この記事でわかること
- 離婚前の別居がどのような影響を与えるかの重要性がわかる
- 別居前にどのような準備が必要となるかがわかる
- 離婚前に別居するメリットとデメリットがわかる
離婚前、多くの夫婦に別居期間があります。
ただし、別居することがどのような意味を持つのかを正しく理解したうえで実行しないと、思わぬ結果になってしまうリスクがあるのです。
やり直す可能性を残すための別居なのか、離婚準備のための別居なのかによっても対応は変わってきます。
別居が離婚理由になるためには、5~10年の期間が必要になります。
ここでは、別居の準備の必要性やメリット、デメリットについて紹介していきます。
離婚前の別居の重要性
離婚前の別居には、どのような意味があるのでしょうか。
その重要性について説明します。
別居をすることで、法定離婚事由に認定される可能性がある
協議離婚をする場合には、当事者同士が合意することができればどのような理由であっても離婚することができます。
しかし、一方が離婚を望んでいても相手が離婚を望まない場合には、離婚調停から離婚裁判に進んでいくこととなり、裁判で離婚するためには法律で定められた離婚事由(法定離婚事由)が存在する必要があります。
法定離婚事由には、不貞行為や3年以上の生死不明などの具体的な内容が定められていますが、唯一具体的でないのが、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」です。
この事由による離婚が認められるための基準として、「事実上、夫婦関係が破たんしていて修復不可能」というものがあります。
そして、この基準の大きな判断材料となるのが、別居の有無とその期間なのです。
夫婦には同居義務があり、本来夫婦は特別な理由がない限りは同居して協力しながら暮らしていくべきものです。
離婚前に夫婦が別居する場合、様々なパターンが考えられます。
別居して距離を置くことで、夫婦関係を見つめ直して修復を目指したいという場合もあれば、離婚の準備をするために別居するということもあるでしょう。
しかし、どのような意図で別居をはじめたかどうかは、当事者同士にしかわかりません。
裁判官にも夫婦の実態まではなかなかわからないので、仕事上の単身赴任といった特別な事情がなく別居をしている事実は、夫婦関係が破たんしていることを裏付ける要素と判断します。
離婚が認められる別居期間
別居していた事実があれば、裁判官がすぐに夫婦関係が破たんしていると認定して離婚が認められるわけではありません。
それ以外の諸々の事情も当然考慮しますし、別居している期間がどの程度続いているかも判断材料になります。
これだけ別居が続いている状況であれば、もう夫婦として修復することはできないだろう、と客観的に認められる程度の期間が必要です。
どれくらい別居すれば離婚が認められるのかが気になる人も多いと思いますが、はっきりとした基準があるわけではありません。
5~10年程度別居していれば離婚が認められるケースが多いものの、個別の事情によって判断は分かれます。
単純に年数だけで判断できない場合も多く、別居期間が結婚生活の中でどれくらいの割合を占めているかなども考慮されます。
たとえば、同じ別居期間2年であっても、結婚期間20年のうちの2年と、結婚期間3年のうちの2年では別居期間の長さの捉え方は異なります。
財産分与をする際の対象が、別居前までに築いた財産となる
離婚前の別居は、財産分与にも影響を与えます。
財産分与とは、結婚期間中に夫婦で協力して築いた財産を、離婚の際に基本的に2分の1ずつ分け合う制度です。
この「結婚期間中に夫婦で協力して築いた財産」というのは、基本的に結婚してから別居するまでの期間に築いた財産のことを指します。
たとえ結婚期間中ではあっても、別居後に形成された財産は、夫婦で協力して得られたものとは考えられないからです。
結婚してから10年後に別居し、離婚成立が12年後だとすると、通常は結婚から別居するまでの10年の間に築いた財産を財産分与の対象財産とするのです。
たとえば別居後に得た収入によって増えた預金は、財産分与の対象とはなりません。
別居中も生活保持義務がある
別居後の収入によって増えた預金が財産分与の対象とならないといっても、別居後の収入がすべて自分で自由にできるわけではありません。
別居中であっても、夫婦には互いに生活保持義務があります。
生活保持義務とは、自分と同等レベルの生活を相手にも送らせるために助け合う義務のことです。
結婚している間は、収入の高い方の当事者は、配偶者に自分と同じレベルの生活ができるように金銭的にサポートする必要があるのです。
例えば会社員の夫・専業主婦の夫婦が別居した場合に、会社員の夫は専業主婦の妻に生活費の援助をしなければいけません。
婚姻費用と呼ばれるもので、お互いの収入や子供の有無によって、金額は異なります。
別居前に必要な準備7つ
別居は勢いで始めてしまうと問題が起きたり、自分にとって不利になってしまったりすることがあるため、きちんと準備をしてから実行するようにしましょう。
一方的な別居とならないように相手ときちんと話し合う
夫婦には同居義務があり、一方的な別居は「悪意の遺棄」とみなされて離婚の際に不利になったり慰謝料請求をされてしまったりする可能性もあります。
別居したいと思ったら、まずはきちんと相手と話し合うことが必要です。
別居したい理由も冷静に伝え、離婚に向けた別居なのか修復の可能性を模索するための別居なのかも話し合っておく方がよいでしょう。
財産の内容を確認する
離婚する場合には、共有財産を分け合う財産分与をすることになります。
財産分与の対象となる財産を確定する必要があるため、相手がどのような財産を持っているのかは別居前に確認しておくことが把握しておくことが大切です。
どこの金融機関にどのくらいの預貯金があるのか、株式や生命保険はどのようなものがあるかなど、できる限り確認しておきましょう。
別居後は財産の把握が難しくなり、相手が勝手に財産を処分してしまうこともあります。
自宅についても、結婚後に購入したものであれば財産分与の対象となります。
毎年届く固定資産税の課税明細書で評価額を確認しておきましょう。
その他、住宅ローンの残高がどうなっているかも確認しておきましょう。
お互いの収入を確認する
別居中であっても、夫婦は婚姻費用(生活費)を分担する義務があります。
そのため、収入の低い方は、収入の高い方の配偶者に対して、婚姻費用の支払いを請求することができます。
婚姻費用がいくらになるかは、夫婦それぞれの年収、子供の有無、子供の人数と年齢によって通常計算します。
家庭裁判所で採用されている「婚姻費用算定表」を活用することで、簡単に計算することができます。
そのためには、夫婦それぞれの収入がわからなければなりません。
相手が婚姻費用を支払わない場合には、婚姻費用分担調停を申し立てることになります。
その際、お互いの収入がわかる資料が必要となります。
給与所得者であれば、前年度の源泉徴収票の控えがあればよいでしょう。
また、直近の給与明細3か月分の提出が必要となることがあるため、それも準備しておくとよいでしょう。
住む場所を確保する
別居をする場合には、自分か配偶者のどちらかが家を出ることになります。
どちらが家を出るのか、その場合はどこに住むのかを決める必要があります。
実家に住むケースもあれば、新たにアパートなどを賃貸するケースもありますが、経済状況などを考えて生活が破たんしない方法を選ぶ必要があるのです。
自分が家を出る場合には、引っ越し費用がかかります。
引っ越し費用は引っ越し業者に払う費用の他、アパートなどを借りる場合には家賃の他に敷金、礼金などでまとまった費用がかかります。
これらの費用については、基本的に相手に負担してもらうことはできないため、自分で用意する必要があります。
無理のない計画を立てることが大切です。
生活費をシミュレーションする
別居後の生活費についてはシミュレーションしておきましょう。
別居すると、住居費が別途発生するなど同居していたときよりも生活費が余分にかかるのが普通です。
これまで相手の口座から諸々の生活費が引き落としになっていた場合などは、生活費をきちんと把握できていない場合もあります。
別居後の生活費がどの程度かかるかしっかり考えておきましょう。
現在仕事をしていない場合には、仕事を探すことが必要なケースもあるでしょう。
相手から婚姻費用をもらえる場合でも、それだけで生活ができるとは限りません。
いずれ離婚する可能性があるのであれば、経済的な自立の準備をすることも大切です。
離婚を前提とした別居の場合、離婚後に婚姻費用はもらえなくなるので、あまり婚姻費用を当てにせずに収支の計画を立てる方がよいでしょう。
ただし、離婚後には子供がいれば養育費を受け取ることができることに加え、児童扶養手当などの各種の公的扶助を受けられる場合もあります。
相手が有責の場合は証拠を確保する
相手の不貞行為やDVなどが原因で別居や離婚を考えている場合には、証拠を確保することが大切です。
慰謝料の請求や、離婚請求のために必要となります。
相手が今は自分の不貞行為やDVを認めている場合でも、いざ慰謝料請求などをすると一転して否認することもあり得ます。
別居すると、同居しているときよりも相手の行動などを把握することは困難となり、証拠を確保することが難しくなります。
別居する前にできるだけ証拠をそろえておくようにしましょう。
ただし証拠をなんでもかんでも集めればいいわけではありません。
例えば不倫の場合は、下記のような証拠が有効になります。
証拠 | 内容 |
---|---|
写真 | 性行為・ラブホテルに入っている様子など |
音声・映像データ | 不倫相手との電話・旅行に行っている動画など |
クレジットカードの利用明細・レシート | ホテル・旅館などの利用明細 |
Suica・PASMOの利用履歴 | 他の証拠が必要になる |
メール・LINE・手紙 | 肉体関係があったことが分かる内容であること |
SNS・ブログ | 不倫している様子が分かる投稿 |
手帳・日記・メモ | 不倫相手と会う記録 |
GPS | ラブホテル・旅館などに行っている記録 |
住民票の写し | 配偶者が不倫相手と同棲している記録 |
妊娠・堕胎を証明できるもの | 女性の配偶者が不倫している場合の証拠 |
興信所・探偵の調査報告書 | 不倫している様子が分かるもの |
最終的に離婚で慰謝料請求をしたい場合は、交渉が有利になるような証拠を集めておきましょう。
子供の養育環境を整える
別居する場合、夫婦のどちらが子供と暮らすのかを決める必要があります。
別居中に子供と一緒に暮らすかどうかは、親権者の決定にも大きな影響を与えるためしっかりと話し合わなければなりません。
子供の親権をとりたい場合には、極力子供と一緒に暮らすようにしましょう。
子供と別居してしまうと、親権争いの際にとても不利になってしまいます。
そして、子供の養育環境をしっかりと整える必要があります。
子供が今まで通りの学校に通わせられるのか、そうでない場合新しい学校をどうするのか、仕事を新たに始める場合には子供の保育所をどうするかなど、しっかりと準備をしておきましょう。
子育ての手助けしてくれる親族などがいれば、協力をお願いすることも大切です。
離婚別居のメリット
離婚前に別居にはどのようなメリットがあるかについて説明します。
同居によるストレスから解放される
別居を望んでいる状況ということは、夫婦関係が悪化していて喧嘩が絶えなかったり、相手の言動にストレスを感じていたりする状況であることが多いでしょう。
別居をすることで、そのようなストレスから解放されるのは大きなメリットです。
また、相手のモラハラやDVに悩んでいる場合には、心身の安全を確保することができます。
そのような状況の場合には、自分や子供の心身の安全を最優先して、速やかに別居に踏み切る決心をしましょう。
落ち着いて離婚の準備ができる
一緒に暮らしていると、とにかく早く相手と離れたいから一刻も早く離婚を成立させたい、という心理になってしまい、冷静に落ち着いて離婚準備ができない場合があります。
そうすると、自分にとって不利な条件で慌てて離婚してしまい、後悔するという事態にもなりかねません。
別居して相手から離れることで、落ち着いて離婚の準備に取り組むことができます。
離婚できる可能性が高くなる
別居をすることで、外形的に夫婦関係が破たんしていると判断される材料ができることになります。
自分が離婚を望んでいる場合には、別居をすることで、裁判で争った場合の離婚原因を作ることができるといえます。
別居期間が長くなると、裁判官も実質的に夫婦関係が破たんしていると認定し、離婚を認める可能性が高くなるのです。
相手に離婚の意思を明確に伝えられる
自分が離婚を望んでいる場合、別居をすることで相手に対し離婚への強い意思を伝えることができます。
別居をするまでは「離婚したい」と言われても真剣にとらえていなかった相手でも、別居することで離婚が現実味を帯びてくると、真剣に離婚について考えるようになる可能性があります。
別居をしている間に相手が冷静になり、離婚の話し合いに応じるようになるというパターンもよくあるのです。
離婚別居のデメリット
離婚前の別居には、デメリットもあります。
どのようなものがあるか紹介しましょう。
夫婦関係の修復が困難になる
別居をすると、そのまま離婚へと進む可能性が高く、夫婦関係の修復が難しくなります。
もしお互い冷静になって夫婦関係を見直すために別居するのであれば、たとえば1か月間限定などと期限を決めて別居するに留めた方がよいでしょう。
自分がやり直したいと思っても、相手は別居したことで完全に心が離れてしまい、修復できなくなってしまう場合があります。
財産の把握が難しくなり、相手が財産隠しをする可能性がある
別居をすると、相手の行動や財産の状況を把握することが難しくなります。
離婚を意識しだすと、相手が財産分与の対策として財産隠しを企てる可能性もあります。
財産分与の対象となるのは、別居開始までに築いた財産なので、別居開始までの財産の状況はしっかりと確認しておきましょう。
財産を勝手に隠し口座に移し替えられたりしてしまうと、把握することは困難になってしまいます。
相手から離婚請求される可能性がある
別居が続くと夫婦関係が破たんしているとみなされて法律上の離婚原因として認められることがあります。
相手もそのことを認識している場合、別居が続くと相手から離婚請求される可能性があるのです。
別居を始めるときには、とりあえずしばらくの間別居して夫婦関係を見つめ直そうなどと話していた場合でも、人の心境は変化します。
自分はただの別居と考えていても、相手はそのまま離婚したいと考える可能性も十分あります。
今までよりも経済的に苦しくなる
別居をすると、同居をしていたときよりも夫婦全体で見ると余分な費用が発生することが多く、同居中よりも生活が苦しくなる可能性があります。
別居中でも婚姻費用を受け取ることはできますが、それが必ずしも十分な金額であるとは限りません。
別居をした場合の生活費のやりくりについては、きちんとシミュレーションしたうえで別居に踏み切るようにしましょう。
別居の判断が難しいケース
同居していた夫婦が別居した場合は、別居として認定しやすいです。
しかし「別居なのかどうか?」の判断が難しいケースもあります。
単身赴任
片方が単身赴任しており、徐々に帰ってくる頻度が減って、最終的に帰ってこなくなるケースもあります。
単身赴任からの別居状態は認定が難しいですが、ポイントは「一緒に暮らす意思があるか?」によります。
もし単身赴任が終わって帰ってきた場合でも、別の場所に家を借りて別居状態を続けているなら、別居として扱われてます。
その他に本人から「一緒には暮らせない」という宣言があれば、別居として認定できます。
微妙な状態であれば、本人に「一緒に暮らさないのか?」と聞いてみるのが確実でしょう。
家庭内別居
同居はしているけど、夫婦の会話がなく、家庭内別居状態になっているケースもあります。
家庭内別居の状態で、別居として認定するのはかなり難しいでしょう。
なぜなら家庭の状態まで、第三者が判断するのは難しいからです。
家庭内別居の状態で別居認定をしたいなら、普段の様子を証明できるような証拠を集めておきましょう。
別居したいが踏み切れないときは弁護士に相談しよう
個別の状況によって、離婚前に別居すべきかどうかの判断は分かれます。
自分が別居をすべきなのか、別居することで自分に不利になってしまうことがないか心配な場合などは、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
最終的に自分の身の振り方を決めるのは自分自身となりますが、専門家の立場から、客観的な目で自分の状況を判断してもらうことは有益です。
離婚案件を多く取り扱ってきた弁護士であれば、これまでの経験や知識から、今の状況でどのように行動すれば法的に有利になるかといった点をアドバイスしてもらうことができます。
まとめ
離婚前の別居にはメリットとデメリットがあり、それぞれの状況によってすぐに別居すべきかどうかの判断は分かれます。
勢いで別居してしまうと自分にとって不利な状況になってしまう可能性もあり、冷静な判断が必要です。
少しでも不安があれば弁護士に相談することも検討しましょう。