この記事でわかること
- 養育費支払いと公正証書について理解できる
- 再婚したら、以前作成した公正証書が役に立たなくなることがわかる
- 養育費が減額されるケースや条件について理解できる
離婚をしても父母には原則子どもが成人するまで養育を行う義務があります。
その養育義務を行うために必要なものが「養育費」です。
衣服費、食費、教育費など日常におけるさまざまなものにお金がかかります。
離れて暮らす可愛い我が子のために養育費を滞らせることなく気持ちよく支払ってくれる元夫(妻)であれば頭を悩ませる必要はありません。
ですが、そのように真面目に払い続けてくれる人は少ないのが現実です。
たとえば、元夫が再婚したら養育費は減額されてしまうのでしょうか?
公正証書でしっかりと取り決めをしていた場合はどうなるのでしょうか?
以下で詳しくみていきましょう。
養育費支払いにおける「公正証書」の役割
一度は耳にしたことがある方も多い「公正証書」ですが、いったいどのような役割があるのでしょうか。
なんとなく、作成したほうが後々助かるのだろうなという認識はあるものの正確に理解している方は多くはありません。
ここでしっかりと理解しておきましょう。
公正証書を作成しておくと、強制執行の手続きをスムーズに行うことができることがメリットとして挙げられます。
強制執行とは、債務者(養育費を支払う人)に対して有する債権(養育費の支払い請求)を裁判所(国)が強制力を発動させて支払わせる手続きのことをいいます。
また、「執行認諾の文言」を公正証書時に付しておけば、裁判所の許可を得る面倒な手続きを経ずに給与」や「財産」を差し押さえることが可能となります。
すなわち、相手から強制的に養育費の支払いを受けることができます。
以上のことから、離婚協議書を公正証書で残す際には「執行認諾の文言」を付すべきとされているのです。
また、公正証書作成の際には、養育費の支払いなどはできるだけ詳細に(子どもの進路なども考慮して)取り決めをしておくことをおすすめします。
再婚で公正証書の養育費が変更することも
公正証書が後々のトラブルを回避するために有効であることはおわかりいただけたかと思います。
ですが、注意が必要な場合があります。
公正証書で取り決めした内容が、離婚後の事情により変化する可能性があります。
つまり、絶対的なものではないということも認識しておかなければなりません。
結論からいってしまえば、自分もしくは元夫(妻)が再婚した場合に養育費は減額できます。
なぜなら、養育費には「生活保持義務」といわれるものが根底として存在しているからです。
この生活保持義務は、「自分(親)と同じ水準の生活レベルを維持する義務」があることをいいます。
よって、父母どちらかに何らかの事情で収入が減少してしまえば、一方が負担していくことになるのです。
いったいどのようなケースが該当するのでしょうか。
以下で詳しくみていきましょう。
養育費が減額するケースと条件
それでは、養育費が「減額されるケースと条件」についてみていきたいと思います。
養育費を受け取っている側としては、今後の子どもの将来に関わる重要なことですのでしっかりと理解しておく必要があります。
今後、相手方と話し合いを予定されている方は正しい知識を備えておきましょう。
以下をご参考にしてください。
- ・元母(父)が子どもを連れて再婚した(再婚相手となる父(母)と子どもが「養子縁組」をした)
- ・自分が再婚して、再婚相手との間に子どもが生まれた
- ・離婚後の経済的な事情により収入が著しく減少してしまった
- ・権利者(養育費を受け取る側)の収入が増えた
- ・子どもが経済的に自立したため未成熟子ではなくなった
それぞれのケースについて詳しくみていきましょう。
元妻(夫)が再婚して、再婚相手となる父(母)と子どもが「養子縁組」をしたケース
再婚相手と子どもが「養子縁組」をすると新たに「扶養義務」が生じます。
逆にいえば、再婚しても養子縁組をしなければ法的な親子関係は生じないので、当然のことながら子供に対する扶養義務が生じることはありません。
すなわち、養育費が減額される可能性があるのは子どもと「養子縁組」をしている場合に限ります。
もし、再婚相手に経済力があり、充分な養育費をまかなえるのであれば、養育するのに困らないため、元夫(妻)は養育費を減額もしくは打ち切りを請求することが可能です。
養父の扶養義務と実の父との扶養義務の優先度は「養父」の方が高いとされています。
ですが、子どもが病気になり医療費が多額に及んだ場合に養父だけでは賄いきれなくなるケースがあります。
そのようなときは、実の父にも養育費を支払う義務があるのです。
自分が再婚して、再婚相手との間に子どもが生まれた
収入は無限ではなく限りがあるので、扶養しなくてはならない人が増えれば、その分減額を請求することができます。
自分が再婚し、その相手との間に子どもが生まれれば、その子どもに対する扶養義務が当然に生じます。
よって、元妻(夫)に対して、養育費の減額を請求することができます。
離婚後の経済的な事情により年収が著しく減少してしまった
昨今のコロナ禍で、仕事を失ったり収入が著しく減少してしまったりした方も多いのではないでしょうか。
離婚後に、誰にも予測できないことが起きる可能性が十分に考えられます。
そのような場合には「ない袖は振れぬ………」といえ、養育費の減額を請求することができます。
ですが、このような窮状に立たされた場合でも、親の子どもに対する扶養義務は消滅しません。
まずは、相手方に事情を説明し、話し合いで解決できればよいのですが、どうしても解決できない場合は調停にて争うこととなります。
調停で争うことを避けたい場合は、弁護士の力を借りて交渉してみることも一つの手かもしれません。
権利者(養育費を受け取る側)の収入が増えた
たとえば、婚姻時には子育てに専念しており、働かずに専業主婦やパートであった妻の場合です。
離婚後に経済的な自立をして収入がアップした場合などは養育費を減額することができます。
前述のとおり、養育費は父母が負担するものなのです。
権利者の収入が上がったことで養育費減額請求することが可能となるのです。
子どもが経済的に自立したため未成熟子ではなくなった
養育費は、原則20歳まで支払う義務があるとされています。
現行の民法では成年に達するのは20歳とされているためです。
(※2022年4月から成人年齢は18歳に引き下げられます)
いわゆる未成熟子といわれる間は、親には扶養義務があります。
未成熟子とは、「経済的に自立していない子」とされており、専門学校や大学に進学をしている子ども、また心身の障害のある子については「養育費の終期」を延長することができます。
一方で、高校卒業後にすぐに就職して経済的に自立している子の場合は、未成熟子ではなくなるため養育費の減額もしくは打ち切りを請求することができます。
相手の再婚により養育費はどの程度減額する?
養育費の減額や打ち切りの条件に該当すれば相手方に請求することが可能となるわけですが、いったいどのくらい減額されるのでしょうか?
離婚時の調停では、「養育費算定表」といわれる基準を用いて解決へと導いていきます。
実際にこの基準を用いて養育費を決定した方も多いのではないでしょうか。
しかし、再婚の場合は「扶養家族の変更」などの理由から養育費算定表には当てはまりません。
「標準算定式」と呼ばれる養育費算定表の元となっている基準を用いて算出していくことになります。
この計算式はかなり複雑ですので、参考までに一例の結果のみをご紹介します。
- (例)
- ・元夫の年収600万円(会社員)
- ・元妻の年収300万円(会社員)
- ・2人の間の子ども 16歳(元妻が親権者で養育費は4万円)
- ・元夫が再婚し、再婚相手には6歳の子どもがおり養子縁組をしている
- ・再婚した妻は無収入(無収入なので扶養義務が発生する)
このようなケースの場合では元妻との間の子どもに対する養育費は約2万2,000円となります。
したがって、1万8,000円ほどの減額請求をすることが可能となります。
養育費減額や打ち切りを避けるためには
元配偶者が再婚して養育費の減額や打ち切りを避けたい場合はどうしたらよいのでしょうか?
子どもの将来がかかっているので、ご不安になられるのも当然のことです。
まずは、当事者で話し合いをすることが大切です。
もし、話し合いで合意に至れば、新たに取り決めた養育費の金額や支払い方法などを「公正証書」に残しておくことをおすすめします。
もし新しい公正証書を作成しないままだと、後々トラブルとなったときに旧公正証書の内容が有効となり不利益となる場合があります。
どうしても話し合いで合意に至らないときは、前述のとおり家庭裁判所へ「養育費減額調停」の申し立てをする運びとなります。
調停でも再度話し合いをすることに変わりはありませんが、調停委員が介入することにより合意の着地点を見つけることができるかもしれません。
調停で合意が得られれば公的な書面に記録が残るので公正証書を作成しなくてもよいのです。
それでもなお決着がつかない場合は、裁判へと移行します。
まとめ
トラブルを避けるためには、離婚するときの話し合いが最も重要で、公正証書に残しておくことが最善策であることは間違いないです。
ですが、せっかく公正証書を作成しても意味をなさなくなることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
離婚するときの状況が様々な理由から変化していくことは自然な流れといえます。
子どもの将来のことを考えれば少しでも多く養育費をもらいたいと思うのは当然のことでしょう。
しかしながら、離婚した相手にも新たな人生を歩み新しい家庭を築いていくことなどは誰にも止める権利はありません。
子どもとの親子関係は永遠に続いていきます。
養育費の減額が心配される場合は当事者同士でしっかり話し合い、公正証書はその都度更新していくというスタンスでいることも必要なのかもしれません。