この記事でわかること
- 借金を理由にした離婚を成立させる方法がわかる
- 借金が理由での離婚の慰謝料の相場がわかる
- 慰謝料以外に請求できるものがわかる
- 慰謝料を請求するために準備すべきものがわかる
配偶者が隠れて借金をしたり、繰り返し借金することなどに悩んで離婚したいと思っている人は実は大勢いるようです。
では、借金を理由として離婚することはできるのでしょうか。
ここでは、借金を理由として離婚をする方法や慰謝料、慰謝料以外に請求できるお金などについて解説します。
借金を理由にした離婚を成立させる方法3つ
配偶者が借金をしていることを理由として、離婚することはできるのでしょうか。
話し合いで簡単に離婚できる場合もあれば、裁判まで進めても離婚が認められない場合もあります。
離婚する方法を、(1)協議離婚、(2)調停離婚、(3)裁判離婚の3つに分けて紹介します。
協議離婚の場合
まず初めに目指す離婚の方法は、協議離婚です。
協議離婚は当事者同士の話し合いのみによって離婚する方法で、お互いに合意することができれば、どのような離婚理由であってもかまいません。
たとえ少額の借金であっても借金する人とは価値観が合わないから離婚したい、という理由でも相手が同意すれば問題はありません。
借金の種類がどのようなものであっても、借金の額がいくらであっても離婚したいと思うのは当事者の自由であり、相手がそれに応じてくれれば離婚は成立します。
調停離婚の場合
当事者同士の話し合いで離婚に合意できない場合には、協議離婚は成立しないため、調停離婚を目指すことになります。
その場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、調停委員2名を介して夫婦それぞれの意見の調整を行っていき、最終的に合意することを目指します。
調停離婚の場合でも、調停委員による助言などはあるものの当事者同士の合意が必要であることには変わりありません。
協議離婚の場合と同様、離婚理由自体には制限はないため、借金を理由とした離婚を求めることは可能ですが、相手が応じてくれなければ離婚は成立しません。
裁判離婚の場合
調停でも離婚に合意できず、調停不成立となった場合には、裁判による離婚を目指すことになります。
裁判による離婚が認められるためには、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)があることが必要です。
借金というのは、直接的に法律で定められた離婚原因ではありませんが、2つの法定離婚事由に当てはまる可能性があるため検討することとなります。
悪意の遺棄を主張する
法律で定められた離婚原因の一つに、「悪意の遺棄」があります。
悪意の遺棄とは、夫婦としての義務である同居、相互扶助などを果たさないことです。
借金を繰り返して生活費を払わず、家族が生活に困窮してしまうような場合には、相互扶助の義務を果たしていないと考えられ、悪意の遺棄が認められる可能性があります。
相手が少額しか生活費を払っていない場合でも、共働きで生活に支障がないような場合には、悪意の遺棄が認められる可能性は低いでしょう。
その他婚姻を継続しがたい重大な事由を主張する
配偶者の借金が悪意の遺棄とは認められない場合でも、法律で定められた離婚原因である「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性があります。
ただ、この場合にも単に借金をしているだけではなく、夫婦関係が実質的に破たんしている状態であることが求められるケースがほとんどです。
借金の理由がギャンブルや性風俗店の利用、ブランド品の買いあさりなど、自分勝手な浪費であり、それによって夫婦関係が修復できないほど悪化しているような状態であれば、離婚が認められる可能性は高くなります。
借金が家族の生活費のためであったり、家族で住む家の住宅ローン、家族で使う車のカーローン、子供の学費のためのような場合には、離婚が認められる可能性は非常に低いでしょう。
また、借金が高額ではなく、家計に与える影響が少なく返済が可能であるような場合にも、離婚が認められる可能性は低いでしょう。
借金が理由での離婚の慰謝料相場
借金を理由として離婚する場合に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
借金を理由とする離婚で慰謝料を請求することができるのは、夫婦の義務を果たさない「悪意の遺棄」と認められるケースです。
慰謝料の相場としては、50~200万円程度が目安となるケースが多いでしょう。
ただし、借金をしている場合、実はそれ以外の離婚原因が複合的に存在するケースもあります。
不貞行為やDVもしているというケースでは、200万円以上の慰謝料が認められる可能性もあります。
問題となるのが、借金をしている配偶者に慰謝料を支払える資力があるかという点です。
いくら請求する権利があるといっても、現実的に支払いができなければ意味がありません。
離婚を速やかに成立させることを重視する場合には、あまり慰謝料にこだわることは得策とはいえない場合もあります。
借金を理由とした離婚で慰謝料が請求できるケースとできないケースを紹介します。
慰謝料が請求できるケース
以下のようなケースでは、慰謝料を請求できる可能性が高いでしょう。
- ・ギャンブルのために借金を繰り返し、家計のお金に手を付けて家族が生活に困窮している。
- ・自分の浪費のために家族名義で借金をしたり、勝手に家族名義のカードを使うなどして家族に損害を与えている。
- ・借金や浪費に加えて、DVやモラハラを行っている。
- ・不貞相手や、不貞までは至らなくても、異性に対して高額なプレゼントをするなどして貢いでいる。
慰謝料が請求できないケース
以下のようなケースでは、慰謝料が請求できる可能性は低いでしょう。
- ・浪費やギャンブルによる借金はしているものの、自分の小遣いの範囲内で行っており家計に負担をかけていない。
- ・家族のための借金ではなくても、仕事上の付き合いのために借金をしたなど、自己都合の借金ではない。
- ・借金がきっかけで夫婦仲が悪くなったものの、それが直接的な原因となり離婚したわけではない。
慰謝料以外にも請求できるもの
借金を理由として離婚する場合に、慰謝料については請求できるかどうかはケースによりますが、それ以外にも請求できる金銭的な権利があります。
それぞれについて説明します。
財産分与
夫婦で結婚期間中に協力して形成した財産は、離婚する際に半分ずつ分けるのが基本です。
これを「財産分与」といいます。
財産分与の対象となるのは、預貯金、不動産、解約返戻金のある保険、株式、家財道具など多岐にわたります。
財産の名義が夫婦のどちらのものであっても、基本的に結婚期間中に得た財産であれば夫婦の共有財産と推定されます。
ただし、借金を理由として離婚する場合に問題となるのが、借金が財産分与に影響を与えるかどうかです。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金)についても「結婚している間に共同生活のために借り入れたもの」であれば財産分与の対象とするのが基本です。
プラスの財産とマイナスの財産がある場合、マイナスの財産の方が大きければ財産分与を請求することはできません。
マイナスの財産の方が大きい場合でも、借金を分け合わなければいけないわけではなく、借金については借り入れをした本人が返済することになります。
借金を理由として離婚したいという場合、ほとんどが「財産分与の対象とならない借金」に該当すると思われますので、その場合は借金については計算に入れずに、通常通りプラスの財産を分け合えばよいということになります。
財産分与の対象となる借金と、対象とならない借金は以下の通りです。
財産分与の対象となる借金
財産分与の対象となる借金は以下の通りです。
- ・家族の生活費のためにした借金
- ・家族で住んでいる家の住宅ローン
- ・子供の学費のためのローン
- ・家族で使うファミリーカーのローン
財産分与の対象とならない借金
また、対象とならない借金は以下です。
- ・ブランド品の買いあさりなど個人の浪費のための借金
- ・ギャンブルのための借金
- ・異性に貢ぐために作った借金
- ・結婚する前に作った借金
養育費
未成年の子供がいる場合、離婚後に自分が子供の養育をする場合には、養育費を請求することができます。
養育費については、夫婦の話し合いによって金額や支払い方法、支払期間(子供が何歳まで支払うか)を決めるのが基本です。
夫婦それぞれの年収や子供の人数、年齢をもとに、家庭裁判所で採用している「養育費算定表」を利用して簡易的に養育費の目安金額を算出することもできます。
相手に借金がある場合でも、基本的に養育費の金額に影響を与えるものではありません。
ただし、現実問題として、相手が借金の返済に追われている場合、養育費算定表の相場通りの金額を相手が支払うことができるとは限りません。
実現不可能な養育費を取り決めたとしても、実際に支払われなければ意味がないので、ある程度相手の状況も考慮したうえで養育費を決めざるを得ない場合もあります。
養育費は長期にわたって支払いが続くものなので、不払いになるリスクが元々高いという傾向があります。
特に、借金を原因として離婚するような場合には、相手が金銭的にルーズである可能性が高く、より一層不払いになるリスクに備えなければなりません。
養育費についてはできる限り公正証書を作成し、万一不払いとなった場合にはすぐに相手の財産を差し押さえられるように対策しておくとよいでしょう。
年金分割
結婚している間に相手が厚生年金に加入していた場合、「年金分割」を請求することができます。
年金分割は、結婚期間中の厚生年金保険料の納付実績を夫婦で分け合う制度です。
年金分割をしてもらうと、自分の年金の納付実績に相手の納付実績の一部がプラスされるため、将来受け取る年金額が多くなります。
慰謝料を確実に請求するために準備すべきもの
借金を理由として離婚する場合に慰謝料を請求するためには、どのようなものを準備すべきでしょうか。
上述した通り、慰謝料を請求できるケースであっても、相手に借金があり資産がない場合には現実的に支払わせることが難しいというのが前提ではありますが、少しでも支払わせるための対策を紹介します。
公正証書の作成
慰謝料について取り決めた場合には、その内容を公正証書にしましょう。
公正証書は、公証役場という公的な場所で作成される文書なので、自分たちが作った文書に比べて信用力、証拠能力が高いというメリットがあります。
原本は公証役場に保管されるため、万一紛失した場合でも安心です。
公正証書には、万一約束した通りに支払いがされなかった場合、すぐに強制執行を行うことができる、という文言を付けることができます。
これにより、相手が支払いをしなかった場合、裁判をすることなく、すぐに相手の財産を差し押さえることができます。
借金がある相手から慰謝料の支払いを受ける場合、一括払いは難しい場合が多いでしょう。
その場合、分割払いの金額や方法、支払期日を具体的に記載し、支払いが遅れた場合には強制執行できるようにしておけば安心です。
債務整理をさせて返済を軽減する
配偶者が借金の返済に困っている状態であれば、利息を減らすなどの債務整理をすることを検討しましょう。
債務整理の方法や債権者との交渉次第では、利息などを減らすことができて借金を完済できる場合もあります。
法定利息以上の金利で借金を返済していた場合には、払い過ぎた過払い金が戻ってくる可能性もあります。
借金の返済が終われば慰謝料を支払ってもらえる可能性も高くなります。
財産分与として財産を多くもらう
財産分与は、通常は夫婦で財産を2分の1ずつの割合で分けることになりますが、財産形成の貢献度が2分の1ずつでは明らかに不公平という場合には、異なる割合で分け合うこともあります。
配偶者が借金を繰り返すなどして、財産形成にほとんど貢献していないと考えられる場合には、2分の1ずつ財産を分けることに納得できないというケースもあるでしょう。
相手との話し合いにより、慰謝料の代わりに、財産分与として受け取る割合を自分の方が高くしてもらうという方法もあります。
まとめ
相手の借金を理由に離婚を考える場合、まずは相手が離婚に合意してくれるかが問題となります。
離婚自体に合意していなければ、慰謝料の請求等を考えてもあまり意味がありません。
相手の意思に反しても離婚できるかどうかは借金の内容によって異なります。
話し合いが難しい場合には、弁護士への相談を検討しましょう。