この記事でわかること
- 養育費の定義やもらえる期間が理解できる
- 養育費の取り決めや計算の方法がわかる
- 年収600万円の養育費相場がわかる
離婚するときに子供がいると、養育費がいくらもらえるのかは重要な問題です。
養育費を支払う側の年収が600万円だった場合、受け取る養育費相場はどのくらいになるのでしょうか。
養育費の定義やもらえる期間などの基礎知識から年収600万円の養育費相場まで、離婚する子持ちの人の養育費の疑問にお答えします。
養育費の定義ともらえる期間
年収600万円の養育費相場や養育費の計算方法を説明する前に、まずは養育費の基礎知識をご紹介します。
養育費の基礎知識として知っておきたいのは「定義」と「もらえる期間」のふたつです。
養育費の定義
「養育費」は、子供の養育のためのお金です。
婚姻中は両親が共同で親権を行使し、お金を出し合って子供を育てます。
しかし、離婚すると共同で親権の行使や養育費用の分担ができません。
夫婦は離婚後の親権者や養育費を定め、子供の養育を行います。
一般的に親権を取った側の親が子供を養育し、子供と暮らさない側の親が子供を育てるための費用として養育費を支払う流れです。
離婚はあくまで夫婦関係を解消するための手続きになります。
離婚によって親子関係をやめることはできません。
離婚後も子供の父親や母親として子供を育てなければいけないのです。
親には子供の生活を自分たちと同水準に保持する「生活保持義務」があります。
子供の生活を保持するためにも養育費は重要です。
払う側の一存で養育費を支払わないことは基本的に許されません。
養育費の支払いは子育てと子供の生活保持のための親の義務です。
養育費と婚姻費用などとの違い
養育費は離婚の際によく問題になるため、婚姻費用や慰謝料などと混同されることがあります。
「婚姻費用」とは婚姻中の生活費のことで、離婚後の子供の養育費用である養育費とは性質が違うのです。
慰謝料は不法行為による心の痛みや損害を補填するお金になります。
財産分与は婚姻中の夫婦の財産の分配のことです。
養育費と慰謝料や婚姻費用、財産分与などを混同しないよう注意しましょう。
養育費がもらえる期間
養育費がもらえるのは、基本的に子供が20歳になるまでです。
子供が自立して自分でお金を稼いで生活できるようになれば、もはや親が生活を保持する必要はありません。
養育費はあくまで子供の養育と生活保持のためのお金ですから、大人として独り立ちした子供へ支払う必要はないのです。
ただ、子供の状況によって養育費がもらえる期間が短縮されるケースと延長されるケースがあるため注意が必要になります。
養育費がもらえる期間が短くなるケース
子供の独り立ちの状況によっては養育費がもらえる期間が短くなる可能性があります。
たとえば、子供が高校を卒業してすぐに就職し給与で独り暮らしできているとします。
子供が経済的に自立したと判断できれば、親は養育費で子供の養育と生活保持をする必要はなくなります。
20歳前でも養育費の支払いが不要とされるケースがあるのです。
養育費がもらえる期間が長くなるケース
20歳を過ぎても子供が経済的に自立することが難しいケースでは、父母の話し合いなどで養育費がもらえる期間を延長することもできます。
子供が4年制大学に進学する場合、大学卒業までは学生です。
経済的な自立は難しく、学費の支払いなどもあることから親の援助が必要になります。
大学などに進学するケースでは、子供が大学を卒業するまで養育費がもらえる期間を延長することがあるのです。
また、子供が持病や障害を抱えているために経済的な自立が難しいケースでも、養育費がもらえる期間が延長されることがあります。
養育費の取り決め方法
養育費の取り決める方法は3つあります。
(1)夫婦の話し合いで決める
養育費は夫婦の話し合いで柔軟に決めることが可能です。
夫婦が事情に合わせて養育費の支払いと養育費額を決めれば、その金額が養育費相場と異なっていても問題ありません。
夫婦により収入状況が異なり、養育すべき子供の事情も違います。
事情や収入に合わせて夫婦が柔軟に決めて合意に至ったのであれば、その取り決めが有効になります。
ただ、養育費の話し合いで合意したことをどのように残すかが問題です。
日本は「口約束でも契約のうち」というスタンスの国になります。
口で養育費の約束をしても、もちろん有効です。
しかし、口約束だけだと証拠が何もありません。
後から養育費額や支払いなどで問題になる可能性があるため、口だけで養育費の約束をすることはおすすめしません。
トラブルを防止するために、文書としてかたちにしておきましょう。
養育費の取り決めを証拠として残す文書には、私文書と公文書のふたつの種類があります。
私文書とは、個人で作成する文書のことです。
夫婦で養育費について話し合って自分や配偶者などが文書を作成すれば、それは私文書になります。
私文書でも証拠にはなりますが、個人が自由に作成できる文書であるという点から、後から「無断で作成された」「内容に納得していない」などのトラブルになることが考えられます。
養育費の取り決めは公正証書にまとめることも可能です。
公正証書は公証役場で作成する公文書です。
公文書は公的な機関が作成に関与する書面になります。
私文書よりも公文書の方が証拠として強い力を持っているという特徴もあるのです。
公正証書は執行認諾文言を入れることで、養育費の支払いが滞った場合は即座に強制執行することもできます。
養育費について夫婦の話し合いで決めたときは、公正証書に内容をまとめることをおすすめします。
(2)裁判所の調停で決める
養育費を夫婦の話し合いで決めることが難しい場合は、裁判所の手続きを利用して決めることになります。
養育費の決定に使える裁判所の手続きには調停と裁判があります。
裁判については次の項でご説明します。
裁判所の「調停」とは、専門の調停委員などの関与のもと、当事者が話し合いで解決する手続きのことです。
夫婦同士で話し合っても養育費について決められなかったケースでも、専門知識を持つ調停委員が話し合いをサポートすることでスムーズに決まるかもしれません。
調停はあくまで話し合いによる解決を目指す手続きです。
裁判官から判決をもらうことはなく、調停でまとまった話し合いの内容を調停調書にまとめることになります。
調停調書は裁判所が作成する文書ですから、養育費の証拠としても強い力を持っています。
また、調停で決めた養育費の支払いが行われなかった場合に調停調書を使って強制執行することも可能です。
ただ、調停はあくまで話し合いとしての性質が強いため、話し合いがまとまらず不成立に終わることがあるため注意が必要になります。
(3)裁判所の審判で決める
養育費を裁判で決める方法になります。
裁判はお互いの主張や証拠を出し合い、最終的に裁判官から判決をもらう流れです。
夫婦の話し合いや調停で決まらなかった養育費に対しても判決というかたちで決着がつく方法になります。
注意しなければならないのは、裁判所の判決に沿った養育費の支払いが行われなかった場合です。
裁判所は判決が守られなかったときに自動で養育費の回収までしてくれません。
判決内容が守られなかった場合は確定判決にもとづいて強制執行などで対処する必要があります。
養育費を裁判で決めるときは先に弁護士などに相談し、注意すべきポイントなどのアドバイスを受けておくことをおすすめします。
「養育費算定表」を用いた養育費相場の計算方法
養育費を決めるときに問題になるのが養育費の額です。
養育費の支払いに合意しても、額が決まらなければ払いようがありません。
養育費の額については、決めるときの目安になる相場と計算方法があります。
裁判所手続きなどでも使われている相場と計算方法です。
なお、相場はあくまで相場になります。
夫婦の話し合いで相場外の養育費額を定めることも可能です。
養育費額が必ず相場通りに決まるわけではなく、あくまで目安になります。
注意してください。
養育費相場の計算方法
養育費相場は計算で求めることが可能です。
具体的な計算の流れは以下の通りになります。
- (1)養育費の義務者(支払う側)と権利者(受け取る側)の基礎収入を計算する
- (2)義務者と権利者、子供それぞれの最低生活費を算出する
- (3)義務者と権利者それぞれの負担能力を計算し比較や確認を行う
- (4)子供の生活費の認定
- (5)義務者が支払うべき養育費を決める
養育費相場は(1)~(5)の流れで計算できます。
ただ、この計算方法は法的な深い知識や実務経験がないとスムーズな計算が難しい方法です。
算出のために多くの資料が必要であり、養育費相場を求めるために時間がかかるという問題点もありました。
裁判所のホームページでは統計などから算出した養育費相場が一覧で確認できるようになっています。
養育費算定表を用いた計算方法
統計などから算出した養育費の相場を一覧としてまとめた養育費相場表が「養育費算定表」です。
養育費算定表を確認すれば、収入や子供の数などに応じた養育費相場がすぐにわかるようになっているのです。
養育費算定表を用いた相場の計算方法は次の通りになります。
(1)権利者と義務者の年収を計算する
まずは養育費を払う側である義務者と、養育費を受け取る側である権利者の年収を計算します。
給与をもらっている場合は、源泉徴収票や課税証明書を見れば年収がわかります。
源泉徴収票の支払金額や課税証明書の給与の収入金額を確認してください。
自営業の場合は確定申告書を確認します。
確定申告書に課税される所得金額の記載がありますので、その欄に記載されている金額を用いて計算してください。
(2)養育費算定表の中から適切な表を探す
裁判所が用意している養育費算定表には9つの種類があります。
9種類の中から「子供の人数」「年齢」で適切な表を見つけてください。
たとえば子供が1人で年齢が5歳なら、「(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)」の表を使います。
参考:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について 裁判所
(3)権利者と義務者のラインが交わったところの金額を見る
9種の養育費算定表の中から適切な表を見つけたら、権利者と義務者の年収が交わる縦と横のラインをチェックします。
ラインが交わったところに記載のある金額が養育費の相場金額です。
【ケース別】年収600万の養育費相場
義務者の年収が給与600万円だった場合、家族構成ごとに養育費相場が変わってきます。
権利者に収入がない場合の年収600万円の相場は、子供1人の場合は6~10万円ほどです。
子供が2人の場合は8~14万円ほど、子供が3人の場合は10~14万円ほどが養育費の相場になります。
1年の養育費が義務者の手取りの2~4割がおおよその相場です。
養育費相場表では、子供の年齢などに合わせた相場の確認も可能です。
実際に3つのパターンで試してみましょう。
試算に使う義務者の給与は年収600万円で設定します。
この場合の子供の数や年齢、権利者の年収などで養育費の相場をみてみましょう。
パターン(1)子供(16歳)が1人で権利者の年収が200万円
16歳の子供が1人いて、権利者が給与で年収200万円を得ているパターンです。
使う養育費算定表は「(表2)養育費・子1人表(子15歳以上)」で、権利者200万円と義務者600万円のラインが交わるところの金額を見ます。
ラインが交わるところの金額は6~8万円になっていますので、養育費相場は6~8万円という結果です。
パターン(2)子供が2人(17歳と16歳)で権利者の年収が100万円
使う養育費算定表は「(表5)養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)」になります。
表の義務者の年収600万円と権利者の給与年収100万円が交わるところの金額を確認すると、10~12万円という金額が記載されていることがわかるはずです。
よって、養育費相場は10~12万円になります。
パターン(3)子供が2人(5歳と1歳)で権利者の年収なし
権利者が小さな子供の子育てに追われており、収入がない状況です。
子供が2人いて年齢は5歳と1歳なので、養育費算定表は「(表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」を使います。
権利者の年収0と義務者の年収600万円が交わるところを見ると、10~12万円という金額が記載されています。
よって、養育費の相場は10~12万円です。
まとめ
養育費は子供を養育費、生活を保持するための大切なお金です。
子供の抱えている事情や収入状況は家庭によって異なるため、養育費額は基本的に夫婦の話し合いで決めることができます。
養育費には収入状況や子供の年齢、数などによる相場は養育費算定表で確認可能です。
養育費のことでわからないことや不安があれば、養育費の問題に強い弁護士に相談し、早めに悩みを解決しておきましょう。