この記事でわかること
- 離婚後に必要な貯金の内容がわかる
- 財産分与の内容と3つの種類についてわかる
- 財産分与以外に離婚時にもらえる可能性のあるお金についてわかる
- 母子家庭が受けられる公的扶助の種類や内容がわかる
離婚したいと思ってもお金のことが心配で踏み出すことができない、という方も多いのではないでしょうか。
実際、準備をせずに感情に任せて離婚してしまい、後から金銭的な苦労をしてしまうケースもよくみられます。
そのような事態を防ぐため、しっかりと金銭的な準備をしたうえで、損をしない形での離婚成立を目指しましょう。
ここでは、離婚後に必要なお金やどのようなお金がもらえるかなどについて説明していきます。
離婚後に必要な貯金は300万円
離婚するにあたっては、ある程度まとまったお金を用意しておく必要があります。
離婚する際に相手から受け取ることができるお金もありますが、自分名義の預金もある程度は準備しておかなければ身動きが取れなくなってしまう可能性があります。
相手からどの程度のお金を受け取ることができるかは、不確実なものだからです。
目安としては、300万円くらいあれば当面の生活に困ることはないでしょう。
300万円の内訳としては、大まかに分けると、新生活をはじめるための資金、弁護士費用や予備費、不安をなくすための蓄えの3種類となります。
新生活をはじめるために必要な資金として100万円
まずは、新生活を始めるための資金として100万円程度用意する必要があるでしょう。
お住まいの地域などによって家賃などは異なりますが、新居での生活を始める場合、引っ越し費用の他に、敷金礼金で数十万円かかるのが通常です。
また、家具や家電も離婚時に分け合うか処分することになり、新たに買いそろえたり買い足したりする必要がある場合もあります。
それらを合計すると、最低100万円は準備する必要があることがわかるでしょう。
弁護士費用や調停費用、予備費として100万円
離婚条件でもめていたり、できるだけ有利な形で離婚をするために、弁護士へ依頼したりすることも多いでしょう。
その場合、弁護士費用が発生します。
また、調停の申し立てをする場合は手数料もかかります。
弁護士費用は、依頼する内容や事案の複雑さ、弁護士によって異なりますが、相談だけでなく手続きを依頼すれば数十万はかかります。
当初の想定よりも事案が複雑化した場合などは、弁護士費用が高額になる可能性もあります。
これらの費用と予備費として、100万円程度は想定しておいた方がよいでしょう。
今後の生活の不安をなくすための蓄えとして100万円
当面使う予定のない蓄えとして、100万円程度は残しておくほうがよいでしょう。
人生には不測の事態が起こることも多く、たとえば病気や事故、失業なども起こりえます。
そのような時、最低100万円くらいは貯金がなければすぐに生活が立ち行かなくなってしまう可能性があるでしょう。
また、ある程度の貯金があれば、資産運用によって資産を増やしていくこともできます。
夫婦の貯金は「財産分与」で分配する
結婚期間中に夫婦で協力して形成した財産は、離婚する際に分け合うことになります。
これを財産分与といいますが、財産分与には、3つの種類があります。
結婚後に蓄えた預貯金については、名義が夫婦どちらのものであっても基本的に財産分与の対象となります。
- ・預金
- ・マイホームなどの不動産
- ・株などの有価証券
- ・車
- ・保険解約払戻金
- ・家具などの家財
- ・退職金
預貯金の他、不動産や解約返戻金のある保険、株式など様々な財産が対象となります。
ただし、夫婦の協力によって築いたものではない「相続によって取得した財産」などについては財産分与の対象とはなりません。
結婚前に蓄えた預貯金も財産分与の対象とはなりません。
また財産分与の種類は、下記の3つあります。
項目 | 種類 |
---|---|
清算的財産分与 | 共有財産を公平に分け合う |
扶養的財産分与 | 離婚後の生活維持が難しい人に対して、扶養として多くの財産分与を行う |
慰謝料的財産分与 | 慰謝料請求を含んだ財産分与 |
では詳しくみていきましょう。
清算的財産分与
清算的財産分与は、財産分与の基本となるもので、結婚期間中に夫婦で築いた財産を、基本的に2分の1ずつの割合で分け合って清算するという考えに基づいて行われるものです。
離婚理由などは清算的財産分与においては関係しないため、不貞行為などの離婚原因を作った側から財産分与を請求することもできます。
また、結婚期間中に築いた財産にはマイナスの財産(債務)も含まれるため、プラスの財産とマイナスの財産を比べてマイナスの財産の方が多い場合には、財産分与を請求することができません。
ただし、マイナスの財産の方が多いからと言って、マイナスの財産まで分け合うというものではなく、債務については借りた本人が一人で負担することが基本です。
扶養的財産分与
扶養的財産分与は、離婚をすると当事者のどちらかが生活に困窮するような事情がある場合に、扶養する目的で財産を分けるという考え方に基づいて行われるものです。
片方が病気や高齢で働くことができないなどの状況の場合に行うことがあります。
離婚すると、本来お互いに扶養義務はなくなるのですが、特別に扶養が必要な場合に認められる可能性があるものです。
単に現在専業主婦で収入がないという理由だけで簡単に認められるものではありませんが、相手が強く離婚を望んでいる場合には、扶養的財産分与に応じてくれる可能性もあります。
財産分与の方法としては、離婚後も一定の金額を毎月定期的に支払っていく形が一般的です。
慰謝料的財産分与
離婚をするときに、どちらか一方が不貞行為などによって離婚原因を作った場合には慰謝料の請求ができるケースがあります。
慰謝料と財産分与は請求する意味合いが異なるものであり、両者は本来は別々に金額を計算したうえで請求するのが原則です。
ただし、どちらとも金銭的な請求権であることから、慰謝料と財産分与を明確に分けることなくまとめて「財産分与」として請求をしたり、支払いをしたりする場合があります。
このように慰謝料を含めての財産分与は、慰謝料的財産分与と呼ばれます。
慰謝料を支払う側にとっても、慰謝料として支払うと自分が離婚原因を作ったという責任が明確になるため、財産分与として支払う方が抵抗がないという場合もあります。
婚姻費用
婚姻費用とは、別居している場合に請求できる生活補助金のことです。
結婚している夫婦は「結婚生活でかかる費用を分担して支払わなければいけない」という考え方があります。
たとえ別居をしている場合でも、お互いに同じような生活を送らなければいけません。
もし専業主婦だった妻が別居した場合、相手に生活費として「婚姻費用」の請求ができます。
夫婦関係が破綻している場合でも、婚姻関係が続く限り、収入が多い側から少ない側に生活費を支払いをしなければいけません。
婚姻費用の金額は、収入の金額・子供の有無によって異なりますが、10~15万円になることが多いです。
もし現在別居をしている・別居を検討しているなら婚姻費用の請求をしないと損です。
財産分与以外にも相手からお金をもらえる可能性あり?
財産分与以外にも、離婚の際に相手に支払いを請求することができるお金があります。
それぞれの内容について説明します。
慰謝料
相手が不貞行為やDVなどの離婚原因を作った場合には、慰謝料を請求することができます。
慰謝料は、精神的苦痛を与え、夫婦関係を破たんさせたことに対する損害賠償です。
そのため、性格の不一致などによる離婚の場合には、慰謝料は発生しません。
慰謝料を請求するには、相手が認めていない場合は証拠が必要となります。
できるだけ証拠を揃えたうえで請求するようにしましょう。
不貞行為の場合には、不貞相手に対しても慰謝料を請求することができます。
慰謝料の金額は事案によって様々ですが、たとえば不貞行為が原因で離婚に至った場合には、200~300万円程度の請求が認められる可能性があります。
慰謝料請求を検討する場合、弁護士への相談も検討しましょう。
養育費
未成年の子供がおり、自分が子供と一緒に暮らす監護者となる場合には、養育費を請求することができます。
基本的には子供が20歳になるまで子供を育てるのに必要な費用を分担するために支払ってもらうものですが、子供が大学に進学予定の場合などは、大学卒業までと定めることもできます。
養育費の金額は、家庭裁判所で採用されている「養育費算定表」を利用して算定するのが便利で簡単です。
これを計算するには、自分と相手の年収、子供の年齢と人数の情報が必要となるため、年収のわかる資料を用意しておきましょう。
養育費は、財産分与や慰謝料と異なり、長期間にわたって支払いが続くことが多いため、途中で不払いにならないように対策する必要があります。
公正証書を作成し、万一不払いになったらすぐに強制執行できるような対策をとるとよいでしょう。
相手にまとまった財産がある場合には、20歳までの養育費を一括して支払ってもらう方法もあります。
年金分割
年金分割制度は、夫婦の片方または双方が厚生年金保険料を支払っている場合に、結婚していた期間の厚生年金の支払い実績を分け合うことができる制度です。
最大で結婚期間中の支払い実績の2分の1を分割することができ、分割を受けた側は将来受け取る年金に上乗せされることになります。
年金分割は、結婚した時期や厚生年金加入時期などによって、手続きするために相手の合意が必要な場合と、合意が不要な場合があります。
年金は今すぐもらえるお金ではありませんが、老後の生活にとって大切なものなので、しっかりと手続きをしておくことをおすすめします。
母子家庭の助成金や支援について事前に調べておこう
離婚して母子家庭になる場合には、各種の公的な助成金や支援を受けられる可能性があります。
自分が受けられるものがないか、確認しておきましょう。
児童扶養手当
ひとり親かどうかに限らず子供がいる家庭に支給される手当として「児童手当」がありますが、児童扶養手当はひとり親家庭に限定して支給される手当です。
離婚などによってひとり親になった家庭で18歳までの子供を育てている場合に支給されます。
所得制限があり、一定以上の所得がある場合、手当の全部または一部が支給されません。
子供が一人の場合、満額で43,160円が支給されます。
二人目の子供については、満額で10,190円が加算されます。
三人目の子供については、満額で6,110円が加算されます。
児童育成手当
児童育成手当は、離婚などによりひとり親になった家庭などで18歳までの子供がいる場合に支給されます。
所得制限があり、一定以上の収入がある場合には受給することができません。
手当の金額は、子供一人当たり13,500円です。
母子家庭等の住宅手当
住宅手当に関しては、全国一律のものはなく、自治体ごとの手当がある場合があります。
家賃の一部を補助する場合や、一律の手当金を交付する場合があります。
自治体ごとに内容や受給条件は異なりますが、基本的に自分で家賃を支払っていることが条件で所得制限があり、手当の金額は1,000円から1万5,000円程度です。
ひとり親家庭等医療費助成制度
ひとり親家庭などを対象に、親や子供の医療費を助成する制度があります。
所得制限があり、一定以上の収入がある場合には助成を受けることができません。
国民健康保険や健康保険など各種医療保険の自己負担分から、一部負担金を差し引いた額が助成されます。
生活保護
就労できないなどの事情があり、最低限度の生活をするための収入を得ることができない場合には、生活保護を受給することができます。
生活保護には8種類があり、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助のうちからその人の状況に応じて必要な扶助が受けられます。
国民年金や国民健康保険料の減免制度
離婚などにより大幅に世帯収入が減少した場合などに、国民年金保険料や国民健康保険料が減額又は免除される場合があります。
基本的に前年度の収入から判断され、全額免除、4分の3免除、半額免除などがあります。
各自治体によって取り扱いが変わるため、支払いが難しい場合などは自治体の窓口で相談するようにしましょう。
所得税や住民税の減免制度
母子家庭に対する所得税、住民税の減免制度として、寡婦控除があります。
所得税の控除額は、普通の寡婦控除で所得税27万円、住民税26万円となり、特別の要件を満たす場合は所得税35万円、住民税30万円となります。
交通機関の割引制度
児童扶養手当を受給する世帯を対象に、JRの通勤定期券などを割引価格で購入できる制度があります。
自治体により、市バスなどを無料または割引で乗車できる制度がある場合もあります。
離婚で困ったら弁護士への相談がおすすめ
離婚で悩んでいるなら、まず弁護士に相談してみましょう。
弁護士から事前にアドバイスをもらっておくことで、有利な離婚交渉ができるからです。
弁護士に依頼したことで、実際に慰謝料や財産分与が増額した事例もあります。
むしろ自分に知識がない状態で交渉しても、不利な離婚条件で合意してしまうかもしれません。
少しでも離婚後の生活が楽になるように、弁護士への依頼がおすすめです。
お金がなくても弁護士に相談できる
弁護士に依頼するときに気になるが「どれぐらいの費用がかかるのか?」だと思います。
弁護士=依頼費用が高いイメージがありますが、お金がなくても弁護士に相談はできます。
多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で行っています。
まずは初回無料相談を受けてみて、そこで実際に依頼するかどうか決めれば問題ありません。
「無料相談したら必ず依頼しなければいけない」というルールもないため、相談して微妙だと思えば、別の弁護士に切り替えればいいだけです。
実際に依頼するタイミングで費用は発生しますが、費用を慰謝料の中から払ったり、分割払いできたりと、支払いを楽にする方法もあります。
また個人なら「法テラス」という無料で利用できる法律相談窓口の利用もおすすめです。
お金がなくても弁護士に依頼する方法はたくさんあるため、まずは無料の相談から利用してみましょう。
まとめ
離婚をするときには、離婚前にかかるお金と離婚後にかかるお金を把握しておき、自分名義の預金を準備しておく必要があります。
そして、どのようなお金を受け取ることができるかも確認し、受け取ることができるお金はしっかりと請求して新生活に備えましょう。
自分一人での対応に不安があるときは、弁護士などへ相談することをおすすめします。