この記事でわかること
- 養育費の支払い期間と子供の年齢について
- 改正民事執行法で未払い時のペナルティができたこと
- 未払いの養育費の請求方法
- 経済状況により、減額を検討しなければならない場合もあること
養育費には支払う義務がある
離婚後に子供を監護する(引き取って育てる)親は、監護しない方(別居)の親に対して、子供の養育費を請求することができます。
養育費は、子供を育てるためにかかる必要な経費全般で、食費、学費、被服費、医療費など様々なものを含みます。
養育費の性質は、子供が最低限の生活ができるためのレベルの扶養義務ではなく、それ以上の内容を含む生活保持義務に基づくものとされています。
生活保持義務というのは、自分の生活レベルと同程度の生活を子供にも保持させる義務のことです。
そのため、母親が監護権者で父親が非監護権者である場合、父親は自分の生活レベルと同程度の生活を子供が送れるように養育費を支払っていくべきということになります。
このような義務の性質から、「生活に余裕がないから払えない」という理由では、養育費の支払いは免除されません。
自分の生活レベルを落としてでも支払わなければならないのが、本来の養育費の性質です。
養育費の支払い期間と子供の年齢について
養育費は、経済的に自立できない子供に対して支払われるお金です。
基本的には20歳まで、支払い義務が発生します。
ただし、子供が高校卒業で就職した場合は18歳まで、大学に進学した場合は22歳までとなります。
養育費は、支払いの期間・金額を決めたあとでも、変更できます。
子供の生活や進路がどうなるか分からないため、養育費は後から変更できる仕組みになっています。
養育費の未払い時のペナルティ
養育費には支払い義務があるにもかかわらず、未払いが多いのが実情です。
未払いの場合には、どのようなペナルティがあるのでしょうか。
養育費は、民法に基づいて請求できるものですが、民法では特に罰則規定などはありません。
そのため、養育費を支払わないことで罰金や懲役などという刑事罰を科せられることはありません。
ただし、後述する民事執行法の改正により、財産開示手続きの開示拒否や虚偽報告をした場合には、「6か月以上の懲役または50万円以下の罰金」の刑事罰が科されることになりました。
また、養育費というのは金銭債務であることから、決められた期限までに支払わない場合には、遅延損害金(延滞利息)がつきます。
遅延損害金は年5パーセントなので、延滞を続けると大きな金額になる可能性があります。
さらに、相手が給与債権の差し押さえをした場合、勤務先に養育費未払いの事実が知られることとなるため、自分の評価が下がる可能性もあります。
他にも、養育費を支払わないことで子供に会わせてもらえなくなるケースも多く、子供との面会を求める人にとってはある種のペナルティとなるでしょう。
未払いの養育費の請求方法
養育費が未払いの場合、どのように請求すればよいのでしょうか。
パターン別の請求方法を説明します。
- ・協議離婚で公正証書なしの場合
- ・協議離婚で公正証書ありの場合
- ・離婚調停の場合
協議離婚で公正証書なしの場合
協議離婚で公正証書を作成していない場合は、まず相手に電話やメール等で直接連絡して請求することになります。
それでも支払われない場合には、内容証明郵便による請求を行います。
内容証明郵便は自分の名前で出してもよいのですが、弁護士名で出す方が効果的ですので、相手の性格などを考慮して弁護士に依頼するかを判断しましょう。
それでも支払われない場合、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることになります。
養育費請求調停の申し立てには、以下の書類が必要です。
養育費請求調停の申し立てに必要な書類
- (1)申立書とその写し
- (2)子供の戸籍謄本
- (3)申立人の収入に関する資料(源泉徴収票の写し、給与明細書の写し、確定申告書の写し、非課税証明書の写しなど)
協議離婚で公正証書ありの場合
離婚の際に公正証書を作成している場合、通常は養育費についても取り決めており、支払わなかった場合「強制執行に服する」という内容が記載されているはずです。
この場合、公正証書を使って強制執行(財産の差し押さえ)をすることができます。
ただし、強制執行をするためには、公正証書等の債務名義があることに加えて、相手の現住所がわかっており、相手の財産を把握している必要があります。
それらの情報がわからない場合も含め、自分で強制執行を申し立てるのは困難なので、基本的に弁護士に手続きを依頼する方がよいでしょう。
強制執行の申し立てに必要となる基本的な書類は、以下のものです。
強制執行の申し立てに必要な書類
- (1)執行分が付与された公正証書正本(債務名義)
- (2)送達証明書
- (3)戸籍謄本
- (4)住民票
- (5)相手の給与の差し押さえをする場合、相手の勤務先企業の代表者事項証明書
差し押さえの対象となる財産は、預貯金や給与などです。
申し立てを行うと、書類に不備がなければ、裁判所は差し押さえ命令を発令します。
この差し押さえ命令は、相手の住所にも送付され、差し押さえ命令が送達された時点で差し押さえの効力が生じます。
差し押さえ命令が発令され、差し押さえの効力が生じて1週間経つと、相手の財産を取り立てることができます。
たとえば、給与債権を差し押さえた場合、給与支払いを行う会社に対して、差し押さえた分を自分に支払うように請求することができます。
離婚調停の場合
離婚調停の場合でも、基本的に公正証書の場合と同様に、強制執行を申し立てることになります。
強制執行に必要となる債務名義(強制執行ができる根拠となる文書)が、調停離婚の場合には調停調書になります。
経済的に支払ってもらえない場合の対処法
元配偶者が経済的な理由から養育費を支払わない場合は、どうすればよいのでしょうか。
ケース別に対処法を紹介します。
再婚相手との生活を優先したいというケース
離婚後に、片方または双方が再婚することもあります。
相手が再婚したことにより、新しい家族との生活を優先して養育費を支払わないというケースもあります。
この場合、まずは相手と話し合いを行い、これまで通りの養育費を支払うように求めましょう。
相手の言い分に納得できるものがあれば、ある程度減額などに応じることも検討しますが、基本的にこれまで通りの支払いを求めます。
話し合いをしても養育費の支払いに応じなければ、すみやかに法的な手続きに着手することを毅然とした態度で伝えましょう。
もし給与の差し押さえをすることになれば、勤務先にも養育費不払いの事実が知られることになります。
再婚後の新生活を順調に送っている元配偶者は、そのような事態は避けたいと思うのが自然なので、心理的なプレッシャーを与えることができます。
年収が200万円以下などの低収入のケース
元配偶者の年収が離婚後に低くなった場合、支払う意思はあっても支払いができない可能性があります。
このような場合は、養育費の減額を検討することも考えなければなりません。
実現不可能な養育費の金額設定をしても、結局支払われなければまったく意味がないからです。
相手が減額を申し入れてきた場合、頭ごなしに否定するのではなくしっかりと話を聞き、いくらなら支払いが可能なのかを確認しましょう。
減額を申し入れるということは、逆に言えば支払う意思はあるとも考えられます。
ただし、たとえ年収が低くても、養育費の支払いが免除されるわけではありません。
相手が支払いに応じない場合には、強制執行することも視野に入れ、相手にもその旨を伝えておきましょう。
自己破産などの切迫した経済状況
自己破産をすると債務が免除されますが、養育費について免除されることはありません。
このため、基本的には今まで通り養育費を請求しましょう。
ただし、相手の収入が十分でない場合などは、減額を検討しなければならないケースもあります。
自己破産をした時点で本人の預貯金などの資産はほぼなくなっている状況のため、差し押さえをする場合には、給与債権の差し押さえを検討しましょう。
改正民事執行法とは?
これまで日本では、養育費の不払い事案が後を絶たないという現実がありました。
そのため、養育費の回収の実現性を高めることなどを目的として、民事執行法の改正が行われました。
民事執行法というのは、金銭債権などの債務者(支払義務者)に対し、債権者(支払を請求する権利のある人)が強制執行などを行い債権を回収するための基本的なルールを定めている法律です。
改正により変わったポイントと、どのように利用するのかを説明します。
改正民事執行法で変わったポイント
- ・給与の差し押さえのための勤務先の特定が可能に
- ・預貯金の差し押さえをするための口座の特定も可能に
- ・財産隠しに対する罰則の強化
給与の差し押さえのための勤務先の特定が可能に
養育費の差し押さえをするためには、相手の財産を特定する必要があります。
給与債権を差し押さえたい場合、勤務先がわかっていなければなりません。
相手が離婚後に転職した場合など、勤務先がわからないというケースがあります。
改正民事執行法では、第三者による情報取得手続きが新設されました。
この制度により、養育費について取り決めている公正証書等があれば、相手の勤務先を調べることができるようになりました。
各自治体は、住民税の源泉徴収をしている会社のデータを所持しており、年金事務所では厚生年金の納付のデータを所持しています。
このことから、市区町村や年金事務所からの情報取得をすることにより、相手の勤務先を特定することができます。
預貯金の差し押さえをするための口座の特定も可能に
元配偶者が会社員などの給与所得者ではない場合、給与債権の差し押さえが難しいため、預貯金の差し押さえを検討することが多くなります。
預貯金を差し押さえるためには、どこの金融機関のどの支店に口座があるかを特定する必要があります。
改正前は、おそらくこの支店に口座があるのではないか、というイチかバチかで口座の差し押さえを行わなければいけないケースも多く、結局口座が存在せず差し押さえができなかったり、一度は成功してもその後に預金を移動されてしまい、また一から口座のある支店を探さなければいけなかったりするなど、とても非効率な手順をとっていました。
今回の改正により、裁判所が金融機関に情報提供命令を出す制度が新設されました。
それにより、金融機関の本店から「元配偶者名義の口座の有無」、「支店名」、「預貯金の残高」「預貯金の種類」などの情報の提供を受けられるようになったのです。
なお、裁判所が情報提供を命じるのは金融機関に限らず、不動産については法務局へ、株式等については証券保管振替機構に対しても同様に行うことができます。
財産隠しに対する罰則の強化
法改正前から、債務者に対して裁判所が財産開示命令や履行命令を出す制度はありましたが、この命令を無視したり虚偽の申告をしたりした場合のペナルティは、30万円以下の過料でした。
過料は行政罰なので前科者になることはなく、あくまで軽いペナルティとなっていたのです。
今回の改正により、この罰則が強化されました。
財産開示手続きの開示を拒否したり、虚偽の申告をしたりした場合、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されることになり、刑事罰が科される可能性ができたのです。
「前科者」になる可能性があることで、相手に対し心理的なプレッシャーを与えることが期待できます。
養育費の未払いで困ったら弁護士に相談しよう
養育費の未払いに対して、法的な手続きで請求する方法はあります。
しかし、法的な知識のない状態で、未払いの養育費を回収するのは難しいので、弁護士に依頼するのがおすすめです。
下記では、弁護士に依頼するメリットや、お金がなくても弁護士に依頼する方法を紹介します。
面倒な手続き・交渉を任せられる
弁護士に依頼すれば、面倒な手続きや相手との辛い交渉を任せられます。
未払いの養育費を回収するためには、強制執行や差し押さえといった法的な処置を取らなければいけません。
必要書類を自分で準備して裁判所に申立をする必要がありますが、法律の専門的な知識がなければ、申立は難しいため、弁護士に任せた方が確実です。
また、離婚した相手と顔を合わせて交渉するのは、精神的な苦痛を伴います。
辛い過去を思い出してストレスを感じることもあるため、弁護士に依頼して、代わりに交渉してもらう方がいいでしょう。
相手に「本気度」を伝える
養育費を支払ってくれない相手に対して、弁護士を立てることで「自分は本気だぞ」と伝わります。
それまで対応をしてくれなかった相手でも、弁護士が介入することで「これは放置するとやばい・・・」と思い、対応してくれるかもしれません。
未払いのまま放置している相手に対して、弁護士を立てて、交渉の場を作ることは重要です。
お金がなくても無料相談・法テラスを活用する
「弁護士に依頼したいけど、費用がない」という人もいるでしょう。
弁護士に依頼すると、費用がかかってしまいますが、お金がなくても相談する方法はあります。
一つ目は、弁護士への無料相談を利用することです。
多くの弁護士事務所は、初回の相談を無料で受けているので、気軽に相談できます。
実際に依頼するまで費用は発生しないため「まずは話だけ聞いてみたい」という人にピッタリです。
依頼費用は、回収できた養育費から支払うこともできるため、手元にまとまったお金がなくても問題ありません。
二つ目は、法テラスの利用です。
法テラスとは、個人なら無料で利用できる法律相談の窓口です。
一定の条件をクリアしていれば、完全無料で弁護士に依頼できるため、お金がない人でも安心ですね。
「お金がないけど、弁護士に依頼したい」という人は、無料相談か法テラスの利用がおすすめです。
まとめ
養育費の不払いには様々なケースがありますが、法改正により以前よりも取り立ての実効性が高まりました。
相手に請求しても応じてもらえない場合には、強制執行を視野に入れて、粛々と手続きを進めることをお勧めします。