この記事でわかること
- 離婚後の親権者変更の方法がわかる
- 親権者変更が認められるケース・認められないケースがわかる
- 親権者変更の申し立てに必要な手続きや書類がわかる
- 子供が15歳以上の場合、子供の意思が尊重される可能性が高いことがわかる
親権者変更・交代が認められる理由
離婚時に決めた親権者の変更は、当事者同士の話し合いだけでは認められず、家庭裁判所に調停を申し立てて変更を認めてもらう必要があります。
これは、当事者同士の合意で自由に変更することを認めてしまうと、安易な理由で子供の親権者が変わることにつながり、子供の生活や立場が不安定になったり不利益を被る可能性があるからです。
親の気まぐれで何度も親権者が変わってしまうことは、子供の成長に悪影響を及ぼす可能性もあります。
もし離婚の際に当事者間で「親権者は1年後に変更する」などと約束したとしても、それに法律的な効力はありません。
親権者の変更は、変更することに合理的な理由が認められ、現状よりも子供の福祉や利益が改善される見込みが高い場合に限って認められます。
親権者の変更を認めるケース
親権者による虐待や育児放棄
子供が現在の親権者による虐待や育児放棄をされているような場合には、親権変更が認められる可能性が非常に高くなります。
子供に肉体的・精神的な虐待を加えていたり、きちんとした食事を与えない、身の回りの世話をしないなどのケースが考えられます。
このような状態が続くことは、子供の健全な成長に著しい悪影響を与えてしまうため、親権者としてふさわしくないことは明らかです。
また、虐待は親権者自身によるものに限らず、親権者が離婚後に再婚し、再婚した相手が子供を虐待するというようなケースもあります。
子供が虐待や育児放棄の被害を受けていることがわかったら、すみやかに親権者変更の調停を申し立てることを考えましょう。
親権者の病気
親権者が深刻な病にかかってしまったような場合にも、親権者変更が認められる可能性があります。
病気の治療をしながら子供を育てるのは現実的に困難で、特に子供が幼い場合は親権者が健康でないと厳しいでしょう。
親が入退院を繰り返すような状況だと、幼い子供の監護ができるとは思えません。
親自身の心身が健康な状態でなければ、子供を健やかに育てることができない可能性が高くなるため、このような場合には、親権者変更を検討すべきでしょう。
また、この場合の病気には、肉体的なものに限らず、精神的な病も含まれます。
子供の意思
子供が自らの意思で親権者の変更を望んでいる場合にも、親権者変更が認められる可能性があります。
親権者は子供の利益・福祉を最優先して選ばれるべきものなので、子供の意思も重視します。
ただし、子供の意思については子供の年齢によって取り扱いが変わります。
子供の年齢が幼い場合は、まだ物事の分別がついているとは考えられず、子供の希望通りに親権者を変更することが子供にとっての利益につながるのかは疑問があります。
一方、子供が15歳以上の場合には、ある程度の判断能力が備わっていると考えられるため、本人の意思を尊重して親権者変更が認められる可能性が高くなります。
養育環境の大幅な変化
親権者が海外に転勤になったり、転職して多忙となり子供の世話ができない環境になった場合などにも、親権者変更が認められる可能性があります。
ただし、環境が変わること自体はよくあることなので、単に環境が変わったという事実だけで変更が認められるわけではなく、環境の変化により、子供に悪影響を及ぼすような場合に限って認められます。
たとえば海外転勤の場合、赴任先の国の治安が悪かったり、子供が日本の学校で学ぶことを強く望んでいるようなケースが考えられます。
親権者の死亡
親権者が死亡した場合にも、親権者変更が認められる可能性があります。
現在の親権者が死亡すると、自動的にもう一人の親が親権者になるというイメージを持つかもしれませんが、そのようなことはありません。
原則として、現在の親権者が死亡すると「未成年後見人」という、親権者の代わりとなる法定代理人が選任されることになります。
ただし、親権者変更の審判の申し立てを行いそれが認められた場合には、親権者はもう一人の親に変更され、未成年後見人が選任されることはありません。
親権者変更が認められる可能性が低いケース
親権者変更が認められる可能性が低いケースとしては、以下のようなものがあります。
再婚相手との生活を優先するために子供を手放したい
離婚するときには子供のことを最優先に考えて親権を取得した親であっても、その後再婚することになり子供の存在を疎ましく思うケースもあるようです。
また、再婚相手が子供の存在に難色を示しているようなケースもあります。
このような理由から親権変更の申し立てをしても、ただの親側の身勝手な都合であり親権変更が認められる可能性は低いでしょう。
ただし、子供の存在が疎ましくなった親権者や再婚相手が、子供に虐待などの危害を加える可能性が高い場合や、子供自身が親権変更を望んでいる場合には親権者変更が認められる可能性があります。
離婚する際にいい加減に親権者を決めてしまったので、変更したい
離婚するときに、一刻も早く離婚したいばかりに、親権について深く考えずに相手に譲ってしまうケースもあります。
このような場合に、やはり自分が親権を取りたいと後悔して親権変更の申し立てをしても、これだけの理由で変更が認められる可能性はほとんどありません。
離婚時にいい加減な気持ちで判断してしまったとしても、すでに子供が現在の親権者のもとで問題なく生活を送っている場合には、現状を維持することが子供にとってはよいと判断されます。
このようなことにならないためにも、離婚する際に親権について安易に決めることのないようにしましょう。
相手が面会交流の約束を守ってくれない
離婚の際に、子供と定期的に面会交流ができるという約束で親権を譲った人もいるでしょう。
そのような場合に、相手が面会交流の約束を守らず、子供と会うことができないから親権を変更したいというケースもあります。
しかし、残念ながらこれだけの理由で親権変更が認められる可能性は低いでしょう。
たとえ面会交流の約束を相手が破った場合でも、きちんと子供を養育しているのであれば親権者として不適格とはいえず、子供の利益を考えると親権変更が必要な合理的な理由があるとは言えないからです。
このような場合には、相手に約束を守るように主張し、場合によっては面会交流調停を申し立てることなども検討しましょう。
親権者変更の申し立てに必要な手続き・書類
ここからは、親権者変更の申し立てに必要な手続きや書類について説明します。
親権者変更については、相手の住居地の家庭裁判所に親権者変更調停を申し立てます。
その際に必要な書類は基本的に以下のものです。
親権者変更の申し立てに必要な書類
- (1)申立書
- (2)事情説明書
- (3)当事者目録
- (4)申立人の戸籍謄本
- (5)相手の戸籍謄本
- (6)子供の戸籍謄本 ※子供の戸籍謄本は、どちらかの親の戸籍謄本と同一です。
この際、申立書類には親権者変更を申し立てる理由や事情を記載します。
申し立て内容が記載された書類は相手にも届くため、相手を刺激するような内容(相手の人格を非難する内容など)を記載することは避けましょう。
相手がそれに反応し、スムーズな話し合いをすることが難しくなってしまう可能性があります。
親権者変更調停の大まかな流れ
親権者変更調停の大まかな流れは次のようになります。
(1)調停の申し立て
子供の親族から申し立てを行います。
親権者でない親からの申し立てが中心となりますが、親権者である親や子供の祖父母からの申し立てが行われるケースもあります。
(2)裁判所と第一回調停期日の日程調整を行い、期日が決定
(3)第一回調停期日
(4)必要に応じて、第二回目以降の調停期日
調停では、調停委員と裁判官が当事者の意見を聞きながら、親権者の変更をすべきかどうかの話し合いを進めていくことになります。
調停によって親権者変更をするには、当事者双方が変更に同意する必要があります。
そのうえで、家庭裁判所の調査官が親権者を変更するべき事案であるかを調査します。
調査官による調査は、事案にもよりますが、子供や親と面会をしたり、家庭訪問や場合によっては学校訪問などをして、実際の子供をとりまく環境を実地調査することがあります。
また、非親権者側の生活状況の調査を行うこともあります。
父と母双方の合意があり、調査官が親権者変更に合理的理由があると判断すれば、調停による親権者変更が認められます。
調停にかかる期間は?合意に至らない場合にはどうなるのか
親権者変更の調停には、どれくらいの期間がかかるのでしょうか。
通常、申し立てをしてから1か月ほどで第1回調停期日が開かれます。(ただし、裁判所の混雑具合などによって異なります)
最初の調停期日で合意に至ることができれば調停成立となりますが、合意できなければ、2回目、3回目と調停を続けることになります。
次の調停期日が開かれるまでに1か月程度かかりますので、2回目の調停期日で成立すれば申し立てから約2か月、3回目の調停期日で成立すれば申し立てから約3か月で成立するということになります。
相手が親権者変更に応じなかったり話がまとまらない場合には、どんどん長期化してしまう可能性があります。
調停を続けても話がまとまる見込みがない場合には、調停は不成立となり自動的に審判の手続きに移行します。
審判では、様々な事情を考慮したうえで、当事者間の合意がなくても裁判官が親権変更の可否を決定します。
子供が15歳以上の場合は、「子供の意思」がポイントに
親権者変更を申し立てた場合に、裁判所は子供の意思も重視するため、大きな判断材料になります。
実際、子供が15歳以上の場合には、高い確率で子供の意思にしたがった判断が下されています。
15歳以上の子供は、物事の分別がわかる年齢で、冷静な目で親権者について判断できると考えられるからです。
親権者は子供の福祉を最優先して判断すべきものであることから、子供自身が親権者の変更を望んでいるのであれば、それを認めることが適切だと考えられています。
そのため、15歳以上の場合、裁判所は必ず子供の意思を確認しています。
15歳未満の場合でも、10歳を超えるくらいの年齢であればある程度は判断能力があるとみなされるので、子供の意見を聞いてそれを判断材料にすることもあります。
子供に親権者として選ばれるためには、子供としっかりとコミュニケーションを取り、愛情をもって接することが何よりも大切です。
離婚時に親権を得られなかった場合でも、子供との面会交流は続けて、子供との良い関係を維持するように努めましょう。
子供が18歳以上・成人の場合はどうなるか
親権は、子供が成人するまでの間のものです。
子供が成人している場合、親権者はもう存在しないため、親権者変更もありません。
現在の成人年齢は20歳なので、子供が20歳未満であれば親権者を定めることになりますが、法律改正により、2022年4月からは成人年齢が18歳になります。
このため、2022年4月以降は18歳未満の子供がいる場合のみ、親権者を定めることになります。
子供の戸籍や姓について
離婚後に子供が戸籍や姓を変更したい場合にはどうすればよいのでしょうか。
離婚をしても、子供は基本的にそのまま元の戸籍に残ります。
親権者が離婚により元の戸籍から抜けることになっても、子供も自動的に親権者の戸籍に移動するわけではありません。
つまり、母親が親権者となり、離婚後に夫の戸籍から除籍されても、子供はそのまま父親の戸籍に入ったままの状態になります。
子供の姓についても、両親が離婚しても基本的に元の姓のままとなり、親権者の姓が結婚前のものに戻った場合に子供の姓も自動的に親権者の姓に変わるわけではありません。
この場合、子供の姓を母親の姓と同じにするには、子の氏の変更許可の申し立てを裁判所に行う必要があります。
この手続きは、家庭裁判所に出頭して手続きをすれば即日で完了します。
子の氏の変更手続きは、子供が15歳未満であれば法定代理人である親権者が行いますが、子供が15歳以上の場合には、子供本人が行うことができます。
また、子供がもとの戸籍から抜けて親権者と同じ戸籍に入籍したい場合には、親権者が自分を筆頭者とする新たな戸籍を作り、そこに子供を入籍させる方法をとります。
離婚した母親1人であれば、自分を筆頭者とする戸籍を作る必要はなく、結婚前の親を筆頭者とする戸籍に戻ることが可能です。
しかし、この母親の親を筆頭者とする戸籍に孫を入籍させることはできないため、母親と子供が同じ戸籍に入るためには、母親を筆頭者とする新たな戸籍が必要となります。
親権者と子供の姓が違ったり戸籍が別々だと、親子関係を証明する際や日常生活で不便なことも多いため、必要に応じて手続きを行うようにしましょう。
親権者変更が認められなかった場合
親権者変更には合理的な理由があることが必要なので、必ず認められるものではありません。
たとえ父と母双方が親権者変更に合意した場合でも、家庭裁判所がそれを認めない可能性もあります。
親権者変更が認められなかった場合には、どうすればよいでしょうか。
どうしても納得できない場合には、しばらく経ってから再度変更の申し立てをするという考え方もありますが、現実的な方法としては、子供との面会交流などを通じて子供を見守ることも考えましょう。
面会交流についてしっかりと相手と取り決めをして、定期的に子供との交流を続けることができれば、親権がなくても子供との絆を保ち続けることは十分可能です。
まとめ
親権者の変更は無制限に認められるわけではなく、ハードルも高いですが、合理的な理由があり子供にとって必要だと考える場合には、あきらめず調停の申し立てを行いましょう。
親権者変更が認められるか不安な場合は、弁護士への相談を検討してみるのもおすすめです。