが一般的です。
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に送付したかについて、郵便局が証明する郵便のことです。
相手に送付した文書と同じものが、郵便局に保管されます。
慰謝料を請求する相手に対し内容証明郵便による催告をすると、そのときから6カ月間は時効が完成することが猶予されます。
ただし、あくまでも6カ月間時効の成立が猶予されるだけなので、注意が必要です。
この猶予期間の6カ月の間に法的な手続きを取らなければ、時効が停止していた期間はなかったものとされてしまいます。
時効の中断とは異なり、時効のカウントが振り出しに戻るわけではなく、時効の進行は続いているため注意が必要です。
催告により時効の停止を行うのは、時効成立までの期間が迫っている状況のときに、裁判上の請求の手続きをするまでの時間稼ぎを目的とする場合には有効ですが、6カ月の猶予期間に裁判上の請求の手続きをとらなければ無意味となってしまいます。
慰謝料請求の時期には要注意
慰謝料を請求する場合には、時効を意識して期限内に行うことが大切です。
時効が成立した後であっても、相手が任意で支払う意思がある場合には支払いを求めることはできますが、通常、時効が成立した後に自主的に支払おうとする人はほとんどいないでしょう。
相手が時効を主張した場合、それ以上請求することはできなくなります。
ただし、慰謝料を請求するためには証拠が必要です。
証拠がなくても相手が自分の責任について認めていて支払いに応じればよいのですが、通常そのようなことはなく、もし裁判になった場合でも証拠がなければ慰謝料の請求が認められることはありません。
証拠がそろっておらず、準備不足のまま慰謝料請求をしても、相手が証拠を隠滅してしまう可能性もあります。
時効を意識しつつも、請求するまでに証拠をそろえなければならないため、ハードルが高いと感じるケースもあるでしょう。
そのような場合には、自分一人で解決しようとせずに弁護士に相談することで、計画的に慰謝料請求の手続きを進められる可能性が高くなります。
どのような証拠をそろえればよいのか確認したり、請求できる慰謝料の相場などについても弁護士に相談したりしてから方向性を考えた方が安心です。
また、DV等を原因とした慰謝料請求をする場合、相手に対する恐怖心があり自分で対処するのが難しいことが多いでしょう。
そのような場合にも、間に弁護士を立てることで安心して請求ができます。
慰謝料請求の時効である3年とは、意外とあっという間に過ぎてしまうものです。
特に、離婚の際は慰謝料以外にも考えなければいけないことが多いため、あわただしく時間が過ぎてしまいがちです。
自分にとって不利な結果とならないために、期限を意識してしっかりと対応を考えることが大切です。
まとめ
慰謝料の請求には時効があるため、時間切れにならないようにしっかりとした準備が必要です。
期限が迫っている場合の対処法など、自分一人の判断で対応すると請求するチャンスを失ってしまう可能性もあるため、困ったときはなるべく早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。