この記事でわかること
- 不動産の財産分与をする場合の方法がわかる
- 財産分与する不動産に住宅ローンが残っている場合の問題点がわかる
- 住宅ローンが残っている家に住み続ける場合の方法がわかる
- 売買や住宅ローンを分け合う契約の注意点がわかる
結婚している間にマイホームを購入した場合、離婚の際にマイホームについての財産分与の問題が起こります。
不動産の財産分与は複雑で、特に住宅ローン返済中の場合は様々な注意点があり、トラブルも起こりがちです。
ここでは、不動産の財産分与をする際に住宅ローンがある場合の課題や、住宅ローンのある家に住み続けるケースなどについて説明します。
離婚の際の財産分与の決め方
離婚をするときは、結婚している間に夫婦で協力して形成した財産を分け合うことになります。
これを財産分与と言います。
財産分与の対象となる財産は多岐にわたり、結婚期間中に購入した不動産も含まれます。
ただし、不動産の購入代金が夫婦のどちらかの親からの援助によるものであったり、夫婦のどちらかの結婚前に貯めた預金から支払った場合には注意が必要です。
財産分与の対象とならなかったり、財産分与の割合が半分ずつとは認められないことがあります。
また財産分与は、夫婦が共働きでも片方だけが働いていた場合でも、半分ずつ分けるのが基本です。
どのように分け合うかは、夫婦間の話し合いによって自由に決めることができます。
財産分与の手順
財産分与の手順としては、まず対象となる共有財産をリストアップします。
対象となる共有財産とは、預貯金、有価証券、解約返戻金のある保険、不動産、自動車、家財道具などです。
続いて、リストアップした財産の評価額を出します。
預貯金であれば、残高がそのまま評価額となります。
不動産の場合には、評価額は自治体が評価した固定資産税評価額ではなく、通常は時価額で評価します。
不動産会社に査定してもらうなどの方法で、時価額を確認しておきましょう。
住宅ローンの返済中であれば、残債を不動産の評価から差し引くこととなります。
このようにして、すべての財産の評価額の合計を出し、これを夫婦で半々になるように分けるのが基本的な財産分与の方法です。
不動産を財産分与する方法
不動産を財産分与する方法は、主に2つあります。
預貯金とは異なり、不動産のまま分与するのか、現金化して分与するかです。
それぞれについて説明します。
どちらかが不動産を取得し、相手に代償金を支払う
夫婦のどちらかが不動産を単独で取得し、相手に不動産の価値の半分のお金を支払います。
夫婦のどちらかが今の家に住み続けたい場合には、この方法をとることが一般的です。
不動産を売却して、売却代金を半分ずつ分ける
不動産を売却し、売却代金を夫婦で分け合う方法もあります。
夫婦のどちらもこの家に住み続けるつもりがなく、売却代金がローンの残債よりも高くなる見込みがあれば、この方法をとることができます。
財産分与の家に住宅ローンがある場合の課題
財産分与の対象となる財産に不動産があるものの、住宅ローンの返済中という場合には様々な注意点があります。
このような場合、まずは不動産の現在の価値から住宅ローンの残債を引いて、マイナスとなるかプラスになるかを判断する必要があります。
プラスになる場合を「アンダーローン」、マイナスになる場合を「オーバーローン」と言います。
それぞれの場合について説明します。
アンダーローンの場合
アンダーローンの場合にはプラスの財産が存在するため、そのプラスの価値を夫婦で分け合うことになります。
たとえば、不動産の価値が4,000万円で、残債が2,000万円の場合には、4,000万円から2,000万円を差し引いた2,000万円が不動産の評価となり、財産分与の対象となります。
この場合には、夫婦それぞれが1,000万円ずつの財産を取得すればよいので、たとえば夫が不動産を取得するのであれば夫は妻に対して1,000万円を支払えば、半分ずつ分け合うことができます。
夫が住み続けるのであれば、住宅ローンの残債の2000万円については、不動産を取得する夫が支払っていくこととなります。
二人ともこの不動産を取得せず、第三者に売却する場合には、売却価格の4,000万円から住宅ローンの残債2,000万円と売却の経費(仮に200万円とします)を支払うとすると1800万円が残るので、この1800万円を900万円ずつ夫婦で分ける方法で財産分与することもできます。
オーバーローンの場合
オーバーローンの場合には、不動産の評価はマイナスとなります。
財産分与の考え方として、財産がマイナスとなる場合には財産分与の対象としないのが基本です。
たとえば、不動産の価値が2,000万円で、住宅ローンの残債が3,000万円の場合、不動産の評価はマイナス1,000万円となります。
この場合は、不動産そのものを財産分与の対象としません。
つまり、不動産や住宅ローンの名義は、離婚しても元の状態のまま残ります。
ローンの債務者がそのまま住宅ローンの返済を続け、不動産を保有し続けることになります。
住宅ローンがある家に住み続ける場合
不動産を売却しない場合には、離婚後も夫婦のどちらかが住宅ローンの残った不動産に住み続けることになります。
ローンの名義人が住み続ける場合と、名義人でない人が住み続ける場合について説明します。
住宅ローンの債務者(名義人)が住み続ける
住宅ローンを借りた人がそのまま家に住み続けるのは、最もシンプルでトラブルの少ない方法です。
住宅ローンの債務者と不動産の登記名義人は同じ人になっているのが基本です。
金融機関で住宅ローンを組むときにも、不動産の登記名義人が自らその家に住むことが条件となっていることが普通です。
仮に夫がローンの債務者である場合には、不動産の登記名義人も夫となっていることが多いでしょう。
この場合、不動産の名義人である夫が住宅ローンを支払いながらこの不動産に住み続けることが、一番望ましい方法です。
この方法であれば、家の名義も住宅ローンの名義もそのままでよいので、不動産についての手続きは不要です。
住宅ローンを組んでいる金融機関に対しても、何か手続きをする必要はなく、そのまま住宅ローンの返済を続ければ問題ありません。
住宅ローンの債務者でない方が住み続ける
夫が住宅ローンを組んでいたけれど、その夫が家を出ていき、妻が住宅ローンの残った家に住み続けるという場合もあるでしょう。
この場合は、住宅ローンの名義人や不動産の登記名義人ではない人が不動産に住んでいる状態となります。
名義人と住んでいる人が異なる状況は、権利関係が複雑となり、後で問題が起こる可能性があるため、できる限り避けるべきです。
ただし、不動産の名義を変更するのは簡単なことではありません。
金融機関との交渉が必要
金融機関は、本人の自宅として使うことを条件に住宅ローンの審査を行っています。
そのため、不動産の名義をローンの返済中にローンの名義人以外に変更することは、契約で禁止されているのが普通です。
離婚という事情がある場合でも、名義の変更は簡単には認めてくれません。
それであれば、住宅ローンの名義人自体を変更して、家に住み続ける人が住宅ローンを支払えばよいと考えるかもしれませんが、それも簡単ではありません。
その場合、住み続ける人が新たに自分名義のローンを組むこととなり、住宅ローンの審査を受けることになります。
住み続ける人の収入や勤続年数などが一定の基準を満たさなければ、ローンの審査が通らない恐れがあります。
離婚をすることになり、就職したばかりの状況などであれば、審査が通りにくいケースも多いでしょう。
また、現在住宅ローンを組んでいる金融機関の審査が通らなければ、他の金融機関でもローンを組めない可能性があります。
いずれにせよ、住宅ローンの返済中である場合、金融機関との交渉が必要となります。
名義をそのままにして名義人以外が住み続けた場合の問題点
金融機関が名義の変更を認めてくれなかった場合、名義をそのままにして名義人ではない元配偶者が家に住み続けるしか方法がないということもあります。
この場合、夫婦間で揉めることが多く、後でトラブルが起きる可能性もあります。
住宅ローンの返済をどうするかという問題
たとえば、ローンの名義は夫だけれど家に住み続けるのは妻という場合に、住宅ローンの返済を誰がするのかという問題があります。
夫としては、自分が住まない家の住宅ローンの返済を続けることには納得がいかないと思うことが多いでしょう。
一方妻としては、夫名義のローンであり、家が夫の名義になっている限りは夫に住宅ローンを返済してほしいと思うことが多いでしょう。
この時の返済の割合をどうするかなどについて、夫婦間でもめる可能性があります。
お金を貸している金融機関としては、ローンの名義人である夫に請求するしかありません。
しかし、夫が自分の住んでいない家のローンを真面目に返済し続けるかどうかは分かりません。
家の名義人に家の処分権がある
家の登記名義人が夫という場合は、離婚後家に住み続けるのが妻であっても、家の所有者はあくまで夫のままです。
そうすると、家を売却したり、家を担保に入れたりといった処分権限があるのは所有者である夫です。
また、ローンの支払いを夫が滞納した場合には、家を差し押さえられてしまう可能性もあります。
自分の所有物でない家に住み続ける妻は、家が元夫の気持ちや状況次第でいつどうなるのかわからないという不安定な立場に立たされることになるのです。
このため、夫が住宅ローンの返済を続けてその家に妻が住み続けるという方法は、妻側のリスクが高くお勧めできません。
また、最終的に住宅ローンの返済が終わった場合でも、不動産の所有者は夫のままなので、これをどうするかという問題があります。
たとえば、子供の通学の事情などで離婚後2年間など決まった期間だけ元夫名義の家に住み続けたいという場合はよいかもしれません。
しかし、ずっと住み続けたいという場合には非常にもめやすい状況になるでしょう。
オーバーローン・アンダーローンで売却するメリットとデメリット
オーバーローン・アンダーローンで売却する場合のメリットとデメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
それぞれについて紹介します。
オーバーローンで売却するメリット
オーバーローンになってでも売却するメリットは、不動産を手放すことで離婚後に不動産に関する面倒な問題を考えずに済むことです。
ローンの返済をどうするかや、どちらが住み続けるかなどを考える必要がなく、離婚時にきれいさっぱり共有財産をすべて処分することができます。
不動産が夫婦の共有だったり連帯債務(ペアローン)になっているような場合は、不動産を処分しないと離婚後も夫婦で揉めることがあります。
そのため、損してでも売却したいというケースもあるのです。
オーバーローンで売却するデメリット
オーバーローンで売却するデメリットは、財産分与する財産がほとんどなくなる可能性が高いことです。
たとえば、2,500万円の住宅ローンが残っている家を2,000万円で売却する場合、500万円の自己資金を追加で支払わなければ売却できません。
共有財産の預貯金が500万円しかない場合には、財産分与できる財産がなくなってしまいます。
アンダーローンで売却するメリット
アンダーローンで売却するメリットは、夫婦がどちらも家に住み続ける予定がない場合に、現金で財産を分けることができるところです。
お互いに住み続けるつもりがない家であれば、現金化して分けるのがシンプルで公平です。
アンダーローンで売却するデメリット
アンダーローンで売却するデメリットは、物件にもよりますが、思ったよりも手元に現金が残らない可能性が高いことです。
売却代金から残債や不動産仲介料などの支払い金額を差し引くと、手元に残る金額が想像以上に少ないと感じるケースが多いでしょう。
不動産のまま所有している方が資産価値が高いと感じるケースも少なくありません。
売買や「ローンを半分にする」契約の注意点
住宅ローンが残っている不動産を売却する場合や、夫婦でローンを半分ずつ負担する契約をする場合には、注意すべきことがあります。
売却するときの注意点
不動産を売却する場合には、オーバーローンにならないような売却価格を設定することが大切です。
不動産の売却には、想像以上に諸経費が掛かる場合があります。
状況によっては家の修繕等の費用が必要な場合もあります。
不動産仲介会社への手数料や登記手続き費用なども含めた諸経費を差し引いたうえで、売却してプラスが出るようにする必要があるでしょう。
「早く離婚したいからとにかく急いで売りたい」という気持ちがあると、それを見透かされて、安く買いたたかれてしまうリスクもあります。
不動産の価値はしっかりと把握するようにして、適正な価格で売却することを目指しましょう。
また、不動産の査定は一社だけでなく、数社に依頼してもよいでしょう。
ローンを夫婦で半分ずつにする契約
住宅ローンが残る場合に、ローンを夫婦で半分ずつ支払うことを約束する場合があります。
債務については本来財産分与として分け合う必要はないのですが、当事者間で半額ずつ負担することを約束するのは自由です。
また、もともと夫婦ふたりで連帯債務者となってローンを組んでいる場合もあります。
夫婦で連帯債務となっている場合、離婚してこの家に住まなくなるから連帯債務から抜けたいと思っても、金融機関がそれを認めてくれる可能性は低いでしょう。
ローンを半分ずつ支払う契約を当事者間でする場合、きちんと書面で取り決めておくことが大切です。
その際、不動産の名義がどうなっているのか、ローンの保証人はどうなっているのかなどについてもしっかりと確認しておきましょう。
不動産が夫婦で共有となっているケースもあれば、夫婦のどちらかの単独所有になっている場合もあります。
共有となっている場合には、持分を最終的にはどちらかに移して、共有状態を解消することが望ましいでしょう。
また、建物は夫名義、土地は妻名義となっているようなケースもあります。
不動産の財産分与は複雑な計算や手続きが必要となることもあるため、不安があれば弁護士への相談をお勧めします。
まとめ
不動産の財産分与は、住宅ローンが残っている場合には手続きが複雑となります。
トラブルになりやすい論点がいくつもあるため、自己判断で手続きをしてしまう前に、弁護士等への相談をすることも検討しましょう。