この記事でわかること
- 離婚後に財産分与の請求ができる期間がわかる
- 離婚後に財産分与を請求する方法がわかる
- 相手の財産がわからない場合の対処法方がわかる
- 除斥期間が過ぎた後でも財産分与を請求できるケースがわかる
財産分与は離婚する際に行うのが通常ですが、何らかの理由で財産分与をしないまま離婚してしまうケースもあります。
しかしそのような場合でも、すぐに諦めてしまう必要はありません。
離婚後でも、一定期間財産分与を請求することができます。
ここでは、財産分与の制限期間や期限が過ぎた場合の対処法などについて説明します。
離婚後の財産分与の時効(除斥期間)とその方法
財産分与は、離婚するときに結婚期間中に夫婦で形成した財産を分け合う制度です。
分与の割合は、片方しか働いて収入を得ていなかった場合でも2分の1ずつ分け合うのが原則です。
財産分与は、離婚するときに行うのが通常ですが、様々な理由により財産分与をしないまま離婚をしてしまうケースもあります。
離婚を早く成立させたい一心で、財産分与についての話し合いをしないまま離婚してしまうような場合もあります。
そのような場合に、もう財産分与は請求できないかというとそんなことはありません。
財産分与は、離婚成立後2年以内であれば請求することができます。
財産分与の請求権の除斥期間は2年
財産分与を請求することができるのは、離婚成立から2年間の間です。
この2年の期間は、時効ではなく除斥期間なので注意が必要です。
除斥期間は、時効とは異なり、中断させたり延期させることができません。
2年が過ぎると、権利を行使することができなくなってしまう不変の期限なのです。
離婚から2年経つと、除斥期間によって財産分与の請求権がなくなってしまいます。
そのため、財産分与をしないまま離婚してしまった場合には、期限内に請求することが何よりも大切です。
除斥期間と消滅時効との違い
除斥期間は、ある一定の期間が過ぎると、自然に権利が消滅する期間を定めたものです。
一方、消滅時効はある一定の期間が過ぎた後、権利の消滅によってメリットを受ける人が「時効を援用する」という意思表示をすることで、権利を消滅させる期間を定めたものです。
除斥期間は、途中で停止させたり中断させたりすることができない不変の期間であるのに対し、消滅時効は中断させることができます。
中断とは、時効の進行を止められる制度です。
時効期間が満了する前に裁判を起こし判決が下されると、進行していた時効がリセットされて、判決の確定時点から改めて時効のカウントが始まります。
また、時効の完成が迫っているときには、内容証明郵便で請求することにより、時効の成立を6か月間延長することができる催告制度もあります。
消滅時効は、相手が時効を援用しない限り権利は消滅しないため、時効成立後に裁判で請求することができます。
しかし、除斥期間については期間が経過すると自動的に権利が消滅してしまうため、期間経過後に裁判で請求することはできません。
請求できるのは正式に離婚してから2年間
財産分与をするとき、財産分与の対象となる財産の算定の基準は別居前までです。
別居後に形成された財産は、夫婦の協力によって形成されたものとは言えないため、財産分与の対象とはなりません。
そうすると、財産分与を請求できるのも別居してから2年間になるのかという疑問が生まれますが、そのようなことはありません。
財産分与が請求できる期間は、正式な離婚が成立してから2年間であり、たとえその前に別居期間があったとしても影響はありません。
離婚後の財産分与の請求方法
離婚後に財産分与を請求するにはどのようにすればよいのでしょうか。
相手が話し合いに応じてくれる場合には、協議によって取り決めることができます。
それができない場合には、家庭裁判所に財産分与請求の調停を申し立てることになります。
この調停を申し立てることができるのは離婚成立から2年以内です。
調停は、調停委員や裁判官を介して、当事者同士の意見の調整をはかりながら話し合いを進めていき、合意に至ることを目指す手続きです。
第三者が間に入ることで冷静になることができ、話し合いがスムーズになる可能性があります。
調停不成立の場合には審判手続きへ移行
調停で合意に至ることができず、調停が不成立となった場合には、審判手続きに移行します。
審判では、裁判官が当事者の主張や調査結果など諸般の事情を考慮の上、財産分与の方法を決定します。
当事者の合意は不要です。
相手に支払い義務がある場合には、支払い命令の審判を下します。
万一相手が支払い命令に従わない場合、相手の財産を差し押さえることができます。
離婚後2年以内に確定した財産の請求権利の時効は10年
財産分与の請求権は離婚から2年以内に請求しなければ消滅してしまいます。
しかし、2年以内に協議や調停、訴訟などで財産分与による財産請求権が確定した場合には、この権利は10年間消滅することはありません。
財産の引渡しを請求する権利は、一般的な債権となり、この権利の消滅時効は10年だからです。
この10年の期間は除斥期間ではなく消滅時効の期間なので、相手が財産を引き渡さない場合には、裁判を起こすことで時効を中断させることもできます。
相手の財産がわからない場合
財産分与の請求をするためには、対象となる財産を確定する必要があります。
ただ、相手が財産を明らかにしてくれないケースもあります。
特に離婚後の財産分与請求の場合には、相手が財産を開示しないことも多いのが実情です。
このような場合は、弁護士照会制度や裁判所の調査嘱託による財産調査を検討する必要があります。
相手の財産がわからない場合には、弁護士に依頼するのが賢明です。
弁護士照会制度
弁護士照会制度は、弁護士が弁護士会を通じて財産開示を請求する制度です。
弁護士のみが利用できる制度で、離婚前後、別居前後、財産分与請求の前後を問わず利用することができます。
預貯金口座の情報を確認するために金融機関に照会することなどが可能です。
弁護士照会に対しては回答義務があるとされていますが、事案によってどの範囲まで調査ができるかは異なります。
裁判所の調査嘱託
裁判所の調査嘱託は、裁判所に申し立てを行うことにより、裁判所から財産の開示を請求する制度です。
貯蓄性保険の解約返戻金相当額を調べるために、保険会社に調査嘱託を行うことなどが可能です。
財産分与の請求は、まずは調停を申し立てて調停不成立の場合に審判に移行します。
調停の手続き中は基本的に当事者間の話し合いによって解決するものと考えられているため、調査嘱託が行われることは少ないのが実情です。
多くの場合は審判移行後に行われます。
家庭裁判所に対しては、開示を求める対象や必要性について説得力のある調査嘱託の申し立てを行う必要があります。
手当たり次第に申し立てをしても家庭裁判所が認めてくれることはありませんので、注意が必要です。
時効(除斥期間)が過ぎている場合や財産分与した財産のやり直し請求
2年の除斥期間を過ぎた場合、もう財産分与を請求することはできないのでしょうか。
結論から言うと、基本的には難しいでしょう。
例外的に、相手が任意で応じてくれる場合には財産分与してもらうことが可能です。
除斥期間は法律的な請求権が時間の経過により失われる制度であり、除斥期間が経過したら財産分与を禁止する制度ではないからです。
ただし、あくまでも相手の気持ち次第であり、強制することはできません。
相手が応じない場合に、執拗に財産分与を求める行為は、方法によっては強要罪などの犯罪に該当する可能性もあるので気を付けましょう。
財産分与の合意を取り消すことができるか
財産分与について離婚時に合意したものの、後から取り消してやり直すことはできるのでしょうか。
基本的に、相手が合意しない限り一度決めた財産分与の取り消しは認められません。
ただし、財産分与の合意が錯誤や詐欺、脅迫によって行われたものであれば無効の主張や取り消しが認められます。
そのような主張をする場合には訴訟が必要になるケースが多いため、弁護士に相談しましょう。
隠し財産が発覚した時に請求・調停申し立てが可能な期間
財産分与をした後に、相手が財産を隠していたことが分かった場合には、どのようにすればよいでしょうか。
実際、離婚の準備をしている間に、財産分与の対策として虎視眈々と財産隠しを進めているケースも多いものです。
こっそりと新しい口座を作ってその口座に預金を移動させるなど、様々な方法により財産を隠されてしまう可能性があります。
このような隠し財産が発覚したときには、当初の財産分与の対象財産にはなっていない新たな財産が存在するということになります。
そのため、別途財産分与を請求することが可能です。
ただし、財産分与の請求権が2年であることには変わりありませんので、離婚から2年以内に請求する必要があります。
2年が過ぎた場合
2年を経過してしまった場合で、元配偶者が悪質な財産隠しをしていた場合には、財産分与の請求ではなく、財産を隠していた相手に対する損害賠償請求などの方法によって財産の支払いを請求することになります。
本来財産分与をするときに共有財産を開示しなければいけないのに、それを隠して相手をだまして少額な財産しか渡さなかった場合には不法行為が成立します。
不法行為にも時効があり、加害者と損害を知った時から3年間の間に請求する必要があります。
相手の財産隠しによって本来よりも少ない財産しか受け取ることができなかったことを知ってから3年以内であれば、元配偶者に対して財産分与のやり直しを求めることができます。
相手に対して財産分与のやり直しを持ちかけても応じてくれない可能性が高いでしょう。
そういった場合に損害賠償請求訴訟などの民事訴訟を起こし、判決により強制的に財産を支払わせる方法があります。
隠し財産の可能性があるような場合には、相手が非協力で訴訟をする必要があるケースも多く、訴訟をするためには証拠などをそろえて自分の主張を立証する必要があります。
自分一人で対応するのは非常に難しいでしょう。
期限の問題や財産調査の必要性もあるため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
財産分与の対象となるもの
財産分与の対象となる財産にはどのようなものがあるでしょうか。
基本的には、結婚期間中に夫婦で協力して形成された財産であればあらゆるものが財産分与の対象となります。
離婚後に形成された財産は対象とはなりません。
具体的には、以下のような財産があります。
預貯金
結婚期間中に蓄えた預貯金は財産分与の対象となります。
夫婦のどちらの名義になっていても、結婚期間中の収入によるものであれば基本的に財産分与の対象財産です。
夫婦の片方しか仕事をしておらず、収入を得ていたのが片方だけの場合であっても、収入は共有財産となり基本的に2分の1ずつ分け合うことになります。
なお、結婚前に蓄えた預貯金や、相続により取得した遺産による預貯金は夫婦の協力とは無関係なので、共有財産とはならず財産分与の対象となりません。
不動産
結婚期間中に購入した不動産も財産分与の対象となります。
ただし、不動産を購入した資金が、一方が婚前に貯めた貯金であったり、夫婦の片方の親からの資金提供などによる場合には、財産分与の対象にならなかったり、分与割合が調整されることがあります。
不動産については、財産評価をするために確認しなければいけないことが多くなります。
まずは登記事項証明書の内容を確認し、所有者がどうなっているのか、抵当権が設定されているのかなどについて知っておくことが必要です。
評価額については、不動産は基本的に時価で判断します。
自治体が評価する固定資産税評価額と時価は異なるため、場合によっては不動産会社の査定や不動産鑑定士の簡易鑑定などを依頼する必要があります。
また、住宅ローンを返済中の場合には、債務残高がいくらあるかの確認も必要です。
債務残高は、財産の評価から差し引くのが通常です。
不動産については、
- ・住宅ローンの債務者が夫婦で連帯債務者になっているケース
- ・所有者名義が共有になっているケース
- ・売却をするのか、夫婦のどちらかが住むのか
など、様々なパターンがあり、一概にどのように分与すべきかどうかが判断できません。
また、財産分与により所有者を変更する場合には、住宅ローン返済中は通常金融機関の承諾が必要になります。
ケースによって様々な注意点がありますので、不動産の財産分与を検討する場合は弁護士への相談をお勧めします。
解約返戻金のある保険
結婚期間中に子供のための学資保険や終身保険などに加入した場合、解約返戻金のある保険であれば財産分与の対象となります。
ただし、保険料が一括払いで夫婦の片方の婚前の預金や夫婦の片方の親からの資金提供などによって支払った場合には、共有財産とはならず財産分与の対象とはなりません。
夫婦の片方が保険契約を引き継ぐ場合には、解約返戻金相当額の一部を支払うなどして調整することが考えられます。
年金分割制度
結婚期間中に納付した厚生年金保険料の実績についても、年金分割制度により分け合うことができます。
年金分割をすることで、分割を受けた方の人の年金の納付実績が上乗せされることとなり、将来受け取る年金額が多くなります。
分割した側の人の受け取る年金は、その分減ることになります。
結婚した時期や厚生年金の加入の時期などにより分割方法が異なりますので、年金事務所などに確認しましょう。
年金分割は、離婚後でも手続きをすることが可能です。
退職金
退職金についても財産分与の対象となります。
ただし、全額について対象となるわけではありません。
結婚していた期間に応じて、財産分与の対象となる割合が決まります。
たとえば結婚年数が30年で勤続年数が40年の場合には、退職金の4分の3が財産分与の対象となる金額です。
退職金が4,000万円だとすると、30/40である3,000万円が財産分与の対象となります。
財産分与割合が原則通り2分の1ずつであれば、1,500万円を財産分与として請求することができます。
また、退職金がまだ支払われていない場合でも、近い将来支払われる見込みが高い場合には、未払いの退職金についても財産分与の対象とすることが認められる場合もあります。
家財道具
結婚期間中に購入した家具家電なども共有財産となり、財産分与の対象となります。
しかしこれらの財産は、時価としては価値がない場合がほとんどです。
どちらかが引き取るのか、処分するのかなどを決める必要があるでしょう。
債務
財産分与の対象財産は、プラスの財産だけに限らず、マイナスの財産(債務)も影響を与えます。
基本的に、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合には財産分与を請求することはできません。
ただし、結婚期間中の債務すべてが財産分与に影響するわけではありません。
住宅ローンや子供のための教育ローン、生活費のための借入金など、夫婦で生活を送るために作った債務に限られます。
夫婦の生活とは無関係な、ギャンブルや趣味のための借金などは、財産分与に影響を及ぼしません。
また、マイナスの財産の方が多い場合でも、債務を夫婦で分け合わなければいけないというわけではありません。
債務についてはあくまでも、債務者となっている本人が負担すべきものです。
マイナスの財産の方が多い場合には、財産分与による財産の引き渡し、支払いを請求することができないということです。
後悔しないためにも、財産分与は慎重に
離婚をする前は、とにかく早く離婚したい、財産のことはどうでもいいなどと考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、財産分与の請求は正当な権利であり、きちんと取り決めるべきものです。
隠し財産を見逃さないため、また後でトラブルになることを防ぐためにも、しっかりと相手の財産を把握するようにしましょう。
離婚前に別居をする場合には、相手の行動が把握しづらくなりますので、別居前に財産の内容をできるだけ確認するようにしておきましょう。
相手が勝手に財産を処分してしまう可能性がある場合には、裁判所に処分禁止の仮処分の申し立てをすることなども検討すべきです。
また、財産分与の取り決めを行った場合には、速やかに名義変更などの手続きを行いましょう。
財産分与により不動産を取得した場合には、所有権移転登記の手続きをする必要があります。
所有権移転登記により名義を自分にしない限り、第三者に対して自分が所有者であることを主張することができません。
名義変更などの手続きをしないままでは、相手が勝手に不動産を第三者に売却してしまう可能性もあります。
財産分与を離婚後に請求する場合、相手の状況や財産を把握することが難しいなど、様々な問題が起こりえます。
請求できる時間的制限もあるので、少しでも不安がある場合には、弁護士へ相談することをおすすめします。
まとめ
財産分与は離婚から2年以内に請求しなければ基本的に請求することができなくなるため、時間との戦いとなります。
財産分与の請求をしないまま離婚してしまった場合には、一刻も早く弁護士に相談するなどして期限内に間に合うように請求を行いましょう。