この記事でわかること
- 夫の年収が600万で子供が4人の場合の養育費の相場がわかる
- 子供が4人以上いる場合の養育費の算定方法を理解できる
- 養育費不払いのトラブルを避ける方法を知ることができる
子供がいる夫婦が離婚する際には、子供の親権者をどちらにするかを取り決めなければなりません。
離婚後は親権者となった親が子供を育てていくことになりますが、もう一方の親も子供を養う義務がなくなるわけではありません。
そのため、親権者は元配偶者に対して養育費の支払いを請求することができます。
この請求はいつでもすることができますが、離婚する際に取り決めておくことが大切です。
ただ、養育費の金額を適切に取り決めるためには、相場を知っておく必要があります。
養育費の相場は、両親の年収や子供の数・年齢によって異なります。
今回は、子供が4人いる夫婦が離婚する際、夫の年収が600万円の場合に妻が請求できる養育費の相場について詳しく解説していきます。
養育費相場は年収と子供の数・年齢で変動する
養育費とは、親族の扶養義務(民法第877条)に基づいて、親が子供を扶養するために負担するお金のことです。
夫婦が離婚しても親子の親族関係は切れないため、親権者とならなかった元夫も子供を扶養するために養育費を支払う義務を負います。
両親の年収によって養育費相場が変動する理由
養育費の相場は、親族の扶養義務の関係から、両親の年収によって変動するものとなっています。
親族の扶養義務とは、自分と同程度の生活水準を親族にも保障する義務のことをいいます。
したがって、元夫の年収が高ければ高いほど、子供にも同水準の生活を保障するために支払うべき養育費の金額は高くなります。
ただし、親権者となった元妻も同様に子供に対する扶養義務を負っています。
そのため、元妻にも収入がある場合は、その年収額に応じて元夫が支払うべき養育費の金額は軽減されます。
また、子供の数が多ければ、そのぶん多くの養育費を支払わなければ子供に同水準の生活を保障することはできません。
子供の数・年齢によって養育費相場が変動する理由
ただ、同水準の生活を保障するとはいっても、子供に対して大人と同様の生活水準を保障しなければならないわけではありません。
子供の生活や教育などに要するお金は、年齢によって異なります。
当然、子供の数が多ければその分必要な養育費も増えます。
子どもの年齢が小さいうちは養育費は比較的少額ですが、子どもの年齢が上がるにつれて多くの養育費を負担する必要がでてきます。
そのため、養育費の相場は子供の数や年齢によって変動するのです。
養育費は以上の考え方に基づいて定めるべきものなので、裁判所のホームページでも両親の年収と子供の数・年齢によって変動する養育費算定表が公表されています。
年収600万の生活水準のイメージ
以上のご説明で、親族と同程度の生活水準を保障するためのお金が養育費になるということがおわかりいただけたことと思います。
そこで、次は具体的に、年収600万円の生活水準はどの程度のものなのか、大まかなイメージを確認しておきましょう。
年収600万なら子供が幼い場合はある程度の余裕がある
年収600万円なら、月収はおおよそ50万円です。
ただし、税金や社会保険料などを差し引くと手取りは40万円程度になる場合が多いでしょう。
この40万円の収入の中で生活費をやりくりすることになります。
子供が4人いる世帯の場合、平均的な暮らしをするためには、ひと月あたりおおよそ以下のような費用がかかります。
- ・家賃 10万円
- ・食費 5万円
- ・教育費 3万円
- ・水道光熱費 1.5万円
- ・通信費 2万円
- ・被服費 1万円
- ・交通費 1万円
- ・医療費 1万円
- ・娯楽費 1万円
以上の生活費を単純に合計すると、25~26万円程度です。
子どもが幼い場合は、この範囲内で十分にやりくりが可能でしょう。
食費や教育費もそれほどかかりませんし、スマートフォンなどもまだ不要でしょうから、より低額で生活できる世帯も多いはずです。
世帯によっては、他にも保険料や自動車の維持費などさまざまな費用を要することがあると思いますが、年収600万円があれば十分に余裕を持った暮らしができるでしょう。
子供が中高生となっても生活は十分可能
子どもの年齢が高くなると、教育費の負担が大きくなりますし、食費も増えます。
中高生になるとスマートフォンを持つ子供が多いために通信費も増大しますし、その他の費目も増額することでしょう。
ただ、子供が私立の学校に通うと学費が大幅に増えてしまいます。
部活動なども、種類によってはお金がかかることもあります。
そのため、先述したおおよそのひと月あたりの支出額よりも、出費が多くなる可能背があるため、多少は出費を抑える必要性が出てくるかもしれません。
それでも、年収が600万円あれば、浪費をしない限り生活費は十分に足りるでしょう。
子供4人・年収600万の場合の養育費算定方法
夫の年収が600万円あれば子供4人を育てていくことは十分に可能ですが、離婚をして妻が子供4人の親権者となれば、その安定した年収600万円は失われてしまいます。
元夫に対して養育費の支払いを請求することはできますが、元夫も生活しなければならないので、上でご紹介した年収600万円の生活水準をそのまま維持することは困難です。
ここでは、子供4人・元夫の年収が600万円の場合に元妻が請求できる養育費の算定方法をご説明します。
裁判所の養育費算定表では算定できない
子供の数が3人までであれば、裁判所のホームページで公表されている養育費算定表によって簡単に相場を調べることができます。
しかし、裁判所のホームページには子供の数が4人以上の場合の養育費算定表は掲載されていません。
そのため、子供が4人いる場合は裁判所の算定表によって養育費を算定することはできません。
おおよその目安を知るために子供3人の場合の算定表を参考にして、多少の金額をプラスする方法もありますが、本記事では正式な算定方法をご紹介します。
養育費を算定する3ステップ
養育費の算定方法は、次の3ステップで構成されています。
- ①両親の基礎収入を計算する
- ②子供の生活費を計算する
- ③義務者の分担額を計算する
「義務者」とは、養育費を支払う義務を負う人のことです。
養育費を請求する権利がある人のことは「権利者」といいます。
離婚して妻が子供の親権者となった場合は夫が「義務者」、妻が「権利者」となります。
裁判所のホームページに掲載されている養育費算定表も、この③ステップで計算した結果をケース別に早見表にまとめたものです。
子供が4人以上いる場合は、個別に計算することになります。
では、3ステップについて、それぞれ詳しく解説していきます。
両親の基礎収入の計算
まずは、養育費の出所となる両親の基礎収入を求めます。
ここでいう「基礎収入」とは、総収入から公租公課や職業費、特別経費を控除した後の、養育費を捻出するための基礎とすべき金額のことをいいます。
「職業費」とは仕事をするためにかかる必要経費のことで、「特別経費」とは生活費の中で住居費のように固定的にかかるもののことをいいます。
これらの控除額は世帯によって異なり、個別に計算することは困難です。
そのため、総収入に一定の割合をかけることによって基礎収入を計算します。
控除割合については、裁判官の研究によって統計資料に基づく標準的な割合表が作成されているので、その数値を用います。
標準的な割合表は、以下のとおりです。
給与所得者の場合 | 事業所得者の場合 | ||
---|---|---|---|
収入(万円) | 割合(%) | 収入(万円) | 割合(%) |
0~75 | 54 | 0~66 | 61 |
~100 | 50 | ~82 | 60 |
~125 | 46 | ~98 | 59 |
~175 | 44 | ~256 | 58 |
~275 | 43 | ~349 | 57 |
~525 | 42 | ~392 | 56 |
~725 | 41 | ~496 | 55 |
~1,325 | 40 | ~563 | 54 |
~1,475 | 39 | ~784 | 53 |
~2,000 | 38 | ~942 | 52 |
~1,046 | 51 | ||
~1,179 | 50 | ||
~1,482 | 49 | ||
~1,567 | 48 |
基礎収入に関する注意点
以上のように、基礎収入は総収入に基づいて計算するものです。
したがって、総収入を正確に調べなければ養育費を適切に計算することはできません。
総収入は、給与所得者なら源泉徴収票、事業所得者なら確定申告書などの資料をみて調べます。
その際、基礎収入を計算する際に控除すべき公租公課や職業費、特別経費などを二重に差し引かないように注意する必要があります。
給与所得者の場合は、源泉徴収票の「支払金額」の欄に記載されている金額(社会保険料等を控除前の金額)が総収入となります。
2つ以上の会社から給与を受け取っている場合は、すべての源泉徴収票の支払金額を合計する必要があります。
また、給与所得の他にも副業の所得などがある場合は、それも総収入に含めます。
事業所得者の場合は、まず確定申告書の「課税される所得金額」の欄を確認します。
ここに記載されている金額は、さまざまな控除が差し引かれた後の金額です。
しかし、基礎控除や扶養控除、配偶者控除、社会保険料控除、医療費控除については養育費の基礎収入を求める際にも差し引かれるものです。
したがって、これらの控除を差し引く前の金額が「総収入」になります。
子供の生活費の計算
子供にかかる生活費も個別に計算するのは困難なので、一定の指数を用いて計算します。
ここでいう「指数」とは、成人にかかる生活費を100とした場合に子供にかかる生活費の割合のことです。
この指数は生活保護基準のなかの「生活扶助基準」をもとに算出されるものであり、子供の年齢に応じて以下の数値となります。
- ・0~14歳の子供:62
- ・15歳以上の子供:85
これらの指数を用いて、仮に養育費の支払義務者が子供と同居している場合に子供の生活費として負担すべき金額を求めます。
その計算式は、以下のようになります。
適用指数=子供の指数÷(義務者の指数+子供の指数)
子供の生活費=義務者の基礎収入×適用指数
義務者の分担額の計算
以上のステップで、子供の生活費を計算することができました。
離婚後は、その金額を両親がそれぞれの基礎収入に応じて分担して負担することになります。
義務者の分担額の計算式は、以下のようになります。
義務者の分担割合=義務者の基礎収入÷(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)
義務者の分担額=子供の生活費×義務者の分担割合
以上の計算式で、義務者が1年間に支払うべき養育費の金額が算出されます。
その金額を12で割った金額が、毎月支払うべき養育費になります。
上記の計算式で算定された金額は年額ですので、これを12で割って、月額の養育費を計算します。
ケース別の養育費の計算例
それでは、以上の計算方法を用いて、子供4人・元夫の年収600万円の場合の養育費の金額を実際に計算してみましょう。
さまざまなケースがあり得ますが、元妻が専業主婦の場合と元妻にも収入がある場合の2例をご紹介します。
元妻が専業主婦の場合の計算例
子供4人がいずれも14歳以下で、元妻は子育てのために仕事ができず専業主婦の場合の養育費は、以下のようになります。
なお、元夫は給与所得者として計算します。
まず、両親それぞれの基礎収入を求めます。
- ・義務者の基礎収入:600万円 ×41%=246万円
- ・権利者の基礎収入:0円
次に、子供の生活費を求めます。
適用指数:(62+62+62+62)/(100+62+62+62+62)=0.713
子供の生活費:246万円×0.713=175万3,980円
最後に義務者の分担額を求めますが、権利者には収入がないため、義務者が100%を負担することになります。
175万3,980円は1年間に支払うべき養育費なので、これを12か月で割ります。
175万3,980円÷12=14万6,165円
この金額が1か月あたりの養育費となります。
元妻に収入がある場合の計算例
次に、子供がある程度大きくなり、元妻も仕事をして収入がある場合の養育費を計算してみましょう。
子供4人のうち、2人が15歳以上、あと2人は14歳以下で、元妻に年間200万円の給与所得があるとします。
元夫に年間600万円給与所得があるとすれば、養育費の計算は以下のようになります。
まず、両親それぞれの基礎収入を求めます。
- ・義務者の基礎収入:600万円 ×41%=246万円
- ・権利者の基礎収入:200円×43%=86万円
次に、子供の生活費を求めます。
適用指数:(85+85+62+62)/(100+85+85+62+62)=0.746
子供の生活費:246万円×0.746=183万5,160円
最後に義務者の分担額を求めます。
義務者の分担割合:246万円÷(246万円+86万円)=74.1%
義務者の分担額:183万5,160円×74.1%=135万9,854円
1年間に支払うべき養育費は135万9,854円となるので、これを12か月で割ります。
135万9,854円÷12=11万3,321円
この金額が1か月あたりの養育費となります。
養育費の不払い、支払い率低下などのトラブルに要注意
元夫が養育費を自発的に支払ってくれる場合はよいのですが、なかなか支払ってくれない元夫も少なくありません。
厚生労働省の調査によると、平成28年において離婚後の母子世帯で元夫と養育費の取り決めをしている割合は42.9%にとどまっているとのことです。
元夫から養育費の支払いを現在も受けている元妻の割合は、24.3%しかありません。
このように養育費を不払いにする元夫は多く、最初は支払っていてもやがて支払わなくなる元夫もいることに注意が必要です。
養育費の不払いや支払い率低下を避けるためには、以下のような対処が必要です。
離婚する際は必ず養育費を取り決める
理解のある元夫なら、特に養育費を取り決めなくても自発的に支払ってくれるでしょう。
しかし、割合的にいうと、そような元夫はごくわずかです。
養育費を受け取るためには、離婚する際に具体的な養育費の金額を必ず取り決めておきましょう。
口約束だけではなく、離婚協議書を作成して養育費の支払いについて明記しておくことが必要です。
支払わない場合は差し押さえ
取り決めた養育費を元夫が支払わない場合は、法的手続きによって支払いを求めることができます。
具体的な方法としては、家庭裁判所から元夫に対して支払いを勧告してもらう方法と、裁判手続きによって元夫の財産を差し押さえる方法とがあります。
元夫に給与や銀行預金、不動産などの財産がある場合は、それらの財産を差し押さえることが可能です。
以前は元夫の財産を調査することが難しく、差し押え手続きを行うには高いハードルがありました。
しかし、2020年4月から改正民事執行法が施行されたことにより、差し押え手続きが容易になっています。
したがって、元夫が養育費を支払わない場合は差し押さえ手続きも視野に入れるべきです。
公正証書作成で養育費のトラブルを未然に防ぐ!
離婚協議書で養育費を取り決めていても、そのままでは差し押さえ手続きに進むことはできません。
差し押さえ手続きがを行うには、裁判を経る必要があります。
離婚調停や養育費調停における調停調書、訴訟における判決書や和解調書に養育費の支払いが記載されていなければ、差し押さえは認められません。
裁判を経ずに差し押さえを可能にする方法として、公正証書を作成するという方法があります。
養育費を取り決めた離婚協議書を公正証書にしておけば、差し押さえに関して調停調書や判決書、和解書などの裁判文書と同一の効力があります。
養育費不払いのトラブルを避けるためには、離婚する際に公正証書を作成しておくことが大切です。
まとめ
本記事では、年収600万円・子供4人の場合の養育費の相場をご説明してきました。
ただし、この記事でご説明した養育費の算定方法は、平均的な生活費を想定したものに過ぎません。
子供が私立の学校に通ったり、高額の医療費を要する病気にかかったり、大学に進学するような場合は、さらに多くの養育費が必要となるでしょう。
相場よりも多くの養育費を支払ってもらうためには、元夫と上手に交渉する必要があります。
弁護士に依頼して専門的な見地から交渉してもらうと、養育費の増額が期待できます。